ON COME UP
#68 | May 15, 2024

美と祈りの織りなす衣。広島出身アーティストが手がける、平和を願う心と自然への祈りを込めたドレスが現在NY The Metropolitan Museumで展示開催中

Text & Photo: Atsuko Tanaka

OCU第68回目のゲストは、ファッションデザイナーでアーティストのRyunosuke Okazakiさん。自然豊かな広島県廿日市市で育ち、小さい頃から絵を描くことが好きだったOkazakiさんは中学生の頃に美大に行こうと決め、高校卒業後、東京藝術大学のデザイン科に進学されます。在学中に様々なデザインを学び、独自のスタイルを確立して、2021年に自身初のファッションショーを初開催。それが多くの評判を呼び、 2022年LVMH PRIZEのファイナリストに、またその翌年にForbes アジアの「30 Under 30」 に選出されました。その後も国内外で定期的に作品の発表をし続けており、現在ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催中の「Sleeping Beauties: Reawakening Fashion」でも彼のドレスが展示されています。そんなOkazakiさんをインタビューし、半生やクリエイションの源、作品に込められた思いなどをお聞きしました。
PROFILE

ファッションデザイナー・アーティストRyunosuke Okazaki

1995 年広島県生まれ。 2021 年に東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を修了。 「人と自然の調和」、「祈り」をコンセプトに制作活動を行う。 かつて原子爆弾が落とされた広島で生まれ、平和への祈りを肌で感じながら育った岡﨑は、人と祈りの関係に関心を寄せるようになった。 自然の中に神の存在を見出し、祈りを捧げてきた神道や、自然に対する畏怖を感じながら、人々が生きることに対する願いを造形に込めた縄文土器など、人と祈りの歴史の中で生まれてきた造形や、その造形に内在する作者の精神性に岡﨑は影響を受けている。 「制作の行為自体が、祈りの行為である」という思いから、岡﨑は作品を制作する際、設計を行わない。素材と対話し、手で作り上げながら、その時々に起こる偶発性を受け入れながら制作している。

Ryunosuke Okazaki

 

小さい頃は、どんな子供時代を過ごされましたか?

幼稚園の頃は泥団子を作ったり、虫捕りをしたり、山で遊んだり、自然の中にいることが多かったです。それと同時に、絵や物づくりも好きで、お絵描き教室に通ってました。小学生になると釣りに夢中になって、週に3、4日とか、フェリー乗り場の近くで投げ釣りやルアーフィッシングをやりました。また、2年生の時に始めたサッカーは、高2まで続けました。

幼少期に描いた絵

―とてもアクティブだったんですね。ご両親はどんな方で、どの様な育てられ方をしましたか?

両親は昔音楽関係の仕事をしていたんですが、二人とも、僕がやることは全部応援してくれるような親でした。母はパンクとかのカルチャーに詳しくて、ファッションも好きだったので、僕がファッションに興味を持ったのはその辺の影響があると思います。

 

―中学、高校の頃はどんな学生生活を送りましたか?

中高は男子校に通って、サッカー中心の生活でした。でも早い段階から大学受験を意識するような学校だったので、僕もサッカーの傍ら、美大を目指して中2の頃から美大予備校に行き始めました。

 

―当時はどんな絵を描いていたんですか?

受験の絵ですね。デッサンとか、絵の具を使って生物画や石膏像を描いたり。

 

―藝大に行こうと決めたのはいつ頃でした?

高2の頃には決めていました。予備校の主任が藝大出身で、僕も藝大に行きたいと思って。

 

―ストレートで合格ですか?

いえ、1年浪人しました。高校卒業後に上京して、藝大のデザイン科への合格率が一番高いと言われている予備校に通って、毎日ひたすら絵を描いていました。センター試験は必要だったんで、その勉強もしましたけど、1年で受かるぞって思って。

 

―毎日描いて嫌にはならなかったですか?

全く。むしろ楽しかったです。1年で受かれたからそう言えるのかもしれないですけど、楽しい浪人時代でした。

 

―藝大は、入ってみてどうでしたか?

藝大のデザイン科ではプロダクトデザインや、グラフィックデザイン、ソーシャルデザインなど、多岐に渡るデザインを学びました。「これをやりなさい」などと言われることは全くなく、自分でやりたいことを見つけるような風潮で、そのやり方が自分に合っていると思いました。

 

―ファッションにはいつ頃から興味を持ち始めたのですか?

高校生の時ですね。コムデギャルソンやリック・オウエンス、アレキサンダー・マックイーンなどのショーやルックを見て感銘を受けて、古着屋で買ったコムデギャルソンを着たり、自分でパンツを作ったりもしてました。漠然とファッションデザイナーになるんだろうなと思ってはいましたけど、服飾の専門学校に行くのはなんか違うなと、もっと広く表現を学びたいと思って美大を選びました。浪人時代はグラフィックデザインやプロダクトデザインにのめり込んで、藝大に入ってからは、課題で何かをデザインして作ることを繰り返しているうちに、もっと表現的なことをやりたいと思うようになったんです。最初の頃は、ファッションデザインに対して躊躇していた部分があって。

 

―と言うのは?

当時の僕は、問題解決だったり社会や人の生活にどう合わせていくかがデザインで、それと比べるとファッションデザインはエゴイスティックな表現だと思っていました。でも、ファッションデザインも人の心に響くものだし、そこにある美しさや驚きが人の心を豊かにするものだから、それもデザインの一つだと思い始めて、ファッションデザインの魅力を改めて感じるようになりました。

 

―当時はどんなものを作っていたんですか?

色々作ってましたけど、印象に残っているうちの一つが2年生の時に作った彫刻作品です。「暮らしにまつわるものを1畳以内の空間を使って表現する」という課題で、FRPという強化プラスチックを使って、「機能のないものが人の心を豊かにする」というファッション的な感覚で彫刻作品を作りました。その時に、自分の中でのアート、デザイン、ファッションの境界を全部取っ払えた感じですね。

 

−確かに、岡崎さんが作るドレスは彫刻作品のようにも見えますよね。ところで、在学中の2018年に「祈纏(きてん)-Wearing Prayer-」というドレスで、「コミテコルベールアワード(未来の化とアーティスト育成を的とした共同プロジェクト)」のグランプリを受賞されたそうですね。

広島には世界中から毎年10数トン折り鶴が送られてくるのですが、その折り紙を市の取り組みで再生紙にする活動が2011年からあり、「Wearing Prayer」はその再生紙を使って作ったドレスです。再生紙にいろんな画材を使って自然の絵を描いて、それを細かく裁断して、手で撚って、糸を集積させてドレスに仕立てて。1着作るのに5ヶ月くらいかかるので、すごく大変なんですけど、僕のドレス作りの肝になってる感じはあります。

 

Wearing Prayer / Photo: 永井文仁 © コルベール委員会ジャパン、東京藝術大学

―素晴らしいプロジェクトですね。私が岡崎さんのドレスを初めて拝見したのは、お花のドレス(Nature’s Contoursでしたが、あれを作ったのはいつ頃で、アイデアはどのようにして生まれたのですか?

作り始めたのは、大学院2年生になる直前くらいですね。2020年の3月頃で、コロナで外に出られなくなり、家にこもって作り続けるしかなくなって、いろんなインプットをしようと美術史を見ていた時に、アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」という本に出会って。その本に書いてあった、「オートマティスム(自分の意識、意思によらず身体が動く自動作用のうち、文字や絵などを描く現象)」的な考えが、僕がデザイン画を描かずに作る感覚とすごく似てると思って感銘を受けたんです。それで、手を動かし続け、量を作ってみようと思って、いろんな素材を使ってドレスを作っていくうちに、Nature’s ContoursやJOMONJOMONのシリーズが出来上がりました。

 

Nature's Contours

JOMONJOMON

―デザインを描かないというのはびっくりです。てっきり3D CADなどを使って緻密にデザインを描かれているのかと思っていました。

そう言われることが多いんですけど、作る時は本当に何も考えてなくて。逆に設計図も完成像もないからこそワーッと生まれてくる感じです。細胞分裂して勝手にある形になるっていうか、その辺に種を撒いたら勝手に植物として自生するみたいな。コンセプトに関しても、出来上がった作品を見て「なんでこれを作ったんだろう?」って後から内省し、考えることが多いです。

 

―そうなんですね。でも、Nature’s Contoursも、JOMON JOMONシリーズも、とても特徴的で印象深いです。

自然に対して祈ってきた人間の歴史と、プリミティブな生への願いが根幹にあるテーマにしたいと思って、それを内包したようなドレスにしようと、花とか自然を纏うようなものを意識していたので、あのような形になっていったんだと思います。JOMONの方は縄文土器の力強い造形と、古来から続く自然への祈りというコンセプトで、可能性のある表現だと感じており、今はドレス、彫刻、インスタレーションなど、表現が多岐に渡っています。

 

―では、アーティスト活動の転機となった出来事を挙げるとしたらなんですか?

2021年9月に開催した、初めてのファッションショーです。運良く文化庁の支援だったりパルコの協賛などがあり、JFWの方からお声がけいただいて実現することができました。僕のやりたい表現を全部詰め込んでやりましたが、思っていたよりファッション業界からいい反響をもらえて、そこからいろんな可能性が広がっていきました。また、メディアの拡散もあったおかげで、LVMHのプライズや次のショーの機会をいただけたり、上手い具合に今の活動につながっていった感じがあります。

 

 

―作品をクリエイションしていく上で大切にしていること、逆にやらないようにしていることなどはありますか?

大切にしていることは、手の経験です。新しい挑戦をしつつ、初心に返って素材を触ってみたり、作っていく中での発見が一番大きいので。何かをインプットすることも大事ですけど、それよりアウトプットの段階の、素材との対話で生まれる発見の方が面白い。そこで発見があると発想がどんどん広がって、次の作品につながったりする。こういうのを作ろうかなって頭で考えるものって限りがあると僕は思うんで、実際の空間にあるものと対峙することを大事にしてます。

 

―煮詰まることはないですか?

ないです。次に何を作ろうかって迷わない。素材があるから、これを使って作ってみようと思うし、なくなったら素材を探しに行けばいいし。そんな感じで、ずっと何かを作ってる状態が続いてます。アイデアベースだと煮詰まりそうですけど、僕は作るだけなんで。

 

―ご自身の作品のスタイルを一言で表すとしたら?

「オートマティスムの蓄積」です。先の質問でも触れましたが、設計などは頭で考えることを極力排除し、素材との対話と偶然性を大切にしながら造形します。その経験が蓄積し続け、作品も変化し続けていくと思っています。

 

深圳で開催中の展示、「光彩之鼓动-绳文时代以来的生命节奏(光彩の鼓動) THE BEAT OF RADIANCE -RHYTHMS OF LIFE CONTINUING FROM JOMON-」。開催期間は6/30まで

ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催中の「Sleeping Beauties: Reawakening Fashion」で展示されているドレス。開催期間は9/2まで

―自分のスタイルを築くのは簡単なことではないと思いますが、そこに苦労している人がいるとしたらどうすれば良いと思いますか?

そういう相談をされることはよくあって、その時は「誰が見てくれているかわからないし、とにかく量を作るのが大事だと思う」って言うことが多いですかね。どんなに素晴らしい作品だったとしても1個だけでは説得力がないし、何個もアウトプットしていく中でどんどん洗練して、誰も真似できない領域になっていくと思うので、そこを極めていくのが大切かと。何か1本自分の中で筋が通った感覚があるならそれを続けてみる。そして作品が溜まったら、発表などすればいいんじゃないかと思います。

 

―自分の価値観に変化や気づきを与えてくれた出会いや言葉はありますか?

さっき言ったオートマティスムですね。その頃の僕は、作ることには自信があったけれど、対外的に世に評価されるとかは全然なかったので、どこか不安があった中で、歴史がそれを証明しているんだなって、この感覚で続けていいんだって思えた瞬間だったので。

 

―憧れたり尊敬する方はいますか?

川久保玲さんと、アレキサンダー・マックイーンです。

 

―好きな音楽や映画、ファッション、アートなどで特に影響を受けたものは?

最近聴いてるのは、KIRINJI。聴きながら作業すると集中できます。あとは山口百恵も作業中よく流してます。映画は、影響を受けたわけではないけど、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は何度も観ました。最近いいなと思ってる監督は、ジョーダン・ピール。アメリカの文化の違いや人種差別的な側面を描いている作品が多くて、面白いです。アートで感動したのは、ニューヨークのガゴシアンギャラリーで観たゲオルグ・バゼリッツの作品と、香港バーゼルで観たダニエル・リヒターの絵。彼の絵を生で観るのは初めてでしたけど、良い絵でした。

 

―最近海外はよく行ってるんですよね?

そうですね、香港に行ったり、今開催中の、中国の深圳での個展の下見に行ったり、先日はロンドンで新しいコレクションの撮影をしました。ロビー・スペンサー(Robbie Spencer)さんという大好きなスタイリストがロンドンにいて、去年から連絡をとり続けて実現しました。

 

―写真はスタイリストによってやはり変わりますか?

変わりますね。ドレス自体は僕が作ったものなので変わらないですけど、モデルの肌の見せ方、ポージングだったり、メイク、ヘア、背景の色とか、どこにどういうものを合わせてどんな雰囲気にするかっていうのをロビーさん主導で決めてやってくれました。想像していたもの以上の出来上がりになって嬉しいです。

 

Styling by Robbie Spencer

―最近ハマっていることはありますか?

仕事が趣味みたいなところがあるので、あまりないかもしれないです。映画とかドラマを観たりはしますけど、どっぷりハマることはないかな。

 

―岡崎さんの理想の人間像は?

一人の時間が好きというか、周りの環境に振り回されたくないんで、自分の興味あることをやって、穏やかに暮らせたらいいなと思います。それって人間像なのかわからないですが。

 

―ご自身のやられていることで、日本や世界が変えられるとしたら、どんなことだと思いますか?

僕は今も戦争に対して感じることがあって、例えば核を使ってはいけないとか、人間同士が争うこと自体馬鹿なことだと思うし、説教がましくなりたくはないけど、作品を通して強いメッセージを伝えることが僕にできることなのかなと思ってます。それによって世界が変わるかはわからないけれど、僕にしかできない方法となると、作品を通して伝えることがベストなのかなと。

 

―広島の方は、今の若い人でも戦争に対して強い思いを持ってる人は多いですか?

そうですね。広島では小さい頃から戦争で起きた悲惨な出来事について教えらえていますし、毎年平和学習というのがあって、慰霊碑に行ったり、被爆者に会いに話を聞いたりします。なのでそれが当たり前と思ってたんですけど、東京に来て違うことに気づいて。例えば、みんなが8月6日に黙祷するわけではないこととか。その時に、平和を自分の作品のテーマにしようって決めたんです。広島で生まれ育って、ずっと平和、反戦っていうシャワーを浴び続けてきたから、これからもそういうことを伝えていきいと思っています。

 

―では、一気に視界が開けた瞬間や、自分が成長したと実感した出来事はありますか?

気づいたら開いてたみたいなことの方が多いかもしれないです。一番初めのショーで出したコレクションのドレスは、今思うとクオリティは低いなって思いますし、いつの間にか自分の作業のレベルも上がっていってる感じです。

 

―ご自身の、アーティストとしての一番の強みはなんだと思いますか?

作り続けることには自信があります。アーティストって、作品自体より、アーティスト自身が作品だと思っていて、創作活動も社会的な活動も、それ自体がアートと結びついて、人生そのものが作品になっていくと思うので、僕は人生を通して作り続けていこうと思っています。

 

−これから先、20年後とかに作品がどうなっているのか、楽しみですね。

僕も楽しみです。毎年いろんなことがあるから、全く違うものを作ってるかもしれないですし。巨大なもの、パブリックアートみたいなものは作ってみたいと思っています。

 

―では、岡崎さんにとってチャンスとはなんですか?

チャンスってすごく多くて、ただそれを拾えるか拾えないかだと思います。気づけないことの方が多いかもしれないし、偶然訪れるものだから、常に自分をいい状態にしておかないといけない。僕の場合はずっと作り続けて発表して、能動的に動き続けることが次のチャンスにつながっていってるので、それをやり続けるのがいいと思っています。

 

―それでは、成功とはなんですか?

うまくいくことって一瞬ですよね。成功って蓄積にならないから、何のストレスもなく、穏やかな暮らしをすることかな。僕はストレスがないというか、ストレスから逃げるようにしてるんです。大学を卒業して就職を考えたこともあったけど、人の下で働くのは僕にとってストレスだから逃げたというか、自分を移動させたんです。

 

―空間的に捉えて自身を移動させるイメージですか?面白い考え方ですね。

例えば自分の前で変な人が喧嘩していたら、そこから迂回するじゃないですか。そのような感覚で、行く先に邪魔があったら自分から動こうっていう感じ。そっちの方が心が楽だから。でも、海外での個展やショーとか、やりたいことはいっぱいあるんで、一つずつ達成して、それらを積み重ねていくことが僕にとっての成功かもしれないですね。あまり長期的な目標を立てることはないですけど、短期的な目標を実践できたら次にやりたいことが見えてくるので、一つひとつを叶えていくことに喜びを感じてるのかな。

 

―ここ2年くらいの目標はなんですか?

直近の個展を成功させて、アメリカのどこかで個展をやりたいです。

 

―作ったドレスを着てほしいと思う人は誰かいますか?

あまりいないですけど、ビョークとかが着てくれたら嬉しいですね。いい作品を発表し続けていけば、いつかチャンスが訪れると期待してます。

 

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