【自分ならではのベストな感覚を見つける】~ハイパフォーマンス時の身体感覚を探求~
増田選手が初めてメンタルコーチングを受けたのは、2021年。Ascenders(アセンダース)株式会社のトータルサポートがきっかけだった。早速台本コーチを紹介してもらい、受けてみることになった。
子供の頃はどんな子で、どんなことが好きでしたか??
小さい頃から自転車が好きで、3、4歳ぐらいから家の前とかで乗り回していたみたいです。駐車場の段を補うために設置したプラスチックに乗り上げてジャンプして遊んだり。性格的には結構やんちゃな方だったと思います。
そんな自転車好きの少年を、BMX のレース用のコースに連れて行ってくれたのはご両親だったとか。
家の前は大きな道だったんで、もっと安全にできる所がないか、お母さんがインターネットで探してくれたんです。堺にある大泉緑地という公園にBMXのレースコースがあるのを見つけて、連れて行ってもらいました。安全になるはずが、もっと危ない競技に行ってしまいました(笑)。
BMXを始めた頃
確かに(笑)。行ってみてどうでしたか?
4歳か5歳だったのでよく覚えてないんですけど、親から聞いた話だと、これをやりたいってすごい言ってたみたいです。当時走りに来てたライダーたちのジャンプとか、ものすごいスピード感のある走りとか、迫力に惹かれたのかなと。
それでさらにBMXにハマっていった感じですか?
そうですね、それまでサッカーとか水泳、書道やピアノとかの習い事も色々やってましたけど、中学生になってBMX 一本にすることに決めました。部活も、サッカー部やバスケ部に体験入部をしてみたものの、なんか違う気がして結局入らず、学校が終わったら家に帰って自転車に乗るみたいな生活をしてました。
プロとしてやっていこうと意識したのはいつ頃だったんですか?
BMXはプロの定義が難しくて、僕は今国内では最高カテゴリーとされるエリートクラスでレースをしていますが、BMX だけで食べているわけではないので、プロと言えるかどうかはわからないです。でも、小さい頃はそのエリートクラスでレースをすることを目指していたから、そういう意味で言うと、5歳ぐらいの頃に出た大会で優勝して、表彰式でプロライダーの佐伯進(当時は三浦進)選手にメダルをもらった時ですかね。すごい憧れの選手で、この人みたいになりたいと思ったので。
世界選手権に出たのは8歳の時(オーストラリアのアデレードで開催)だったそうですね。海外のレースに出てみて感じたことや、刺激を受けたことは?
小学生ぐらいまでは、海外の選手と身長や体格が大体一緒なので、まあまあ結果を出せていたんですけど、中学生になると海外の選手はびっくりするくらい大きくなる人が多くて、パワーも明らかに違うし、衝撃でしたね。あとは、オーストラリアもアメリカもヨーロッパも、日本と比べると競技人口が多いんで、会場の盛り上がりもすごくて、スタート前はアドレナリンが出まくりでした。決勝で自分の名前を紹介された時は、大きな歓声に気分が良くなったのを覚えてます。
世界選手権に出場した時
小さい頃から海外に出て、貴重な体験をたくさんされてきているんですね。これまで出た大会で、特に印象に残る試合を教えてください。
小学5年生の時にイギリスのバーミンガムで行われた世界選手権ですね。BMXのレースは1コースから8コースまであって、1位の選手から順に好きなコースを選べるんです。僕は準決勝までずっと3コースで1位で勝ち上がっていたので、いい運があると思って決勝も3コースを選びました。試合前に一つ年上のライダーの中井遊馬と話をした時に、絶対に1コースにしたほうがいいって言われても、「俺は絶対3コースで行く」って曲げなかった。そうしたらスタートで出遅れて、2コースと4コースの選手に挟まれてしまい、結果3位になってしまったんです。あの時1コースにしていたら一番端っこだから挟まれることがなかったし、もしかしたら勝てていたんじゃないかという悔しい思い出があります。
バーミンガムで行われた世界選手権にて。結果は惜しくも3位
現在は大学に通いながら活動を続けていらっしゃいますが、メンタルコーチングを始めたのはいつで、きっかけはなんだったのですか?
Ascenders 株式会社の宮代さんという方に声をかけてもらい、2年ほど前から体のトレーニング、メンタル、栄養、語学と、4つの要素を軸に、それぞれの専門家の方たちにサポートしてもらっています。それまでメンタルコーチングについてはあまり知らなかったんですが、台本コーチを紹介していただいて、やってみようという感じでスタートしました。
抱えていた問題
■最高のパフォーマンスを発揮する為の、“身体の使い方”への意識が薄かった
自転車を漕ぐ動作の中では、お尻や太ももの裏など大きな筋肉を使うことが大事だと知ってはいたが、それを意識して乗っていることが少なく、それらの筋肉をしっかり使えているのかも明確ではなかった。課題となっていたスタート時についても同じだった。
増田選手:「それまでどの筋肉を使って漕ぐとかをあまり意識出来ていなかったんです。意識していないと、僕の身体の特性上、もも前の筋肉を使ってしまう為、トレーニングでお尻や太もも裏の筋肉の強化トレーニングをしていましたが、せっかくなら自転車の上でもそこを使うことをもっと意識していけたらいいのにと思っていました」
解決方法
■ハイパフォーマンス時の自分の身体感覚を探求
課題であったスタート時の動作と身体感覚を繋げるために、レース本番のように自転車を漕ぐ動作をしながら、過去のレースをイメージし、良いスタートが切れた時と、あまり良くないスタートになった時の感覚の違いを思い出していった。
増田選手:「スタートを切る時の身体の感覚をイメージしてみたら、意外といろんな感覚が湧き出てきて。そして、良い時と良くない時の自分の感覚のどこが違うのかを探求してみると、太もも裏などいくつかの部位をしっかり使えている状態が良いということが明確になりました。また、スタートした瞬間だけでなくその後のスタートダッシュまでを継続して出来ている状態が重要ということにも気づきました」
得られた結果
■海外戦で初めて決勝に進出し、国内でも優勝を重ねることが出来た
2021年6月のコロンビアでのワールドカップで初めて決勝に進出し、7位になることが出来た。そして4月の大東建託シリーズ、11月のジャパンカップで優勝を手にした。
増田選手:「ポイントの部位を意識して使うようになったことで、まず週2回のスタート練習のタイムでベストを更新し、海外・国内の大会で結果を出すことが出来ました。とは言え、しっかり意識しようと決めた日は「今日はすごくもも裏が疲れたな」と練習後すぐにわかるんですが、意識していないと「今日はもも裏とは違う部位が疲れてる」となる時があります。決勝は1本勝負で、パフォーマンスをそこにどう持っていくかも難しいので、さらにこのもも裏の感覚を固め、レース時には無意識で使える位まで持っていきたいです」
コーチ補足
■自分ならではのベストな感覚を見つける
台本コーチ:身体感覚の気づきを促すために、自転車を漕ぐ動作をしながらスタートの場面を再現してもらいました。そして、いいスタートが切れたハイパフォーマンス時と、あまり良くないスタートになった時と、それぞれ身体をどう使っているのかを探求しました。その中で、ハイパフォーマンス時のポイントとなる部位として、もも裏、お尻、手の感覚、背中の丸みなどが出てきたので、さらにそれぞれの部位ごとに「自分にとってベストな感覚」を探求していきました。例えばもも裏の感覚であれば、“もも裏をより強く感じてスタートしてみたら”とか、“もも裏をより熱く感じてスタートしてみたら”などです。いろいろ試行してみた結果、「もも裏にこの位の力強さや張りなどを感じていると、自分はいいスタートが切れそう」という増田選手ならではのベストな感覚を見つけることが出来ました。
次は、今までで一番視界が開けたコーチングについて