HIGHFLYERS/#52 Vol.1 | Mar 3, 2022

悩んだ末に覚悟を決めた、東京パラリンピック閉会式のクリエイティブディレクション。終えてみて、自身の中で感じた問題や改善点

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Web: Natsuyo Takahashi

今回HIGHFLYERSにご登場いただくのは、演出家の潤間大仁さん。潤間さんはこれまで、「Precious SKY FASHIONSHOW feat. GUCCI」(第1 回JACE イベントアワード 広告インパクト賞を受賞)や、東京 2020 パラリンピック競技大会閉会式のクリエイティブディレクション、また、明治神宮外苑 聖徳記念絵画館及び総合球技場軟式球場を舞台に初開催された光の祭典「TOKYO LIGHTS」、世界全3都市で行われた未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」など様々なイベントの演出を手がけてこられました。しかし今までは、演出家としての輝かしいキャリアを表舞台で語ることはほとんどなく、裏方としての仕事に徹するためにメディアへの出演はできる限り控えてきたそうです。今回は貴重なロングインタビューをさせていただくことができました。幼い頃のことから演出家としてのキャリアを進んできた半生について、エンターテインメント業界が抱える問題、仕事に対する向き合い方などについても、稀有な意見や考えをたくさん伺うことができました。第1章は、最近携わった演出の仕事についてを中心に、潤間さんが個人的に行った興味深いイベントのお話などもお聞きしています。
PROFILE

演出家 潤間大仁

シンガポールやサウジアラビアなど、世界中で開催される日本の伝統花火とテクノロジーを融合したエンターテイメントショー「STAR ISLAND」の総合演出を務め、2019年のシンガポール開催では、500機のドローンと花火の競演を実現させ、50万人を熱狂させた。生のパフォーマンスとテクノロジーを融合した、没入感溢れるダイナミックなマルチメディア・エンターテイメントショーを得意とし、アーティストライブ、オリジナルショー、プロモーションイベントなど幅広く活躍している。2015年、「Precious SKY FASHION SHOW feat. GUCCI」は「第1回JACEイベントアワード 広告インパクト賞」を受賞。 2017年、「未来型花火エンターテインメントSTAR ISLAND」は、内閣府主催「クールジャパン・マッチングフォーラム2017 審査員特別賞」を受賞。2020年、500機のドローンを使用した夜空のスペクタルショー「CONTACT」は「第6回JACEイベントアワード 最優秀賞・経済産業大臣賞」を受賞。2021年、東京 2020 パラリンピック競技大会閉会式では、クリエイティブディレクターとして演出チームに参加。

東京オリ・パラ後に初開催された有観客イベント「TOKYO LIGHTS」では、みんなで前を向いて新たなる一歩を踏み出していこうと、心一つにして頑張れた

潤間さんは演出家として多くのイベントの演出を手がけてこられましたが、今までそれについて語ることは敢えてされてこなかったそうですね。

僕が携わっているイベントやショーは、企業広告から派生するイベントと、アーティストライブやスポーツなどの興行イベントなど、大きく2つの領域に分けられます。例えば「Precious SKY FASHIONSHOW feat. GUCCI」は広告イベントで、「STAR ISLAND」は興行イベントになります。「TOKYO LIGHTS」は両方の要素があり、海外に対しての東京のブランディングとしては広告であり、いずれインバウンドとしての経済効果を目指す興行イベントになります。どちらも、演出家は裏方の一人として、プロデューサーやクライアントと共に作り上げるものなので、僕一人でのインタビューや、作品を語るみたいな場は避けていました。もちろん僕なりの仕事においての哲学や手法、表現においての自分らしさはあると思うのですが、それは敢えて僕から発信をして知って欲しいことではありません。

それは潤間さんが大切にされている美学でしょうか?

美学というとちょっと偉そうですが、10年前の35才あたりから演出家として大きな案件に関わる仕事が増えてきて、その都度、最大限のことは努め、幸い評価もいただけていますが、個人的には常に満足はしていませんでした。演出家としては、クリエイティビティや感性はもちろん大事ですが、それを実現するための経験、技術、手法、また、チーム編成が大事だと思っています。そういった部分で自分なりの修業期間を10年と設定し、45才までには自信と自負が持てるようになりたいと思って活動してきました。去年45才になり、僕自身としては演出家としてはまだまだだと思っていますが、表に立って責任をきちんと受けることも必要なことかなと思い、機会をいただけるのであれば、これからはそういうことも大事にしていきたいと思っています。

水面下で動いているプロジェクトが多いでしょうから、お話しできないことも多いと思いますが、ここ最近で携わったイベントについてお聞かせいただけますか?

昨年末の「TOKYO LIGHTS」や、あとは東京パラリンピックの閉会式でしょうか。パラリンピックに関しては、コロナ禍での開催で有観客か無観客かも議論の最中だったうえに、時間も迫っていたので、実は受けるかどうかは正直すごく悩みました。でも、僕自身のこれからのキャリアを考えた時に、あくまでもここは通過点だと捉えて、どんな結果が出てもやりきるしかないという覚悟で臨むことにしました。それに、日本のイベント、エンターテイメント業界の今後を考えた時に、自分が実際に身を以て良いことも悪いことも体験しなければ、その後の課題や問題点がわからないとも思ったんです。

なるほど、色々急な展開だったんですね。

本当に急でした。でも実は、僕はオリンピックの方でも競技会場や競技演出などで携わっていたんです。試合前、観戦中、試合後に観客が帰るまでの一連の流れの中で、オープニングショー、ハーフタイムショー、参加型ゲームコンテンツなど沢山の企画をどう進行するか、また、競技演出だと、どんな演出で選手が登場すると会場は盛り上がるのか、かっこよく見えるかなど、そういった演出の方向性、指針を決める部署のアドバイザーとして入っていました。なので、コロナが起こる前から、競技制作の方達とほぼ缶詰状態で、競技ごとの特性や会場環境、そして日ごとに違う予選、決勝、表彰と全日程のプログラムを見ながら、こういう風にできたらいいんじゃないか、どんな機材が必要かなどを考えたり、実際に全競技会場を観に行ったりしていたんです。開閉会式はもちろん注目されますが、一番の主役はやはりアスリートとそれを応援する観客だと思うので、これまでに無い会場での体験作りや、今後の日本スポーツ界のエンタメ性を向上するきっかけを作れる、とてもやりがいのある仕事でした。

左:国立競技場にて/ 右:映像監督、振付チームと

最終的に、潤間さんが考えていたことは実現できました?

閉会式セレモニーの評価を僕自身は出来ませんが、沢山の諸条件がある中で、関係者、演出チーム、出演者、全員が少しでも良くしようとギリギリまで戦い、最大限のベストを尽くしたとは自信を持って言えます。ただ、日本人と海外からの観客が一緒に観戦に湧き、応援し、感動を共有している姿は見たかったので、有観客を前提とした企画やショーが日の目を見ずに中止になったのは残念に思います。

やってみて、身を以て経験して感じたことは何かありましたか?

そもそも日本は、これまでに世界に向けてエンターテイメントイベントの発信をして来なかったと思いますが、いよいよ本当のグローバル化に向けてこの状況から脱却をしなければいけないタイミングが来ているということです。今までドメスティックな文化で成り立っていた日本のイベントやショーにおいては、ディズニーランドやUSJの様なテーマパーク、ブロードウェイミュージカルやシルク・ドゥ・ソレイユ、モーメント・ファクトリーなど、グローバルに展開できるイベントが生まれる機会が少なく、それらのコンテンツを国内に誘致、もしくはライセンシーとして展開しているケースが多い。そういった視点では、日本と海外のクリエイターに能力の差はあるとは決して思いませんが、海外において勝負するという経験の不足は否定できないと思います。これからの日本では、インバウンドや地方創生となる観光イベント、世界に輸出できるコンテンツが求められると思うので、世界レベルと現状の日本レベルの差を生んでいる原因を、プロデュースする側も、クリエイターも一緒に考える必要があると思います。もちろん、ビジネスとして成立させることも必須です。

日本が世界に発信する様なイベントを作れない原因は、具体的にどういうところにあるのでしょうか?

まず、世界レベルの演出を日本で実現するためには、法律やルール自体が変わらないと実現が難しいことが多いです。スポーツエンターテイメントの最高峰としては、アメリカ全国民が注目するようなNFLスーパーボウルのハーフタイムショーがあります。予算の違いによるスケール感はもちろんですが、日本では実現できない演出手法が多くあるんです。なので、技術開発において、その機会も必要性も感じない日本はかなり遅れを取っています。日本は、言語を超えて感動を共有できるエンターテイメントの醍醐味を伝える技術、表現方法、パフォーマンスレベルがもっと必要ですし、ストーリーやコンセプト作りにおいては、文化や歴史的背景、人種、宗教的なことへの理解や知識もクリエイターには求められます。経験は最終的に自信につながるので、そういった機会さえ徐々に増えていけば、才能ある若手のクリエイター達が、日本から世界へ届けられるエンタメは生まれると思います。

東京オリンピック、パラリンピックのあとは、有観客の大規模イベント「TOKYO LIGHTS」の演出をされましたね。

はい。コロナ禍でどういう状況になるかも分からなかったけど、また人に来てもらえるイベントを作れる機会を得られたことは、すごくやりがいがあって楽しかったですね。信頼するクリエイターの人たちが手を取り合って、東京、日本、しいては世界中もみんなで前を向いて未来を見て、新たな一歩を踏み出していこうというコンセプトで作った企画でしたので、心一つにして頑張れたと思います。

コロナ禍において、この1、2年で潤間さんの中で気持ちの変化みたいなものはありましたか?

オリンピック・パラリンピック、またコロナという世界規模の災害をきっかけにして、日本における政治、地方行政、経済、様々な領域において、本質的な問題が明るみになりましたよね。エンターテイメントも、不要不急の議論の中で、その必要性さえも問われました。その時に思ったのは、日本においてのエンターテイメントは、アーティストライブやテーマパークくらいの認識しかないので、先ほど話したように、ラスベガスやブロードウェイの様な、その都市に対して大きな経済効果を生む一つの観光産業には至っていないのと、貢献できるレベルのコンテンツが無いのが原因の一つかなと思いました。

何か問題解決策はありますか?

これから求められるイベント、エンターテインメントとしては、国内だけで観光客をまわすような地方創生は難しいからインバウンドに期待されていますけど、では実際に海外の人にどういうものだったら興味を持ってもらえるのか、どうしたら作れるのかを真剣に考え、今までの検証と議論をしなければいけないタイミングだと思います。例えば、シドニーで行われている「Vivid Sydney(ビビッド・シドニー)」という光と音楽の祭典イベントがありますが、13年前の初開催時は小規模ないちローカルイベントでしたが、今では3週間で200万人以上が世界中から訪れる、都市全体が会場化する規模にまで成長しています。そういうビジョンを持って、5年、10年かけて、TOKYO LIGHTSも成長できたらと思います。

ところで、潤間さんが最近行ったイベントで何か気になったものがあれば教えてください。

「MUTEK Japan」という電子音楽とデジタルアートの祭典イベントのプロデューサーの竹川さんと、レーザーアーティストのYamachangと3人一緒に、年末から年明けにかけて全国各地のイベントにいろいろ行きました。横浜で開催された「ヨルノヨ」や「ボールパークファンタジア」、また神戸の「メヤメヤ」というイベント、香川、高知などを巡り、桂浜だったらこんなことやりたいと話したり、イベント名を考えたり、想像してアイデアを語り合ったりしました。その道中で岡山県の山頂で初日の出を観て食べるという儀式的なことが行われているという情報を聞いて、是非体験してみたいと思い、急遽大晦日の前日に岡山にも行きました。

初日の出を観て食べるんですか?

山の頂上に上がってきた初日の出を、口を開けて食べるという儀式みたいなことをするんです。神主さんが祝詞のような、日々の感謝などを言っている間に、どんどん太陽が昇ってきて、それを自分の体内に取り込むイメージをしながら頂くみたいな、少しスピリチュアルな感じの儀式でした。自然も人間も全てはお日さまから発せられるエネルギーで命を授かっているから、それを体内に取り込みましょうというようなことですね。日本にはもともと初日の出を観に行く風習がありますけど、意識的にそういう見方を持つと、よりパワーも感じられて、すごく良い体験ができました。

自分もそこの一部になっているように感じられそうですね。

そうですね。自然とエンタメは近いというか、自然が創り出す奇跡的な現象を疑似体験、再現しようとしているのがエンタメかもしれません。参加して、演出のヒントみたいなことも得られたと思います。日本の神事はエンタメ手法の根源的な部分がたくさんあり、同じ場所で同じ時間を共有して連帯感を持つというような、エンターテイメントの醍醐味と同じ感動をこの儀式でも味わえました。今回の体験の様な、理屈ではない感情が揺さぶられるような体験ができるイベントを沢山作れたらなって思います。

次回へ続く

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