HIGHFLYERS/#29 Vol.3 | Jun 7, 2018

50歳の節目で決断したロンドンへの移住。人生は前にしか進まないなら、歩きながら新しい驚きや楽しいことを見つけたい

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong / Retouch: Koto Nagai

今井美樹さんインタビュー第3回目は、歌手活動についてと、ロンドンへ移住するに至った経緯を伺いました。今井さんは、ご自身3枚目のアルバム「Bewith」に関わった人との出会いやそこで芽生えた歌手としての意志がその後の人生を変えたとおっしゃいます。また、東日本大震災直後のツアーでは、歌手であることを自覚したいくつもの出来事がありました。そして、25周年ツアーが大成功を収め、今後の日本の歌手活動への新たなヴィジョンが明確になってきたのと時期を同じくして、家族揃ってのロンドン移住が決まりました。歌手としてデビューして以来、今井さんにどのような心境の変化や次なるステップがあったのか、また、ロンドン行きを決めたきっかけやその時の心境、ロンドンと日本での仕事のやり方や、海外と日本の環境の違い、そして移住して5年経った今、家族に思うことを色々語ってくださいました。
PROFILE

歌手/女優今井美樹

1986年、シングル「黄昏のモノローグ」で歌手デビュー。CM・ドラマ・映画等、活動の幅を広げながら、「PIECE OF MY WISH」「PRIDE」等、数々の大ヒット曲を発表。等身大の歌詞と透明感溢れる歌声で、男女問わず幅広い層に支持される。2015年には歌手デビュー30周年を記念したオールタイム・ベストアルバム『Premium Ivory』をリリース。そして、今年2018年6月には昨年精力的に制作に取り組んだ通算20枚目となるオリジナルアルバム『Sky』をリリースする。

震災で気づいた、歌手として歌うことの責任感と音楽の力。25周年ツアーの矢先、夫・布袋寅泰が決めたロンドン行き

偶然の積み重ねで歌手になったとおっしゃっていましたが、ご自身の意志が作品に反映されるようになったのはいつ頃ですか?

デビューしてフォーライフレコードから出した2枚目のアルバム制作のときには当時のプロデューサーの松田直さんがいろいろ私の意見を取り入れて下さいました。でも3枚目の「Bewith」を作る時、もう少しキーを下げてちゃんと色のある声で歌いたいと話したら彼はすごく理解してくれて、選曲の時からそういう気持ちで始めました。そのときに出会ったのが、作曲家でアーティストの柿原朱美ちゃん(AK)や上田知華さん、岩里祐穂さんです。ちなみにアルバムに入っている「黄色いTV」という曲は、上田さんと岩里さんの二人が「今井美樹ちゃんに歌って欲しい」と松田さんに持ってきたんですって。

「Bewith」は今井さんの歌手人生においてとても意味のあるアルバムなんですね。

「こんな曲が好き。こういう曲が歌いたい」って自分の意志を大人たちにはっきり伝えたのも、その後ずっと大事な存在になっていく人たちに出会えたのもそのアルバムからなんです。この出会いはそれから先の自分を変えてくれましたね。“自分にとって凄く大切な音楽を自分の意思ではないところからスタートした”という事実をいつかどこかで覆さないといけないって思っていたから、このアルバム制作を通して経験したことはとても大きかったと思います。

では、今井さんが長年歌い続けてきた中で、衝撃的だった出来事はありますか?

やっぱり東北の震災直後のツアーですね。当時は他のアーティストの中にも同じように感じていた人が多くいたと思いますが、私自身も「こんな時に音楽をやることに何の意味があるんだろうと、現地で何か具体的に手伝いたい…」と思いました。あの時は、いろんな職業の人が自分たちが持っているノウハウをどうにかしていろんな形で活かせないかって、それぞれができることを本当に惜しみなく捧げたじゃないですか。私もあの出来事の後、「美樹さんのPIECE OF MY WISHを聴きたい」と言ってくださる方々の声を聞いた時に、この曲を持っている歌手として、やっぱり歌っていかないといけないんだって思ったんです。義務感ではなく、大きな責任感を感じたというか、“職業人”として歌を歌うということを初めて意識しましたね。音楽や映画、演劇など、いろんな芸術やエンターテイメントが人の心に届いて、それには火を灯したり光を当てたりする役目があるのだと実感できました。

その後、ロンドンに移住する決断をなさるわけですが、きっかけは旦那様である布袋寅泰さんの意志ですか?

はい。彼は私に出会うずっと前からいつかロンドンでやりたいと思っていたようで、その気持ちは常にベースにありました。子供も生まれ年齢も重ねて、ポジション的にも日本で培った全てを投げ打ってまで自分の夢を追いかけるのは簡単ではなかったと思うのですが、「ステージでロックンロールする人間として50歳からの10年間をどう過ごすか、すごく考える。昔からの夢にどうしてもトライしたい」と、彼は思い切って50歳になる節目で決断しました。

今井さんご自身も日本で築き上げた人生があったのに、一緒に行くことは平気だったのですか?

いえ、まず娘のこと、そして私達の母のことを思いました。「どうするの?」って。そしてシンガーとしては、それまでの全てがカットアウトされるようなことなので、それはとても不安でした。私の気持ち的なこと以外でも、日本にはスタッフも、待ってくれているファンの人たちもいるし、当然悩みました。しかもそれを言われたのが、私がちょうど25周年を迎えてツアーを大々的にやったり、いろんなライブをしていたときだったので、決断するのはとても難しかった。でも彼はそんな私の状況も踏まえた上で、夫として妻に勇気を持って投げかけてきたと思ったんです。結婚する前から、「僕はいつか絶対ロンドンに行きたいと思ってる。君は頑張れますか?」と言われていたので、彼の想いはずっと知っていましたしね。正直自信はあまりなかったですけど、「とうとうその時が来た」と思いました。

大きな出来事って重なるものですね。

それからロンドンに行くまでの間にも色々ありました。でも家族としてロンドン行きを了承するというよりも、布袋寅泰という人がロンドンという地に足を置いて、そこからいろんな人たちと出会って、アーティストとしてパフォーマンスすることは絶対にやるべきだと思っていたので、一緒に行くことを決めました。その先の自分の仕事は何の予定も立てられないし、暮らしもどうなるかわからなかったから、私のスタッフたちは愕然としたと思いますけどね。

ロンドンに行かれてからは、今井さんの日本の仕事はどのように続けていたのですか?

ロンドンに生活の拠点を移してからも、新しい環境で仕事をしている私の想いを伝えていけたらいいなと思っていましたが、ラッキーだったのは、今の時代、離れていてもいろんなツールで繋がりやすいことですよね。それまでの今井美樹の道を絶やさないように、ラジオ番組はスカイプを通して収録したものを流したり、雑誌の連載も続けるように配慮してくれたりと、スタッフが計らってくれました。

素晴らしいですね。音楽の方はどうされたのですか?

行く前は「音楽がいつ再開できるかわからない」と言っていたのに、新生活にまだ慣れていないうちからレコーディングを始めることになって、ロンドンに移った翌年に「Dialogue」というユーミンのカバーアルバムを出しました。その次に、自分がロンドンで体験した気持ちを表現したアルバム「Colour」を出して。ロンドンに行って丸5年になりますが、ベストアルバム「Premium Ivory -The Best Songs Of All Time-」も入れると「Sky」は4枚目のアルバムなんです。そう考えると結構ちゃんとやっているほうですよね(笑)。

とても精力的に活動されていらっしゃいますね。

人生どう転んでも前に歩いていかないといけないんだったら、歩きながら新しい驚きや楽しいことを見つけた方がいいと思っています。

今後もしばらくロンドンに暮らす予定ですか?

ずっと先のことはわからないですが、しばらくはロンドンを拠点にするつもりでいるので去年グリーンカードを取りました。

ロンドンで生活していて、日本との違いを感じるのはどんなところですか?

イギリスは基本的に多民族国家なので、いろんな国籍や肌の人たちと日常の中で刹那的にすれ違うのが当たり前ですよね。Uberに乗って出身を聞かれて日本だと言うと、「日本はいいよね、素晴らしい国だ」と言われるのですが、先人たちが本当に頑張ってきてくれたおかげで、私たちは日本人というだけで褒めてもらえるなんて凄いことだし、自分の背負っている国があるということを改めて思いますね。私の周りには日本人だからどうこうネガティブに言う人たちはいませんけど、宗教観しかり、考え方が本当にそれぞれ違います。日本人だったら普通はこう思うっていうのは全く通用しないですね。

日本にいるときと比べて、今井さんの生活に変化はありましたか?

子供が生まれてからは母親としても家族を一番大事に思っていますが、仕事も当然ないがしろにはできなかったので、色々な人の手を借りて工夫しながら続けていました。でもロンドンで暮らすようになって仕事の分量がカタンと減ったので、そのぶん目線が広がって眼差しがいろんなことに届くようになり、だからこそ見えてきたことや感じたこともあります。それと、呼吸が凄く深くなったような気がするんです。日本で仕事をしている当時はわかってなかったですけど、アップアップでずっと無呼吸で走っている感じだったんですかね。でも今はちゃんと呼吸しているような、そんな感じかな。だから見るもの全てが新鮮で、そこにある自然の力や人の優しさを素直に感じることができているのかもしれません。

ではロンドンに行って良かったと思っていらっしゃるのですね。

「この年齢でロンドンに行けたのはすごく良かったね」って夫婦の間で言うこともありますが、布袋さんには「連れて行ってくれて本当にありがとう」って、親娘共々思っています。

次回へ続く

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~PRIDEから20年。これはあなたのCDです。~

20枚目のオリジナルアルバム『Sky』
舘ひろし・黒木瞳W主演 映画『終わった人』主題歌「あなたはあなたのままでいい」収録

2018年6月6日(水)発売 3,000円(税抜)TYCT-60116

初回限定封入特典:今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky" チケット先行特別受付封入
受付期間:2018/6/6(水)12:00~6/19(火)23:00

アルバム予約及び「あなたはあなたのままでいい」先行配信はこちらから
https://umj.lnk.to/im_sky

Produced by 亀田誠治, 今井美樹
Mixed by Adrian Bushby
Mastered by Tim Young at Metropolis Mastering Studios, London

全国ツアー開催決定!『今井美樹 CONCERT TOUR 2018 "Sky"』

  • 8月16日(木) 埼玉・サンシティ越谷市民ホール
  • 8月17日(金) 神奈川・神奈川県民ホール
  • 8月19日(日) 愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 8月24日(金) 福島・けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター) 大ホール
  • 8月25日(土) 山形・シェルターなんようホール(南陽市文化会館) 大ホール
  • 8月31日(金) 宮崎・日向市文化交流センター 大ホール
  • 9月2日(日) 鹿児島・鹿児島市民文化ホール 第一
  • 9月9日(日) 石川・本多の森ホール
  • 9月14日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
  • 9月15日(土) 兵庫・たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール 大ホール
  • 9月17日(月/祝) 香川・サンポートホール高松
  • 9月21日(金) 福岡・福岡市民会館
  • 9月24日(月/休) 島根・島根県芸術文化センター「グラントワ」 大ホール
  • 9月28日(金) 三重・三重県文化会館 大ホール
  • 9月30日(日) 山梨・コラニー文化ホール
  • 10月4日(木) 東京・東京国際フォーラム ホールA
  • 10月8日(月/祝) 新潟・新潟テルサ
  • 10月12日(金) 大阪・フェスティバルホール
  • 10月13日(土) 大阪・フェスティバルホール

チケット料金 前売り/全席指定 ¥7,500(税込)
今井美樹 Concert information: http://www.imai-miki.net/

映画『終わった人』公開情報

2018年6月9日ロードショー

監督:中田秀夫
出演:舘ひろし、黒木瞳、広末涼子、臼田あさ美、今井翼、田口トモロヲ、笹野高史
原作:内館牧子「終わった人」(講談社刊)
配給:東映
(c) 2018「終わった人」製作委員会

映画『終わった人』オフィシャル http://www.owattahito.jp/

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