5年後は、競争やお金のことを考える世界から離れて、趣味として純粋に写真を撮るステージにいるかもしれない
普段から心がけている習慣を3つほど教えてください。
一つは料理をすること。いつも考え事で頭がいっぱいになりがちなんですが、料理を作っている時だけは無になれるので。それと、庭の草木に水をやったり世話をすること。トマト、唐辛子、バジルなどを育てていて、その成長を見るのが好きです。そして本を読むこと。最近は池澤夏樹の「夏の朝の成層圏」という小説や、沢木耕太郎の「凍」というノンフィクションとか、前に読んだ本を改めて読み直してます。
左:庭の手入れをする様子 右:最近読んだ本
影響を受けた本や音楽、映画、アートなどはありますか?
本は、作家で言うと開高健が一番好きで、他にも池澤夏樹と三島由紀夫からかなり大きな影響を受けていますね。音楽は、中高生の頃は家に帰るといつもMTVを観ていたほど大好きで、一番好きなアーティストはレディオヘッドです。常に変化し続ける彼らを見ていて、変わっていく自分を見せるのって大事なんだと感じて、自分の写真展をやる上で意識するようになりました。あとはドイツのグランドブラザーズもすごく好きで、この2、3年は自分の写真集や写真展用に写真を選ぶ時は必ず聴いてます。映画は、飛行機に乗る時に「007」とか「スパイダーマン」を観るくらい。考えさせられる作品は苦手です。アートは、ゴンドアートというインドの民族画が好きです。
今、世界で起きていることで気になることは何かありますか?
コロナや、ウクライナとロシアの戦争、気候変動とか、たくさんありますけど、やっぱり一番気になるのは世界が画一化していくこと。多様性はもちろん大切だけど、ローカルがグローバルに飲み込まれていくのってものすごく大きな損失なんじゃないかと思うんですね。言語とか文化とか、とても貴重なものでもグローバルという名のもとに消えていって、価値観が一つのところに集約されていく。また、インターネットの発展で、ものすごい勢いで一気に同じ情報が駆け巡って、似たような価値観が形成されていくので、その危うさは実感としてものすごくありますね。そこを大切にしていかないと、いずれ人間はよりどころのない存在になって、寂しさを感じてしまうんじゃないかなって思います。
では、竹沢さんにとってチャンスとはなんですか?
チャンスは歯車ですね。外界からもたらされるもので、みんな平等に巡ってくるんですけど、いかに自分がその歯車に合う準備をしているかが大事。
これまでの人生を振り返って、あの時が一番のチャンスだと思う出来事は?
チャンスをものにしたという実感はなくて、どちらかと言うとチャンスを散々逃してきているほうだと思います。ノミネートされた賞の多くを落としたり、これまで自分の本を出す機会をたくさん与えていただいたけれど、いつも最大限の結果を得られたかと問われると、もっとうまく届けることができたんじゃないかと思うこともあるので。そんな中で一番のチャンスだったと思える出来事を挙げるとしたら、雑誌社に社員カメラマンとして採用されたことですかね。あれが人生の一番大きな分かれ道だったというか、自ら応募して、面接で自分の言いたいことを言えて、それがうまく噛み合って写真の仕事に就くことができた。チャンスを与えられて掴んだことが人生を決定づけたという意味で、そこかなと思います。
社カメとして働き始めた頃。左はフィリピンのボホール島周辺、右はタイのプーケットにて
竹沢さんにとって成功とは?
幸せだと感じられることなんじゃないかと思います。人によって幸せの感じ方って違うと思いますし、自分がやってることが認められるとか、本がたくさん売れるとか、たくさんお金を稼ぐことができるとか、そういうことももちろんあるかもしれないですけど、それで幸せを感じることができなかったら全く意味がなくて。要はいかに自分が行動した結果幸せだと感じれるかどうか、それは大きなことでなくても小さなことでもいいと思うんです。例えば、僕がトルコの空港で光を見てとても綺麗だと思ったこととかも、何気のないことだけれどすごく幸せな瞬間だなと思うわけで、それでいいんじゃないかなと。そう感じれること自体が成功なんじゃないかなと思います。
成功してる人と成功してない人の違いがあるとしたら?
僕の成功の定義を元に言うと、自分が本当は何を求めているかに気づけているか、いないかの差なのかと思います。他者を見て自分のポジションを決めようとすると、そこは競争でしかないので、他の人より先にとか、他より物を多く持ちたいとかっていう気持ちが出てきてキリがないし、そこに幸せはついてこない。いつもあるのは不足感ですよね。それよりかは、自分が本当に求めるものがきちんと得られるかどうか、例えば家族でもいいし、何気ない美味しいご飯を食べられるとか、そういうことでいいんじゃないかなと思います。いつも思いますけど、死ぬ時はお金も、ポジションも名声も必要ないし、いかに自分が丁寧に生きて一生懸命やってきたかだと思うので、死ぬ時に「良かった、よく生きた」って思えたら成功なんじゃないかなと思います。
竹沢さんが思う、最も成功している人は?
僕にとっての成功の定義は、さっき述べたようにその人が幸せと感じられるかどうかで、誰かと比較することではなく自身の中にあるものなので、「最も成功している」という形に当てはめられないような気がます。無名の人であってもいいし、何か特別なことを成し遂げた人である必要もなく。なので、具体的に誰かの名を挙げるのは難しいですが、あえて挙げるとすればダライ・ラマ14世かもしれません。我々とは全く違う心の階層で幸せの意味を知っているのだろうなと、表情を見ていていつも思います。
では、竹沢さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?
写真家としては、身近な人に対して大切なこと、例えば愛というものを写真をツールにして伝えたり、それを軸にいろんな人と同じ感覚を共有することができるので、そうすることによって世界に意識変革をもたらすことはできるんじゃないかなと思います。すぐに大きな世界は変えられなくても、身近な小さい世界は変えられるかもしれないので、それが少しずつ広がって最終的に大きくなっていけばいいかなと思います。
3年後、5年後、10年後のご自分はどうなっていると思いますか?
3年後は今の延長線上にいて、写真家であると思う。5年後はおそらく写真家から違うステージに入って、競争したりお金のことを考えたりする世界から離れて、趣味として純粋に写真を撮りたいって思い始めてるんじゃないかと思います。10年後は見えないですね、そこまで先のことは想像しないんで。でも、僕のこれまでの人生って10年ごとに大きな出来事が起こってるんですよ。21歳の時にアメリカに行って、32歳の時に世界の旅に出て、42歳の時にコロナが起きてるから、なんか大きな転換期が来るんじゃないかとも思う。もしかしたらまた世界を旅してるかもしれないですね。最近ちょっと思うんですよ、もう1回くらい行こうかなって。コロナの影響が大きいかもしれないけれど。
竹沢氏にとって旅は人生。左:ナミビアのスワコップムント。広大な砂漠地帯をキャンプしながら旅した。右:ペルーのクスコ。年に一度のお祭り「インティライミ」にて、踊り子とともに
それは楽しみですね!最後に今後の目標や夢を教えてください。
これからも旅を通して人と出会って、驚いたり感動したり、時には走ったりしながら、写真を撮るという行為を純粋に楽しんでいたいですね。その上で最終的には自分が理想とする場所を見つけて、そこに暮らしたいと思います。ずっと旅を続けてきて、未だにまだ見つけられてないですが、どこかに自分の場所があるんじゃないかと思っているので、そのためにもう少し旅を続けたいです。
2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展:
World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて
写真家 竹沢うるま氏が撮影を担当した2023年版キヤノンマーケティングジャパン・カレンダー「World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて」を飾る作品13点を含む、計35点を展示します。
キヤノンマーケティングジャパン・カレンダーは2018年より世界遺産をテーマにしており、今回で第6回目となります。氏は知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島などといった自然遺産を中心に、四季にあわせて日本の世界遺産を訪ねながら1年かけて撮影しました。繊細で多様な季節の移ろいを切り取った作品群を、阿波和紙にプリントします。 作品はすべてキヤノンの大判プリンター「imagePROGRAF」でプリントし、展示します。
- 会場
- キヤノンオープンギャラリー1(品川)
- 開催期間
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2022年12月2日(金)~2023年1月10日(火)
10時~17時30分
*日曜・祝日休館
*年末年始 2022年12月29日(木)~2023年1月4日(水)休館 - イベント詳細
- 2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展