HIGHFLYERS/#49 Vol.1 | Sep 2, 2021

過去でも未来でもなく、今をしっかりと見つめる。写真に宿る生き物のエネルギーを感じて対話をし、考える時間を持って欲しい

Text & Photo: Atsuko Tanaka

ハイフライヤーズ49回目のゲストは、水族表現家の二木あいさん。石川県金沢市出身で、地元の外国人も通う自由な雰囲気の中で小学6年間を過ごした二木さんは、中学時代から留学を経験し、多様な文化に触れました。様々な国で学び、スペイン語を取得するためにキューバに住んだ際に知ったドキュメンタリーと、後にタイで出会ったフリーダイビングをかけ合わせ、独自の世界観を作り出すことに成功します。これまで、水中の生き物たちの声を、様々な表現方法を使って伝えてきた二木さんの、半生や考え方、未来についてなどを全4章に渡ってご紹介します。初回では、今年開催を予定している写真展「中今(NAKA-IMA)2021」に関してもお話しいただきました。(*9月に予定されていた写真展は緊急事態宣言により延期が決定。日程は未定)
PROFILE

水族表現家 二木あい

環境省「森里川海プロジェクト」海のアンバサダー / mymizu アンバサダー。素潜りギネス世界新記録を2種目樹立。環境省「森里川海プロジェクト」海のアンバサダー。水族表現家という日本国内外問わず唯一無二の存在として、水中と陸上の架け橋となるべく世界を舞台に活動。空気ボンベを使わず、海洋哺乳類と同じ様に自分の肺一つで潜り、彼らの中に溶け込むことで仲間の一員となり、ありのままに、ある時は被写体、そしてまたある時は自身が撮影者として「私たちは自然の一部であり、自然と共に生きている」そんな繋がりを表現している。 TEDxTokyoスピーカー、2012年情熱大陸「二木あい」ワールドメディアフェスティバル金賞。 NHK特別番組「プレシャスブルー」がシリーズ番組となっている。近年では、ISSEY MIYAKE や世界的な写真家とのコラボレーションなど国の枠を超えて活躍。 写真家として個展「中今」を2019年にスペイン マドリード、2020年に東京 銀座にて開催。

自然環境を守っていくためにも、まずはみんなが自身を愛して大切にすることが大事。そうすることで、見えていなかったものが見えてくるはず

二木さんはご自身のことを「水族表現家」と呼んでいますが、その名の由来を教えていただけますか?

以前は「水中表現家」という風に言っていたんですが、「水中」と言うと、青くて何もない水の中に私一人だけが何かを表現しているように思えてきて。そうではなく水の中に住む生き物の一員として、彼らの声を伝えるための表現なので、「水族」の方がしっくりきたので、そうと呼ぶことにしました。一人として同じ人がいないように、見る方によって受け取り方やピンとくる要素は違うと思うので、表現方法を一つに限らずいろんな形でお伝えすることで、何か一つでも感じていただけるものがあるのではないかと信じ、「表現家」としています。

水中の生き物たちの声を伝えると仰っていましたけど、一緒にいると感じるものなんですか?

魚は結構シンプルな気がしますが、クジラやイルカなどは私たち人間と同じ哺乳類なので、目とか動きから感情が伝わってきます。彼らはすごい遠くからこちらの存在を察知し、嫌であれば絶対にやって来ないですし、近づいてきたとしてもすぐに離れて行ってしまいます。なので彼らが自分の周りにいるということは、こちらを認識した上で嫌じゃない、もしくは興味があるということだと思うので、そこにはコミュニケーションが存在すると思っています。

目とか動きから、感情が伝わってくるんですね。

水中は陸上よりも振動が4倍早く伝わります。例えば「うわ!怖い!」と感じると、「あ、私怖いんだ!」と自分自身が理解する前に、それこそ瞬時に彼らに伝わってしまうんです。なので水中ではフラットな状態で、異物感をなくすようにしています。最初の方は私が人間臭いのか、彼らは怪訝そうにこちらを見つめるだけで寄っては来ないのですが、何度も「私もここに住んでいる住民だよ。あなた達には危害を与えないよ、仲間だよ」という気持ちを伝えて潜るとだんだんと近づいてきて。私のことをダメな妹みたいに思っているみたいで、こちらが水上に上がって息をしていたりする時は下でずっと待っていたり、泳ぐ速さもこちらに合わせて一緒に泳いでくれたり、まるでこちらの世話をしてくれているかのようになりました。

感動的ですね!ところで、二木さんが掲げるメッセージに「私たちは自然の一部であり、自然と共に生きている」というのがありますが、常に自然と共に活動をされてきた二木さんの目に、コロナの現象はどのように写りましたか?

それまでの私たちは常に時間や仕事に追われ、毎日がとても忙しく、止まることなんてできずにいたと思うんですが、コロナが起こったことで、強制的に一旦停止になり、本当の幸せだったり、自分自身、そして生きるということに向き合えたのではないかと思います。そういう意味では私たちに大事なことを教えてくれたと思います。自然は特にわかりやすく、人が外に出なくなったことで空がすごく綺麗になったり、長い間戻ってこなかった亀たちが生まれた浜に帰ってきて産卵したり。「やっぱり自然は強い!」と確信しました。そんな変化を目の当たりにした時、母なる地球に共に生きる一員、家族として、「自分は何ができるんだろう」と考え始めた方はたくさんいらっしゃるのではないかと思うんです。

確かにその通りですね。他に何か気づいたことはありましたか?

アートの大事さですね。コロナで外に出られなかった時、みなさん家で映画や音楽、本など楽しまれたのではないでしょうか。アートってつかみどころのないふわっとしたものかもしれないですが、やっぱり大事なんだと再認識しました。

二木さんご自身の活動に影響が出たことは何かありましたか?

私が陸上で出来ることは、みなさんに水中世界を共有すること。なので、自ずとイベントや講演会となるのですが、人が集まることは全てキャンセルとなったり、海外へも撮影やプロジェクトで1年のうち3分の2以上行くことが多かったのですが、それももちろんなくなって、本当に20年ぶりに1年間まるまる日本の、そして自分の家にいることになりました。おかげで日本の素晴らしさ、自然と共に生きてきた姿、思想、文化など、まだまだ浅いですが、再発見、再認識することができました。6000以上の島々で構成されている、海に囲まれた島国、日本。温度が違う海、海流が流れることで姿形が様々な生物が数多く生息し、豊かで多彩な表情を魅せてくれる水中世界が存在しています。なかなか国外に出られない今だからこそ、日本人として、「日本を伝えたい!」と更に強く思いました。

ここ1年くらいは主にどのような活動をされていたのですか?

オンラインのイベントが主でした。開催会場にはもちろん行けないのですが、同日に日本と海外のイベントに参加することになったり、より多くの方たちと繋がることはできました。たまに夜中の2、3時とかから始まるものもあり、時差には悩まされましたが、より世界が近くなった感じがしました。また、ありがたいことに、日本で初の自分が撮影者としての写真展ができたことは、とても嬉しかったです。

その写真展がまた開催されるそうですが、今回はどのようなテーマになるのか教えてください。(*緊急事態宣言発令のため、写真展は延期が決定。日程は未定)

テーマは変わらず、「中今(なかいま)」です。中今とは、永遠の過去と未来の中間にある今を示しています。 もう変えることができない、すでに終わった過去のことに対してウジウジ振り返ったり、 今どうすることもできない想像の中の未来のことをあれこれ悩んで頭がいっぱいになると、 今この瞬間を生きるという意識が限られてしまう。 だからこそ生きている今に集中し、他の余計なことに心を奪われない、思考や感覚の軸を今に持ち、 意識を上げて自分で自分を生きることを意味しています。息を止めて素潜りで水の中にいる時は、過去でもなく未来でもなく、今、その瞬間にいることがすごく大事。まさに中今の状態です。

写真はどこで撮影されたものですか?

世界各地です。トンガ王国のクジラ、日本のイルカやメキシコのアシカなどもいます。撮影地はバラバラですが、一貫していることは、全て素潜りで撮影した作品だということ。私は自然写真家ではないので、生き物の生態や風景を観察的に表す写真ではありません。モノクロが主ですし、題名もありません。その理由は、写真の中にある自然や生き物たちに物語りを語ってもらいたいから。色や題名があるとその先入観が先に来てしまい、心で感じるより頭で理解するものになってしまうと思うんです。なかなか触れることのできない水中世界を、生活の一部にしてくれたら、ちょっとでも身近に感じてくれたら…という願いのもと、作品作りをしています。プリントはマットにしているので、墨絵みたいな感じの仕上がりになっていて、違和感なく家に飾っていただけるのではないかな、と。「なんだかわからないけれど、心惹かれる…」から始まり、気がつけばなくてはならない存在になってもらえていると嬉しいです。海はそういう存在だと思うので。

確かに二木さんの写真は見ていると、その世界にどんどん引き込まれていきます。

今はほとんど何でも検索すれば、すぐに答えが出てくる時代。作品の中には抽象的なものもあるのですが、それらに関してはある意味、私しか答えを知らないので、検索しようがないと思うんです。ハイハイと通り過ぎるのではなく、立ち止まって「これは何だろう」というふとした時間を持ってもらいたいという思いがあります。同じ言語で話せないからこそ、同じ種族じゃないからこそ、よりストレートに伝わってくる物語をぜひ楽しんでいただきたいですね。

写真展にはどんな方達に来て欲しいですか?

いろんな方たちに見て欲しいです!コロナ禍で外出することをお勧めして良いのかわからないですが、気軽に立ち寄っていただきたいと思います。期間中はできる限り毎日、会場にいる予定なので、ぜひ皆さんにお会いしたいですね。質問があったら何でも聞いていただきたいです。

ところで、二木さんの大好きなダイビングスポットはありますか?

特にここといった場所はないです。と言うのは、すごい綺麗だと言われている場所でも、例えば台風が来たりすると水がごった返してとても汚くなりますし、逆にあまり綺麗ではないと言われているところでも時には素敵な瞬間もあるので。生き物も興味深くて、魚などは、同じ顔をしていても、ある海ではカラフルだけれど、地中海など茶色の海中では同色の茶系だったりします。そういう場面に出会うと、やっぱり地球は海でつながっているんだなと実感します。何もないように見える場所でも、興味深いことや美しさは必ずあるので、自分が与えられた状況の中、その時、その場、その出会いを大切にしています。

環境省「森里川海プロジェクト」唯一の海のアンバサダーとして活動も行っていると思いますが、私たち一人ひとりが心がけるべきことや、できることはどんなことでしょうか?

環境と聞くと、「自分とは関係ない、誰かが何とかしてくれるだろう」と自身と切り離し、外の別の事と捉えがちですが、全ては繋がっています。何か変わる時は、頭が理解して変わるのではなく、心からそうだ!とならないと泡の様に消える、一過性に過ぎないんじゃないかなと思います。だからこそ、まずは自分を大事にすることではないかなと。自分を愛せなければ、他を愛することは本当の意味でできないと思うからです。自身が愛で満たされると、自ずと自分以外にもその愛が溢れ伝わると思いますし、自分の行動もそうなっていくと思うんです。だからこそ、私の活動は、その心の扉を開く鍵であったり、インスピレーションであったり、一人ひとりの心への種まき、きっかけ作りだと信じています。

ヘアメイク:谷川彩霞
衣裳協力:ECOALF(エコアルフ)

次回へ続く

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