HIGHFLYERS/#44 Vol.4 | Dec 17, 2020

影響を受けた人物はスティーブ・ジョブズ。様々な問題や暮らしを良くしていくためにも、科学や最新技術は正しく使われるべき

Interview: Kaya Takatsuna / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

パーマカルチャーデザイナー、四井真治さんのインタビュー最終回は、習慣にしていることや、人生を変えた出逢い、言葉などをお聞きしました。影響を受けた人物に、スティーブ・ジョブズの名をあげる四井さん。I Tは一見自然とかけ離れた世界に見えがちですが、学生時代からジョブスのファンで、想像力やデザインにはとても刺激を受けたと言います。他にも世界で起こっている気になることや、チャンスや成功、今後の夢についても語っていただきました。
PROFILE

パーマカルチャーデザイナー 四井真治

信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。 その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。 土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、 愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。 企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。

本当の意味で幸せに暮らせていることが究極の成功。夢は、地球における人間の存在意義を生むこと

普段から心がけている習慣があれば教えてください。

周りの人からはよくそんなにたくさんのことをできますねって言われるほど、いろんなことをやっていますが、強いて言えば夜にするものづくりです。後輩が、「四井さんは夜晩酌を楽しむんじゃなくて、ものづくりをやって楽しんでますよね」って。「夜鍋作業」って言って、物を修理したり家具を作ったりしたのをSNSに投稿してます。ものづくりしていると、頭の中にものすごく快楽物質が出るんですよ。あとは、最近バイオリンを独学し始めたので、練習してます。

影響を受けた本、音楽、映画はありますか?

映画は、僕が小学5年生の時に公開された「風の谷のナウシカ」です。かなり衝撃でしたね。あの世界って今僕らがいる世界とは全然違うけど、宮崎駿さんが生態系のことや当時の環境問題とかをちゃんと汲み取った上で世界観を作って物語を組み立てているんですよね。それに、人間の存在意義とかも問われていて、ナウシカの生き様にはものすごい影響されました。当時は、僕も森に入っていろんな植物を採取して、自分の部屋に20種類くらいのシダを鉢植えにして植えてたり、今もキッチンは「魔女の宅急便」のキキのキッチンのようになっていたりして、駿さんの映画がそのままあるような感じなんです。本当に一回駿さんにはうちに来てもらいたいと思います。

他に影響を受けた人はいますか?

スティーブ・ジョブズにすごく影響を受けましたね。だから僕は丸メガネをかけているんです。僕が学生の頃、まだジョブスがアップルに戻れてない頃から毎日アップルのニュースに目を通していました。テレビで野球の試合を観るより、アップル対マイクロソフトのニュースの方が面白かった(笑)。大学3年の時にインターネットが大学に入って、大学院の頃にiMacが出て、その時にスティーブがまたCEOとして戻ってきて、ITの世界がどんどん発達していった黎明期だったんです。彼がいなかったら今のITってこんなに暮らしに浸透してないと思うので、そういう意味でも、デザインにこだわることに関しても影響を受けてます。

ITって自然とはすごくかけ離れた世界って思いがちですけど、四井さんはそういうところにもすごく興味があるんですね。

ITとか最新技術を否定しがちなパーマカルチャーデザイナーもいますが、僕は物事ってもっと客観的に捉えていいと思うんです。例えば今環境が壊れていくことだって、実は科学を正しく利用できていない人間のせいだと思うんですよね。そういうふうに今のいろんな問題を捉え、僕らの暮らしを良くしていくにはどうしたら良いかを考えると、科学や最新技術はしかるべきところで正しく使われないといけないと思います。そういう意味では、 使いこなせるようにならないといけないじゃないですか。だから関心があるんだと思います。

それでは、四井さんの人生を変えた出逢いや言葉があれば教えてください。

大学時代の恩師、緑化工学の山寺喜成先生から教わったことが大きかったですね。ある時、先生がアフリカのジブチの緑化をやった時の話をしてくれて、普通緑化をする時は、広い範囲に種を撒いたり木を植えたりして、水や肥料を与えて維持して、それで森ができていくみたいなことをやっているけど、実はそれは成功法じゃないんだと教えてくれて。どういうことかと言うと、拡散するのではなく、集中してまとまった単位で森を作っていけば、それが森として成り立った時に自ら広がっていくから、そうやって緑化をした方がいいんだと。その話は今でも僕のパーマカルチャー理論にすごく役に立っています。

では、今、世界で起きていることで興味あることは?

テスラですね。テスラは電気自動車を売るためではなく、今の環境問題を解決しようという考えから生まれた会社です。例えば電気自動車が売れることは、大容量の蓄電池が量産効果で普及することを狙っていて、それによって自然エネルギーを蓄電池に蓄えられる社会になれば、今のエネルギー問題は一気に解決します。そういう意味では、エネルギー革命がこれから起こるきっかけを作った会社だと思うし、CEOのイーロン・マスクはスペースXっていう宇宙開発もやったり、地下に真空のトンネルを作って、高速鉄道を作ろうとか、技術をうまく応用して世の中を変えようとしている。なのでテスラはすごく関心のある会社であり、イーロン・マスクはすごい天才だと思います。

それでは、四井さんにとってチャンスとはなんですか?

パーマカルチャーではよくピンチはチャンスだと言うんです。例えば、嵐が起こってせっかく自分たちが築いてきたものが壊れてしまっても、それは発想や欠点を見つけるきっかけになる。そうすると、より安定した環境や暮らしの仕組みを作るにはどうしたらいいかを考えるじゃないですか。生き物に関してもそうで、この地球の環境があまりにも安定していたら、こんなに生き物の多様性って生まれてないと思うんです。だからやっぱり生き物そのもので考えても、ピンチがチャンスを生み出すんじゃないかと。日本人はぬるま湯に浸かっていると言うけど、僕はまさにそうじゃないかなと思いますね。大企業なんて昔のようなイノベーションが起こりにくくなってるし、本当の意味で危機が起こっていても、それに対処できないような体質になっている。やっぱりハングリーさって必要ですよね。ジョブスもスタンフォード大学の講演で、最後に「バカであれ、ハングリーであれ」と言ってましたよね。あれは「ホール・アース・カタログ」に書かれていた言葉ですが、本当にそうだと思います。

四井さんにとって成功とは?

自分が思い描いたことが実現すること。本当の意味での成功って、持続可能だったり、そのままの存在意義を生み出すことだと思うんです。例えば巨万の富を得ることが成功だと思う人もいるかもしれないけど、かたやそれはものすごく社会を壊すことの原因になっていたりして。お金を稼ぐことは成功したとしても、その人自身の存在意義は遠い未来にもしかしたら問われてしまうかもしれない。それでは本当に成功したって思えないんじゃないかなと思います。成功した、しないとかいうよりも、本当の意味で幸せに暮らせていることがいいんじゃないですかね。それが究極の成功かもしれないですね。

四井さんから見て最も成功していると思う人は?

僕はあまり他人に関心を持たないんですよね。他人がどう成功するかを知るよりも、それぞれが幸せであることを考えた方が良いと思うんですよ。ある成功した人を見た時に、自分も豊かな状況に置かれていたら、豊かになれるし、幸せになれると思うんですけど、その人よりも貧しい状況だったらそう思えないと思うんです。だったら自分が置かれている風土での成功を目指した方がいいと思います。

四井さんがなさっていることで世界を変えられるとしたら、それはどんなことだと思いますか?

さっき言ったように、人々の暮らしの仕組み、あるいは社会のインフラを、暮らすことで同時に環境を良くさせたり、自分たちのコミュニティ自体が持続可能になるようなライフスタイルにデザインすることだと思います。そういうマインドでものづくりとか制度を考えていけば必ず変わると思うし、逆にそれを考えないで新しいものを生み出していっても、結局今までと全然変わらないと思うんです。これからは自然の仕組みが土台にあって、それを暮らしと同時に確固たるものにしていくことを考えていく、あるいは考えなくてもそうなる社会にしていくことが鍵だと思います。

まだ叶っていない夢があったら教えてください。

僕のような考え方の人って、今はまだ少数派じゃないですか。だけど、地球や生きるということに対して、みんなのベクトルがちゃんといい方向に向かえば必ず幸せになると思う。そういう世界が実現できるかどうかってことですね。多分僕の代では難しいけど、価値自体が伝わるところまではいけると思います。そういう意味では、地球における人間の存在意義を生むことが僕の夢で、そういうことをどんどん続けていきたいですね。

最後に、3年後、5年後、10年後のご自分はどうなっていると思いますか?

同じことをずっとやっていると思います。今はまだあまり考えてないけど、僕が持っている技術を誰かに教える時が来るかもしれないですね。もっと広く文化化していかないといけなくなるんじゃないですかね。

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