世界初!コーヒー器具最新ツール「Auto Comb(オートコーム)」ローンチイベントが盛大に開催。世界のコーヒー界を牽引する開発者マット・パーガーが来日
2023/07/26
今年6月、ギリシャ・アテネで開催された世界最高峰のバリスタを決める世界大会「ワールドバリスタチャンピオンシップ」で、多くの競技者が使用していたコーヒーツールが話題となった。その名は「Auto Comb(オートコーム)」。エスプレッソを美味しく抽出するために欠かせない器具のひとつ、ディストリビューターの新製品だ。大会で優勝して世界チャンピオンになったブラジル代表Boram Um (ボラン・ウム)をはじめ、Auto Combを使用して大会のプレゼンテーションに臨んだ競技者の多くが優秀な成績を収めたことで、世界中のコーヒーマーケットがこの器具に注目。最近完成したばかりの器具にも関わらず、国を代表するトップバリスタの多くが競技会で使用したという事実に業界は話題騒然となった。
少しコーヒーの専門的な話になるが、ディストリビューターとは、エスプレッソマシンに粉を入れる前に均等にならす作業で使用するもので、均一な抽出をしてバランスのとれた味わいを出すのに欠かせない道具だ。コーヒーの競技会で使われるようになって以来、今や日本でもコーヒー専門店やプロのバリスタは必ずといっていいほど使用している。
Auto Combの開発者は、コーヒー業界を牽引するバリスタMatt Perger(マット・パーガー)。Matt 氏は、バリスタ向けオンライン教材「バリスタハッスル」の創設者兼CEOで、2012年ワールド・ブリュワーズ・カップ、2014年ワールド・コーヒー・イン・グッドスピリッツで世界チャンピオンに輝き、2011年と2013年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップでは準優勝と3位という好成績を残すなど、コーヒー競技会のレジェンド的存在として知られている。また、今や世界中で使用されているグラインダーEK43をエスプレッソ抽出に使用することを最初に世界に広めた張本人でもあり、15年間のプロフェッショナルなフィールドでの豊かな経験と、ユニークで斬新な着眼点をもって、今回Auto Combの開発に挑み、見事完成させた天才的な人物だ。
Auto Combは、下向きに数カ所細い針がついた器具を、エスプレッソを抽出する粉入れ(ポルタフィルター)にカチッとはめて、片手でくるくると回して使用するという、シンプルなものだ。
そしてこのたび、日本からの熱い要望に応える形で、開発者Matt 氏自ら来日、大阪と東京でローンチイベントを開催した。イベントでは、司会進行兼通訳を、アジア人初のバリスタ世界チャンピオンでバリスタハッスルジャパン代表である井崎英典氏が、サポートを世界大会準優勝の鈴木樹氏が務めた(両氏は以前、HIGHFLYERSのON COME UPで特集している)。
約1時間のイベントは、Auto Comb誕生までの製作秘話をMatt氏本人がたっぷり語り尽くすという内容。コーヒーショップのオーナーやスタッフなど、専門家を中心に、参加者は70人近くいただろうか。日本のコーヒーシーンを牽引するトップバリスタやロースター達も参加し、開発者の話に真剣に耳を傾けた。Matt氏のトークイベントの後は、Q&A、そして参加者がAuto Combに実際に触れて使用してその感覚を確かめた。
今まで14年くらいコーヒーのディストリビューションについてすごく不満を感じていたMatt氏が、 理想的なディストリビューターの4つの条件として挙げたのは、
1、美味しいコーヒーの味を作り出せること
2、誰がやっても同じ精度で使いこなせること
3、耐久性が高いこと
4、使い始めてから使い終わるまでを5秒以内で完結させられること
彼が思うに、これらを満たすディストリビューターは今までなく、特に抽出の均一性については、2015年くらいから世界中でずっと研究されているが、いまだに解決していない領域だと言う。
Matt氏自身も製作に挑んではみたものの、均一に粉を分布できても味が悪かったり、部品が簡単に取れてしまったり、トライ&エラーの繰り返しだった。最も難しかったのが針の配置と動かし方で、一部はちゃんと粉にあたっても、別のところにあたらなかったり、真ん中だけ攪拌されすぎてしまったり、と納得のいくまでにかなりの時間を費やしたそうだ。「針を早く動かすと、粉がふわふわになる。針が中央部にあればそこだけに穴が開くが、針をより外側に配置することで遠心力を防いで、中央にコーヒーを押し出すことができる。でも強すぎると真ん中に集まりすぎるから、そのバランスを見つけるのに超苦労した」とMatt氏。
ようやく完成が近づいた頃、バリスタのAnthony Douglas氏(アンソニー・ダグラス)がオーストラリア国内大会で優勝。その直後、Anthony氏がオーストラリア代表としてAuto Combを世界大会で使用することが決まり、Matt氏は未完成だったツールを約8週間で必死で完成させた。最初から最後までは4秒で完結、コーヒーは美味しい、落としても壊れない。納得のいくツールが完成した。Anthony氏は、2022年の世界大会でAuto Combを使って見事に優勝した。
ローンチイベントのために来日したMatt氏に、少しだけインタビューできたので、合わせてお読みいただきたい。
誰もが美味しいコーヒーを作れる世界になるための問題解決をするのが僕のミッション。常に面白いことを探し続けたい
—完成までのお話を伺うと、ひとりのバリスタが作ったものとは考えられないほどの大作だと思うのですが、マットさんのアイディアを具現化できるエンジニアと組んだのですか?
僕1人で全部作りました。もともと作るのが好きで今までに世には出ていないけどいろいろ作ってきていて、これが7個目の開発ツールです。しいて挙げるなら、3Dプリンターが僕のことをいろいろ助けてくれました。
—すごいですね。バリスタのイメージが覆りました。もともと作ることに興味があったのですか?
もともとエンジニアリングが好きで勉強していたんです。大学に進学したら、工業系デザインの勉強をしようと思っていました。
—コーヒーの世界に進んだのは、なにかきっかけがあったんですか?
コーヒーだけでなく、もともと味(テイスト)全般に興味がありました。サイエンスやエンジニアリングを使って味に関してとことん問題解決したかった。日本語では「極める」ですかね。それで、2009年に高校卒業の時、ヨーロッパ旅行に出ました。インダストリアルデザインの大学に進学するつもりだったから、スカンジナビアの工業デザイン系の企業にいろいろ連絡をとったけど、オーストラリアから高校生が突然メールしたところで誰も相手にしてくれない。一通も返事が来ませんでした。でも、同時にコーヒーショップにもメールをしたところ、送ったお店すべてから返事が来たんです。みんな歓迎してくれました。
—いいお話ですね。具体的にはどんなお店に行って、どんな出会いがあったんですか?
スウェーデンのKOPPI、デンマークのCoffee Collective、ノルウェーのオスローにあるたくさんのカフェ。その時に、Tim Wendelboe(ティム・ウェンデルボー。2004年バリスタ世界チャンピオン)にも出会うことができました。それでコーヒーの世界にのめり込んでいったんです。
—バリスタハッスルを一緒にされている井崎英典さんとの出会いは?
もちろんコーヒーを通して。彼が優勝して世界チャンピオンになったワールド・バリスタ・チャンピオンシップで僕はコメンテーターとして参加していたんです。
—その時の井崎さんの印象、覚えていますか?
とにかく英語力に感動しました。彼は正真正銘のプレゼンター。ショーマンだよね。
—井崎さんの一番尊敬しているところはどこですか?
とても正直。だから信頼しているし、ビジネスも一緒にできます。
—バリスタとして、マットさんに与えられたミッションはなんだと感じていらっしゃいますか?
バリスタとしてのミッションは、もっと誰もが簡単に美味しいコーヒーを作れる世界にすることだと思っています。コーヒーは不確定要素が多くて、間違った方向にいきやすい。だからそれを正していきたいです。
—では、マットさんにとって成功とはなんですか?
自由。そして、人と繋がって楽しいことをすることです。
—すでに成功しているように感じます。
そうかもしれないけど、もっともっと面白いことがないかをいつも探しています。常に興味があることを探して、見つけて、それをみんなで楽しめたら素晴らしいですよね。
一杯の美味しいコーヒーのため、1人のバリスタが問題解決のツールとして開発したAuto Comb。これから世界にどのような広がりを見せて、コーヒーの世界をどう変えて彩っていくのか、楽しみにしたいと思う。
Text & Photo: Kaya Takatsuna