サウナ室が後進国の日本のサウナは、未来の可能性に満ちている。サウナに入りながら野球観戦できるスタジアムも建設中
ととのえ親方は、普段はどのようなお仕事をしていらっしゃるのですか?
こじんまりと小さい会社を7社、8社ぐらい持ってます。出資してる会社は他にもあるんですけど、これがメインっていうのもなかなかなくて。サウナはTTNE株式会社っていうサウナの会社があります。
逆に言うと、TTNE株式会社だけがサウナの会社で、あとはサウナは全然関係ないんですか?
関係ない。特に親の地盤はないので、僕が全部やりたくてやってるんだけど、例えば飲料の輸出入の会社とか、子供にプログラミングを教える会社とかをやってます。あとは体を動かすのが好きだからフィットネスクラブをやってみたり、障害のある人たちに何かできることはないか考えて、彼らを雇用して一般社会で活躍できるように育成する福祉施設と職業訓練の事業所をやったり。福祉施設は、事故で障がい者になってしまった人と一緒に、ハーレーでアメリカを横断したことがきっかけでした。実はその旅は、ひょんなことから「DON'T STOP! 」という映画と本にもなったんだよね。
すごいですね。分野は違えど、それぞれの会社に共通してることって何かありますか?
フィットネスクラブも、サウナもそうだけど、全部人が携わってちょっといい感じになってくれるし、それをやることで誰かがハッピーになるじゃない。僕は今、自分がサウナに入る方から、人をサウナに入れる方になってるんだけど、入れる方は入れる方でめちゃくちゃ楽しい。サウナ入れるプロだから(笑)。
サウナをお仕事にした最初のきっかけを教えてください。
まずきっかけは小橋賢児。彼のなかで僕は“北のサウナーで有名なやつ”だったので、関東で一番有名なサウナーの(秋山)大輔と僕を会わせたいってなったんですよ。僕も彼のことは聞いたことあったし、お互い会ってみたかったけど、サウナー同士が会うってなんか変じゃない、ただサウナ入るだけだから(笑)。それで結局、大輔が別件で札幌に来た時に、ジンギスカン屋でご飯を食べたんです。そうしたら、それまでサウナの話をたくさんできる友達っていなかったのに、「今どこのサウナに行ってきたの?」「ニコーリフレに行ってきた」とか、サウナの話をとことんできて。サウナ行ってからジンギスカン食べに来るってさすがだと思っていたら、その後にもう1回サウナ行こうってなって。当時は、1日に2度サウナとか3度サウナって、「気が狂ってるのか?なんでそんなサウナに入るんだ」みたいな感じで、ありえなかったんですよ。
素晴らしい出会いでしたね。
そうしたら、またしばらくして小橋賢児から「コペンハーゲンに行くから一緒に行かない?」って電話が来たんですよ。「大輔は行かないの?」って聞いたら、フィンランド周ってからコペンハーゲン行くんだったら行きたいって言ってるって。それでみんなでフィンランドで現地集合して、そこから僕と大輔と2人でフィンランド、デンマーク、スウェーデン、ドイツ、エストニアとかいろんな国を回って、北欧のサウナ文化を一緒に体験したんですよ。
ととのえ親方と“サウナ師匠”こと秋山大輔が、北欧のサウナ文化を体験するべくフィンランドやデンマークなどの国を巡った
北欧のサウナ文化はいかがでしたか?
やっぱり違うよね。日本はサウナに対するイメージが悪すぎるねってなりました。それで、 俺らサウナにもらってばっかりだから、マジで恩返しすっかみたいになって(笑)。そうやってゲラゲラ笑ってたんだけど、次第にサウナのリブランディングをしていきたいという真面目な話になり、何ができるかわからないけど何か作ろうって。結局T シャツ一枚から始めようってなりました。それで、当時ネットオークションで10万とか15万になっていたSupremeの T シャツを“Saunner”ってパロディにして1枚5500円で売ったんですよね。パロディなんだけど、マジのギャグだったから恥ずかしくなく着れたんです。
なんと!このサウナブームはTシャツ1枚から始まったんですか。
それが2016、17年。最初は手売りしてたんですけど、面倒くさくなっちゃって、 EC サイトを立ち上げました。そこから今度はコロナビールさんから連絡が来て、ビールって夏は売れるけど冬は売れないから、サウナをフックにした広告を作りたいってなって。
すごい展開ですね。
僕が洞爺湖にテントサウナを作って映像を撮ったことがあったんですけど、その映像をコロナビールさんが観ていて、あそこでモデルさん達がサウナに入って水に飛び込んでビールを飲んでいる映像を撮りたいってなったんです。そうこうしてるうちに会社を作った方がいいってなって。それで作ったのがTTNEっていう会社です。
本当に面白いですね。ところで、日本はサウナ後進国ですか?
サウナ施設は超先進国。こんなにすごいところはない。だって、漫画もあるし、なにしろスーパー銭湯が凄すぎる。だけどサウナ室の中だけは後進国。ガラパゴスだったし、もちろんオートロウリュウという仕組みとか、風を送るとか、今はちょっと出てきているけど、基本的にずっと何にも変わってない。サウナ室にデザインなんてなかったし、「あのサウナ室に入りたい」って思えるようなものって今まで見たことがない。 知識もなければ、サウナのデザインをする人なんていなかったから、誰も手を入れてこなかったし、入れられなかったのもあるかもしれない。図面を渡されて、「ここサウナ、あとはやっておいて」みたいな感じで、建築界の中では一番末端だった。サウナはお風呂の中の付帯設備の一つで、特にそこにクリエイティブとか何も入れる必要はないから、できるだけ安くやってみたいな扱いだったんですよね。
親方の仕事は、そういう位置付けだったサウナを蘇らせるというか、そこにスポットライトを当てていくお仕事ということでしょうか。
そう。オーナーの人たちは、お風呂の施設がどんなに綺麗でも、なかなかそこでは戦いづらかったでしょ。温泉だろうがなんだろうが、全部ほとんど同じだから。でもサウナ室って戦える。サウナは個性が出せるんで、しかも低コストで。
なるほど。これからまだまだサウナには可能性があるってことですね。
ある。お金がついてくるものって絶対にチャンスがあるから。僕らがサウナを作る時、絶対に狙っていくのは、例えばホテルだったら稼働率。ホテルの宿泊がいっぱいになるように、日帰り入浴だけを考えないんです。稼働率が上がって、なおかつ満室が続いたら今度は客単価を上げてみようってなるでしょ。そうすると回転率が上がって客単価が上がったら儲かる。儲かることじゃないと、人間ってあんまり率先してやれないし、どんなにアーティスティックなものを作ったってお客さんが来ないといけないわけだから。それに、サウナ室の中を変えるだけだから、今までの投資金額からしたら安いじゃない? だから、これから多分どんどん加速する。
今動いてるプロジェクトは何かあるんですか?
今だと、2023年に完成する北海道日本ハムファイターズの新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコンフィールドHOKKAIDO)」のレフトスタンド側にサウナを作ってます。今まではサウナ室のテレビで野球を見ることはできたけど、サウナに入りながら、目の前で生の試合が見れたら面白いよね、世界初だしってなって、ファイターズ側から打診があって。サウナ室から野球場がバーンと見えるって結構面白いですよね。
ES CON FIELD HOKKAIDOの4階に建設されるサウナのイメージ画像 ©H.N.F.
素晴らしいですね。これからサウナはどうなっていくと思いますか?
これからはもっと面白いですよ。今ってサウナブームではなく、サウナの入り方の段階にきてるんで。サウナ、水風呂、休憩っていう心地良いサウナの入り方を、濡れ頭巾ちゃんとか、タナカカツキさんが漫画の中で提唱して作ったので、今はもうサウナ施設に飽きるとか飽きないとかっていう話ではないですよね。ファッションもムーブメントあるし、スポーツも例えば今サーフィンが流行ってるとか、ゴルフが流行って駄目になってとかあるじゃないですか。だけどサウナだけは、ムーブメントというよりは、もうウォシュレットみたいなもんですよ(笑)。
どういうことでしょうか(笑)。
一回ウォシュレットを知った人間が戻れないのと同じで、「なんか疲れたな、サウナ入りたいわ」って必ずなってしまうというか。毎日シャワーかお風呂は入るわけなんだけど、やっぱりサウナでの汗のかき方とか水風呂での体の冷やし方とか、そういうのを知ってしまって、これが爽快、スッキリだなって思ってしまった人間にとっては、もうサウナ無しではありえなくなる。だからいずれウォシュレットと同じように、サウナのことを誰も騒がなくなるんです。本当に歯磨きと同じ。昔歯磨きって一日一回だったんですって。それが2回になって、朝と晩磨こうってなったのと同じ感じ。月に1、2回はサウナ入りたいとか、週に1回はサウナ行きたいよねっていう人が出てきて、サウナが日常になるから騒がなくなるでしょうね。
次回へ続く