初めて出会った時に交換したミックステープがきっかけで意気投合。SoundCloudに上げた曲が大人気となり、ユニット結成
2015年のデビューから4年、今年の7月に待望のサードアルバム「Tuxedo III」をリリースしたタキシード。明るい色のタキシードをまとい、聴いた途端踊り出したくなるようなディスコ・ファンクサウンドを作り出す二人だが、彼らのルーツはヒップホップにある。
左:ジェイク・ワン 右:メイヤー・ホーソーン
シアトル育ちのジェイク・ワンは、学生時代から音楽制作を始め、友人に渡したテープをきっかけに、コンセプションレコードというレーベルでトラックを作るようになる。その後、50セント率いるG-Unitのプロダクションチームのメンバーとして活躍し、デラソウルやT.I、ゴーストフェイスなど多くのヒップホップアーティストの楽曲プロデュースを手がけた。
一方のメイヤー・ホーソーンはミシガン育ち。Athletic Mic League (アスレティック・マイク・リーグ)というヒップホップグループのメンバー、DJ Haircutとして活動していた。その後、2005年にLAに移住。もともとサンプリングや自身が楽しむために曲を作っていたが、90年代半ばにスタートし、多くのアンダーグランドヒップホップの名曲を生み出したストーンズ・スロウ・レコード創設者であるピーナッツ・バター・ウルフに背中を押され、2008年に同レーベルから7インチ「Just Ain’t Gonna Work Out”/”When I Said Goodbye」をリリース。翌年4月に12インチ「Maybe So, Maybe No”/”I Wish It Would Rain」、9月にファーストアルバム「A Strange Arrangement」を出し、見事シンガーソングライターへ転身を遂げた。
そんな二人が出会ったのは、メイヤーがDJをしにシアトルを訪れた時。お互いのミックステープを交換したところ、それぞれのテープにはヒップホップの曲は一つもなく、入っていたのはファンクだった。二人は意気投合し、交流を深めていった。
その後、それぞれの活動を続けながら、二人で曲を作り始めるようになる。新ユニット・Tuxedo としてSoundCloudに上げた曲がたちまち大人気となり、2015年の3月にストーンズ・スロウからデビューアルバム「Tuxedo」をリリース。アメリカのiTunes R&Bのチャートで堂々の1位を飾った。2017年に出した2枚目のアルバム「Tuxedo II」のオープニング曲「Fux with the Tux」には、二人が敬愛するあのスヌープ・ドッグが参加した。
ソロとしての活躍も華々しく、メイヤーは「 How Do you Do」(2011年)、「Man About Town」(2016年)など計4枚のアルバムをリリースし、長年のキャリアを持つジェイクも、近年ではドレイクの「Furthest Thing」(2013年)やフューチャーの「The Percocet & Stripper Joint」(2015年)、ザ・ウィークエンドの「True Colors」(2016年)などビッグアーティストの楽曲をプロデュース。二人とも、グラミー賞にノミネートもされている。
日本が大好きで何度も来日している二人だが、今年7月に出した「Tuxedo III」リリース記念公演のため9月に東京に再上陸。それぞれの音楽のバックグラウンドやユニット結成に至るまで、音楽業界で成功するためのアドバイス、今後の夢などを聞いた。
音楽業界で成功したいなら、オリジナルな音を作ることが大事。リサーチを怠らず、ビジネスも勉強して、いつチャンスが来てもいいように用意しておくべき
―お二人が音楽を始めたきっかけを教えてください。
ジェイク・ワン:子供の頃初めて聴いた曲で覚えてるのはキャメオやシャラマー、あとはギャップバンドも4 、5歳の頃に聴いてハマったよ。僕のお母さんがよく聴いていたんだ。
―楽器は何かやってました?
ジェイク:トランペットをちょっとやってたけど、ヒップホップが流行ってからはやめた。ヒップホップでは誰も楽器はやってなかったからね(笑)。それでDJになりたいって思ったんだ。
―他にその頃興味があったものはありますか?
ジェイク:バスケットボールかな。今は音楽よりバスケをやってるよ(笑)。
メイヤー・ホーソーン:俺は、スポーツは今はもうやらないけど、昔はバスケとかサッカーとか、よくやってた。でも友達と音楽を作ってる方が楽しいって思って、スポーツはしなくなった。
―メイヤーさんの音楽のバックグラウンドは?
メイヤー:両親がデトロイトの劇場で働いていて、母はそこのダンサーで、父はミュージシャンとしてギターやベースを弾いて、歌も歌っていたんだ。彼は今でもバンドで、ビートルズやザ・バーズ、ポリスみたいな感じのクラシックロックをベースを弾きながら歌ってるよ。 俺が子供の頃は、親父の音楽、あとはホリーズや、ビートルズ、マディ・ウォーターズとかを聴いていた。
―プロの音楽家になる前はどんな仕事をしていたんですか?
ジェイク:2年間くらい裁判所で事件の記録を整理する仕事をしていたことがある。
メイヤー:ミシガンの大学に行って、コンピューターサイエンスとグラフィックデザインを勉強した。今もグラフィックをやっていて、アルバムカバーとかグッズとか、タキシードのデザインは全部僕がやってるんだ。このTシャツもそうだよ。
ジェイク:今の時代、特に若い子たちはみんな全部自分でできないとダメだよね。他の人に頼らなくても、音楽のプロデュースも、グラフィックも、全部自分でできないと。
―確かにそうですね。では、お二人の出会いを教えてください。
メイヤー:初めてジェイク会ったのは、彼が住んでるシアトルにDJしに行った時だった。その時にお互いのミックステープを交換したんだ。そうしたら彼のミックステープにはヒップホップの曲は入ってなくて全部ファンクだった。俺が渡したものも同じく全部ファンクだったんだよ。二人ともびっくりして、そこから友達になった。
―なぜヒップホップの曲は入れなかったんですか?
ジェイク:ヒップホップからちょっと離れて他のことをやりたいと思っていたんだ。もちろんヒップホップは一番好きだけれど、それだけではないから。
メイヤー:ちょうどそんな時期だったんだよね。ちょっと休憩が必要だったというか。
―そうやってタキシードが始まったんですね!お互い離れて住んでいて、その後はどうやって交流を深めていったんですか?
ジェイク:LAで行われたビートバトル(ヒップホップビートのコンテスト)で再会したんだ。その時のことはよく覚えてるよ。僕はジャッジとして出たんだけど、彼はヒップホップのプロデューサーになる為に頑張っていた時で、そのバトルに出場して勝ったんだ。当時は彼が歌うことを知らなかったから、びっくりしたよ。
メイヤー:秘密にしてたんだ(笑)。
ジェイク:それから5ヶ月も経たないうちに、彼はシンガーとして世界中を回るようになった。
メイヤー:ストーンズ・スロウからハート型のシングルレコード「Just Ain’t Gonna Work Out」がリリースされて、ヒットしたんだ。
―その曲は、コンテストでやったんですか?
メイヤー:いや、ロスに引っ越してから作ったんだ。それで僕はシンガーになった、偶然にね。
ジェイク:それから一緒に曲を作ろうってなって、僕が作ったビートを彼に送って、彼が歌を入れて僕に送ってくれた。
―それらは全部同時期に起こったことなんですか?
メイヤー:そうだね。その前から友達だったけど、一緒に仕事するようになったのはその頃からだね。
―でもメイヤーさんは忙しくなっちゃったんですね。
メイヤー:うん、世界中をツアーで回ったりしてね。
ジェイク:彼は、俺が知ってる人の中で、 人生が最も激変した人だよ(笑)。
メイヤー:そう、クレイジーだった。ジェイクが音を送ってきてくれて、僕はツアー中にそれを聴いて歌を書いて、彼に送って。
ジェイク:でも、曲を送っても全然返事が来なくて、戻ってくるまでにすごい時間がかかるんだ。2曲目を送ってきてくれた時、僕は初めて日本に来た時で、データをダウンロードするのに容量を全部取られてムカついた(笑)。でも、聴いてすごいいいって思ったよ。
メイヤー:「Lost Lover」 が一番最初にできた曲で、「R U ready」が2番目にできた曲だ。2009年とか、2010年の頃だね。でも、最初は自分たちが楽しむ為だけに作っていて、グループとしてやるなんて考えてもいなかったよ。
ジェイク:そう。でも友達みんなから欲しいって言われてね。
メイヤー:
それでこれはいいサインだって思った。僕らの友達は音楽に対して厳しいから、大抵は「こんなのいらねぇよ」って感じなんだけど、そんな彼らが欲しいって言うのは、本当に良いってことだからね。
―あなたたちの音楽は80年代の音楽に影響されているとのことですが。
メイヤー:うん、あとは90年代の西海岸のGファンクラップだね。ネイト・ドッグみたいな。
ジェイク:その二つを一緒にした感じ。80年代のR&Bをやってる人は前にもいるしね。Gファンクは80年代のR&Bから来てるっていうアイデアがいいなと思って、僕らはその80年代 R&Bに影響されたGファンクをやってるって感じかな。
―あなたたちのサウンドが今の時代にも新しく聴こえる秘訣は?
ジェイク:僕らのアプローチが、実際の80年代の音楽とは違うからね。昔はみんなバンドでジャムしてたけど、僕らのルーツはヒップホップにあるから。
メイヤー:そう、ヒップホップの視点から曲を作ってるのと、あとはDJの視点も入ってる。それに、80年代当時は僕らはまだ子供だったし、何が起こっていたかとかよくわかってないからね。
―それでは、今までの人生で一番嬉しかった出来事を教えてください。
ジェイク:個人的には、娘が生まれたことだね。そう言わなかったら娘に怒られちゃうかも(笑)。
メイヤー:デトロイトにある、チリホットドッグが美味しい僕の大好きなレストラン「Lafayette Coney Island」が、僕らの写真を飾ってくれたことだね。すごい嬉しかったよ。
―タキシードとして一番嬉しかったことは?
メイヤー:サマーソニックに出演できたこと。出れると聞いてびっくりだったし、嬉しかった。
ジェイク:日本にも僕らのファンがいるって聞いて嬉しかったけど、こんなに受け入れられているとは思ってなかった。たくさんの人たちが僕らの曲を歌いながら、ジャンプしながら踊ってくれて。とても素晴らしかったよ。
―音楽をやっている日本の若者で、あなたたちのようになりたいと思ってる人に何かアドバイスをいただけますか?
ジェイク:日本のDJはアメリカのDJよりレベルが高いと思うよ。DJ KocoとかDJ Muroとか、すごいね。
メイヤー:オリジナルな音を作ること。タキシードっぽい音とか、ドレイクっぽい音とかじゃなくて、新しくてユニークでオリジナルなものを作るべきだね。そうすることで他との違いが出るし、誰かが見つけてくれるよ。
―どうやったらオリジナルなものを作り出せると思いますか?
ジェイク:僕らのように二つのことを組み合わせてみるとか。ヒップホップでも新しいムーブメントが起きることもたまにはあるけど、前に聴いたことのあるような音ばかりで、新しいと思えるものはあまりない。だから、Khruangbin(クルアンビン)のような他にないサウンドをやってるアーティストが出てくると、すぐに口コミで広がるよ。僕らみたいにインディーのレーベルで小さい規模でやっていくには、大きな会社のバックアップがないし、リスナーに頼るしかない。僕たちは、SoundCloud(サウンドクラウド)に3曲アップしただけだったけど、多くの人が支持してくれたおかげでアルバムを出すことができた。そうやって人にキャッチしてもらえる時もあれば、そうでない時もある。同じような質問をよく聞かれるけど、簡単には答えられないね。
メイヤー:あとはリサーチも大事だね。ビジネスも勉強して、いつチャンスが来てもいいように用意しておくこと。
ジェイク:ビジネスも今はネットで簡単に調べられるしね。僕らの時代は、ビジネスに詳しい人をわざわざ訪ねて聞きにいかないといけなかった(笑)。逆に今の若い子たちは恵まれた環境にいるから、そういう努力をしないのかもね。
―日本には年に2、3回来るそうですが、好きな場所はありますか?
ジェイク:ここだね、レコード屋。レコード屋で全部お金を使っちゃうよ。
メイヤー:あとは、下北沢にあるレコードがたくさんある「Little Soul Cafe」というバー。一蘭も大好き。
―いつもレコードを探してるんですか?
ジェイク:うん。まず最初にレコード探しだね。だからご飯はコンビニなんだ(笑)。
メイヤー:ご飯はコンビニや一蘭ラーメンとかで安く済ませて、レコードにお金を全部使う。
―他では見つけられないレコードが日本では見つかるんですか?
ジェイク:なんでかわからないけど、ベストなレコードは東京に集まってるよ。
メイヤー:こういうことだよ。僕らがアメリカから日本に来て、アメリカでは見つけられない、アメリカのレコードを日本で買ってアメリカに持ち帰る。そうすると今度は、日本のバイヤーがアメリカに来て、レコードを見つけて日本に戻すんだ。そうやって毎回レコードの額が少しずつ高くなっていく。レコード経済の良くないサイクルだね(笑)。
―日本のアーティストで知ってる方はいますか?
メイヤー:坂本慎太郎と45インチのレコードを出したよ。彼が僕らの曲を日本語でカバーして、僕らが彼の曲を英語でカバーした。他には、金子マリや、当山ひとみ。あとはピロウズも大好きだよ。彼らのCDは全部持ってる。
ジェイク:山下達郎とか竹内まりやとか、80年代の曲をよく聴くね。彼らのプロダクションはすごく良いから。それと、久保田利伸も好き。僕らが前にやったショーに来てくれて、会ったんだ。
メイヤー:俺らは音楽オタクだから、ちゃんと日本のアーティストも知ってるよ(笑)。
―最近よく聴いているアーティストは?
メイヤー:ベニー・シングス、レヴィン・カリ。彼らは僕らのアルバムに入ってるよ。あとは21 サベージも好き。
ジェイク:アンダーソン・パークは好きだね。
―それでは、今後の夢を教えてください。
メイヤー:Tokio Hot 100にチャートインする曲を作り続けること。そうしたら日本に来続けられるから。
ジェイク:そう、それでファンと交流して、レコードを買いまくって。まあ、僕は思ってもいなかったことを色々やれてるし、夢を生きている感じだな。
―音楽以外には?
ジェイク:8歳の娘がちゃんと育ってくれること。
メイヤー:僕は、環境や教育にも情熱を抱いていて、音楽のレッスンを受けられない子供達に、ロスの学校で音楽の作り方をボランティアで教えてるんだ。アメリカの政府はアートを価値あるものとして見なしてないから、学校では毎年アートプログラムがカットされていて、中でも音楽は一番最初にカットされてしまうんだよ。海外には、音楽やアート制作に国からの援助が出る国がたくさんあるのにね。だからアートを生かし続けられるよう、僕のできることをやろうと思ってる。
―素晴らしいですね。それでは最後に、お二人にとって成功とはなんですか?
ジェイク:自分が幸せと感じられることをできていれば成功だね。今こうしていられることも計画していたことではないけど、とてもありがたい。
メイヤー:自分達が純粋に心からハッピーと思えることをやっていたら、こうなったんだ。僕たちのモットーは、“There’s a fine line between ‘Keep it G’ and Kenny G. “(自分たちの音楽に忠実でいることと、Kenny Gとの間には微妙な違いしかない)。 僕たちは‘Keep it G’サイドにいる限り、ハッピーだよ。
■Tuxedo 3rdアルバム「Tuxedo III」発売中!
ヒップホップを通過した現代版ディスコ/ ブギー・サウンド!衝撃のデビューから数々のヒットチューンを生み出し今やモダン・ディスコ・シーンの中心的存在となったユニットMayer Hawthorne × Jake One:Tuxedo !超待望のサードアルバムが完成!!
【Track List】
- The Tuxedo Way
- You & Me
- OMW Leven Kali & Battlecat
- Dreaming In The Daytime MF Doom
- Extra Texture ft. DaM-FunK
- Gabriel’ s Groove
- Gabriel Garzon-Montano
- If You Want I
- On A Good One
- Toast 2 Us ft. Benny Sings
- Close ft. Gavin Turek
- 12. Own Thang feat. Tony! Toni! Toné!(ボーナストラック)
■Tuxedo ライブ情報
【大阪】
11月4日(月・振休) @ Billboard Live OSAKA
1st:開場15:30 開演16:30
2nd:開場18:30 開演19:30
【東京】
11月6日(水)、7日(木)@ Billboard Live TOKYO
1st :開場17:30 開演18:30
2nd:開場20:30 開演21:30