HIGHFLYERS/#55 Vol.4 | Oct 13, 2022

人々がこうしたいと声を高めるほど、逆行が強まるような矛盾を感じる。何事も決めつけるのではなく、いろんな意見に耳を傾けることが大事

Text & Photo: Atsuko Tanaka

ファッションスタイリスト、仙波レナさんの最終話は主にプライベートなことについてをお伺いしました。多忙な毎日を送る仙波さんは、仕事以外にあることをして集中できる時間を持つようにしているそうです。他にも、世界で起きていることで気になることや、仙波さんにとってのチャンスや成功、今後の夢についてもお話しいただきました。
PROFILE

スタイリスト 仙波レナ

東京都出身。高校生の時に見たスーパーモデルをきっかけにファッションの世界に興味を持つ。大学卒業後、スタイリスト・地曳いく子のもとアシスタントとして経験を積み3年後に独立。ファッション誌をメインに、女優、モデルなどのスタイリングを手がけている。

理想の女性像は虹みたいな人。会った人の心にハッピーな気持ちをサラリと与えられるような存在でいたい

普段から心がけている習慣があれば3つ教えてください。

最近は1日の終わりに必ずお風呂に入るようにしています。以前はシャワーで済ませていたんですが、4年くらい前に生活を変えたくて、ちゃんとお風呂に入って1日の疲れを取ろうと思いました。あとはお花を飾ること。私の母は、命を短くしてしまう気がするという理由で切花は好きではないから、家には鉢植えの植物ばかりでした。だけど季節のお花や好きなお花があると家が明るくなるし、少しでも長く居てもらいたいから毎日水を変えたり話しかけたり、何かを大切に愛でることで心が穏やかになるんです。そして飼っている愛犬ゴン太に、うちに来て良かったと心から思って欲しいから、彼にストレスが溜まらないようにお散歩やご飯の時間など、できる限り規則正しい生活を送るように心がけています。

ご自身のスタイルを一言で言うと?

わからないです…逆に教えてほしい(笑)。

最近ハマっていることはありますか?

ハマっているわけではないですが、自炊するように心がけています。その方が体の調子がいいし、料理をしてる間は料理に集中できるから。仕事上、家にいても「あの服どこにあったっけ?」とかって常に何かを探してしまうのだけど、料理をしている間は作ることに集中できる。それが私にとって少し頭を休める時間になっているようです。

影響を受けた音楽、映画、本、アートなどはありますか?

恥ずかしいのですが、音楽も映画もアートも好きだけど詳しくないんです。それがコンプレックスでもあって、昔は知らないことが恥ずかしくて知ったふりをよくしていたんですよね。でも、私の周りにはどのジャンルにおいても本当に詳しい方がたくさんいるから、ある時から知らないことは教えてもらって勉強すればいいんだと思うようになりました。音楽は、詳しい人に作ってもらったプレイリストや教えてもらった曲を今はよく聴いていますね。映画は誰かの会話や打合せで、誰かが影響を受けた映画などをメモして少しずつ観るようにしています。何歳になっても知らない世界を知れるのは楽しいし、きっと無意識にそういうものから確実に影響を受けていると感じています。

今、世界で起きていることで気になることは何かありますか?

差別の問題や、戦争、紛争問題、温暖化などが大きく取り上げられて、多くの人が心から良くしたいとか変えたいと願って真剣に活動していますよね。でも、多くの命が奪われたり、次々に大きなビルが建ったり、貧困の人たちは全く減らない。みんながこうしたいと声を高めれば高めるほど、それと逆行する力も強くなっていくような矛盾を感じてしまいます。

確かにそうですね。

自分もそこまでストイックに何か活動しているわけではないので、大きなことは言えないのですが、物事には各々の意見がありますし、他の人の考えや意見に対して聞く耳を持つことがとても大事だと思っています。例えばペットボトルはもちろん減らすべきだとは思うけれども、一辺倒にゼロにすることが本当にいいことなのかは、その過程をちゃんと見てみないとわからないし、どこかの意見に傾倒しすぎてしまうと反対意見を敵だと思ってしまう。そうすると争うようになってしまうから、いろんな意見を聞いて、きちんと自分で考えて判断決断をしていけるようになりたいと思うようになりました。

では、仙波さんの理想の女性像は?

虹みたいな人。いつも身に付けているブレスレットにも、ハワイ語で虹を意味する「アーヌエヌエ(ānuenue)」という言葉が彫られているんですが、虹って見つけた人にしか映らなくて、一瞬でいなくなってしまうけど、見た人の心にハッピーな気持ちをサラリと残してくれる。それってすごいことだって思います。だから私はそういう存在になりたいです。

それでは、仙波さんにとってチャンスとはなんですか?

チャンスって本当にいつでもあるものだと思うんです。ただ、それを偶然と思うのか、必然と思うのか、何でもチャンスになり得るから、それを自分でキャッチできるのかが大切だと考えています。ただ、私の場合はチャンスを人が作ってくれている。だからこういうことをやってみたいと思うことはもちろんあるけれど、人生設計をクリアにしないでいるような気がします。

それはなぜ?

目標にして達成できなかった時に、自分ってダメだなって思ってしまうから。逃げではあるんですけれど、その中でも少しずついろんな新しいことができたり、やりたいことができているのは、自分の周りにいるみんなが持ってきてくださるチャンスだと思っているので、それをいただいてる感じです。何よりも私を必要としてくださることが嬉しいんです。

では、これまでの人生を振り返って、あの時が一番のチャンスだと思う出来事は?

人生設計を立てていないから、あれがいいチャンスだったとか、あの時チャンスを逃したとかって思うことはあまりないです。でも、自分の本当にやりたいことをやろうと思って「アシスタントにしてください」と師匠に連絡をした時になるのかな。今思えば、あの時は「絶対にスタイリストになる!」と自分からチャンスを掴みに行動してますよね。

では、仙波さんにとって成功とはなんですか?

スタイリストになれて、こうやって長く仕事を続けられていることは、自分的にも奇跡的なことだと思っているので、そういう意味では成功しているのかもしれないですけど、プライベートなことも含めて、まだ途中段階なのでわからないです。ただ、心がハッピーじゃなければ人生は謳歌できないと思うと、本当はハッピーでいることが一番重要な気がします。

仙波さんが思う最も成功している人は?

成功しているかどうかはわからないですけど、身近な人で言うと、私の祖父母は本当に周りに惜しまれて亡くなって、亡くなくなった後でも悪く言う人は誰もいなかったので、きっといい人生だったのだと思います。私もそういう人でありたいです。

仙波さんが世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

災害とかいろんなことが起こる時って、いつも自分の仕事に無力さを感じるんです。だけど、辛い時だからこそ綺麗なものや可愛いものを見た時に、そこに生まれる光みたいなものがあるとすれば、そういうものを創り続けることが唯一自分にできることだと思います。元気がない時に、私が創った何かを見て、ワクワクしてやる気が出たって思ってくれる人がいたり、その輪が広がっていけば、微力ながら少しは貢献できているのかなというか、できていたら嬉しい。そしてありがたいことに、影響力のある女優やモデル、フォトグラファーの方たちと一緒にお仕事させていただくことで、そういう方たちが声をあげてくだされば大きく変わることがある。私はそこにほんの少し携わることで役に立てたらいいなと思っています。

3年後、5年後も、10年後のご自分はどうなっていると思いますか?

今はこの仕事を続けたいという願望があるので、この先もずっと続けていられたらいいなと思います。あとは人生を終えるまでに信頼できるパートナーがいてくれたらいいなと常に思っています(笑)。

まだ叶えていない夢で実現したいことはありますか?

大きなことではないですけど、してみたいと思うことはあって。でもそれは公言しません(笑)。まずは本当にこの仕事が好きだから、続けていくことが一番。続けていくことでそこに近づいていけたり出来る事があると思うので。

やっぱり真面目ですね。

単純に人生設計するのが苦手なんです。でも、これからは多少現実的なビジョンを持って動くことも必要なのかなとは思っています。

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