HIGHFLYERS/#48 Vol.3 | Jul 29, 2021

時代の変化とともに、デザインは形が重要ではなくなっている。物質の概念を超えて、人の心を揺さぶるものを常に考える

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

吉岡徳仁さんインタビュー3回目は、2001年に発表した椅子「Honey-pop」をはじめとする過去の作品のことや、制作プロセスを中心に伺いました。また、海外で作品を発表するに至った経緯や、日本と海外の反応の違いについてもお話しいただきました。常に今までの歴史にないものを生み出そうとする吉岡さんですが、アイデアが枯渇したり、しんどくなったりすることはないのでしょうか。アイデアはいつ生まれるのか、そのために心がけていることなどお聞きしたほか、今後のデザインの未来についてや、デザイナーを目指す若者へのアドバイスも伺いました。
PROFILE

デザイナー / アーティスト 吉岡徳仁

1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。 デザイン、建築、現代美術の領域において活動。詩的な作品は国際的にも高く評価されている。 国際的なアワードを多数受賞し、作品はニューヨーク近代美術館やフランス国立近代美術館など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。 アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。 代表作には、オルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ「Water Block」をはじめ、クリスタルプリズムの建築「虹の教会」、結晶の椅子「VENUS」、ガラスの茶室「光庵」などがある。

デザインの未来は大きく変わるかもしれない。体験そのものが重要になってくる

これまで、「Water Block」や「Rainbow Church」、「ガラスの茶室 − 光庵」など、数々の名作を世に送り出しましたが、 特に思い入れのある作品はありますか?

やっぱり「Honey-pop」ですね。今は学生でも自分たちで椅子を作ることができますが、昔はそうではありませんでした。そこで、最初にデザインする椅子は歴史に残る椅子にしたいと思いました。自分が納得いくものができなければ作らないと心に決めて、それで生み出したのが「Honey-pop」です。基本的に、紙は潰すと価値がなくなりますよね。でも、くしゃっと潰れている紙も美しいのです。それが椅子になって、 薄い紙が自然の構造体として体を支えるって、今までの椅子の歴史にないと思いました。

Honey-pop

誰もやっていないとか、歴史にないというところが、吉岡さんにとっていつも重要なポイントですか?

そうですね、制作にとりかかる時は、歴史を必ず勉強します。まず歴史的時代背景の中でどういうものが生まれたかを考えて、時代による変化を考えていきます。今までに生まれても消えた椅子はたくさんありますよね。それらは、何故歴史に残っていないのか、反対に、歴史に残ったものは何なのかを、色々自分なりに考えていきます。「Honey-pop」は、2000年にまず小さい模型を作り、これなら世界の人に見せられるのではないかと思ってイタリアに渡りました。ドリアデ(driade)社の社長にショールームで見ていただいている時に、お客さんたちが集まってきて人だかりができたんです。その状況を見て「これは面白い」となって、そこからスタートしました。

当時から世界を意識されていたのですね。

どうしても国内だと突き抜けられないものがあったので、これはもう世界に出るしかないと思っていました。イタリアは世界中の人が集まるので、良くも悪くも直接評価されるのがいいと思いました。それに、昔、一生さんのところでパリコレクションを担当させていただいた時に、海外の素晴らしい反応が、私たちにものすごいエネルギーを与えてくれた経験も大きかったです。

海外の反応と日本国内の反応は違いますか?

違いますね。やっぱり直接的な反応が全然違うと思います。日本の方は表情に出さないし、自分の価値観というのがそんなにはっきりしていないですけど、海外の人は面白いと感じたものへの情熱がすごいですから。それを体験すると、次はもっと面白いことを見せたいなという気持ちになりますね。

作品を作る際、いつも心がけていることはありますか?

革新的なもの、今までに見たこともないようなものを作りたいと常に思っています。そこに感動があると思うので。

そのために、日頃から何か鍛えていることなどありますか?

特別なことはしていませんが、休みの日はリラックスするようにしています。あと、新しい切り口とは何か常に考えていますね。

リラックスしている時に浮かぶこともあります?

そうですね。アイデアが浮かぶ時は、「さあアイデアを考えよう」と意識して考えている時ではないです。テレビを見ていて浮かぶこともありますし、どういう環境でも自然にそれができるようになりました。

ずっと最先端に立ってさまざまな作品を作られてきて、アイデアが枯渇することってないんですか?

それは考えないようにしていますが、今までにはないですね。依頼が来ると、いろんなものを勉強しないといけないので、例えばトーチ制作の時も、まずは初心者としてトーチについて勉強するところから始まりました。最終的にプロフェッショナルになっていないといけないので、常にそういうプロセスの中にいると、いろんなアイデアが湧いてきます。テーマが与えられると、アイデアが増えていくという感じですね。

吉岡がデザインした東京オリンピック、パラリンピックの聖火リレートーチ ⒸTokyo 2020

吉岡さんは、感覚や想像力をすごく大事にされてる方だと感じます。

学生の時から、形のデザインに対して違和感がありました。「形を変えないといけない」と考えるのも、何か違うのではないかなと思っていました。当時はその感覚の正体は分かりませんでしたが、仕事をしていくうちに、視覚から得る情報だけが100%ではないということに気付いて。人は、情報からそのものを見ることもありますし、音楽などの形のないものに感動したりもするじゃないですか。つまりデザインは、形だけではない、もっといろんな表現の方法があると思っていますし、いろんな要素で人間の感情を揺さぶることができるんじゃないかと思います。

視覚が全てではなく、形のないものが人間の感情を変化させる。確かにそうですね。

それに、やはり時代の変化とともに、形が重要ではなくなってきているんですよね。例えばテレビでも、以前はブラウン管の奥行きをデザインすることがメインのデザインでした。今は液晶だけで、逆にどんどん形がなくなっていますよね。ただ、形がなくなっていく代わりに、そこには別の何かが必要だと思うんです。その何かをデザインしていくと考えると、それが感覚なのかもしれないということです。エルメスのウィンドウデザインを手がけた時も、 スカーフを風になびかせることで本来の美しさを表現するような、何か新しい手法を自分で生み出してみたかったというのはありますね。デザイナーの多くは、形から、スケッチから始まることが基本だと思いますが、僕は逆にスケッチはせずに、ほとんど頭の中で作っています。その最初の切り口はやっぱり重要じゃないかなと思います。

Maison Hermès Window Display (Displayed from 11/19/2009 - 1/19/2010) Courtesy of Hermès Japon

今までにないことに対してチャレンジを続けていらして、めげそうになったことはないですか?

ないですね。目標となるものがあって作り始めますが、最初はすごくぼんやりとしているんです。それがだんだん具体的になって、ピントが合って、輪郭がはっきりしてくる。それを実現するために、いろんな手法を試して、実現できる方法を模索していきます。経験からわかることもありますし、実験をしていく中で何か新しい発見が出てきて、想像のつかないものができることもあります。常にそういうプロセスの中に身を置いています。

吉岡さんにとってデザインの魅力とは?

やっぱり感動を生み出すことですね。

今後、デザインの未来はどうなると思いますか?

何か大きく変わるかもしれないですね。さまざまな環境のことを考えたり、作ること自体の本質を考えたり。作らなくても表現できるような何かや、空想の中で立体的になって感じることができるようなものなど、何かそういう時代になっていくのではないかなと思います。また、価値観がどんどん変化していくと思います。建築でも、ただ造形を見せるのではなくて、そこでどんな体験をしてどういう時間を過ごすか、例えば、夕空の移ろいを感じられたとか、そこを歩くことで何か新しい発見ができたとか、そういうことが重要になっていくのではないかと考えています。

吉岡さんのようなデザイナーになりたいと思う若者へアドバイスをいただけますか?

自由に、もっともっと爆発してもいいんじゃないかなと思います。多くの人が、いろんな制限の中でデザインしているような気がしますね。学生の時は自由ですし、学校は何かを発見する場であってほしいなと思います。

次回へ続く

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