HIGHFLYERS/#59 Vol.4 | Jun 22, 2023

自分のスタイルを一言で表すと「二面性」。新たな視点を持ち、常に相手の思考を揺さぶる創造力を養う

Text: Atsuko Tanaka / Photo: Atsuko Tanaka & Shusei Sato / Web: Natsuyo Takahashi

アーティスト・高橋理子さんの最終回は、習慣にしていることや最近ハマっていること、また、理想の人間像やチャンスや成功についてなどをお伺いしました。そしてご自身の未来予想図、今後成し遂げたいことについては、聞いている方も夢を与えてもらえるような答えをいただきました。
PROFILE

アーティスト・武蔵野美術大学教授 高橋理子 / HIROKO TAKAHASHI

東京藝術大学にて伝統工芸を学び、同大学大学院の染織研究領域における初の博士号を取得。正円と直線によるソリッドなグラフィックが特徴。 着物を表現媒体としたアートワークのほか、オリジナルブランドHIROCOLEDGEにおいて様々なもの作りを行なう。 近年は、アディダスやBMWとのコラボレーションなど、国内外ジャンル問わず幅広い活動を展開している。作品がロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に永久収蔵。

ヨーロッパの古城で展覧会。デコトラの荷台は本格的な茶室に。

普段から心がけている習慣があれば教えてください。

スクワットかな。例えばコーヒーを挿れている間とか、電子レンジでミルクを温める時の2、3分の間にスクワットをすると決めています。あとは猫の世話かな。ルーティーンと言えるようなものは特にないですね。

ご自身のスタイルを一言で言うと?

「二面性」でしょうか。見た目とのギャップみたいなものをいっぱい持っていたいなと。例えば学生時代に野宿しながらバイクで北海道1ヶ月の旅をしたとか(笑)、柔道の黒帯持っています、とか。子供の頃から、人が「あれ?」と思うようなことをしたくてしょうがなかった。ひねくれてるんですかね(笑)。外見や表面的なことで判断されるのがすごく嫌で。でも、それが違っていたとしても指摘できない性格なんですよね。だから相手が自然に気付くように仕向けたいというか、あわよくば、「人を見た目で判断してはいけないな」と考えてくれたらいいなと。そういう状況を作ること自体が、昔から癖のようになってるかもしれないですね。

最近ハマっていることはありますか?

子供が生まれてからハマったのは、パンケーキを焼くこと。オートミールを挽いて、タマゴ多めのパンケーキです。熱しやすくて冷めやすいタイプなので、いつの間にかやらなくなってしまったこともたくさんあるのですが、パンケーキを子供のために焼くことはずっと続いています。

影響を受けた音楽、映画、本などはありますか?

大学生の時にレゲエのサークルに入っていて、当時「私はボブ・マーリーの生まれ変わりかもしれない」と思っていたほど、いつもレゲエを聴いていました。芸祭で最も騒いでいたサークルだったし、本当に楽しかった。今でもレゲエを聴くとワクワクしますね。毎年12月にジャマイカで行なわれる「レゲエマラソン」にもいつか参加したいです(笑)。もちろん、楽しいだけではなく、レゲエの存在は、学生時代の私の視野を広げてくれたように思います。視野を広げるといえば、7、8歳の頃に出会ったテレビ番組「ファッション通信」と、デコトラを扱う自動車専門誌の「カミオン」は、今の私の始まりとも言えるかもしれません。

今、世界で起きていることで気になることは?

ものが溢れる世の中に、さらにものを生み出す者として、環境問題は常に意識しています。様々な活動をしている友人が多くいるので、私も自分ができることを模索しています。最近では、着物を手がけてきたことも、そのひとつではないかと感じるようになりました。着物は、生地を無駄にすることなく仕立てることができるとても合理的な構造です。昔ながらに手縫いで仕立てていれば、ほどきやすく、一枚の布に戻して染め替え、また仕立てて着ることができる。絹は100年もつと言われているので、三代引き継いで着ることができるというのも納得です。そんな着物の持つ合理性が、今だからこそ注目されている。着物の存在は揺るがず、強固なものですが、着物を通して伝えられることは、時代によって変化するのではないかと思います。

では、高橋さんの理想の人間像は?

人の目を一切気にしない、解き放たれた自由人。すでにそう見えているかもしれませんが(笑)。とは言え、何も気にしない人間になったら、今の私ではなくなってしまう。そういった意味では、今の自分に納得しているので、これが理想とも思えます。でも変化し成長する自分も見たいので、現状に満足せず、常にチャレンジを続ける人でありたいですね。

高橋さんにとってチャンスとは?

チャンスは道端の草花のように、どこにでも転がっているものだと思います。みんな平等にチャンスは巡ってくるけれど、それに気付けるか、それをチャンスと思うか、それを掴むかどうかはその人次第というイメージ。挑戦を続けるという意味でも、不安に負けず、すべてを掴んでいきたいですね。

それでは、高橋さんにとって成功とはなんですか?

人生における成功は、死の目前に、後悔がないこと。そういう意味では、成功とは常に追い求めるもので、最後まで手に入らないものなのかもしれません。

最も成功してると思う人は?

「成功しなければいけない」と意識することがあまりないので、考えたことがないのですが、自分の状況に満足していてハッピーなら、それはその人にとって現時点においての成功なのではないかと思います。

高橋さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

世界を変えたい、より良くしたいという気持ちはありますが、そこに直接作用するというよりも、その手前に存在する「人」に対して何ができるかだと思っています。私ができることは小さなきっかけでしかない。私が二面性を持って生きることもそのひとつ。小石がコツンと当たるくらいの小さな刺激が、気づきを与え、様々なことに対してより深く考えるきっかけになったら良いなと。それが、社会全体に波紋のように広がって、ひいては世界平和につながればと思っています。

3年後、5年後、10年後のご自分はどうなっていると思いますか?

海外にいくつか拠点を持っていたいですね。今は大学もありますし、子供たちも小さいので、何もかも自由気ままにとは行きませんが、移動しながら、様々な環境で刺激を受けて活動するのは思考を深めるためにも大切なことだと実感しているので。東京も重要な場所だけれど、自由に移動できる場所が必要だと思います。

具体的にここに住んでみたいという国はありますか?

住むなら、暖かいところかな。でもひとつの場所にとどまっているつもりはないので、地球上の国々を遠いと感じないぐらい、当たり前に自由に動ける環境を作りたいです。

今後叶えたい夢はありますか?

最近、子供の頃から憧れていたデコトラを手に入れたので、まずはその改造を完了させること。そして、ヨーロッパの古城で展覧会を開催して、その前にデコトラで乗りつける。その荷台でお茶会を催すのが、直近の目標ですね。

それはぜひ見てみたいです!デコトラはいつ完成する予定ですか?

一年ほどで完成させる予定です。デコトラを作り上げるには、デコトラの専門的な知識や経験がある人が必要なのですが、ずいぶん減ってきているようで、あまり時間をかけていられないなと。すでに十分デコトラとしてできあがっているものを譲り受けたのですが、すべて塗装をやり直して、電飾も増やして、荷台の中を茶室にしようと考えています。着物はもちろん私が作るのですが、お茶の先生や工芸作家の友人も多いので、茶室も含め、お茶道具も全て作りたいですね。

ますます楽しみですね!

このデコトラは、私の二面性の象徴的存在になるのではないかと思います。今でも「デコトラを持っている」と言うだけで驚かれるので。これ以上ないくらい派手な外見で、荷台を開けると、そこには侘び寂びのしっとりとした佇まいの茶室がある。早くお披露目して、みんなの驚く顔が見たいですね。

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