世界最高峰のタブラ奏者である師匠に習うため、毎年インドへ。演奏の基礎能力の向上には、北インド古典音楽の練習は必至
今年は新年早々インドに行かれましたが、滞在中にやることは毎回決まっているんですか?
まず最初に行くのは、ムンバイのタブラ屋ですね。日本からタブラを持って行き、皮の張替えや調整をしてもらいます。皮は消耗品なんですよ。そして、新しいタブラをいくつか購入します。今回は1ヶ月半ぐらいの滞在でしたね。以前は1年や半年という長期滞在をすることが多かったのですが、最近は長くても2~3ヶ月です。

タブラショップ「Haridas Vhatkar」にて(Photo by Akira Iou)
タブラは日本で修理できないのですか?
スペアの皮を買って帰り、それを自分で張り替えるぐらいはできます。ただ、あまりいい音にならないことが多いですね。皮を張ったあとに音を調整する作業がとても重要なんですが、日本にそれをできる人はいないので。
今でもインドの師匠(オニンド・チャタルジー氏とザキール・フセイン氏)にタブラを習っているそうですね。
はい。インドに行く第一の目的は、先生の指導を受けに行くことです。あとは部屋でひたすら個人練習をしたり、インドのミュージシャンとセッションしたり、古典音楽のコンサートを聴きに行ったり。今年は1月27日にコルカタで自分のライブもありました。

ライブはいかがでしたか?
サロードという弦楽器の伴奏としての出演だったのですが、サロード奏者が「今日はどうしても生音でやりたい」と言うので、完全アコースティックの演奏会になりました。サウンドシステムもちゃんと用意されてたから、できたら僕はマイクを使って演奏したかったんですけど、主奏者がそう言うんじゃ仕方ないですからね。タブラはそれほど音の大きい楽器ではないので、会場中に聞こえるようにしっかり叩くのが大変でした。
10代の頃から長い間師匠に習っていらっしゃいますが、今でもわざわざインドまで行くのは、技術を習得するためなのですか?
そうですね。なかなか上達しないので、いまだに行き続けています。細かい指使いについて教えてもらったり新しい曲を習ったりということもありますが、それよりも、僕の二人の先生や一部の兄弟弟子などの本当にうまい人たちの演奏を間近で見るということがとても参考になります。自分ひとりで練習しているとどうしてもわからなくなってきてしまう音量感やスピード感などを、目の前で体感することによりいろいろなブレを修正できたり、今後の課題を見つけられたりする感じです。まあ、僕が20年も通っている理由の一つには、タブラを習うことが好きだというのもあるんでしょうね。自分が真剣に取り組んでいるものについて、その道の達人から指導を受けるというのはとても楽しいことなんで。

師匠のひとりであるオニンド・チャタルジー氏と
ユザーンさんの思う上手い演奏者っていうのは、何が違うんですか?
うーん、何だろう。音質、音量、スピード、リズムの安定感、アイデアの豊富さ、細かいパッセージの正確さとか、いろんな要素があると思います。その全てのレベルが圧倒的に上がると、僕の先生たちみたいになれるんでしょうね。まあ僕の先生に限らず、インドには素晴らしいタブラ奏者が山ほどいますよ。
日本にいる間も練習をなさるんですか?
もちろん、時間があればあるだけ練習してます。主にやっているのは、北インド古典音楽の練習です。
それは決まった練習方法があるんですか?
僕の場合は、かなりの時間を指の基礎トレーニングみたいなものにあてています。あとは、まあ自由に演奏している感じですかね。もちろん、フィックスされた曲を練習したりすることもあるけれど、インドの古典音楽って基本的には即興で演奏するものなんですよ。音階や拍子など、ある程度のフォーマットだけは最初に決めますが、その中身をどうするかはほぼフリー。なので、演奏の自由度を上げるための訓練をするのが非常に大切です。インド音楽のルールと美学にのっとった上で、いかに美しく即興を展開するか、という。演奏能力の向上を図るためには、インド古典音楽の練習は不可欠なんじゃないかと思います。タブラはもともと、それを演奏するために作られた楽器ですしね。

タブラは日本では一般的にあまりなじみのない楽器ですが、インドでは有名なのですか?
老若男女、知らない人はいないと思いますよ。なにしろ「タブラ」という言葉はサンスクリット語で「太鼓」という意味らしいですし。日本で「太鼓って知ってる?」って聞いたら、たぶんほぼ全員が「もちろん知ってる」と答えるでしょうけど、それと同じような感じの存在だと思います。
ユザーンさんは、タブラは何個くらい持っているんですか?たくさん並べて演奏される時もありますよね。
35個ぐらいはあるんじゃないですかね。右手で演奏する「ダヤ」と呼ばれる楽器は、音程ごとに打面の口径などが違うので、それぞれの音程が出せるように各種のサイズを取り揃えている感じです。インド音楽でいうと、シタールがC#~D、サロードがC~C#、女性のボーカルがAぐらい、男性ボーカルがD~Eぐらいなど、相手の演奏する楽器などによって基音が変わってきます。インド音楽の場合は最初から最後までキーが変わらないので、低音を担当する「バヤ」を左に置いた大小2個だけで演奏します。僕がダヤの方を複数個並べるのは、インド音楽以外を演奏するときですね。例えばポップスの伴奏だと大抵の場合は曲ごとにキーが違うので、様々なキーのタブラを持っていたほうが楽曲に馴染みやすい。そして曲中に転調することもあるので、その時に自分も移調できるように並べてセッティングしておきます。あとは、いろんな音階を並べておくとちょっとしたメロディーやリフを演奏できたり、2個同時に鳴らすことで和音を出すこともできます。

ユザーンのタブラコレクション
ユザーンさんがやってるように、ポップスとコラボしてるタブラ演奏者はインドにもいるんですか?
もちろんいっぱいいますよ。インドの大衆音楽にタブラが使われることはとても多いです。
ところで、インドと日本はどちらがお好きですか?
どちらかの国に一生住み続けなければならない、というのだったら確実に日本を選びます。インドで生活するのって、やっぱり大変なんですよ。それでも最近はだいぶ楽になりましたが。僕がインドに慣れたというよりも、インドが変わってきたのだと思います。経済的にもかなり発展してきましたしね。
インドから日本に帰ってくるたびに感じることや大きなギャップはありますか?
帰国直後はいつも「日本って静かだな」と感じます。ムンバイやコルカタは、常に喧騒の中なんですよ。ドライバーはみんな呼吸するように車のクラクションを鳴らしているし、道行く人たちはやみくもな大声で喋り続けてるし、街中の至るところで土木工事をやってるし、とにかく四六時中うるさい。
でもやっぱり時間があればインドに行きたいですか?
いや、そうでもないかな。せっかくどこかへ旅行するのなら、できればインド以外のところに行きたい。インドはもう20回以上訪れてますからね。でも、やはり先生に年に一度くらいは会って指導を受けたいですし、タブラも作る必要があるので、行かざるを得ないですよね。行くからにはなるべく楽しみを見つけるようにはしていますけど。ご飯がおいしい、とか。

インドの街中で
インドのご飯は美味しいですか?
はい、とても好きです。昔は3週間もインドにいると急激にうんざりしてきて「何でもいいからカレーじゃないものが食べたい」と思ったりしていたけど、最近はそんなこともなくなりましたね。毎日、嬉々としていろいろなカレーを食べています。特に、コルカタがあるベンガル地方で食べる魚カレーは本当においしいですよ。ここ数年は、日本にいるときもしょっちゅうベンガル料理を自分で作っています。もはや故郷の味みたいに感じるようになってきました。
2月に蓮沼執太さんとのコラボレーション・アルバム「2 Tone」のレコード版をリリースされましたが、3月にはフルカワミキさんとのコラボ作品「KOUTA LP」のレコード版も発売されるそうですね。
「2 Tone」は元々CDのサイズで作ったアルバムだったので、アナログ盤の尺に合わせて曲数や曲順を少し変えてあります。マスタリングもアナログ用にやり直しました。僕はインドにいたのでカッティングしたものをまだ聴けていないのですが、チェックしてくれた蓮沼執太によると音がすごく良かったそうなので楽しみです。フルカワミキ÷ユザーンの「KOUTA LP」は、同名義で昨年の春にリリースしたカセットテープがあるのですが、それを中心に新曲をいくつか追加収録したものです。元スーパーカーのナカコーも、ギターなどで参加してくれています。

2018年2月にニューヨークで行った蓮沼とのライブ
今後のライブの予定を教えてください。
3月の終わりから、サントゥール奏者の新井孝弘くんとの全国ツアーがありますね。彼はインドのムンバイに住んでいるのですが、毎年この時期に一時帰国するので、そのタイミングに合わせてツアーをしています。演奏する内容は、北インド古典音楽です。サントゥールはピアノの原型とも言われている打弦楽器で、100本近くの弦が張られているんですよ。今年は北は青森から西は九州まで30本以上のライブをやることになっているので、ぜひスケジュールをチェックしてお近くの会場へいらしていただけたらと思います。
取材協力
Vender Woh!
住所:東京都台東区蔵前4-20-8 東京貴金属会館3階
電話番号:03-6874-6643
営業時間:12:00~18:00(不定期に時間が変更されることが御座いますのでホームページを御確認ください)
休業日:日、月、火
http://venderwoh.jp/
ユザーン衣装
プルオーバーストライプシャツ¥49,000 (税別)タブラモチーフ•デニムパンツ(価格未定)/ Vender Woh!
次回へ続く

『2 Tone』蓮沼執太&U-zhaan
蓮沼執太とのコラボで2017年に発売されたアルバムをアナログ化。ゲストにアート・リンゼイ、デヴェンドラ・バンハート、坂本龍一らが参加。アートワークは長嶋りかこ。
2018年2月14日発売
¥3,800+税
HRLP112
- Tone Tone Tone & Tone Tone Two
- Green Gold Grey feat. Arto Lindsay
- Mixed Bathing World
- A Kind of Love Song feat. Devendra Banhart
- Music for Five Tablas
- Sporty
- Lal feat. Ryuichi Sakamoto
- Radio S
- Dryer
- ISO

『KOUTA LP』フルカワミキ÷ユザーン
元スーパーカーのフルカワミキとのコラボ作品。2017年にカセットテープのみでリリースされた2曲に新録を追加し、アナログ盤としてリリース。ギターとMIXでナカコーも参加。
2018年4月6日発売 ※HMV record shop 3店舗のみ3月30日より先行発売
¥3,000+税
HRLP115
- B & G
- 苔のうた
- B & G Remixed By 食品まつりa.k.a foodman
- 八戸小唄
- 通りゃんせ
- 八戸小唄+通りゃんせ Remixed By Oval
新井孝弘×U-zhaan 北インド古典音楽ライブツアー 2018
- 3/25 取手 hako cafe
- 3/29 東中野 aptp
- 4/02 浜松 キルヒヘア
- 4/03 名古屋 TOKUZO
- 4/04 神戸 旧グッゲンハイム邸
- 4/05 広島 ヲルガン座
- 4/07 佐賀 戒円寺
- 4/08 福岡 西林寺
- 4/09 熊本 Sazae
- 4/10 宮崎 西導寺
- 4/11 大分 AT HALL
- 4/13 小倉 Tanga Table
- 4/14 山口 喫茶ぼなーる
- 4/15 尾道 浄泉寺
- 4/16 米子 PRADE
- 4/17 岡山 パダンパダン
- 4/18 高松 デザインラボトリー蒼
- 4/19 神戸 クラブ月世界
- 4/20 京都 トコ会館
- 4/21 金沢 葡萄夜
- 4/22 岐阜 Cafe&Bar aLFFo
- 4/28 代官山 晴れたら空に豆まいて
5月以降のスケジュール、詳細は http://u-zhaan.com/schedule/ にてご確認ください