HIGHFLYERS/#53 Vol.3 | Jun 2, 2022

ロックの中で何かやっても、結局それはロックで終わってしまう。常に真逆の発想をして、本流に行き過ぎないことが大事

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka

プロサウナー“ととのえ親方”こと松尾大さんインタビュー。第3回目は、サウナムーブメントの渦が大きくなっていったプロセスをお話ししてくださいました。TTNEを設立した親方と秋山大輔さんのお二人は、どのような発想でサウナをリブランディングしていったのか、それをどの世代にどのように訴求して広げていったのかなど、他のビジネスにも参考になるようなヒントをいろいろいただきました。また、今まで親方が経験された究極のサウナ体験と、最高のサウナ体験もお話してくださいました。
PROFILE

プロサウナー ととのえ親方

札幌在住。福祉施設やフィットネスクラブを経営する実業家にしてプロサウナー。世界各地のサウナを渡り歩き、アリゾナの山奥で単身5日間断食断水後のサウナを経験。その後、海、川、湖、滝、なんと流氷まで水風呂がわりにしてしまうナチュラル派プロサウナーの道へ。 札幌を訪れる経営者や著名人をサウナに案内し、“ととのう”状態に導いてきたことから“ととのえ親方”と呼ばれるように。 2017年にはプロサウナーの専門ブランド「TTNE PRO SAUNNER」を立ち上げ、’19年2月には友人の医師らとサウナの最適な入り方を提唱する「日本サウナ学会」も設立した。 著書に『Saunner BOOK』(A-Works)、本田直之氏との共著『人生を変えるサウナ術』(KADOKAWA)がある。

おじさん世代のものだったサウナを、影響力のあるYouTuber達が大多数の若者達に届けてくれた

サウナにずっと関わってこられた親方から見て、 最近の世の中のサウナに対する熱はどう感じてますか?

僕も秋山も、渦の中にいて、渦の真ん中から作っていったのを感じています。流行を先取りしたとかじゃなくて、作れたっていう感覚のほうが近いかな。それがすごく楽しかったし、ムーブメントってこういう風に起きていくんだっていうのが実感できたから面白かった。

渦が大きくなった瞬間は覚えていますか?

まず T シャツを作った時。ギャグで 3月7日はサウナの日で既に登録されているから、11月11日はととのえの日って協会に申し込んで設定しちゃおうってなって、11月11日の記念日にTTNE っていうブランドをローンチしてT シャツを出しました。そうしたら、ファッションスナップさんやハニカムさん、WWD さんとかが取り上げてくれて。ファッション界の錚々たるメディアが、Supremeのパロディを堂々と載せるのっておかしいじゃないですか。

つまり、TTNEはファッションから入ったのですね。

一番のポイントはそこですね。今までスポーツだとサーフィンやランニングやヨガのブランドがありましたけど、有名なファッションメディアっていろんなカルチャーからブランドが派生するところの根源を常に見てきているんですよ。僕らがサウナのブランドとして、もしも旅行雑誌とか温浴施設とかに訴求してたら、絶対にこのブームって起きてなかった。最初に全然違うところから行くのがいいんです。

なるほど。興味深いです。

真逆をぶつけるっていうのは僕らはよくやっていて、サウナのイメージがおじさんだったから、おじさんじゃない対局にいる綺麗なモデルのお姉さんとか、若い女性に訴求した。あとはサウナ=ダサいおじさんのイメージがあったんで、それだったらおしゃれなファッションの正統派の方に行っちゃうとか、他にもサウナと建築デザイナーのコラボなんてそれまでなかったんで、建築の雑誌にサウナをぶつけてみたり。あとはサウナとYouTuberとかね。要するにダサかったサウナを、人から憧れられてる層と僕らはくっつけていった。

そういう逆の発想は昔からずっとあるんですか?

ずっとある。その本流に行き過ぎないというか、ロックンロール全盛期のヒップホップみたいな、当時のロックンロールの人たちから見たパンクとかヒップホップはどういう存在だったのか考えるというか。そうじゃないと絶対に新しいものって生まれないですよね。ロックの中で何かやっても、結局それはロックで終わっちゃうから。それを僕たちはサウナで作れたというか、訴求できたのが面白かった。あの頃って、サウナがTwitter 層だったのをインスタ層に持っていった時期で、2014年くらいに週間モーニングの「マンガ サ道」の中で、タナカカツキさんが「ととのった」っていう表現を使ってブームが作られていったんですけど、週刊モーニングの層の人達って40代から60代のサラリーマンの男性が多いわけで。僕もサ道が大好きでもちろん影響もされてきたけど、そこに影響されたからって僕らがそこに行っても、そこはカツキさん達がしっかりすでにムーブメントを作られていたんで、僕らはそこでは作れないし。自分たちと違うからね。

つまり、自分たちの新しい場所を見つけたんですね。

それから女性誌とか、テレビやメディアも僕らのことを取り上げてくれて、その後にYouTuber たちが来た時はすごかった。それまで僕らは、 「人生を変えるサウナ術 なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?」っていう本を出して3万何千部売れて大喜びしていたわけだけれど、YouTuberの20代の子達が、サウナのことをやったら一瞬で300万人とか1000万人とかに届くわけですよ。僕たちは一生懸命やってきたけれど、もう手に負えないというか、彼らが来た瞬間に全く変わるんです。届かせられる能力が違うから。

すごいですね。

昔のテレビの何倍もの影響力があって、その彼らは僕の本とかを読んでくれてて、コムドット やまとってYouTuberから「親方ちょっと会ってくれませんか?」って連絡が来たり、はじめしゃちょーは一緒にテレビ番組に出てもらったり、他にもチャンネル登録者数が300万人くらいいる、くれいじーまぐねっとという女の子3人組とかも、ちょっとやれば若い子たちにドーンって届いちゃうんですよ。最近はYouTube がないと20代とか10代には届かない。多分彼らが届けてくれてる、僕らじゃないな。

いいですね。ところでこれまでいろんなサウナに入ってきて、衝撃体験ってありました?

アリゾナの山奥で体験したサウナかな。行く前にスウェットロッジというサウナに入って、5日間山に放出されて、終わったらまたサウナに入るっていうので、あれは一番キツかった。本当に屋根も壁もないところで、飲まず食わずでずっと山の中に5日間1人きりでただ座ってた。鳥が自分を狙って旋回してたり、夜中コヨーテの群れが喧嘩してたりして超怖かった。5、6 キロ痩せて、自分の体が体内の栄養をご飯のように食べていくのがわかる。1日分のカロリーを体内の脂肪から摂る状態が5日間続くの。それが終わってサウナに入った時は、すごいよね 。まず汗が全然出ない、もう体の中に何もないから。

アリゾナの山奥で体験した究極のサウナ。タバコの葉を包んだテルテル坊主のようなものを400個作り、今まで出会った400人の人に感謝する(写真左)。そのテルテル坊主を木の下に置き、5日間いる場所に結界をはる(写真中)。終了後、下山してサウナに入る(写真右)

想像を絶します。終わった後、思考とか変わりました?

変わる。ギラギラした感じで、飢えた動物みたいな感じになるよね。

親方だけでなく、他の人も同じようにギラギラするんですかね?

すると思うな。まあギラギラするか、死ぬかだと思うけど(笑)。普通サウナに入ったら汗が出るけど、すごい暑いのに体の水分がないから汗が出ない。でもネイティヴアメリカンのシャーマンが焼いた石に水を掛けた時に、ロウリュに含まれた蒸気を吸ったら、肌も汗腺が開いて、口からだけでなくて皮膚からも体内に水分を入れようとしてる、植物みたいな感じになった。鼻から蒸気を吸ったら、久々に湿気のある空気の中で水を飲んでいるみたいな感覚もすごかった。汗を出すサウナじゃなくて吸うサウナ。面白かったけど、中には本当に死んだやつもいるって。あれは究極のサウナ体験かもしれないね。

最高のサウナ体験と究極のサウナ体験は同じですか?それとも違いますか?

今のサウナ体験の話って、達成感の中では最高だったし、すごい体験だったけど、最高のサウナ体験っていうとちょっと別かもしれない。日常にないものだから、やっぱりフィンランドに初めて行って、入ったサウナは最高の体験だった。

やっぱりフィンランドは違います?

フィンランドにスモークサウナっていうのがあるんですよ。スモーキーな臭いがすごいして、真っ暗で、煙突がないサウナ部屋の中で凄い量の石を薪を焚べて焼き続けるんですね。壁や屋根とか石とかに熱がまんべんなく行き渡って、余熱で何時間か経ったサウナに入るんですけど、例えるなら、祖父母のようなサウナなんです。祖父母の布団の中にいるみたいな。子供の頃、静内ってところの実家でじいちゃんが炊いていた薪の風呂の匂いがしてくるような、懐かしい感じ。その香りとか、木が燃える匂いとか、人間の遺伝子にこびりついてるようなものがあるとすれば、そこには全部ありました。あれが最高かもしれないな。

フィンランドのスモークサウナ

そう言えば、親方の本の中で、色んなサウナの水風呂に入ると、硬水か軟水かがすぐわかるって話をされていましたが、どういう風に違うんですか?

硬水と軟水を横に並べて入ったら全然違う。軟水のほうが滑らか。この前びっくりしたのが屋久島にSankaraっていうホテルがあるんですけど、そこの水は全部かけ流しの水で、塩素も入ってなくてすごくいいんです。そこにでかい水風呂プールがあって、もう入った瞬間にトゥルンって。

屋久島のSankaraで入った水風呂プール

どちらがサウナには良いとかあるんですか?

ビールだったら黒ラベルかスーパードライのどちらを選ぶかみたいな違いで、ちょっとキリッとしたスーパードライもいいし、黒ラベルのちょっとコクっぽい感じもいい。だから軟水も硬水も本当にどっちも良くて、それぞれの楽しみ方があるなって。

ところで親方はいつもポジティブな印象ですが、今まで失敗やくじけそうになったり、もうもうだめだと思ったことってありますか?

めちゃくちゃあるけど、1日経ったら大体いつも忘れる(笑)。 まあその時はどうにかやるしかねえなって。サウナの施工とかも最初はやったことなかったから、あまり工事がうまく進まなかったりすると、オープンに間に合うのか心配になって、めっちゃ胃がキリキリしたけど。本当に口内炎がいっぱい出たな。でも、人間って1年前の悩み事なんて一つも覚えないんだから。

なるほど、ご自身で自分のことをどういう性格だと思いますか?

明るいなぁと思うね。それに幸せそう。自分のことを客観的に見てもそう思う。

次回へ続く

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