HIGHFLYERS/#29 Vol.1 | May 10, 2018

映画「終わった人」の主題歌、布袋寅泰による書き下ろし楽曲も収録。ロンドン生活5年間の思いが詰まった新アルバム「Sky」

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong / Retouch: Koto Nagai

今回HIGHFLYERSに登場するのは、アーティストの今井美樹さん。80年代から90年代にかけてCMやドラマの主役等、モデルや女優として活躍する一方で、シングル「PIECE OF MY WISH」、「瞳がほほえむから」など数々のヒット曲を発表。1996年にリリースしたシングル「PRIDE」は160万枚を超えるミリオンセラーとなり、トップシンガーとしての地位を確立しました。また、「BLUE NOTE TOKYO」でのライブや様々なクリエイターとのコラボレーションなどによって、ポップスの枠にとらわれず幅広いジャンルで表現を続け多くのファンを魅了しています。2012年にロンドンへ移住し新生活をスタートさせたことでも話題になった今井さんですが、今年、通算20枚目となるオリジナルアルバム「Sky」を6月6日にリリースされます。第1回目は、ロンドンに移って3枚目となるアルバム制作のことを中心に、主題歌を担当した映画「終わった人」のことや、ロンドンでの生活に対する想い、特徴ある彼女の声質についてなどを詳しくお話ししていただきました。
PROFILE

歌手/女優 今井美樹

1986年、シングル「黄昏のモノローグ」で歌手デビュー。CM・ドラマ・映画等、活動の幅を広げながら、「PIECE OF MY WISH」「PRIDE」等、数々の大ヒット曲を発表。等身大の歌詞と透明感溢れる歌声で、男女問わず幅広い層に支持される。2015年には歌手デビュー30周年を記念したオールタイム・ベストアルバム『Premium Ivory』をリリース。そして、今年2018年6月には昨年精力的に制作に取り組んだ通算20枚目となるオリジナルアルバム『Sky』をリリースする。

昔から大好きなアーティスト達とも向き合えた一枚。遠く離れた大切な人達に伝えたいのは、空を通して繋がっているということ

今回のニューアルバム「Sky」は、PRIDEからちょうど20年、通算20枚目ということですが、今井さんご自身にとってはどのような作品ですか?

ロンドンで暮らし始めてから、ユーミンのカバーアルバム「Dialogue」、オリジナルアルバム「Colour」を作り、今回の「Sky」は3枚目のアルバムになりますが、前作からここまでの2年半くらいの間で心の中にいろんな変化や発見があって、ポジティブなことばかりでなく、いろんなことに戸惑ったりしながら暮らしていく中で出来上がった作品です。大きな節目であることは後から知りました。「あーそうか、もうそのくらい経つんだ!!」という感じでした。

前作「Colour」を作ったときは、ワクワクするような気持ちの方が強かったのですか?

あの頃は早くロンドンの生活に馴染みたかったし、やっぱりワクワクしていたかったんでしょうね。大分慣れてきた頃、改めて目線を上げて周りを見渡してみたり、耳を澄ませてみたりしたら、今まで自分には全然引っかからなかったことを発見して、今この年代で新鮮に感じられることが嬉しいと思ったんです。最初のうちって果敢にチャレンジできますよね。でも逆にいろんなことが見えてくると、今度は周りと自分との違いに気づいたり、新しいと思っていた感覚がだんだん戸惑いになったりするじゃないですか。「Colour」 から「Sky」に至るまでは、そういう感情も生まれました。

例えばどんな感情ですか?

イギリスは基本的にいろいろな国の人達が集まっている国なので、様々な考え方があります。なので「これは日本じゃありえないな!」とか「え〜どうして??」と驚くことだらけでした。でもそれは日本から来た私の考え方であり、ここでの基準ではないことを痛感したんです。住人になってそういう違いを経験できたのはとてもプラスだったし、そう思うのは暮らしに慣れてきた証でもあるんでしょうけど、一方で疲れ果てている自分も正直いましたね。

海外で暮らすと、あり得ないことがたくさん起こりますよね。

仕事中心の毎日じゃないからこそ、それ以外のところに目線がいくようになったのかもしれないですけどね。そんなとき、例えば買い物袋を抱えているときや庭に出ているとき、気がついたら私はいつも「あ〜、今日も空が綺麗だなぁ」って空を眺めていたんです。iPhoneの写真の中には空と木々と花々とうちの犬しか入ってないくらい。いつも空を眺めて「今日も天気良くて気持ちいいな」って思ったり、サーモンピンクの夕日が声を上げるくらい美しかったのをすぐに家族に伝えたり、気づくと私は空に惹かれているんですよね。

そういう日常の新しい経験が、アルバムのタイトル「Sky」にも繋がっているのでしょうか?

別に空をテーマに作ったアルバムじゃないんです。でも、そういう私の日常を、詩を書いてくださった方達にも何気なく話していたんでしょうね。結果的に、様々な空があるストーリーが出来上がりました。その中にはいろんなニュアンスや景色や色があって、私の迷いやさり気ない日常の幸せなどの感情もベースにちゃんと流れているし、今の私の暮らしの背景にはやっぱりいつも空があるので、「Sky」っていうタイトルにしてもいいなって思ったんです。

今回は亀田誠治さんがプロデュースをされていますね。

アルバム制作でご一緒するのは今回が初めてでした。今私がロンドンにいるので、いかにスムーズに意見を交わしていくかがとても大切なのですが、亀田さんは同世代なので音楽の共通言語もあるだろうし、現在日本のポップス界の中心のお一人である彼のエネルギーやスピード感はイギリスと日本をしっかりつないでくれると思ったんです。そして新しいチームでやるのなら新しいミュージシャンにも出会っていきたいという話になり、亀田さんが「同じ空」を作曲してくれた蔦谷好位置さんなど素晴らしい若手のアーティストを紹介下さいました。

BONNIE PINKさんや大橋トリオさんは今井さんが選ばれたのですか?

2人とも私個人的に大ファンなんです。BONNIE PINKちゃんは彼女の「Heaven’s Kitchen」などが凄く好きで、一ファンとして彼女の曲に背中を押されることもありました。大橋くんとは「ラストダンスは私に」のカバーでご一緒したことがあります。土岐麻子さんもそうですが、“大好きだけど今までちゃんと向き合ったことのなかった人たちにアプローチしませんか?”という亀田さんの積極的なアイデアもあって、皆さんに声をかけさせてもらいました。それぞれのアーティスト色の強い、彼らの匂いがプンプンする楽曲を提供してくださっているので、私はデモテープが届いた時から、「この曲大好き!!」と聴くばかりで、なかなか自分が歌うモードにならなかったほどです(笑)。彼らの曲を自分のものにするのは、正直とても大変でした。まるでカバーアルバムのよう。彼らの新曲を一番最初に聴ける喜びに浸っていました(笑)。

アルバムに収録されている「あなたはあなたのままでもいい」は映画「終わった人」の主題歌でもありますが、この映画の曲に携わることになった経緯を教えてください。

昨年の春にお話しを頂いたんです。タイトルが「終わった人」だということ、そして脚本が内館牧子さんだっていうのを聞いた時に、「これは面白いに違いない!」って思いました。あれだけたくさんのドラマを作ってきている内館さんが、「終わった人」という一見ネガティブに思えてしまう言葉をあえてタイトルに持ってきていたので、彼女がどんな想いを乗せて、何を表現したいのかがとても気になって、即答で「これはやろう」って言いました。そう思えたのは、やっぱり彼女の今までの作品と言葉のチョイスの妙ですよね。布袋さんの楽曲で私が歌うというのは、中田秀夫監督からのリクエストだったんですって。なぜ監督がそうおっしゃったのかとか、解明したい興味深いことはまだたくさんあります。

映画を観ていかがでしたか?

この映画は、60歳を超えた主人公が会社をリタイアするタイミングになって、戸惑ったりあがいたりしながら生きていくというストーリー。家族や夫婦の新しいかたちを孤独や出逢いに心揺られながら、社会への貢献の仕方を模索して生きていく。そのいろんなエッセンスがバランス良く描かれていて、私は作品を観て大いに笑い、そして胸がいっぱいになりました。素敵な映画で、エンドロールで自分の声が流れてきたときは、本当にこの作品に参加させていただいて良かったと思いました。

ご自身の生き方に照らし合わせても、映画や歌に寄り添える部分はありましたか?

年齢的にも、キャリアという意味でも、私たちはこの主人公と同世代になりつつあるので、共感できます。迷ってはいるけど歩いてるし、もっと歩きたいと思っている。この先も何かがあると思ってるし、そもそも何も終わってないんですよね。テーマはその世代になってみないとわからないとても大事なことだけど、なかなかどう触れていいかわからないことを丁寧に描いていて、それを自分たちが一番感じているからこそ、この作品に今携われると思いました。同じように繊細な想いを持って生きる者として制作に参加できて、すごく大きなチャンスをいただけたと思いますね。

アルバムを拝聴しまして、声が今もすごく美しいままでびっくりするのですけど、何か特別なトレーニングはやっていらっしゃるんですか?

いいえ、ちゃんとやらないといけないんですけどね。私は年齢に相応しい声に変化していきたいと思っているんです。でも今回のレコーディングを通して、好き嫌いは別にして自分が持ってるもので変わらないものが何か一つあるとしたら、それは私の声の質なんだっていうのを改めて思わされました。実は抗ったりしたの。だけど抗うと作意が出るんですよね。作意が出るものはあまりシンプルに伝わらないっていう。

でも年齢を重ねると出したい声があっても出せなくなるじゃないですか。そこがちゃんと出せるのが凄いです。

それはなかなか前みたいにはいかないですよ(笑)。前はボイトレしてスイッチが入ればそこから温まるまでのイメージはそれなりにあったのに、これがなかなかそうスムーズにはいかなくなりました。特に昨年は歌っていなかったこともありますし。50歳の時にロンドンに行って、今年の4月で55歳になりました。45から50より、50から55の5年間の方が圧倒的に変化が大きいです。それはネガティブなことではないですし、前に歩いていくことは変わらないけれど、明らかに以前と同じスピード感ではないですね。気づけば歩きながら空を見上げて気持ちいいと思うような…スローダウンしている感じです。でもそれが意外に嫌なことじゃないと、この5年で凄く感じるようになったので、それが私の想いとしてこのアルバムにも流れているんでしょうね。この5年がベースになっている作品ができたと思います。

「Sky」はロンドンでの5年間の思いが詰まったアルバムなのですね。

誰にとっても空は平等だし、どこにいても誰にも空はある。私がロンドンで見上げている空は、東京にひとり残している母や、遠く離れた日本で私の曲を聴きながら見上げてる人とも繋がっている。だから「どんなに離れていても、家族が一緒にいれないときでも繋がっているから」と伝えたい。家族であっても考え方が同じとは限らないから、同じように空を見上げていても、考えてることや好きなこと、嫌いなことが違うこともあるけれど。でも私は今のロンドンの暮らしの中で、天気の良い日に私たち家族3人で庭に出て空を見上げて、のんびりと「気持ちいいね!」と思えることって、すごく幸せなことだって思うんです。

次回へ続く

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~PRIDEから20年。これはあなたのCDです。~

20枚目のオリジナルアルバム『Sky』
舘ひろし・黒木瞳W主演 映画『終わった人』主題歌「あなたはあなたのままでいい」収録

2018年6月6日(水)発売 3,000円(税抜)TYCT-60116

初回限定封入特典:今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky" チケット先行特別受付封入
受付期間:2018/6/6(水)12:00~6/19(火)23:00

アルバム予約及び「あなたはあなたのままでいい」先行配信はこちらから
https://umj.lnk.to/im_sky

Produced by 亀田誠治, 今井美樹
Mixed by Adrian Bushby
Mastered by Tim Young at Metropolis Mastering Studios, London

全国ツアー開催決定!『今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky"』

  • 8月16日(木) 埼玉・サンシティ越谷市民ホール
  • 8月17日(金) 神奈川・神奈川県民ホール
  • 8月19日(日) 愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 8月24日(金) 福島・けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター) 大ホール
  • 8月25日(土) 山形・シェルターなんようホール(南陽市文化会館) 大ホール
  • 8月31日(金) 宮崎・日向市文化交流センター 大ホール
  • 9月2日(日) 鹿児島・鹿児島市民文化ホール 第一
  • 9月9日(日) 石川・本多の森ホール
  • 9月14日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
  • 9月15日(土) 兵庫・たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール 大ホール
  • 9月17日(月/祝) 香川・サンポートホール高松
  • 9月21日(金) 福岡・福岡市民会館
  • 9月24日(月/休) 島根・島根県芸術文化センター「グラントワ」 大ホール
  • 9月28日(金) 三重・三重県文化会館 大ホール
  • 9月30日(日) 山梨・コラニー文化ホール
  • 10月4日(木) 東京・東京国際フォーラム ホールA
  • 10月8日(月/祝) 新潟・新潟テルサ
  • 10月12日(金) 大阪・フェスティバルホール
  • 10月13日(土) 大阪・フェスティバルホール

チケット料金 前売り/全席指定 ¥7,500(税込)
今井美樹 Concert information: http://www.imai-miki.net/

映画『終わった人』公開情報

2018年6月9日ロードショー

監督:中田秀夫
出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ、笹野高史
原作:内館牧子「終わった人」(講談社刊)
配給:東映
(c) 2018「終わった人」製作委員会

映画『終わった人』オフィシャル http://www.owattahito.jp/

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