HIGHFLYERS/#55 Vol.1 | Sep 1, 2022

コレクションから流行を読むのは難しい今、その時のテーマや目的に合わせて、最もフィットするもの、被写体を美しく見せられるかをベースにスタイリングを創案

Text & Photo: Atsuko Tanaka

今回HIGHFLYERSに登場するのは、スタイリストの仙波レナさん。ハイファッション誌や広告などを主に、著名な女優やモデル、文化人のスタイリングを手がけていらっしゃいます。高校生の頃からファッションに興味を持ち、大学を卒業して21歳の頃にスタイリストを志し、有名スタイリストのもとでアシスタントとして経験を積みました。独立後は順調にキャリアを積んでいくも、幾度か自身の考えが変わる大きな出来事があったと言います。第1章は、最近のスタイリングの傾向や流行り、仙波さんのスタイルの特徴、ファッション業界における変化などをお話しいただきました。
PROFILE

スタイリスト 仙波レナ

東京都出身。高校生の時に見たスーパーモデルをきっかけにファッションの世界に興味を持つ。大学卒業後、スタイリスト・地曳いく子のもとアシスタントとして経験を積み3年後に独立。ファッション誌をメインに、女優、モデルなどのスタイリングを手がけている。

もともと好きなスタイルを楽しめるようになったのは40過ぎてから。年齢を重ねて、より洋服を思い切り着られるようになった

スタイリストとして活動して約20年だそうですが、最近は主にどんなお仕事をされていますか?

前とあまり変わらず、ファッション誌が多いですね。一番コンスタントに長くやらせてもらっているのがVOGUE Japanです。あとは、モデルや女優の皆さんからオファーをいただき、広告のお仕事をさせていただくこともあります。

最近のファッションの傾向や流行りについて教えていただけますか?

ファッションは流行がつきものですが、以前のように「これが流行る」と全部がその方向に流れる時代ではなくなっています。それぞれのメゾンが、SNS等を使って自分たちで発信していけるようになったからなのか、一概にこれがすごく流行ってると言うのは難しいです。もちろん若い人達の間での流行りはあるだろうけど、コレクションから発生する流行は分かりにくくなっていると思います。

そういう中で、どういう風に服を選んでスタイリングしていくんですか?

その時々でテーマや何かしらの目的があるので、そこに何が一番フィットするのか、どうしたら洋服や被写体の方を美しくかっこ良く見せられるかを考えます。もちろんその中に今を組み込んでいきます。ただ、決まったルールはなくて、仕事の内容によって変わります。例えば女優さんのインタビューだったら、ザ・ファッションが必要な時もあれば、そうでない時もある。テレビなのか雑誌なのかによっても違ってくるので、その時に自分がこれかなと思った感覚を信じて作っていくようにしています。

では、仙波さんが個人的に最近好きなスタイルは?

年を重ねると、肌のハリや顔の作り、体型などいろいろ変化があるのは事実。でも、だからこそできる格好もあって。若い時から肌が透けるものやランジェリールックみたいなものが好きだったのですが、着る度胸がなかったり、着たとしてもやはり人の目が気になっていました。でも歳を重ねたことで胸の位置が下がりスペースが広くなったので、胸元が深く開く洋服を今は思い切り着れるようになったんです。そういう意味では、若い時よりも今の方が肌を露出することに対して抵抗がなくなった。もともと好きなスタイルをより楽しめるようになったのは40過ぎてからです。

いいですね。好きなブランドはありますか?

これ一つだけっていうのは難しい。でもコロナになって家に居る時間が多くなった時に、自分の服を整理してみたんです。改めてじっくり見直して、もう着ないと思ってもなんとなく手放せないものってどんなものなんだろうって。そうしたら、やっぱり綺麗に丁寧に作られている服だということに気づいて。そして、一着一着自分の手にやってきた時の想い出があるものでした。そういうことを考えていくと、お金を払って手にして、それを着ることに価値があると思えるブランドが自分の中でいくつかあるんだと分かってきたような気がします。

具体的に挙げると?

まずはアライア。心からリスペクトをしているデザイナーの一人で、私がファッションに興味を持つきっかけになったブランドでもあるので、かなり思い入れはあります。それからシャネル。職人たちを守るために色んな活動をしているなどいろんな背景が分かってくると、それだけの価値を信じるし、それを身につけている自分に自信を持てます。あと、本当に服が好きなんだなと感じるデザイナーの服も好きです。例えばオリヴィエ ティスケンスの服の作りはとっても繊細で、美しさと儚さを感じます。ハイダー アッカーマンはすごく芯がある洋服ですし、ヴァレンティノはファブリックの美しさがあり、袖を通した時に自分の体が綺麗に見えるんです。そしてずっとオートクチュールをやり続けていることも素敵だなと思います。

左上:シャネルのジャケット 右上:ヴァレンティノのドレス 左下:アライアのショートコートとミニスカート 右下:ハイダーアッカーマンのジャケット

日本のブランドはいかがですか?

もちろん日本にも素晴らしいブランドはたくさんあります。コムデギャルソンやアンダーカバー、タカヒロミヤシタザソロイスト.のように、かっこいい洋服を作るブランドが私は好きです。

ファッションは常にどこで、どういうポイントをチェックしていますか?

基本的にはコレクションです。ポイントとしては、先ほど言ったような分かりやすいトレンドはなくても、今シーズンの流れみたいなものはコレクションを見ていると分かってくるので、好きなメゾンだけでなく、メンズもレディースも出来る限りヘアーやメイク、照明や演出なども見るようにしています。

では、仙波さんご自身のスタイリングの特徴、欠かせないアイテムはなんでしょう?

自分がその時に好きなものを着ているだけなので、自分ではよくわからないんです。「仙波さんらしさって何ですか?」とかって聞かれることがありますが、そんなことを考えて選んだことがない。それは仕事においても同じです。でもなぜかよく、ジュエリーの付け方が私っぽいとか言われたりします。きっと見てくださっている皆さんが私らしさを見つけてくださっているのかもしれませんね。

確かに、ジュエリーの付け方はまさに仙波さんのスタイルの特徴と言えますよね。

毎日つけているからなんでしょうか。若い時からどこかしらに何かをつけていて、それもちょこっとだけではなく、いっぱいつけたり大きなものをつけているので、皆さんの目に留まったんだと思います。結果自分の一つのアイコンのようになっていますが、別に私らしさが欲しいと思ってやり始めたわけではないです。

ちなみにそのネックレスは蠍ですか?ひょっとして蠍座?

そうなんです。このティファニーのスコーピオンネックレスは若い時に見て欲しいと思っていたのですが、当時はまだ自分がこれに負けちゃうかなと思っていて。でもそろそろ共存できるかなと思い、今年思い切って購入しました。

職業がら、やはり洋服やアクセサリーなどはたくさん持っています?

スタイリストという仕事がら、それなりには持っていると思います。でも家に来た友人達からは、よくここに全部入っているねと言われます。多分皆さんが想像する量の1/4ぐらいかな。手放せない服はありますけれど、コレクター的に集めることはしないので。

スタイリストとして活躍するようになって約20年、ファッション業界はどのように変わったと思いますか?

ファッションはトレンドがあって、常に変わっていくことが面白いところの一つであると私は思っています。今、ファッション業界全体がサステナブルな方向にシフトしているので、そういう意味ではすごく大きく変わっている最中だと思います。そして、新しいものに着手するのも早いので、デジタル化対応で、今までは紙だけだったものをウエブに切り替えていったり、コンテンツもどんどん充実して増えていき、スチールよりムービーがメインになったり。私自身急速な変化にまだ心も頭もついていけないこともたくさんありますが、新しいことを学んで吸収して今まで経験してきたことをより向上させて、もっともっと面白い世界を創っていけるように頑張ろうといつも思っています。

スタイリスト業界はどうでしょう?

昔はスタイリストって憧れの職業というか、やりたい人も多かったと思いますけれど、実際はとても大変ではあるので、周りのスタイリストの仲間はみんなアシスタントを探すのに苦労したり、いても続かないという話をよく聞きます。華やかで軽やかなイメージを持ってこの世界に入ってみたら、思っていたのと違うって挫折しちゃう方もいるのかもしれないですね。

なるほど。スタイリストで一番大変なことと言えば?

スタイリストだからというよりは、フリーランスの人に共通して言えることだと思うのですが、やっぱり体力が必要ですよね。スタイリストの仕事は、撮影が決まると毎回洋服や小物を探しにプレスルームやお店に足を運び、選んで借りて、スタイリングをする。そして撮影が終わったら返却するということをずっとしないといけなく、自分が動けないことには仕事になりませんので。

心も体もベストな状態を保つために気を遣っていることなどはありますか?

なるべく自炊するようにしていて、ストイックではないですが口に入れる物には気をつけています。でも一番は、後悔はできるだけしないように、仕事もプライベートも心から精一杯過ごすことなんじゃないかななんて思っています。

オンとオフは分けるタイプですか?

ないほうだと思います。趣味が仕事になったと言うとちょっと違いますけど、若い時から洋服が大好きでこの仕事に就いたので、全てがつながっちゃっているんですよね。あと、私はあまりストレス体質でないというか、みんながよく言う「ストレスが溜まった」みたいな感覚があまりないんですよ。

疲れた時はどうするんですか?

普通に休みます。でも疲れたって感じることもあまりなくて。もちろん仕事がハードすぎて、毎日2時間ぐらいしか寝れないのが1、2週間続いた時はどっと疲れが出て、起きれないみたいなことはありますが。多分とってもタフなんだと思います。

次回へ続く

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