努力を努力と思わず、仕事を心から楽しむ
DJ30周年を迎えた須永さんに改めてお聞きしますが、現在のご自分と若い頃に描いていた自分って違いますか?
あまり考えた事ないですねぇ。若い頃から目先のことしか考えてないんですよ。次はこうしたい、こうなりたい、って目標が一つずつ定まるたびに、その目標しか見てなかったので、最終的なヴィジョンって実はなかったんですよね。
他のDJに嫉妬したことありますか?
毎回、毎回、全員に嫉妬してます。優秀なDJにはいいなぁ〜って必ず嫉妬しますね(笑)。テクノ、ハウスのPCDJをすごいって思うし、若手の後輩DJでも上手いな〜って思いますし、常に刺激と勉強ですね。
自分の技術を常にキープするために、続けていることや気をつけていることはありますか?
レコードを買うことですね。僕の一番の特徴は一曲の単価が高いことです。例えばPCDJでデータで買うと一曲200円くらいじゃないですか、僕は本気を出すと一曲8000円くらいです。結果的に曲単価が世界一高いDJではあると思いますね。
それだけ付加価値があるということですね。
あまり意味ないですけどね。ほとんど分かってもらえないです。「何か※SHAZAMに出てこない曲ばっかかける〜」みたいな(笑)。この間ギャルに言われました。「かっこいいんですけど、SHAZAMに全然引っかかってこない〜」って。(※SHAZAM:音声検索アプリの名称。BGMの流れるスピーカーに近づけたりすることで、知りたい曲を検索出来る)
一番辛かった時や、やめたかった時はありますか。
ヒップホップのDJを辞める95年頃、音楽ビジネスの狭間で揺れたことがあって、DJを半分休業した時期が2、3年ありました。何ていうのかな、僕が未熟だったってことですね、社会人として。昔は腹も立ちましたけど、今はその分未熟な自分に腹が立ちますね。
何かこう不義理なことがあったとかですか?
まあ必ずしも自分の筋道を立てるとか、生き方の問題では世の中は全部計れないってことですね。やっぱり臨機応変に泳いでいかないと、世の中は渡れないっていうのに気付いたっていう。音楽を信じて、音楽だけで突き進んできたので、とっくに社会に出てるのにその辺が全然分かってなかったですね。
ご結婚されたのっていつなんですか?
15、6年前ですかね。
同じ音楽業界の方なんですか?
いや、全然違います。僕が何やっているかもあんまり分からないんじゃないですか。フェスとか昼間の現場にはたまに来ますけど。僕の仕事に興味ないんじゃないですか。でもそのぐらいの方がいいんです。あれこれアドバイスされたり、この間の曲だけどさ〜なんて言われたりしたら、、、。(笑)
お子さんは?
いま小六です。現場にも来ますね。
DJやりたいって言いません?
言わないです。YouTuberか魚類の研究者になりたいって言ってますね(笑)。
日頃から習慣にしていることは何かありますか?
野菜と果物ばっかり食べるので食生活がむちゃくちゃいいんです。もちろん外食もいろいろ行きますけど、ラーメンこれだけ食べて、これだけ酒飲んで、体が病気もせずいられるのは多分食生活と、睡眠時間を非常にとるからですね。平日は朝7時半くらいから仕事して、犬の散歩して、夕方6時には大体全部終わらせるので。予めスケジュールさえ決まれば、昼の1時とか2時から古典酒場に飲みに行っちゃう。何もないと10時半くらいに寝ちゃうんですよ。夜仕事しないですから、インターネットも見ないし。
とても健康的な生活ですね。
それだけ見るとすごい健康的でしょ。それ以外のところは全部不健康なんで、チャラなんですよね、結果的に。
チャンスとは須永さんにとって、どんなことだと思いますか?チャンスと聞いてどんなことを思うかとか、チャンスを逃さないためにはどうしたらいいかなど思う事があれば教えてください。
チャンスって考えたことないからなぁ。ただ、準備しとくのにこしたことはないんじゃないですかね。僕が心から尊敬している大先輩、ヤン富田さんがいつも音楽で実践してるのは、“必然性は偶然”というテーマを具現化することなんです。偶然は必然で、必然は偶然。つまりチャンスオペレーションですね。それを僕もずっと心得るようにしてるので、偶然というのは必然だから、チャンスも必然になるでしょ。それにそういうチャンスが来た時に、何でも応えられるように準備はしておかないといけない。だからチャンスは与えられるものじゃないかもしれないですね。
成功する人と成功してない人の違いって何だと思いますか?
ちょっと月並みですけど、僕のまわりは努力を努力と思わない人が多いですね。仕事を心から楽しんでる。ただ、今どきの成功してる人達に関しては、ちょっと当てはまらない人もいるんですけど。昔では考えられないような職業がたくさんあるじゃないですか。YouTubeに投稿して3億円稼ぐとか。その辺は分からないですが、僕が知っていて音楽的に成功している人は少なくともそうですね。
(左→右)大沢伸一氏、須永氏、沖野修也氏
須永さんが考える最も成功している人は誰ですか?
王貞治さん。小さい頃から尊敬してます。
どういうところですか?
功績はもちろん人間的にも魅力的すぎますよね。野球理論も未だに新鮮だし、解説も凄い上手いんです。僕、野球大好きなんです。解説者って下手な解説と上手い解説と、精神論が出てきちゃう人と、3つに分かれるんです。王さんはあの歳で、国民栄誉賞までもらって、結果を出して、それで人間的に優れてるわけですよね。福岡の友達もみんな尊敬してますもん。僕としては小さい頃から憧れていて未だにすごいなーって思います。
まだ叶えてない夢はあります?
ラーメン屋になる。
言ったからなっちゃいますね、もうすぐ。
来年辺り、本当に始めたいなって思ってるんですけどね。
食べ物と音楽で共通性はありますか?
クリエイティビティじゃないですか。技術とクリエイティビティ。一緒なんじゃないですかね。
好きな言葉、映画、本などはありますか?
本は小林秀雄の「無常ということ」が好きですね。あと、それまで陽が当たらなかった欧州ジャズのレコードを紹介している、1998年に出版された「ヨーロッパのジャズ•ディスク1800」。それは本当に穴があくまで読みました。「無常ということ」は、ふと生きるってどういうことなんだろうって、本当に考えた時期があって、未だに考えてるんですけど。その時に普通は宗教にすがったりするんでしょうけど、僕は小林秀雄の本にすがったんですよね。
ずっと読んで毎回、毎回感じることがあるんですね。今、頭の大部分を占めてることは何かありますか?
大衆酒場。味も勿論ですが、やはり酒場の気取らない雰囲気と人が好きなんです。次はどこのエリアを攻めようかなって(笑)。欲しいレコードは全部リストが埋まったんですよ。全部見つかって全部もう買っちゃったんで。一番欲しいものは新しいリストですね。それから、酒場詩人として人気の吉田類さんの発案で2011年から復興支援チャリティイベント「吉田類と仲間達」@笹塚ボウルを続けています。僕が代表幹事兼小間使いで動いてまして、8回目に突入しました。入場料は全額義援金として毎回寄付していて、今までに合計1000万円以上を被災した東北各県の酒蔵さん等にお送りしてます。酒で繋がる縁、酒縁と言いますが、豪華なメンバーが集まります。次回は9/13(土)に開催しますので是非。
「四国サウンドEURO化構想」ツアー
「吉田類と仲間達」東北復興支援チャリティイベント
さらにDJとしてたどり着きたい場所はありますか?
DJに関してはある程度達成しましたね。
最後に、須永さんが思う成功とは何ですか?
哲学的なことですか?それは「生きる」ということに繋がるんですけど、結局生きるっていうことは「死ぬ」ってことじゃないですか。成功とは、死ぬ前にどれだけのことを成し得たかってことじゃないですか?生きてるうちはまだ途中経過ですし、成功しているかどうかは、本人も分からないんじゃないですかね?まだまだ上があるかもしれないし、これからどん底に落ちるかもしれないし、あの時は成功したけど、今は全然だめだっていうのはある意味仕事で成功したとは素直に言えないですよね。僕なんか、全然成功してないですよ。まだまだ自分の夢をずっと追いかけているだけなんで、周りにとっては、はた迷惑な話で。でも、成功が幸せかというと分からないですよね。そんな長生きはしてないけども、小さい町で、たいしてお金にも恵まれてなかったけど、家族に恵まれて慕われて、孫5人に看取られて大往生するような人がいるとしたらその人は、とても幸せな人ですね。そういうことだと思います。