HIGHFLYERS/#56 Vol.1 | Nov 3, 2022

コロナ禍を経て、改めて気づいた日本の美しさ。企業カレンダーと自身の作品集用に国内各地の自然遺産を撮り下ろす

Text & Photo: Atsuko Tanaka

今回HIGHFLYERSに登場するのは、写真家の竹沢うるまさん。竹沢さんは、大学生の時に沖縄の海の美しさに感動したのをきっかけに写真を始め、水中写真家としてキャリアをスタートしました。その後24歳で独立。2010年から3年かけて103カ国を周り、その様子をまとめた写真集「Walkabout」と旅行記「The Songlines」を発表し、2015年に第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞を受賞。その後も国内外各地を訪れ、独自の視点で人々や文化、風景などを切り取り、数々の写真集や写真展など多くのプロジェクトを手がけていらっしゃいます。そんな竹沢さんをインタビューし、第1章では現在着手していることや、写真に対する想い、旅についてなどをお話しいただきました。
PROFILE

写真家 竹沢うるま

1977年生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。在学中、アメリカ一年滞在し、モノクロの現像所でアルバイトをしながら独学で写真を学ぶ。帰国後、ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年よりフリーランスとなり、写真家としての活動を本格的に開始。これまで訪れた国と地域は140を越す。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集「Walkabout」と対になる旅行記「The Songlines」を発表。2014年には第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞。2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど、国内外で写真集や写真展を通じて作品発表をしている。

写真を撮る行為は、内面的且つ肉体的な作業。フィジカルに負荷が与えられる中で、精神的に研ぎ澄まされていく部分がある

いつも世界各地を駆け巡って撮影されているイメージですが、最近は主にどんな活動をされていましたか?

コロナ以降、以前のように自由に移動することができなくなって、かなり辛い時期を過ごしていた時もありましたが、今の自分に何ができるかを考え改めて日本に目を向けるようになりました。そんな折に2023年度版のキヤノンのカレンダーの撮影を担当することになり、この1年は日本の自然遺産を撮影しに、西表島や屋久島、小笠原などに行ったりしていました。

CP+2022に出演されていた際に拝見させていただいていましたが、撮影された写真はこれまで見ていたカレンダーの写真とは違って、竹沢さん独自の視点が入っていてとても面白いと思いました。

もちろんクライアントが要望する自然遺産の姿も写真に取り入れないといけないんですけども、それだけだと誰が撮っても同じになってしまうので、自分なりの視点も入れて上手くバランスを取るよう心がけました。並行して自分の作品も撮り続けています。

ご自身の作品も、自然遺産というくくりで撮られているんですか?

自然遺産ではあるんですが、自然遺産っぽくない自分の視点で切り取ったものですね。それで今一冊写真集を作ろうと動いています。

それは楽しみですね。

熊野古道を撮影した時に山伏の方たちと出会う機会があって、彼らの山に対する接し方や考え方に触れるうちに、自然崇拝に関して興味を持つようになって。ヨーロッパなどの海外では、自然は乗り越えたり征服する対象だったけれども、 日本では自然は崇拝するものという考え方がある。それは山に限らず海もそうですが、自然が信仰の対象になるというのは日本独特な考えで面白いと思ったんです。それを軸に何かしらまとめることができないかと。

紀伊山地を訪れ山伏を撮影した時の様子

ということは、写真集のテーマは「自然崇拝」になるんですか?

そう当てはめてしまうと枠が狭くなってしまうように感じるし、まだうまく言語化できてないですね。人間が自然に寄り添いながら自然の中で生かされていた時代に、自然に対して持っていた心の流れを呼び覚ますような写真を構築できないかなと考えています。非常に難しいし、つかみどころがないですが、本来写真は言語化するものではないので、見た人がそれぞれ何かを読み取ってくれたらいいのかなと思ってます。

ところで、コロナ以降、久々訪れた海外はセルビアだったそうですが、いかがでしたか?

非常に印象的でした。イスタンブール経由の飛行機で行ったんですが、夜の便で西に向かう飛行機だったので、昼でも夜でもないような、トワイライトの中を5、6時間飛んでいたんです。それでイスタンブールに到着したら太陽の光がバーッと差してきて、その美しさにとても感動してしまって。コロナの期間中思うように動けなくて辛かったことは、自分の中で受け入れていたつもりでしたが、やっぱり我慢してた部分とかいろいろあったんだなと感じて、すごい心が動かされたというか。

セルビアにて

話を聞いてるだけで気持ちが伝わってきます。

これまで世界でいろんな光景を見てきたので、そう簡単に驚いたり感動することはないですが、その時は空港のガラス越しに入ってくる光の中でせわしなく動く人たちを見て、「こういうことなんだな、世界は美しいんだな」って実感した。撮影の方は時間的な制限があったので、大変でしたけど楽しかったです。久々に依頼仕事でも、すごい真剣にやったなと思います。でも、あまり真剣にやりすぎると良くないんですけどね。

どういう意味ですか?

仕事内容にもよりますけど、あんまり真剣にやると周りの人たちがついてこられなくて嫌がられたりするんで(笑)。だから基本的には周りに負荷をかけない程度にやっています。

じゃあ、お一人で行かれる時はやり方が違う?

自分だけの時は、好きなだけ好きなように、納得いくまでやりますね。僕の場合、写真を撮る行為は、内面的な作業であり肉体的な作業でもあるから、ある種のスポーツというか、そのバランスの中で写真を撮っている感覚なんです。フィジカルに負荷が与えられる中で、精神的に研ぎ澄まされていく部分がある。

面白い、そこが繋がっているんですね。でも、重い機材を持ってあちこち巡るのは大変そうですね。拝見していると怪我が多そうですし。

最近は多いですね。今年で言うと、肋骨を折って、膝の半月板を痛めて、足の末梢神経を損傷して、ちょっと前はアイスランドで足首脱臼、靭帯損傷でしょう。切り傷も多いし。歳のせいもあると思うけど、自分の頭の中のイメージと肉体のバランスが取れてないというか、自分は若いままで行けると思っているけれど、肉体がついていってない。

質問的に合っているかわからないですが、健康には気を遣っています(笑)?

ないですね(笑)。でも、怪我していなければ週に何回か走ったり、腹筋、腕立て伏せをしたりします。あとは食べすぎないように体重維持をして。食べすぎると肉体的な負荷が多くなるので、程々に。基本的なことですね。

旅して撮影するのに、必ず持っていくもの、これがないとだめというものはありますか?

あまりないです。昔はあったような気もしますけど、そういったものが枠にはまらなくなったというか、色んな環境に身を置くので、何かを必ず持っていくとか、行く前に何かをするとか自分のルーティーンみたいなものを作ってしまうと、飛び込んでくる世界がまっすぐに入ってこないような感じがするんです。

なるほど。では、旅をする上で大切にしていることは?

一番大切にしたいことは、できるだけ入り口を広くして、飛び込んでくるものをそのまま受け入れること。その上でそれを解釈していく。自分がこうだって思って、それをフィールドの中で探し求めていく作業ももちろんあるんですけど、それは最後の段階だと思っていて。最初はフラッとオープンな状態で、どこにエッセンスがあるのかを見てピックアップしていく。その後に狭めていって、じゃあ次に行く時は何かを拾って行こうってなるんです。極力フラッと行ってフラッと帰ってきたいというのがあるので、持っていくのはカメラくらいですよ。

確かに機材だけですごい荷物になってしまうでしょうから、他のものは極力減らさないといけないですもんね。

僕は機材も少ないんです。最近は増えましたけど、周りにはよく「それだけ?」って言われてました。本当にフラッと旅をしに行くんであれば、カメラ1台と50 mm と35 mmの単焦点レンズがあれば十分。一時期40ミリを軸に撮っていた時期もありました。とは言え、結局そこに標準ズームを入れたりもしますけど。でも、ズームレンズって便利で自由すぎるから、自分が好きなように撮っちゃって、同じような写真ばかりになっちゃう。それに対して、単焦点レンズは不自由なんですね。シャッターを押したくない時でも押さざるを得ないというか。そこに新たな可能性が生まれるんです。

旅でよく使うカメラとレンズ

面白い考え方ですね。

でも、仕事の時はみんなが安心するから色々な機材を持っていきますね。僕も仕事してる気になるし(笑)。あと、他に持っていくものって言ったら本かな。待ち時間にスマホを見るのは嫌だなって時に、本があるといい。最近の本は真剣に読める本が少ないので、大学時代とかによく読んでいた戦後から昭和後期頃の文学作品を持っていきます。

少し話が戻りますが、先ほど自然遺産の撮影をされていた時に、自分なりの視点を取り入れるようにしたとおっしゃっていましたが、写真においての竹沢さんらしさはどういうところにあると思いますか?

打算がないかどうかですかね。僕は自分の撮った写真と、とことん向き合うんです。例えば、これは本当に自分の心を通して見た世界を撮ったのか、それとも他人が見た世界を自分の中に刷り込みして撮ったのかとか、これはあの人に喜んでもらおうと思って撮ったのか、あの人がこう言ってたからその要素を取り入れて撮ったのか、とかって問い合わす。

そうやっていつもご自身に問いかけ続けているんですか。

自分の作品を撮る時はそうですね。旅してる時は特に1日中そんなことを考えてます。

今はいろんな情報が入ってきやすいので、シャットダウンするのは難しいですよね。そういうものは敢えて見ないようにしてたりするのですか?

そうですね。見る時もあるけど、それをそのまま自分の写真に落とし込むことは絶対にしない。噛み砕いて消化させるんです。胃の中に入って胃酸で溶けて、溶けた上で受け入れるみたいな。とは言っても、今はいろんな人がいろんな方向からいろんな撮り方で撮っているわけだから、100%オリジナルの世界を写し出すのは無理ですが、極力そこに近づきたいという意識を持つことが大切なんじゃないかと思っています。

次回へ続く

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2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展:
World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて

写真家 竹沢うるま氏が撮影を担当した2023年版キヤノンマーケティングジャパン・カレンダー「World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて」を飾る作品13点を含む、計35点を展示します。

キヤノンマーケティングジャパン・カレンダーは2018年より世界遺産をテーマにしており、今回で第6回目となります。氏は知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島などといった自然遺産を中心に、四季にあわせて日本の世界遺産を訪ねながら1年かけて撮影しました。繊細で多様な季節の移ろいを切り取った作品群を、阿波和紙にプリントします。 作品はすべてキヤノンの大判プリンター「imagePROGRAF」でプリントし、展示します。

会場
キヤノンオープンギャラリー1(品川)
開催期間
2022年12月2日(金)~2023年1月10日(火)
10時~17時30分
*日曜・祝日休館
*年末年始 2022年12月29日(木)~2023年1月4日(水)休館
イベント詳細
2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展

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