HIGHFLYERS/#52 Vol.3 | Mar 31, 2022

経験したことが将来何に結びつくかは全くわからない。今までの出会いは全てに意味があり、自分を変えてくれた

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Web: Natsuyo Takahashi

潤間さんインタビュー第3回は普段から心かげていることや、これまでの人との出会い、日本のエンタメ業界が持つ課題などについてを伺いました。興味があったことをいろんな角度から体験したことが、今の仕事に大きく繋がっていったと語る潤間さん。何事もまずは体験してみることがとても大切なことをお話ししてくださいました。また、日本のエンターテインメントがこれから世界的に評価されるには、どのような課題をクリアしていかなければならないのか、切実な現場の意見も聞かせてくださっています。
PROFILE

演出家 潤間大仁

シンガポールやサウジアラビアなど、世界中で開催される日本の伝統花火とテクノロジーを融合したエンターテイメントショー「STAR ISLAND」の総合演出を務め、2019年のシンガポール開催では、500機のドローンと花火の競演を実現させ、50万人を熱狂させた。生のパフォーマンスとテクノロジーを融合した、没入感溢れるダイナミックなマルチメディア・エンターテイメントショーを得意とし、アーティストライブ、オリジナルショー、プロモーションイベントなど幅広く活躍している。2015年、「Precious SKY FASHION SHOW feat. GUCCI」は「第1回JACEイベントアワード 広告インパクト賞」を受賞。 2017年、「未来型花火エンターテインメントSTAR ISLAND」は、内閣府主催「クールジャパン・マッチングフォーラム2017 審査員特別賞」を受賞。2020年、500機のドローンを使用した夜空のスペクタルショー「CONTACT」は「第6回JACEイベントアワード 最優秀賞・経済産業大臣賞」を受賞。2021年、東京 2020 パラリンピック競技大会閉会式では、クリエイティブディレクターとして演出チームに参加。

経験したことが将来何に結びつくかは全くわからない。今までの出会いは全てに意味があり、自分を変えてくれた

ご自身を変えた人や言葉との出会いを教えてください。

今までの出会いには全て意味があったと思っているタイプなので、誰か一人に強烈に影響を受けたというよりは、仕事でもプライベートでも出会った人皆から成長するきっかけや気づきをいただいて、すべての出会いが自分を変えてくれたと思っています。

座右の銘や、日頃から肝に銘じている言葉はありますか?

肝に銘じると言ったら大袈裟かもしれませんが、意識しているとしたら好きなことを出来る限り精一杯楽しむ、実際に体験するということでしょうか。サンフランシスコに留学していた時は、色んな特技や趣味を持った友人が周りに沢山いたので、自分が知らない分野にも興味を持ってチャレンジしていましたし、価値観が違う外国の友人とも積極的に交流していました。当時は今のような仕事をするとは思っていなかったですが、毎週ライブハウスに通い地元のバンド音楽を楽しんだり、自主制作映画的なことを作ったり、映画、演劇、ブロードウェイミュージカルやシルク・ド・ソレイユなども、同じものを何回も観に行ったりしてました。今思うと、当時のアメリカのエンターテイメントを感覚的に思いっきり吸収していたと思います。

大好きなミュージカルには何度も足を運んだ

ミュージカルや舞台などのエンターテイメントはもともと興味があったんですか?

全くなかったです。ミュージカル好きの友達がいて一緒に観に行って好きになりました。当時は高いチケットは買えないので、まずは後ろの方の安い席で観て、お金を貯めて次は良い席で観るんです。2階席の後ろで観た時と、汗まで見えるくらい近くの席で観た時と、さらにドレスアップして全体がよく見えるVIP席でちゃんと観た時と、同じ作品を3回観ることで、それぞれの席から得る感動の違いを体験できました。あと、キャストが変わると作品は全く違う印象になるということも知りました。それが今、仕事で演者さんたちのキャスティングや演出をする時に役に立っていると感じるので、将来何がどう結びつくかは全然わからないですね。

面白いですね。では、ご自身では自分のことをどんな性格だと思っていますか?

頑固で短気です。小中の時は短気を直しなさいと先生には言われていました。自分では基本はすごく頑固で短気で根暗だなあと思ってます。あまり社交的でもないですし、どちらかと言ったら内気です。

頑固で短気ということは、仕事においても、自分がこうと思ったらそれを貫くんですか?

イベントの制作は満足いく期間をもらえないことが多く、時間や予算をいかに有効的に使うかが勝負になってくるので、自分が短気であることが有利に働いて、効率や合理的な方法を考えられているのかなとは思います。また、頑固ではあるけれど、人の意見を聞くのは好きなので、手法において自分が間違っていると思えば、すぐに方向転換できる器用さもあります(笑)。自分の中の核は勿論ぶらさず、その上で取り入れられる意見や思いは、出来る限り広く受けようと心がけています。

「Precious SKY FASHION SHOW feat. GUCCI」の演出を手がけた時、シルク・ド・ソレイユの技術者に相談するために 自らラスベガスに行った

これまでの活動において、最も嬉しかったことを教えてください。

STAR ISLANDをシンガポール、そしてサウジアラビアの建国記念日に開催した時でしょうか。シンガポールでは現地の方だけでなく、観光でマリーナベイを訪れた多くの海外の方にも観ていただきました。終演後、鳴りやまない拍手が演者達に向けられた時は、安堵と感動と、そして自信にもなりました。その後サウジアラビアで開催した時は、海外文化が徐々に解禁になり始めた頃で、ほとんどの方は日本人を初めて見たでしょうし、初めて聞く音楽、日本の花火体験だったと思います。欧米人より大きなリアクションで楽しんでいる様子や、小さいお子さんが目を輝かせている姿には本当に感動しました。また、現地の伝統芸能の方たちにも出演頂いたのですが、日本文化と現地の文化を融合させる事が出来たのも貴重な体験になりました。

今までにないような新しいものを生み出すために日頃から努力していることや気にかけていることはありますか?

今までにない新しいものと言っても、基本的には元ネタはあるというか、本当のオリジナルなものは世の中にないと思うので、そういう意味では、日本に限らず伝統芸能、文化、歴史、アートなどには常に触れていようと思っています。僕の仕事は、仕事により目的は違えど、結局は人の感情をどう動かすかということに尽きるので、自分自身がいろんなことを体験して、自分の中に色んな種類のモノサシを作ることは大事だと思います。そのモノサシの種類を増やしたり、精度を上げるためにも、できる限りの感動体験をするよう努力しているかもしれないですね。

年末に岡山や高知に行ったのもそのうちの一つですか?

そうですね。まず自分でいろんな感情の発見をしないと、同じような気持ちを作ることはできないと思うので。喜怒哀楽の感情にはいろんな種類があるから、できるだけ多く知るためにも、そのきっかけとなるクリエイターやアーティストの作品だったり、本来の自然が持っているものにもいっぱい触れてみるのは重要かなと思います。

今まで行ったイベントや舞台などで、一番感動したものは何ですか?

そのように聞かれると、やっぱり自然には勝てないなと思ってしまうところはありますね。前に話した初日の出を食べるイベントで、寒い中で太陽が上がってきて、それまで寒かったけど陽が当たる額がうっすら温かくなってくる、そんな感動はなかなか人工的には作れないですよね。最先端のテクノロジーもどんどん取り入れたいとは思ってるんですけど、やっぱり自然の力や美しさにはなかなか近づけられないです。一方で、人間も自然の一部ではあるので、人から発するエネルギー、パワーみたいな物も欠かせないと思います。比べるものでもないと思うので、自然の本質の部分をどういう風に再現して、近づけていくのかを模索していく感じですかね。

まだ挑戦していないことで、やってみたい演出方法とかありますか?

たくさんありますが、あらゆるルールが原因でやりたいことができないことが多いです。屋外にしても屋内にしても、法的なルールもあるので、なかなか個人の想いだけではどうにもならないこともあります。これはエンターテインメントのコンテンツの話だけではなく、行政から変えていかないといけない部分もあるので、そのルールの中でどうやって最大限実現するかを考えていくことが課題ですね。同時に、ルールをアップデートしていく方法や道筋を作れたら良いなと思っています。

ハード面が課題だとすると、日本のエンターテインメントが世界と対等になるのも大変ですね。

エンタメのソフト作りにおいては、日本のアニメやゲーム、映画、音楽など、独自に進化した分野もあって、海外にも多くのファンが広がっているので、劣っているとは決して思いません。ただ、イベントやショーの分野においては、停滞している気がします。これから日本がエンターテインメントで世界に注目される国を目指すなら、国や自治体、企業、そしてアーティストやプロのクリエイター達の連携が、より求められると思います。都内でも地方でも、インバウンドを目標に掲げているにも関わらず、実現できていない理由を真剣に議論し、解決に向けて道筋を作ってかなければならないと。僕もプロとして、日本から海外へのエンタメの輸出、また日本に訪れる方が増えるようなイベント作りを目指して、全ての仕事に携わっていきたいと思っています。

日本が見習うべき海外の国はどこだと思いますか?潤間さんから見て、その国のどういう点が優れていますか?

ショービジネスや、フェス、アートイベントなどにおいては、アメリカ、カナダ、イギリス、オランダなどかもしれませんが、見習うべきは、コンテンツというよりは、ビジネスのスキームだと思います。これまでの日本国内での需要をメインにしてきた方法での限界が近づいている今、新たな日本独自の方法が作れるのではないかと思っています。

次回へ続く

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