究極の乙女は黒柳徹子。ようやく乙女が声を上げ始めた時代、それぞれのらしさを活かして、うまく生きていく
2月に発売された新刊「乙女のサバイバル手帖」について、出版に至ったきっかけを教えてください。
15年ほど前に、「淑女のエチケット」という本を出したのですが、今回の編集者が小学生の頃にこの本を読んで以来、バイブルのように持っていてくださったみたいで、是非新刊を出したいと話をいただきました。 それからだいぶ経っていたんですけど、私自身もちょうど何かやりたい頃だったのでタイミングが良くて。
素敵なお話ですね。2005年に「淑女のエチケット」を出版され、2015年に女性をテーマにした個展「乙女の逆襲展」を開催されましたが、2021年の今、新刊を出されるに至ったのはどのような流れでしょうか。
まず、「淑女のエチケット」は、私が子供の頃に見てた少女漫画みたいな、 高橋真琴先生の作品のパロディというか、オマージュのようなものでした。高橋先生が描く乙女達って、目の中にお星さまがあってキラキラしていて、後ろにお花があって、無垢で、どこも見てなくて焦点が定まってないんですよね。私はそういうところに惹かれたので、「淑女のエチケット」に出てくる乙女達も、何も見ていない、ある意味表情を無くして。そんな何を考えてるかわからない顔でシケモクとか吸ったり、おならを我慢したりするのを描いたら面白いかなと思って。
笑。かなり面白いです。
それから時を経て、私がちょうど40代に入った頃、子供の時に憧れていた乙女像と、現実の女性の生き方がだいぶ違うことを自分の人生経験から知った時に、「乙女の逆襲展」を思いついたんです。それまでは焦点が定まらなかった乙女を、じっと前を見据え、木刀や機関銃とかを持って、しっかり前を見て歩く乙女にアップグレードさせました。
2015年に「乙女の逆襲展」を開催した時の様子
乙女に現実的な女性の人生が入りこんだんですね。
そうですね。それを描いたことで、同性の方からすごく共感してもらったんです。それもまた新鮮な経験だったので、そこから“心の中に武器を持ち、肉を食い、筋肉鍛えて、好きなものは好き”という逆襲乙女を描き続けているうちに、実社会でも女の人たちがSNSなどでどんどん実際に声を上げるようになって。 そのタイミングで、今回の新刊に繋がる「サバイバル」というテーマでお題を頂いたんです。ただ、今の時代は、笑いの感じもだいぶ変わっているし、なかなか冗談も言いづらいので、色々苦労しながらすり抜けつつ、うまく面白く怒れ、みたいなことを考えて描いてます。新刊は、「面白く怒る」っていう裏テーマもありながらのサバイバルなんです。
まさに時代が重なりますね。どの章もとてもユニークな切り口で思わず大笑いしてしまいました。五月女さんが一番力を入れた章はありますか?全部強烈でしたけど、私は「隠れ玉の輿を狙え」が好きです。
“隠れ玉の輿”は、すごくだらしない格好をして昼間から街をブラブラしていて、怪しくて職質されるようなタイプ(笑)。一見ニートと勘違いされそうなんだけど、靴はすごく綺麗な人。
笑。すごくリアルです。マウンティングにもすごく笑いました。
あれに関しては、自分自身そのものなんですね。ブランドのバッグを自慢げに持って、マウンティングしているつもりの人に会ったとしても、私はあまり何も思わないから、マウンティングされたと感じないんです。
この本は、具体的にどんな人に読んでほしいと思っていますか?
ちょうど時期的にコロナと重なったっていうのもあるんですけど、今みんな鬱々と、巣ごもりがいつまで続くんだろうって思っちゃう時もあると思うので、そういう時に見て、ちょっと気分を軽くしてもらえたらいいなって。いつか自分の中に溜まっているものを吐き出そうと夢見てこれを読んで、エネルギーを備蓄する力に変えてもらえたらって思ってます。
いいですね。本がとても面白くて衝撃だったので、一体どんな方が描いているんだろうと、お会いするのを実はドキドキしていました。
みんなとそんなに変わらない生活してると思うんですけど(笑)。よく、会うと普通だねって言われます。最初は普通だとダメなのかと思って、格好とかちょっと不思議な感じにしようとやったこともあったんですけど、最近はまあいいか、と思って(笑)。 でも本性はくノ一のように隠してます。普段は外から気づかれないように、普通でいようと思って。
ところで、五月女さんのLINEのスタンプ、使っていてとても気持ちいいです。
自分で言うのもなんですけど、なんか使いやすいんですよ(笑)。
すごく使いやすいです。あれはやっぱり人気ですよね。
そうですね、あれを出してからファン層が少し変わりましたね。美容師の人にどんな絵を描いているか伝えやすくなりました。 最初に出したのが9年前、LINE のスタンプの出始めの頃で、まだ公式のものしかなかった頃で、 タイや台湾でも使っていただいて。1〜2年おきくらいに新しいものを作って、今までで4つのシリーズを出しています。
いくら流行の変わるスピードが早くなっても、いいものってずっと変わらないんですね。
それが本当にありがたいですね。変わらないことが不思議であり、そうやって使い続けてもらえるのがすごく嬉しいです。
ところで、五月女さんにとって乙女とはなんですか?
何か捨てられないこだわりっていうか、絶対に譲れない部分が乙女なんじゃないかなって思います。 私自身は外見的には全く乙女ではないけど、そういう意味では老若男女みんな乙女の部分を持ってるんじゃないかと。
今気になる乙女の生態や、最近の動向ってありますか?
森元首相に「女の人は喋りが長い」とか言われたことに、みんなで声を上げたのもそうだし、ポテトサラダ論争とかもありましたよね。「ポテトサラダくらい惣菜で買わずに作れ」って言われて、「作るのはそんなに楽じゃない」みたいな、そういう声を上げていく乙女たちのたくましさに日々励まされています。
社会の中で、乙女はどのように変化していると思いますか?
やはり声を上げ始めたなっていうのはすごく感じます。きっと昔から同じように思ってはいたのだろうけど、当時は結婚するのが当たり前とか、世間体で幸せの形が決められていて。それがだんだんそうじゃないなってわかってきて、自分が生きやすいように変えていこうっていう想いがどんどん高まってる時代なのかしら。
そういう気運は、これからも加速していくのでしょうか。
きっと加速していくのでしょうね。でもあんまり行き過ぎると寂しいなっていう面もあります。男と女の差が全くなくなったりしたら、色彩りとしてつまらないなって思うし、私自身はそれぞれのらしさは持ちつつっていうのが好きです。それぞれ持ってる良さを活かし合いながら、うまいこと生きていけたらいいんじゃないかな。
今最も気になる乙女って誰か現実にいらっしゃいます?
ちょっと年上系の乙女が気になっていて。黒柳徹子さんは究極の乙女だなと思ってます。最高ですよね。 だって下手すると、最初に私が見た頃と今も何ら変わりがないっていうか。初めて「徹子の部屋」を見た時って、「この人なにものだろう」って衝撃じゃなかったですか。きっと今初めて見る子供たちもみんな、私が子供の時に思った感覚と同じものを持つだろうし。常に衝撃を与えてるでしょうね。永遠に変わらない、究極の憧れの存在ですね。
次回へ続く
「乙女のサバイバル手帖」
恋、仕事、人生…etc.さまざまな場所で起こるピンチを、笑いで切り抜けるための脱力サバイバルテクニックが満載の一冊。生きづらい世の中をたくましく生き抜く令和の乙女たちに捧げるバイブル。