HIGHFLYERS/#55 Vol.3 | Sep 29, 2022

ジェイコブ・Kや、グレース・コディントンのように、スタイリストとして見る人の心に残る、想像を膨らませるような世界観を作っていきたい

Text & Photo: Atsuko Tanaka

ファッションスタイリスト、仙波レナさんのインタビュー第3話は、師匠から学んだことや、これまでの活動を通して嬉しかったこと、尊敬するスタイリストについてなどを伺いました。常にアンテナを貼って独自の世界観を作っている仙波さん、クリエイティブ でいるために努力されていることを聞くと、シンプルに自身のやられていることが好きという答えが返ってきました。また、ファッション業界において感じる課題についても貴重なご意見や、これからスタイリストを目指す若い方達へのアドバイスも頂いてます。
PROFILE

スタイリスト 仙波レナ

東京都出身。高校生の時に見たスーパーモデルをきっかけにファッションの世界に興味を持つ。大学卒業後、スタイリスト・地曳いく子のもとアシスタントとして経験を積み3年後に独立。ファッション誌をメインに、女優、モデルなどのスタイリングを手がけている。

技術もセンスも素晴らしいのに、日本のファッション界は国内にとどまってしまうことが多い。もっと世界に目を向けて業界全体として変わっていくべき

スタイリストとして食べていくのに必要な資質はなんだと思いますか?

何でしょうか、私も知りたいです(笑)。自分にその資質があるかも、スタイリストに向いてるのかも未だに分からないですから。別に何かに長けてるわけでもないし、人付き合いがうまいわけでもない。強いて言えば真面目なことぐらいですかね。

では、師匠の地曳いく子さんから教わったことで、今も仙波さんの中で活きていることは?

いく子さんはこうしなさいみたいなことを言う方ではなかったので、そばにいて学ばさせていただいた感じです。ピンの打ち方など技術的なことはもちろん、クライアントだろうがアシスタントであろうが、人に対する接し方が全く変わらないところもとても素晴らしいと思っていました。あと、いく子さんはアートや音楽、世界情勢など、ファッション以外のことにもとても詳しいんです。そうやっていろんなことにベクトルを向けることが、仕事に繋がっていくのだと教わりました。

これまでご自身が手がけたスタイリングについて、思い入れのあるものや印象深いものと言ったらどれになりますか?

どのお仕事も思い入れがあるのですが、ひとつ挙げるとするとVOGUE Japanから増刊されているVOGUE Weddingのお仕事です。創刊号から全ての号でたくさんのページのスタイリングをさせていただいていたんです。エディターの中村さんが私を信頼してドレスのセレクトもスタイリングも任せてくださったおかげで、毎回それぞれのテーマをどう見せていったら一冊の中でかっこいいものになるかを学ばせていただきました。そして、パリ、ローマ、ロンドン、NY、ハワイなどで海外のチームと撮影をさせてもらったことがまた大きな経験となり、スタイリストとして一つ成長をさせてもらったと感じています。

左上:全ての号でスタイリストとして参加しているVOGUE WEDDING。前列のカバーは全て仙波が担当したもの 右上:モロッコでの早朝撮影の際に撮った写真 左下:ロンドンでの撮影中に、フォトグラファーのNicoleが撮ってくれたもの 右下:ロンドンのスケートパークで撮影の時の休憩時間。映画のワンシーンのようで大好きな写真

ご自身を変えた人や言葉との出会いを教えてください。

師匠のいく子さんもそうですし、他にもこの仕事をして出会った人ですごく影響を受けている人はいます。でも自分の中にしまっておきたいので内緒にさせてください(笑)。

ご自身が思う自分はどんな人ですか?周りの人から思われているイメージとギャップを感じることはありますか?

自分では普通だと思っています。真面目だとは思いますけど、そんなにきちっとしているわけでもないし、すごい人見知りだし、別に仕事ができると思ったこともないです。でも周りからはちゃんとしてるとか、スキがないとよく言われるんです。あと、すごい社交的で、それこそ夜遊び、酒、タバコ大好きそうって(笑)。どれもやらないから、いろいろギャップはあるんだと思います。

では、これまでの活動において最も辛かったこと頃のこと、そしてそれをどのようにして乗り越えたかを教えてください。

仕事というよりはどちらかと言うとプライベートで辛いことがあって、それを仕事に影響ないようにするのに大変だった時期はあります。一人だったら多分無理だったことを、周りの人達がさりげなくサポートしてくれたおかげでなんとか乗り越えることができて今があるんです。

逆に最も嬉しかったことを教えてください。

いっぱいあります。独立して最初にいただいた仕事はもちろん、初めて海外に行って仕事をした時もすごく嬉しかったです。あとは、フォトグラファーのエリオット・アーウィットやピーター・リンドバーグ、スーパーモデルのリンダ・エヴァンジェリスタなど、自分がスタイリストを目指すきっかけになる人たちと仕事ができた時は夢じゃないかと思うほど嬉しかった。そして何よりも自分が関わった誌面を楽しみにして、かっこいいと言ってもらえることが嬉しいです。

憧れたり、尊敬しているスタイリストはいますか?

憧れとは違うんですけど、見る人の心に何か訴えてくる世界観を作っていくという意味ですごいと思うスタイリストは、ティム・ウォーカーと一緒にやってるジェイコブ・Kや、元VOGUEのクリエイティブ ディレクターのグレース・コディントン、ハーパーズバザーのグローバルファッションディレクターを務めるカリーヌ・ロワトフェルド、キャロライン・ベイカーなどのスタイリングはかっこ良くて好きです。その人たちを目指すということではないのですが、自分もただ洋服を選んで着せるのではなく、見てくれる人たちが想像を膨らませてもらえるような世界観を作れるようになれたらいいなと思っています。

新しいことに挑戦したり、クリエイティブ でいるために努力していることは?

やり続けることが一番というか、やり続けているから今があると思うんですね。この仕事って興味がなくなったら単に辛い仕事になってしまう。何を見ても今一つ面白くないとか、自分の中でこの洋服を着てみたいとか触ってみたいとかっていう欲がなくなったら、私は多分スタイリストの仕事はできない。好きで興味があるからずっと続けられているんだと思うし、自分はまだまだって思っているから続けているんだと思います。

スタイリストとしてファッションの魅力を伝えていくために、何か注力されていることはありますか?

コロナで少し仕事がストップした時くらいから、本当に自分がいいと思うもの、好きなものを選んでいきたいと、より今まで以上に強く思うようになりました。私のスタイリングを見ている皆さんが私のことを信頼してくれて、その物に興味を持ってくれたり実際に商品を買ってくれるのであれば、責任があるので自分が本当にいいと思うものだったり、素敵と思うものをちゃんと選んでいきたいと思っています。

仙波さんのようなスタイリストを目指す若者にアドバイスをするとしたら?

好きだったら挑戦してみる!です。どんな仕事でもそうだと思うんですけど、まずはやってみないとわからないから。どの仕事も辛いことはつきものだと思うけれども、ただそのことを好きなら苦だと感じないから続けられたり、頑張ろうって自然と思えたりするのかなって。そして少し続けてみることが大事。続けてみて初めてわかることってたくさんあると思うんです。

スタイリスト業界、ファッション業界において課題に感じることはありますか?

それは大きい部分でも小さい部分でもありますね。今SNSなどいろんなものが発達して、これだけ世界が近くなって、世界で活躍できるチャンスが増えたけれど、どうしても日本は日本の中だけでということがまだまだ多いと思います。日本はどのアジアの国よりもファッションは早いタイミングからあったはずなのに、今他の国の人たちがどんどん世界に通じるものを作れるようになってきている中、日本は止まってしまってるというか、なかなか世界に目を向けることが出来ていない部分がある。そこは一つ大きな問題だと思うので、自分自身も意識を変えていかないといけないことがたくさんあるなぁと感じています。

どうしてそうなのでしょうか?

慎重だからなんでしょうか。技術やセンスを持っている人たちはどんどん外に出て活躍していく。日本ではファッションというポジションが、ヨーロッパの国などに比べると重く見られていないというか、ちょっと軽視されているように感じることがあります。日本はこんなにたくさんのブランドがあって、ファッションは大きな産業であるはずなのに、なかなか守られていない部分がある。そこがもう少し改善されれば、日本から発信してくれる人達だっているかもしれないけれど、どうしてもまず海外で認められて日本で注目を浴びる、“逆輸入”みたいになることが多いですよね。

逆輸入、確かにそうですね。

本来は日本から外に出て行ってもらえるほうがいいけれども、そこをサポートしようと思う気持ちがあまりないというか、する力がないのかなと。そしてなかなか自分たちの国から発するものを良いと言えないような、どうしても誰かがいいとか海外で認められたものがいいと言う傾向がありますよね。逆に海外からスタートすることができる時代ということで、そこはあんまり考えなくてもいいのかもしれないけれど、日本に行かなくちゃって思ってもらえるようになったらもっともっと楽しくなりますよね。

次回へ続く

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