HIGHFLYERS/#49 Vol.3 | Sep 30, 2021

私たち人間は地球で生きている一員であって、オーナーではない。水中で起こる様々な問題から目を背けず、自分ごととして捉えて欲しい

Text & Photo: Atsuko Tanaka

水族表現家、二木あいさんの第3章は、活動を通して学んだことや印象的な出来事などをお伺いしました。アジアや南米、中南米などの様々な国で経験を重ね、世界ギネス記録も達成し、常に前進し続けてきた二木さんですが、今でも海に入る時は常に初心を忘れないように心がけているとおっしゃいます。そんな彼女が活動を通して伝えたいことなどもお聞きしました。
PROFILE

水族表現家 二木あい

環境省「森里川海プロジェクト」海のアンバサダー / mymizu アンバサダー。素潜りギネス世界新記録を2種目樹立。環境省「森里川海プロジェクト」海のアンバサダー。水族表現家という日本国内外問わず唯一無二の存在として、水中と陸上の架け橋となるべく世界を舞台に活動。空気ボンベを使わず、海洋哺乳類と同じ様に自分の肺一つで潜り、彼らの中に溶け込むことで仲間の一員となり、ありのままに、ある時は被写体、そしてまたある時は自身が撮影者として「私たちは自然の一部であり、自然と共に生きている」そんな繋がりを表現している。 TEDxTokyoスピーカー、2012年情熱大陸「二木あい」ワールドメディアフェスティバル金賞。 NHK特別番組「プレシャスブルー」がシリーズ番組となっている。近年では、ISSEY MIYAKE や世界的な写真家とのコラボレーションなど国の枠を超えて活躍。 写真家として個展「中今」を2019年にスペイン マドリード、2020年に東京 銀座にて開催。

危険が起こる前兆を察知するために、頭ではなく五感を大事にする。海に入る時はいつも初心に戻り、傲慢な考えは捨てる

これまで活動を通して、たくさんの素晴らしい経験をされてきたと思いますが、特に印象に残るものを教えてください。

やはりクジラと泳いだことがすごく印象的ですね。目が合うぐらいの近距離で見つめられると、外見だけでなく内側も全部見透かされているような気がします。いくら取り繕ったり、嘘をついたり、隠したところで全部ばれてしまう。そんな彼らにはいつも「正直に生きなさいよ」「真実を歩みなさいよ」と言われているようで、自分の中心軸に戻される感じがします。

海の世界は美しく素晴らしい反面、危険を伴うこともあるかと思いますが、大変だったことはありますか?

自然の中では何かが起こる前、必ず虫の知らせというか、前兆があると思います。そういう知らせはとても微細なもので、何か考えごとをしていると見逃してしまう。水中に居て一息しかない中、わざわざ考えることって実は無くて、結構どうでも良いことを考えていたりするので、そういう考えは陸に置いていきます。そうして過去でもなく未来でもなく、「今」に居ること。そうするとおのずと感覚が鋭くなり、ふとした変化や動物がこちらを見ている瞬間が分かるんです。海は管理されたプールではないので、海に入る時は傲慢な考えや行動は捨て、初心を忘れないようにしています。私にとっては、自然や水中より、何より怖いのは実は人間です。

二木さんはとても強い精神力をお持ちのように思いますが、壁にぶち当たって落ち込むことってありますか?

生きていく中で大なり小なり毎日、色んなことが起こりますよね。私は多分、浮き沈みがとても激しくて、一人ドラマをよくやっている気がします。ただ、何か上手くいかないことが起こった時や、壁にぶち当たった時は、それをマイナスに捉えるのではなく、次に行くためにクリアしないといけないテストだと捉えて向き合っています。挑戦だと思うと実は楽しい。その時に逃げてしまったら、またそのテストを受けないといけないから、今頑張る!と。

では、ご自身を変えた人や言葉との出会いを教えてください。

私は陸上での呼吸が下手なので、プラネヤーマというヨガの呼吸法を学ぶためネパール人のヨガの先生のところへ通い、集中トレーニングを受けるために1ヶ月間ネパールにも行きました。授業の中で先生が「自分ではない外のこと、他の人などを変えるというのは、自分のエゴでしかない」とおっしゃった言葉が印象的で、それまで私は自分の活動を通しておかしな世の中を変えようと思っていたので、ハッとしました。その時を境に、自分の活動は何かを変えるのではなく、自分自身が架け橋となり水中世界からお伝えしていくことだと思うようになって。また、それをどう感じるか、それによってどう変化していくかは受け取った皆さん次第なんだと意識するようになりました。

ネパールにて。ヒマラヤ山脈を望んでいる様子

では、これまでの活動において、最も嬉しかったことを教えてください。

嬉しかったことは沢山あるのでコレ!と決める事は難しいですが、ゲームやCGに慣れている子供たちや、思春期の若者たちに、私が活動を通して伝えようとしていることが理屈ではなく伝わった時は、真理は揺るがない、自分がやっていることは間違っていないと確信できました。

では逆に辛かったことは?

私は基本ポジティブな人間なので、辛かったことや嫌なことってどんどん忘れるタイプなんですけれど、そういうことが起こった時は、逆にチャレンジだと捉えています。

海外で多くの活動をされてきて、日本との違いを感じることなどはありますか?

わかりやすいところでは、リアクションの違いですかね。講演会などトークの際、写真をお見せしながらお話しすることが多いのですが、例えばサメと手が届く距離で対面している写真などは、海外だと派手に「ワオ!」と話の途中でもリアクションされるのですが、日本では講演中は静かに聞いて、終わってから「感動しました!」とリアクションがあります。他には、アートや知らない世界に対しては海外の方が敷居が低く、オープンなのかなと思うことが多々あります。いろんな場所で展示があり無料のものも多く、ふらっと皆さん普通に入って行かれますよね。その点、日本はどうしてもかしこまった雰囲気が強い気がしてしまうんです。面白そうな展示があっても、その時の服装を気にしたり、自分は場違いなんじゃないかと思ってしまったり….。もっともっとオープンだといいのになぁと思います。

PECHAKUCHA NIGHTに出演し、プレゼンテーションを行った

では、今の活動を通して二木さんが伝えたいことを教えてください。

自分の活動の軸でもありますが、「私たち人間は、自然や動物と共に地球で一緒に暮らす生きものの一員であって、オーナーではない。共に生きるために私たちは何ができるだろう?何をすべきだろう?」ということです。普段生活していると、海中世界はあまり接点がないように感じるかもしれないですが、海がなければ私たちは呼吸すらもできないわけで。目には見えませんが、全ては繋がっています。その繋がりを、そして水中の生き物たちの伝えたいことを、人間目線ではなく彼らの目線でお伝えしていきたいと思っています。水中世界と陸上世界の架け橋になれれば、との想いで活動しています。

ヘアメイク:谷川彩霞
衣裳協力:ECOALF(エコアルフ)

次回へ続く

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