HIGHFLYERS/#48 Vol.4 | Aug 12, 2021

常識を覆すような大きさを感じた瞬間、その人の生き方のスケールがわかる。これからの価値観は宇宙規模になっていく

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

吉岡徳仁さんインタビュー最終回は、チャンスと成功についてを中心に、吉岡さんが日常生活で習慣にしていることなども伺いながら、影響を受けた人たちのことや、大変な作品作りを実現させていくうえで必要な原動力となるものなどを聞かせていただきました。また、常に世の中にないものを作りたいと考えている吉岡さんが、今世界で起きていることで興味のあることや、まだ叶っていない夢、そしてこれから実現したいことなども伺いました。
PROFILE

デザイナー / アーティスト 吉岡徳仁

1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。 デザイン、建築、現代美術の領域において活動。詩的な作品は国際的にも高く評価されている。 国際的なアワードを多数受賞し、作品はニューヨーク近代美術館やフランス国立近代美術館など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。 アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。 代表作には、オルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ「Water Block」をはじめ、クリスタルプリズムの建築「虹の教会」、結晶の椅子「VENUS」、ガラスの茶室「光庵」などがある。

発見があってこそのチャンス。発想やひらめきから全ては生み出され、チャンスに繋がっている

最近体験したことで良かったことを教えてください。

以前に、フランスとスイスの境にある滝を訪れた時、素晴らしい体験をしました。自然のエネルギーを感じさせるスケール、美しさと危険性が融合したような自然の力強さにとても心を揺さぶられる体験をしました。

ご自身を変えた人との出会いを教えてください。

恩師である倉俣史朗さんや三宅一生さんとの出会いから人生が変わったと思います。一緒にものづくりをする中で世界を意識し始めたと思います。新しい発想の素晴らしさや、デザインが自由であり限界がないことを学びました。今でも何度も検証を重ねて新しいことに挑戦する姿勢は、若い時からお二人のもとで様々な経験をしてきたからだと思います。

影響を受けたデザインや本、音楽、映画はありますか?

たくさんあるのですが、人間の想像性のスケール感を感じるものに興味があります。

人の想像性のどういうところに一番興味を持ちますか?

例えば、アーティストで感じることは、作品のエネルギーそのものです。単に作品の大きさということではなく、挑戦と葛藤から生み出される人間の想像を超えたスケール感です。常識を覆すようなエネルギーの強さを感じたりします。海外の展覧会で、ものすごい作品を体験すると、自分自身の中でも何かが変わることに気づきます。

そういうすごいものを見た時って、嫉妬もするんですか?

もちろんそうですね。嫉妬というか、不可能を可能にする情熱を感じる瞬間だったりします。

今、世界で起きていることで興味があることは?

このような社会情勢の中で、人の感情や、世界の動き、いろんなものの輪郭がはっきり見えてきたというのはありますよね。これからは、地球から宇宙規模の価値観になっていくと思います。

吉岡さんにとってチャンスとはなんですか?

挑戦の中から生み出されるものだと思っています。それが考え方なのか、技術的なことの発見なのか、デザインの革新なのかは別として、発想やひらめきから全てが生み出され、チャンスに繋がっていると思っています。

では、吉岡さんにとって成功とは?

ずっと最後まで分からないものだと思います。挑戦する中で、徐々にはっきり見えてくるものなのかもしれません。自分のものづくりの挑戦が正しいのかも分かりません。ただ、常に新しい挑戦をしていたいという想いはずっとあります。

吉岡さんが世界を変えられるとしたら、それはどういうことだと思いますか?

世界を変えられるとは思わないですが、何か気づきを与えることはできるかもしれないですね。いつも未来について思うのは、最終的に大切なのは人と自然だということです。テクノロジーの進化によって生み出される時代の断片としての表現ではなく、自然から生み出される美しさを人々は求めているのだと感じます。プロジェクトでは、革新的で今までにない、心を揺さぶるような感動を与えるものを実現していきたいと思っています。

これから挑戦したいことはありますか?

いつも何か新しい考えや発想が浮かぶと、それを作りたくなってしまいます。人が作り出した限界や常識という壁を越えることに挑戦するのが好きです。オリンピックスタジアムの建築案もそうでしたが、以前に発表した「虹の教会」のインスタレーションを実際の建築として建てることも、いつか実現したいと思っています。

虹の教会 (2010年・2013年)

作りたいものは、突然ふと湧いたりするものなんですか?

そうですね、依頼された仕事だけでなく、自分の作品として、また未来に残せるものであることを意識して作ります。その実験の中で、その次のプロジェクトが生まれることも多いです。自分の作品において色々実験をしながら、新しい表現がまた生み出されるので、相乗効果がありますね。

まだ叶ってない夢があったら教えてください。

宇宙に興味があるので、何かそれに携わるプロジェクトに挑戦してみたいと思っています。

3、5、10年後のご自分はどうなっていると思いますか?

今とあまり変わっていないような気がします。何か新しい目標ができて、それをずっと考え作っている。大変ですが、その目標が実現する瞬間はやっぱり素晴らしいですし楽しいです。

吉岡さんは、常に好奇心を持って物事を見ていらっしゃるのですね。

未来を考えるのが好きなんです。いつも本当に実現できるかギリギリまで諦めずに試行錯誤してきました。当然、実現するまでには、技術的な提案もしますし、費用のことも考えます。すごく大変ですが面白いプロセスです。実際にできたときを想像して、それを実現させたい一心で作っていきます。今は、CGでも3Dでも光をシミュレーションできるので、自分が想像したものをたくさんの方と共有できると思います。

やっぱり光をシミュレーションできるのは大きいですよね。

私が20代の頃は、CGのような技術はなく、表現したい動きや光はプレゼンテーションできなかったんです。模型を手描きで見せながら言葉で説明したりするしかありませんでした。だから本当に今、この時代になって良かったと思います。最初に3Dで作りたいイメージを作ると、完成したものとだいたい同じようなものになるんです。ものによっては本当に写真とあまり変わらなかったりします。

あきらめずにイメージを実現するために、自分を突き動かしていく原動力はなんですか?

オリジナリティ、個性ですね。今までになかったものを生み出せたらいいですよね。それに楽しいんです。それが自分がものづくりをする最も重要な部分であるんですが、実現するとものすごく面白いんですよね。

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