HIGHFLYERS/#56 Vol.3 | Dec 1, 2022

旅の写真家として必要なことは好奇心と、自分が見たものを人と共有したいという想いを持つこと。そして小さな積み重ねの大切さを自覚して撮り続ける

Text & Photo: Atsuko Tanaka

写真家・竹沢うるまさんの第3章は、旅写真家として必要な資質や、ご自身の写真のスタイルについて、これまでの活動を通して最も辛かった時のこと、逆に嬉しかったことなどをお伺いしています。また、写真家の行く末に関しては、厳しく鋭い考えを共有していただきました。
PROFILE

写真家 竹沢うるま

1977年生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。在学中、アメリカ一年滞在し、モノクロの現像所でアルバイトをしながら独学で写真を学ぶ。帰国後、ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年よりフリーランスとなり、写真家としての活動を本格的に開始。これまで訪れた国と地域は140を越す。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集「Walkabout」と対になる旅行記「The Songlines」を発表。2014年には第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞。2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど、国内外で写真集や写真展を通じて作品発表をしている。

理想像は仙人。あらゆるものを超越して、自分のインナーピースを得る。そのためには修行して、どんな状況でも心の水面を穏やかに保てるようになりたい

これまで大きな転機となった出来事を挙げるとしたら何になりますか?

3年かけて世界を旅した時の写真をまとめた写真集「Walkabout」と「The Songlines」が大きく評価されたことですかね。その後の作品と活動で日経ナショナルジオグラフィック写真賞を受賞し、それまではクライアントありきのカメラマンだったのが、竹沢うるまという作家としてスタートラインに立つことができました。

右から写真集「Walkabout」と「The Songlines」

竹沢さんのように、旅して見たものを撮影する写真家として、必要な資質はなんでしょうか?

いくつかあると思いますが、まずは好奇心を持つこと。僕は知らないことや見たことのないものに非常に興味があって、ガイドブックやインターネットに載っているものは基本信じず、どうしても自分の目で見てみたいと思う性分なんです。そして、その自分が見たものを人と共有したいという想いがさらに写真を撮らせるので、その二つの要素を持つことは非常に大切かと思います。あとは、シンプルに旅をすること、写真を撮ることが好きであることですかね。

好きでなかったら続けるのは難しいですもんね。

そうですね。旅をしているといろんな出会いがあると思いますが、一つ一つの出会いはすごい小さくても、その積み重ねがどれだけ大事かということもわかっていると良いと思います。何かの瞬間に出会って、それを撮るか撮らないかの差は0.01ミリくらいかもしれないけど、その積み重ねの大切さを自覚して続けていくことは、時間がかかるように見えて実は成功への一番の近道なんだと思います。

では、ご自身の写真のスタイルを一言で表すとしたら何でしょう?

「波紋」ですね。風景でも人でも、出会った時に、「綺麗」とか「美しい」とか、何か思うことがありますよね。その時に必ず自分の心の中に流れ、つまり波紋が起きます。それを俯瞰して、写真に撮るというわけです。風景を通して波紋を撮るのか、人の表情を通して波紋を撮るのか、なんであれ、全部自分の心の流れを撮っている。そうすることで自分は何者なのか知ろうとしているのかもしれないですね。

風景を通して、自身の心の流れを写し出す。左:西表島 右:屋久島

奥深いです。それでは、竹沢さんを変えた人や言葉との出会いですぐに思いつくものと言ったら何が浮かびますか?

前に話したボリビアの祭り「ティンク」じゃないかな。それまでは風景を追い求める方が多かったんですけど、そこで一気に自分にとって人が大切だと知った転換点だったので。

これまでの活動において、最も辛かったこと頃のことを教えていただけますか?

間違いなくコロナ禍ですね。僕は18歳から24年間ずっと旅をして写真を撮ってきましたが、コロナで強制的に旅ができず、ずっと日本にいないといけなくなって。当時クック諸島に住んでいた家族とも、入国制限で2年間会えなかったですし。自分にとって写真を撮る行為は人と繋がる行為だったので、コミュニケーションを取る手段が奪われて、これ以上ない苦しさでした。どん底の時期でストレスで8キロ痩せました。

その苦しみに、どのようにして向き合ったんですか?

結局自分がすがれるのは写真しかなかったので、それまで撮ってきた100万カット以上の写真を見返して、何かを見出そうとしたんです。そうしたら一つの大事なことに気付いて。それまで旅をするのは、日常を離れて旅先での非日常を切り取るのが僕の役割だと思っていたんですけど、コロナになって日常と非日常が逆になった状況で写真を見ていたら、実はそこに写っていたのは全部日常だった。これはすごい転換だと思って、未知なるものに出会ったような感じで、ワクワクしました。その中から「日常」というキーワードで写真を選んで、450ページくらいの本「Remastering」を作ったんです。それまでに自分がやったことのない方法で作りたかったのと、人とのつながりを再確認したかったのもあって、クラウドファンディングを活用して資金を集めました。そうしたら多くの人が賛同してくれて、目標額の3倍近くのお金が集まって、写真集を出すことができたんです。苦しみを抜け出すことができた一つのきっかけになりました。

写真集「Remastering」の制作模様と、完成後に行った写真展

逆にこれまでの活動を通して一番嬉しかったことを教えてください。

ニューヨークのマンハッタンで個展を開催できたことですね。学生時代にアメリカで写真を撮っていた経験をもとに、日本に戻ってきて写真の道に進みたいと決心して、その後社員カメラマンから始まって経験を積んで独立し、活動が評価されて、個展を開催するために改めてアメリカに行くことになった。実際ニューヨークに行ったのは学生時代以来15年ぶりでしたが、その出来事は自分自身にとってとても大切な経験となりました。

ニューヨークのPhoto Care Galleryで写真展を開催した時の様子

竹沢さんが写真を始めた頃から比べると、写真のかたちはだいぶ変わったと思いますが、今の写真家の存在価値についてはどう感じていますか?

フィルムの時代であれば、写すということ自体が一つの技術で、それに対して対価が生まれていたけれども、デジタルカメラやスマホの進化で誰でも写真が撮れるようになって、特別な技術を要するものではなくなった。そこで写真家の価値はどこにあるかと言えば、視点だと思うんです。その人は世の中をどういう風に見ているのか、その視点を写真を通して世の中にどう提示できているのか。それが写真家の価値を生み出すと思うんですが、今いろんな人がいろんな瞬間をいろんな撮り方で撮ってるので、なかなかそこで自分だけの世界を提示するのは難しいし、スマホやウエブなどで、写真は無料で見れるので、そこに価値は見出せなくなっている。写真の価値が変わって、写真家の存在価値を持続させるための方法論も難しくなってきていると思います。

確かにそうですね。

なので、最終的に写真家という枠組みはなくなるけれど、アートの枠組の中での写真は残って、そこに集約されると思います。いわゆる写真を軸に置いた写真家は淘汰される。自分もそこにいるからいずれ消えゆく存在なんだと自覚している一方、できるだけ抗いたい気持ちもあります。

何年後くらいにそうなると思いますか?

10年後くらいでしょうね、もうその方向ですし。表現方法も伸びないと思うんで、写真をアートの中で捉えない限りは、表現もしくは技術としては行き止まりになるだろうなと。その移行をする人はするだろうけど、そんなに簡単に移行できるものでもないですし、自分も多分そのくくりだと思います。でもやっぱり写真というものは大切なんで生き残りたい。時代遅れな考えと言われたらそれまでだけど、僕は時代を見て自分の生き方を決めてるわけではなく、やりたいことをやってるだけなんで、時代にそぐわなかったっていうだけの話で。自分の行為自体は純粋だから、否定することではない。

なんだか先が暗いですね…。

まあそうは言っても、写真にはきっと可能性がありますよ。そこは信じてやっていきたいです。

そうであって欲しいと思います。では話題を変えて、最近ハマっていることはありますか?

カレー作りです。あと、この半年くらいはパスタにハマってます。たまたまYouTubeで自分の考えに合うパスタの作り方をするシェフを見つけて、面白いと思って見ていたら自分でも作りたくなってきて。小倉知巳シェフという方なんですけど、極力シンプルに、手を入れずにパスタを仕上げるという考え方で、これはカレーに通ずるなと思って。

左から、じゃがいもとフレッシュトマトのパスタ、和風梅パスタ、筍と菜の花のパスタ

では、理想の男性像はありますか?

どういう男になりたいというのはなくて、単純に僕は仙人になりたいです。男とか女とか関係なく、あらゆるものを超越したいというか、外界がどうであれ、自分のインナーピースを得たい。そのためには修行が必要だなと。どういう状況でも心の水面を穏やかに保っていたいです。

何があっても動じない人?

でも動じるのが人間なのかなとも思う。フラットに保つということじゃなくて、動じた自分を受け入れることなのかな。ネガティブであれポジティブであれ、心の水面に波を打たせて、そこに起こった現象を受け入れることがインナーピースに繋がるのかもしれないですね。

次回へ続く

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2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展:
World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて

写真家 竹沢うるま氏が撮影を担当した2023年版キヤノンマーケティングジャパン・カレンダー「World Heritage Journey 世界遺産を訪ねて」を飾る作品13点を含む、計35点を展示します。

キヤノンマーケティングジャパン・カレンダーは2018年より世界遺産をテーマにしており、今回で第6回目となります。氏は知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島などといった自然遺産を中心に、四季にあわせて日本の世界遺産を訪ねながら1年かけて撮影しました。繊細で多様な季節の移ろいを切り取った作品群を、阿波和紙にプリントします。 作品はすべてキヤノンの大判プリンター「imagePROGRAF」でプリントし、展示します。

会場
キヤノンオープンギャラリー1(品川)
開催期間
2022年12月2日(金)~2023年1月10日(火)
10時~17時30分
*日曜・祝日休館
*年末年始 2022年12月29日(木)~2023年1月4日(水)休館
イベント詳細
2023年キヤノンカレンダー 竹沢うるま写真展

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