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# | Dec 9, 2023

インスタフォロワー数130万人の人気映像作家・New York Nicoが切り取る、ニューヨーカーのリアルな日常と都会の息吹

Text & Photo: Atsuko Tanaka

PROFILE

映像作家ニコラス・ヘラー/ Nicolas Heller

ニューヨークを愛してやまない男。ニューヨークタイムズ紙の「ニューヨークの非公式タレント・スカウト」である彼は、本物のヒューマンストーリーを追い求め、生まれ育ったニューヨークの、リアルで唯一無二の人々や場所を記録するコンテンツを制作することで知られている。2023年には、ニューヨークマガジンの「Why we Love NY」号とタイムアウトNYのクリスマス号で特集された。 ヘラーは、ユニークなキャラクターや地元の定番アイテムの物語を語るのが大好きだ。それらは、MetaやShake Shack、NIKE、Tribeca、New York Knicks、MLB、Calvin Klein、Kith、Timberland、Popeyes、Mastercard、Oscar Meyerなどのキャンペーンをはじめとする、彼のコマーシャル作品に反映されている。 物語を愛する彼は、劇映画制作の世界にも足を踏み入れ、短編映画 "Out of Order "を発表。この映画は2022年のトライベッカ映画祭で初演され、ヘラーの大胆な視覚的な物語と人間のユーモアのセンスが際立つ作品となった。

 

パンデミックを乗り越え、久々となるINLYTEのゲストは“New York Nico”ことNicolas Heller(ニコラス・ヘラー)。生粋のニューヨーカーで、インスタのフォロワー数は現在130万人という人気映像作家だ。キャラクター濃い目の愉快なニューヨーカー達のリアルな日常の一コマを映像に捉え、日々インスタにアップしている。来日中のNicoをインタビューし、彼の半生にまつわる出来事、New York Nicoが生まれたきっかけや、コンテンツを作る上で気をつけていること、今後の活動予定などを聞いた。

 

 

日本には何度か来てるんですよね。どんな印象を持っていますか?

日本に来たのは今回で3回目。街がとても機能良くデザインされていて、コンビニや自動販売機がどこにでもあるし、すごく便利。赤信号で車が来なくてもみんなちゃんと待っていたり、歩きながら物を食べてる人も少ないし、街にゴミ箱がなかったり、公衆トイレが綺麗なことも日本らしい。自転車が歩道と車道関係なく走っているのにはびっくりだよ。ニューヨークでは歩道を自転車が走ることはできないからね。

 

それではNico さんの生い立ちについて聞かせてください。出身はニューヨークのユニオンスクエアの辺りだそうですが、どんな環境のもと育ちましたか?

僕が子供の頃のユニオンスクエアはまだ安全じゃなくて、中2になるまでは一人で歩かないようにって言われてた。僕の両親はとてもアーティスティックで、父はニューヨークタイムズのアートディレクター、母はグラフィックデザイナーとして自分の会社も持っていた。だからいつも才能溢れるアーティストたちに囲まれていたよ。ニューヨークで育ったことは最高だね。常にやることがあるし、ユニオンスクエアやワシントンスクエアパークも近かったから、遊ぶ場所もいっぱいあったし。

 

当時はどんなことに興味ありましたか?

スポーツ。野球、バスケ、フットボール、なんでも。だけど中2の頃に映画づくりに興味を持って、自分で脚本を書くようになった。その頃はまだ長い脚本を書く我慢がなかったからシーンだけを書いていて、映画をよく観るようになってからは色々な作品の批評をしたりしてた。その後高1の時に初めて映画のクラスを取って、さらに映画にのめり込むようになって、将来その道に進みたいと思うようになったんだ。

 

 

その頃からすでにそう思っていたんですね。

学校ではいい先生に恵まれたし、サマープログラムを受けたりしながら、自分でショートフィルムを撮ったりして、高校卒業後はボストンにあるエマーソン大学という映像系の学校に行った。学校で教わることにはあまり興味を持てなかったけど、どうにか頑張って乗り越えて、3年生の頃にミュージックビデオを撮り始めた。当時キヤノンの7Dが出始めた頃で、そのカメラでボストンにライブをしに来たアーティストたちの撮影をするようになって、いい評判を得た。僕のスタイルは周りの人たちのとは違ったからね。

当時はヒップホップだと例えばNahRight(ナーライト)や 2DOPEBOYZ(トゥードープボーイズ)とか、ブログが流行っていたんだけど、彼らが人気のアンダーグラウンドのヒップホップをフィーチャーしていて、そこに自分の作品が取り上げられることは名誉なことだった。彼らは僕の作品に対して協力的で、すごく嬉しかったな。

 

どんなアーティストのMVを作ってたんですか?

Progidy(プロジディ)とか、Brown Bag AllStars(ブラウン バッグ オールスターズ)、C-Rayz Walz(シー レイズ ウォルズ)、Homeboy Sandman(ホームボーイ サンドマン)、Max B(マックス ビー)とか、100個つくらい作ったね。

 

―すごい数ですね!それで大学を卒業後はどうされたんですか?

ニューヨークに戻ってブルックリンに住んで、変わらずミュージックビデオを作ってた。でもビジネス的になかなか上手くいかなくてLAに行ったんだ、HYPE WILLIAMS(ハイプ・ウィリアムス)みたいな監督になろうってね。でも仕事が全然取れなくて最悪な状況が続いて、結局6ヶ月でニューヨークに戻った。何のプランもなかったけど、とりあえずどうにかしようって感じで。

ある日ユニオンスクエアパークでこの後の人生何をやろうか考えていたら、僕が高校生の頃からよく街で見かけるニューヨーカーを見つけて。彼はTe’Devan(テ・デヴァン)と言う、身長が約2mあるドレッドの白人で、「6’7″ JEW WHO WILL FREESTYLE RAP FOR YOU(2メートルのユダヤ人が、あなたのためにフリースタイルラップします)」ってサインを掲げてるんだ。自分にとって彼はビッグなセレブだったから、僕なんかとは話してくれないだろうと思ったけど、自分のどん底の状況を利用して話しかけてみた。そうしたらすごいナイスにしてくれて、一緒に街を歩きながら2時間くらい話した。それで彼のドキュメンタリーを撮らせてもらえないかと提案してみたんだ。彼は承諾してくれて、“あるニューヨーカーの1日”みたいな感じの作品を作って、結構いい感じに仕上がったから、同じシリーズで撮ろうと思って16作品作った。

 

 

それらをYouTubeに投稿して?

そう、“No your city”というタイトルで、、今でもYou Tubeで観れるよ。今見返すとあまりいい出来ではないけど(笑)、当時は自分ではなかなかいいと思ってた。でも思ったほど再生回数が伸びなくて、どうしたらもっと多くの人に見てもらえるかを考えた。そんな頃インスタで長い動画を載せられるようになったから、アカウント名を本名からNew York Nicoに変えて、iPhoneで撮った短い動画をアップしてみた。そうしたら多くの人に見られるようになって、それを続けていたら、やっているうちにどんどんビュー数が上がっていって。

 

―ちなみに肩書きを“Unofficial talent scout”(非公式なタレントのスカウト)とされていますが、ひねりの効いたネーミングはさすがだと思いました。

誰かに何をやっているか聞かれた時に、最初はなんて言ったらいいかわからなかった。ニューヨークの才能ある人たちをスカウトしているけれど、ジャグリングが出来るとか歌が上手いとかじゃなくて、ユニークさとか唯一無二な人柄とかでも十分な才能になる。それで“Unofficial talent scout”にしたんだ。そうやってNew York Nicoが生まれた。

 

それをきっかけにいろんな仕事の依頼が来るようになったんですか?

そうだね、それからコマーシャルディレクターとしても作品を手がけるようになった。2014年頃は“No your city”がきっかけで例えばリプトンのために、ターキーのお茶農家のドキュメンタリー映像を撮るとか、ブランドのコンテンツを作るようになった。そして2021年にコマーシャルプロダクションの会社と契約して、大きなコマーシャル作品を撮るようになった。

 

あのニックスのコマーシャル映像とか?

いや、あれはインスタを通して直接連絡が来たんだ。そうやっていろんなブランドがコンタクトしてきて、New York Nicoとドキュメンタリーのスタイルをミックスしたような形で何かできないかと言われることは多い。ニックスのは、最初はキャスティングを頼まれたんだけど、監督もやらせてくれって言ってやることになった。

 

 

―New York Nicoを通して、これまでいろんなニューヨーカーと会って関係性を築いてきたと思いますが、彼らからはどんなことを学びましたか?

今は前ほどでもないけど、当時は毎日街に出て、ストリートの人らから、ビジネスオーナー、エンターテイナーとか、たくさんの人に会った。また、彼らが面白い人を紹介してくれることもあった。学んだことはたくさんあるけど、誰のために自分の時間を使うかとか、誰と関係性を築くのか、逆に距離を置くのかとか、人を見る目を養うことができたね。あとは人との話し方やインタビューの仕方、どうやってその人からいいストーリーを引き出すかとか、やりながら掴んでいった。

 

特に印象に残る出会いや思い出は?

パンデミックの時に、僕のインスタを通して資金を集めて、潰れるかもしれなかった店を助けられたことは自分にとってとても意味のあることだった。彼らには「厳しい状況を耐え抜くことができた」ととても感謝されて、すごく強い絆が生まれたよ。他にもいっぱいあるけど、毎日最高な思い出作りをしてるから、どれを選ぶっていうのは難しいね。

 

では、インスタで動画コンテンツを作る際に、必ずやること、やらないことなど気をつけていることがあれば教えてください。

その人のポジティブな面を見せるように気をつけてる。最近はあまりないけど、僕が面白いニューヨーカーを探してると思われていたせいか、地下鉄で潰れてる人とか、誰かが吐いてる動画を僕に送ってくる人たちがいて、すごく嫌な気分になった。僕はそういった動画はアップしたことはない。僕がアップするものはその人の自然な姿だし、それをアップしてもその人が嫌な気分にならないようなものにする。だから撮られたくないだろうなと感じる時は撮らないよ。日本で撮る時は、人の顔があまり映らないように配慮することもある。日本人は撮られることを嫌がる人も多いからね。とにかくその人を悪く見せるようなものは撮らない。そういう動画はたくさんあるけど、僕はもっと人をインスパイアするようなものを撮るよう心がけてるよ。

 

 

今、本当に多くの人が写真なり映像を撮って、SNSやネットはコンテンツに溢れていますが、Nicoさんは他のクリエイターの動画は見たりしますか?

うん、好きなクリエイターはたくさんいるよ。例えばSam Youkilis(サム・ユーキリス)僕のスタイルと似てるって言われることもあるけど、彼のフレーミングはもっといいし、世界的に活躍してるよね。あとは、ビデオクリエイターよりフォトグラファーの方が多いかな。似たような動画が増えてきたからか、ちょっとつまらなく感じる時があるんだ。フォトグラファーは、特に独特なスタイルを持った人が好きで、Bruce Gilden(ブルース・ギルデン)とか、Daniel Arnold,(ダニエル・アーノルド)、Victor Llorente(ビクター・ロレンテ)Jeremy Cohen(ジェレミー・コーエン)、Steven Sweatpants(スティーブ・スウェットパンツ)とか。それから Mel D. Cole(メル・ディ・コール)もいい。彼はヒップホップをたくさん撮っていたよ。他にもSinna Nasseri(シエナ・ナセリ)とか、たくさんいる。

 

ちなみにNicoさんは撮影から編集と自分で全部やってらっしゃいますが、そのスタイルの方が好きなんですか?

そうだね、iPhoneでサッと撮影して完結するから。でも、コマーシャル撮影の時とかで、たくさんのクルーがいる時はディレクションにフォーカスできるから、それはそれでいい。二つとも全然違うアプローチだし、どっちの方がいいってわけでもないかな。

 

―今使ってるiPhone15ですか?

いや、14だよ。しょっちゅう新しいのが出るし、アップデートしてないね。

 

ご自身のスタイルを一言で言ったら?

キャラクター。

 

 

 

今後のSNSのトレンドはどのようになっていくと思いますか?

今TikTokが流行ってるけど、あの方式が今の時代に合ってることが証明されてるわけだから、クリエイターたちはそれに従った映像づくりをしてるよね。明らかに写真より動画が好まれているから、これからも動画コンテンツが増えていくことは間違いない。写真はどうなるんだろう。フォトグラファーの人でSNSでファンベースを作っていこうと考えているなら、難しいかもしれないね。それと、長めの尺の動画がアップできるようになってきているけど、その方が、ただの動画ではなくもっとストーリーを伝えられるからそれはいいことだと思う。僕自身はトレンドに沿って、自分のスタイルをアップデートしていく必要があればそうしていくよ。

 

―Nicoさんのような映像作家になりたい人にアドバイスをください。

自分のやってることが好きであることは大事だね。本当はあまり気が乗らないのに、周りがやって成功してるからってやっても、そこに意味は見出せない。本当に自分がいいと思うものやインスパイアされるもの、共感できるやり方でやれば、ネット上での新たなアートをクリエイトする道が切り開けるかもしれない。

 

今手がけている新しいプロジェクトはありますか?

ニューヨークのガイドブックが来年の秋に出るよ。フォトグラファーとライターと一緒に、去年の夏から1年半かけて100軒くらい取材したんだ。ほとんどが昔からある店だけど、悲しいことにいくつかの店は既に閉店してしまった。そういう店はニューヨークに特別感を出してくれるから、ずっとやっていてほしかったけれど…。でも、とにかく僕が大好きなニューヨークの店を世界中の人たちに紹介したいと思っていて、世界のいろんな都市でブックツアーができたらいいなと思ってる。日本でもサイン会をしたいな。

 

それはとても楽しみです!では、今後ドキュメンタリーを撮ってみたいと思う人はいますか?

僕はサブカルチャーが好きだから、そのカルチャーにいる誰かかな。日本のロカビリーチームのStrangersもいいね。彼らのことはみんな既に知ってるかと思ってたけど、意外に知られてなくて、彼らの動画をアップしたら1100万回も見られたよ。みんなすごいとかかっこいいって言ってたね。

 

 

私も日本に住みながら、Nicoさんのインスタで知りました(笑)。では、これから挑戦したいことや目標などはありますか?

長編映画を撮りたいね。あと、もっと本を作りたいし、もっと旅をしたい。ニューヨークは自分のホームで愛してるけど、いろんな国に行っていろんな文化に触れたいな。仕事の関係でニューヨークを長いこと離れられないから、今回日本に来たのが久しぶりの海外だけど、本の発売を言い訳にして世界中をサイン会で回れるといいね。

 

最後に、Nicoさんにとって成功とは?

自分の作品をいいと思うことも大事だけど、誰もそれを気にしてなかったらそれは成功とは言えないと思う。作品を通して多くの人をインスパイアして、それをいいと思ってくれる人がたくさんいたら、僕にとっては成功かな。あとはそれで生活できること。自分が好きなことでお金を稼げるのはとてもありがたいことだね。僕はインスタのフォロワーがたくさんいて、その全員をインスパイアしているわけではなくても、一定の人たちがいてくれることを当たり前と思ってないし、とても感謝してるよ。

 

New York Nico Information