HIGHFLYERS/#29 Vol.4 | Jun 21, 2018

新しい世界の扉を開くには、今までのことを全部捨ててもいいと思った。自分の心の声に素直に従って掴んだこと

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong / Retouch: Koto Nagai

今井美樹さんインタビュー最終回はチャンスと成功について。今井さんが過去を振り返り、ご自身が掴んだチャンスとはどういうことだったのかを詳しく語ってくださいました。音楽で悩んでいた時に、まるで簡単に答えを運んでくれたかのように出会ったのが、後に夫となる布袋寅泰さんのアルバム「GUITARHYTHM II」。この出会いを機に、今井さんの音楽はまた違うステージへの新たな扉を開きます。今、ロンドンで暮らして感じていることや、今井さんにとっての成功に対する質問にも素晴らしいお言葉をいただきました。
PROFILE

歌手/女優 今井美樹

1986年、シングル「黄昏のモノローグ」で歌手デビュー。CM・ドラマ・映画等、活動の幅を広げながら、「PIECE OF MY WISH」「PRIDE」等、数々の大ヒット曲を発表。等身大の歌詞と透明感溢れる歌声で、男女問わず幅広い層に支持される。2015年には歌手デビュー30周年を記念したオールタイム・ベストアルバム『Premium Ivory』をリリース。そして、今年2018年6月には昨年精力的に制作に取り組んだ通算20枚目となるオリジナルアルバム『Sky』をリリースする。

チャンスを掴むか掴まないかはその人次第。共感を呼んで、幸せの波動が広がっていくのを感じられる心を持ち続けることが大切

今井さんが現在、世界に対して感じていることがあれば教えてください。

ロンドンにいるとテロとかいろんなことがリアリティを帯びてきます。2017年にロンドンで起きたテロは、いろんなことを考えされられました。なぜこんなことで大事な人を急に奪われてしまうのかと、物凄く怒りと絶望感で心はいっぱいいっぱいでしたし、娘を持つ母親としてもいつも気にかけていなければならないことなんだと実感しましたね。それに、空が青ければ青いほどこんなに美しい空の下であんな事件が起きたことがとても切なくて。この空の下では命が奪われていることもあるんだって、2017年に起こった事として、忘れないよう刻印を残しておきたかった。そんな悲劇も、そして何気ない日常も同じ空の下にあって、その様々なストーリーにそれぞれの空がある。なのでこのアルバムは「Sky」にしました。

今まで有名歌手としてトップを走り続けてきて、辛いと感じたことはありましたか?

う〜ん…辛いというか、本当はもっとこういう風に歌えたらいいのになとか、こんな歌も歌ってみたいと思っても、なかなかそこに辿り着けなくてもどかしく思うことは今でもあります。自分の道を歩くのだって、エンジンがかかるまで時間がかかるようになったし、体力も落ちているので前みたいにはスムーズにできなくなっているのは感じていますけど、自分しか歩けない道なのだったら、せめて全うしようと思ってます。

今井さんの好きなアーティストや好きな歌い方とはどういうものですか?

子供の頃ずっと家でかかっていたエラ・フィッツジェラルドが大好きです。JAZZ、R&B、ボサノバなどグルーヴィーなサウンドが好きですね、そして声に色がある歌が好きです。でも振り返ってみると、日本のアーティストでも、ユーミン、土岐麻子ちゃん、BONNIE PINKちゃん、大橋トリオくんと、私が好きだと思うアーティストはみんな声が特徴的でそれぞれの色を持っているんです。心が動かされるのはそういう色のある声ですね。

ところで、今井さんにとってチャンスとはどういうことだと思いますか?

人には必ず人生のうちでスポットが当たるときがやって来ると思いますが、そのチャンスを掴むか掴まないかはその人次第なんだと思います。私も、今まで大きなチャンスがあったのに逃してきたことがあったかもしれないし、わかっていながら敢えて掴まなかったチャンスもあります。周りのスタッフには、その仕事をやったらさらに大きく成功すると言われたけれど、自分の行きたい方向性ではなかったのでやりませんでした。

では、今まで今井さんが自ら掴んだチャンスとは具体的にどういうものだったのですか?

自分の中に沸いた新しい音楽への興味に対して素直に進んでいったことです。フォーライフ・レコードからデビューして、私のチームができて、周りには本当にいい音楽がいっぱい溢れていたけれど、もっと違うものにトライしてみたいと思った時期がありました。それまではAORとか大人のジャズが大好きで得意とする人たちが私の曲を書いてくださってましたが、90年代に入って時代も音楽もどんどん変わり、好きな音楽がロンドン発のものが増えてきました。エッジーでシャープでクールで心地ち良いグルーヴ感溢れる音が主流になっていき、「私もそういう音楽をやりたい!」と思ったんです。そんなときに、当時の音楽仲間の影響で布袋さんの「GUITARHYTHM II」を初めて聴きました。

布袋さんの音楽に初めて触れた瞬間はどうでしたか?

「GUITARHYTHM II」はコンピューターとギターを融合した画期的な2枚組アルバムで、クールでエッジーな音には奥行きがあり、激しさとロマンティシズムの両方が描かれ、ありとあらゆる幅の広い音楽性を感じました。そこには私が今まで悩んでいたことの答えが全部詰まっているような、一瞬で全てを解決してくれたような、そんな出会いだったんです。それ以前も布袋さんの存在は知っていたけれど、私はBOOWYは聴いていなかったので、その後初めて布袋さんのライブを観た時も、「こんなパフォーマンスをする人が日本にいるんだ」って衝撃を受けました。とにかく素晴らしかったんです。それである時ディレクターに、「布袋さんに曲をお願いしたい」と言ったら、彼は顎が外れるぐらい驚いて。結果的にお願いすることになったのですが、布袋さん自身も驚いたそうです。でも面白いねって、興味を持ってくれたみたい。

つまり、チャンスとは布袋さんとの出会いだったということですね。

そうなりますか…(笑)。彼は映画音楽も大好きだし、歌モノも大好きだし、頭立ててエッジーな音楽をやってるだけではない。その彼の音楽の奥深さに驚いて、「こんなに豊かな音楽を作る人だったら私がやりたいことをわかってくれるかもしれない」と思ってお願いしました。初めてアルバムに曲を書いてもらったのは私が30歳のときだったかな。それがチャンスだったと言えるのかはわかりませんけど、音楽で自分が表現したいことを言葉で説明するのは難しく、当時は心の中に渦巻いている新しい音楽への思いと、それまでの音楽を続けていくこととの葛藤に苦しさを感じてどうしようもなかったんです。誤解を恐れずに言うと、それまでのことを全部捨ててもいいから新しいことに挑戦したかったし、そのくらいの気持ちを持たないと本当に新しい世界には辿り着かないと思っていたんです。

自ら掴みたいものがやってきたときは、何かを失ってでも自分の意志でしっかり掴む覚悟がおありだったんですね。

いや〜、もう衝動です(笑)。でも、みんなが思っている今井美樹を捨ててロックをやりたかったわけではなく、私がすでに持っていることを土台にしながら、もう少し窓を開けて違う景色を見たいと思っていました。世の中の新しいということより、私の中での新しいことに挑戦したかった。どこかに共通することが見えたから思い切って冒険できたんだと思います。

音楽で衝撃を受けた出会いがきっかけで人生のパートナーとなったわけですから、布袋さんとの出会いは今井さんの人生に必然的なことだったのですね。

そういう意味では自分がすごく変わりたいって思っていたときに、あんなにインパクトがある彼の音楽に出会ったということは、彼が私に何か大きな光を照らしてくれていたのかもしれないですね。

では最後に、今井さんにとって成功とはなんですか?

難しい質問ですね。成功ってなんだろう…。自分が持つ気持ちをそのまま誰かに伝えたいとか、形にしたいと思ったときに、その想いが本質を失うことなくちゃんと届いて形になって、それを他の人も喜んでくれたら素晴らしいと思います。例えば、化学者にとっては何かに挑戦しても結果が伴わないと成功とは言えないかもしれないですけど、でもまずその扉を開けて道を作ったということが大きな出来事なのではないでしょうか。その過程があるからそこから枝葉が出てくる。そして自己満足ではなく、トライしたことを誰かが一緒に喜んでくれたり、自分が想っていることがそのまま伝わったりしたら大成功なんじゃないですかね。

そうなるためには、どうしたらいいと思いますか?

日本一と言われるようなタイトルを勝ち得たり、オリンピックで金メダルを取ったりと、大きい成功を収める人もいますけど、彼らだって小さな成功をいくつも積み重ねてきたからこそそこに行き着いたと思うので、恐れずにやりたいことにトライし続けることだと思います。私たちのような仕事には“これが成功”っていうのがないから、正直自分にとっての成功ってよくわからないですけど、音楽に関して言えば、私が伝えたいことをリスナーに届けるということは、その前にまずスタッフやミュージシャンにそれを伝えなければならない。そうして共感してくれる波動が次々と繋がっていくことが幸せに繋がるんじゃないかと思います。良い波動だけではなく悪い波動も伝わってしまうと思うので、幸せの波動が広がっていくのを感じられる心を持ち続けることが大事だと思うし、いつも意識していたいと思いますね。

1
 
2
 
3
 
4
 

~PRIDEから20年。これはあなたのCDです。~

20枚目のオリジナルアルバム『Sky』
舘ひろし・黒木瞳W主演 映画『終わった人』主題歌「あなたはあなたのままでいい」収録

2018年6月6日(水)発売 3,000円(税抜)TYCT-60116

初回限定封入特典:今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky" チケット先行特別受付封入
受付期間:2018/6/6(水)12:00~6/19(火)23:00

アルバム予約及び「あなたはあなたのままでいい」先行配信はこちらから
https://umj.lnk.to/im_sky

Produced by 亀田誠治, 今井美樹
Mixed by Adrian Bushby
Mastered by Tim Young at Metropolis Mastering Studios, London

全国ツアー開催決定!『今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky"』

  • 8月16日(木) 埼玉・サンシティ越谷市民ホール
  • 8月17日(金) 神奈川・神奈川県民ホール
  • 8月19日(日) 愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 8月24日(金) 福島・けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター) 大ホール
  • 8月25日(土) 山形・シェルターなんようホール(南陽市文化会館) 大ホール
  • 8月31日(金) 宮崎・日向市文化交流センター 大ホール
  • 9月2日(日) 鹿児島・鹿児島市民文化ホール 第一
  • 9月9日(日) 石川・本多の森ホール
  • 9月14日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
  • 9月15日(土) 兵庫・たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール 大ホール
  • 9月17日(月/祝) 香川・サンポートホール高松
  • 9月21日(金) 福岡・福岡市民会館
  • 9月24日(月/休) 島根・島根県芸術文化センター「グラントワ」 大ホール
  • 9月28日(金) 三重・三重県文化会館 大ホール
  • 9月30日(日) 山梨・コラニー文化ホール
  • 10月4日(木) 東京・東京国際フォーラム ホールA
  • 10月8日(月/祝) 新潟・新潟テルサ
  • 10月12日(金) 大阪・フェスティバルホール
  • 10月13日(土) 大阪・フェスティバルホール

チケット料金 前売り/全席指定 ¥7,500(税込)
今井美樹 Concert information: http://www.imai-miki.net/

映画『終わった人』公開情報

2018年6月9日ロードショー

監督:中田秀夫
出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ、笹野高史
原作:内館牧子「終わった人」(講談社刊)
配給:東映
(c) 2018「終わった人」製作委員会

映画『終わった人』オフィシャル http://www.owattahito.jp/

ARCHIVES