HIGHFLYERS/#28 Vol.4 | Apr 12, 2018

成功とは健康でポジティブに考え、毎日を楽しく生きること。リズムや音に対してもっと自由なタブラ奏者になりたい

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

ユザーンさんインタビュー、最終回はプライベートなライフスタイルや、チャンスと成功についてを伺いました。何よりも練習することが好きとおっしゃるユザーンさんは、毎朝起きたらとりあえずタブラの前に座ることを習慣としており、一日中、何時間でも練習を続けられるそうです。また、チャンスとは何かという質問には、とても考えされられる答えをいただきました。ユザーンさんにとっての成功についてや、成功していると思う人など、オリジナルの考え方を持って飄々と我が道を進む演奏家としての一面をのぞかせてくださいました。
PROFILE

タブラ奏者 U-zhaan

オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインの両氏からインドの打楽器「タブラ」を師事。00年よりASA-CHANG&巡礼に加入し、『花』『影の無いヒト』など4枚のアルバムを発表。10年に同ユニットを脱退後、U-zhaan × rei harakamiとして「川越ランデヴー」「ミスターモーニングナイト」等を自らのサイトから配信リリース。14年には坂本龍一、Cornelius、ハナレグミ等をゲストに迎えたソロ名義のアルバム『Tabla Rock Mountain』をリリースした。15年、Ryuichi Sakamoto + U-zhaanとして「Tibetan Dance / Asience」を7inchレコードで発表。16年には映画『マンガをはみ出した男 赤塚不二夫』の音楽をU-zhaan + Shuta Hasunumaで担当し、ボーカルにタモリをフィーチャリングした主題歌が話題となった。最新作は蓮沼執太との共作アルバム『2 Tone』。http://u-zhaan.com

チャンスとはチャレンジが付随するのもだから、浮かれた気持ちではいられない。いろんな人がいるからこそ世の中は面白い

今まで失敗したりくじけそうになったり、一番しんどいと思ったことを教えてください。

一番しんどいと思ったことなんて、あんまり人に言いたくないですよね(笑)。本当に大変だったことって、思い出すだけでまた辛くなりそうだし。1番も2番も3番も4番も、できたら言いたくないです。

じゃあ5番目を教えてください。

うーん、5番目か。ムンバイにいるときの話なんですけど、布団の上でパソコン作業をしていたんですよ。気がついたら外出しなきゃいけない時間になってたので、パソコンを布団に置いたまま慌てて出かけたんです。用事を終えて夜中に帰ってきたら、なぜか足元で「チャポ」って音がするんですよね。電気を付けたら部屋が水没していて。原因はよくわからないのですが、下水の逆流か何かがあったみたいです。そして案の定パソコンも水に沈んでいました。試しに電源を入れたら「?」ってマークが一瞬だけ出て、そしてその後は二度と電源が入らなくなりました。せめてパソコンだけでも高い位置に置いておけば良かったなと後悔しましたね。でもこれ、5番目にしんどかったことではないな。11番目ぐらい。

友人宅にて。外出前(左)外出後、部屋の溢れた水を掻き出す様子(右)

それでは今のユザーンさんは、昔思い描いていた人になっていますか?

なっていませんね。こんなに太るとは思わなかった。20年で15キロぐらい増えました。

なんで太ったんですか?

よく食べて、よく飲むからじゃないでしょうか。あとは、こんなにタブラがうまくならないとも思いませんでした。もっと叩けるようになるだろうと思ってたんですけど、20年も経ってこんなものかと。きっと、どこかですごくサボっちゃったんでしょうね。でもこれから頑張ります。

夢を思い描くことはあまりないんですか。

叶うはずもない妄想をすることはありますよ。毎日一時間半くらいマッサージを受けられる人生になったらいいのにとか、週に三回寿司ならいいのにとか。

タブラに関する夢はないですか?

もっと自由に演奏できたらいいなと思いますね。タイトなリズム感も欲しいな。僕は、ザキール・フセイン先生の演奏が本当に好きなんですよ。特にインド古典音楽の演奏をしているときの先生は、本当に素晴らしいなと思っています。リズムに対しても音に対してもすこぶる自由で、瞬発力とユーモアに溢れ、共演者への配慮もあって。あそこまでの高みに調達したときに感じられる楽しさってどんなものなんだろう、って想像します。最近は先生も60代半ばになり「もう昔みたいには指が動かないんだ」っておっしゃることもありますけど。でも、「以前はほら、このくらいのスピードで叩けてたんだよ」と言ってからとんでもない速度で演奏して見せて、「叩いてるじゃん!」と生徒たちから総ツッコミを受けてたりしますが。スピードへの興味が薄れてきただけなんじゃないかとも思うんですけどね。

師匠のザキール・フセイン氏と。ザキール氏の自宅にて

ちなみに、今からタブラを習いたいと思っている人はどうしたらいいですか?

東京や大阪のような都市部なら、教えてる人はたくさんいますよ。インターネットで「タブラ 教室」とか検索すればすぐに見つかるんじゃないですかね。まあ住んでる場所によってはちょっと難しいかもしれないけど、楽器さえ持っていればYouTubeにタブラレッスン動画なんかもいっぱいありますし。

改めて、ユザーンさんにとってタブラの魅力とは何でしょうか?

それはちょっと言語化が難しいですね。もう、僕にとってなくてはならないものになってしまっているので。タブラの魅力という質問からは少しズレてしまうかもしれませんが、タブラを始めてよかったなと思うことの大きな一つに、北インド古典音楽の素晴らしさを知ることができたというのがあります。

もしタブラと出会っていなかったら、今頃何をされていたと思いますか?

なんだろう。食べログのレビュアーとかになってたかもしれませんね。

それでは、習慣にしていることを3つあげて下さいと言ったら何かありますか?

習慣っていうのは、癖じゃないですよね? 直したいような癖ならいっぱいありますけど。手を洗ったあとに濡れた手をズボンで拭いちゃうとか、大盛り無料って書いてあったら、どんなにお腹いっぱいでも大盛りを頼んでしまうとか。遅い時間にスーパーに行くと半額になってる魚をつい買ってしまう、っていうのもありますね。これで3つか。改善したい癖のようなものではない習慣だとすると、朝起きたらタブラの前に座るということですかね。目が覚めて、もしトイレに行きたかったらトイレには行くけど、それが終わったらタブラの前に座ってみる。叩かなくてもいいから、とりあえず腰を下ろす。

座ると何かあるんですか?

叩きたくなるかもしれない。叩き始めたら、そのまま一日練習に集中できるかもしれない。練習するのはとても好きなんですけど、いつでもすぐに気分が練習モードになるとは限らないので、やっぱり楽器が手の届くところにある状況を無理にでも作っていくことは大事だと思ってます。やり始めちゃえば絶対に楽しいし。いま取材を受けているこの場所は友達がやっている「Vender Woh!」という洋服屋なんですが、この店の開店記念イベントとして「店の隅でタブラの練習をし続ける」という謎のインスタレーションをやったんですよ。昼1時から夜8時半までの7時間半、一度だけトイレに行った以外はずっと練習していましたけど、別にそれほど大変ではなかったので、普段からこのぐらいは叩いているのかなと思いました。

タブラ以外で興味があることや趣味はありますか?

さっきもちょっと言いましたが、マッサージを受けるのが好きです。あとは読書が趣味と言えば趣味ですかね。本棚に一番いっぱい並んでいるのは、吉本ばななさんの本です。

ところで、チャンスとはどんなことだと思いますか?

うーん、チャンスだと感じるものって、大抵の場合は何かすごくしんどい作業が付随するものじゃないですか。例えば「こんな曲を作って欲しい」というオファーが来たとしますよね。考え方によっては作品を人に聞いてもらえるチャンスなのかもしれないけど、それを作るためにはまず作曲しなきゃならないし、曲ができたら録音しなきゃだし。やらなければならないことが山積みになっているのを一つずつこなしていくのに精一杯で、それがチャンスなのかどうなのか考えてる余裕はないことが多いんじゃないかな。レイ・ハラカミさんの名言に「ピンチはチャンス!チャンスはピンチ!チンピはみかんの皮!」というのがあるんですが(笑)、まあ陳皮についてはさておき、確かにチャンスはピンチでもあるのだと思います。

ユザーンさんにとって成功とはなんですか?

成功…? 成功したことがないからわかんないですね(笑)。もちろん、小さい単位で「うまくいった」みたいのはあるでしょうけど。「この作品が無事に完成した」とか、「このライブはお客さんもまあまあ入ったし、みんな楽しんでくれたみたいだから成功だ」とか。そういうのはさておき、なんとなく今おっしゃってる成功ってもうちょっと大きなもののことかなって感じがします。でも例えば、社会的や金銭的に成功してるって他者から思われることなんて、個人の幸せとはほとんど関係ないものじゃないですか。毎日が楽しいとか、健康でポジティブに考えられる状態であるとか、そういうことが成功じゃないでしょうか。楽しければなんでもいい、元気ならなんでもいいって感じがしますね。

そういう意味で、ユザーンさんが思う最も成功してる人はどなたですか?

僕の母親じゃないですかね。楽しそうですよ。いつも機嫌がいい。

日本がこう変わったらいいのにと思うことなどありますか?

自分一人の力で生きているんじゃない、ということをみんなが知っている世の中になるといいですよね。少しだけ想像力を働かせて、いろんな人のおかげで世界が成り立っていることへの感謝の気持ちを常に心のどこかに持っていられたらと思います。ちょっとうまく言えないけど。

そういう考えはいつ頃からお持ちになったんですか?

結構大人になってからですよ。

何かきっかけはあったんですか?

徐々にですね。いろんな人に会い、本当に幸せそうに見える人はどういう思考をしているのかとか、逆にこの人はなぜ辛そうなのだろうかとか考えたのを蓄積してそう思うようになったんじゃないでしょうか。もしかすると、インドに住んでいた経験も影響しているかもしれません。

これからやりたいことってありますか?

今ですか? 家に帰って楽器の練習をしたいです。

音楽も含めて、ご自身の人生で将来やりたいことは?

自分のできる範囲で、少しでも誰かを喜ばせられたらいいですよね。僕の場合、それを実現する一番の近道はなるべく楽器の練習をすることなのかなと思っています。

タブラで人を幸せにするということですね。

そんなに壮大な話ではないですけどね。楽器の練習を地道に続けたり、できるだけ体調を整えたりということが誰かに喜んでもらえることに繋がったら嬉しいです。

取材協力
Vender Woh!
住所:東京都台東区蔵前4-20-8 東京貴金属会館3階
電話番号:03-6874-6643
営業時間:12:00~18:00(不定期に時間が変更されることが御座いますのでホームページを御確認ください)
休業日:日、月、火
http://venderwoh.jp/

ユザーン衣装
プルオーバーストライプシャツ¥49,000 (税別)タブラモチーフ•デニムパンツ(価格未定)/ Vender Woh!

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『2 Tone』蓮沼執太&U-zhaan

蓮沼執太とのコラボで2017年に発売されたアルバムをアナログ化。ゲストにアート・リンゼイ、デヴェンドラ・バンハート、坂本龍一らが参加。アートワークは長嶋りかこ。

2018年2月14日発売
¥3,800+税
HRLP112

Side A
  1. Tone Tone Tone & Tone Tone Two
  2. Green Gold Grey feat. Arto Lindsay
  3. Mixed Bathing World
  4. A Kind of Love Song feat. Devendra Banhart
  5. Music for Five Tablas
Side B
  1. Sporty
  2. Lal feat. Ryuichi Sakamoto
  3. Radio S
  4. Dryer
  5. ISO

『KOUTA LP』フルカワミキ÷ユザーン

元スーパーカーのフルカワミキとのコラボ作品。2017年にカセットテープのみでリリースされた2曲に新録を追加し、アナログ盤としてリリース。ギターとMIXでナカコーも参加。

2018年4月6日発売 ※HMV record shop 3店舗のみ3月30日より先行発売
¥3,000+税
HRLP115

Side A
  1. B & G
  2. 苔のうた
  3. B & G Remixed By 食品まつりa.k.a foodman
Side B
  1. 八戸小唄
  2. 通りゃんせ
  3. 八戸小唄+通りゃんせ Remixed By Oval

『Tabla Rock Mountain』

2014年に発表された、ユザーン初のソロ名義作品が待望のアナログ化。ジャケットもCG加工なしのアナログ仕様になっている。坂本龍一、Cornelius、ハナレグミらが参加。

2018年4月21日発売
¥3,800+税
HRLP111

Side A
  1. Getting Ready
  2. Chicken Masala Bomb / U-zhaan × HIFANA
  3. Tabla'n'Rap / U-zhaan × KAKATO
  4. Welcome Rain / U-zhaan × Ametsub
  5. 俺の小宇宙 / U-zhaan × ハナレグミ
Side B
  1. Flying Nimbus / U-zhaan × DÉ DÉ MOUSE
  2. Technopolis / U-zhaan × 坂本龍一
  3. Homesick in Calcutta / U-zhaan × Cornelius
  4. Raga Mishra Kafi / U-zhaan × Babui × agraph

新井孝弘×U-zhaan 北インド古典音楽ライブツアー 2018

  • 4/13 小倉 Tanga Table
  • 4/14 山口 喫茶ぼなーる
  • 4/15 尾道 浄泉寺
  • 4/16 米子 PRADE
  • 4/17 岡山 パダンパダン
  • 4/18 高松 デザインラボトリー蒼
  • 4/19 神戸 クラブ月世界
  • 4/20 京都 トコ会館
  • 4/21 金沢 葡萄夜
  • 4/22 岐阜 Cafe&Bar aLFFo
  • 4/28 代官山 晴れたら空に豆まいて
  • 5/1 水戸 club SONIC mito
  • 5/2 いわき burrows
  • 5/3 福島 正眼寺
  • 5/4 塩竈 塩竈市杉村惇美術館
  • 5/5 石巻 La Strada
  • 5/6 青森 quatre cafe
  • 5/7 秋田 小松クラフトスペース
  • 5/8 鶴岡 orphans
  • 5/9 小千谷 極楽寺
  • 5/13 宇都宮 snokey music public house six
  • 5/14 鎌倉 シュビドゥダ

詳細は http://u-zhaan.com/schedule/ にてご確認ください

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