HIGHFLYERS/#43 Vol.1 | Sep 3, 2020

ウィルキンソン先生の本質をさらに深く掘り下げ、血の通った役作りに集中。「ビリー・エリオット」は、誰かに観せたくなるミュージカル

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのは女優の柚希礼音さん。柚希さんは、1999年に宝塚歌劇団で初舞台を踏み、2009年に星組トップスターとなりました。「ロミオとジュリエット」「オーシャンズ11」「眠らない男・ナポレオン‐愛と栄光の涯(はて)に‐」などに主演、第30回松尾芸能新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞など多くの栄誉ある賞を受賞し、日本武道館でのコンサートも実現して宝塚歌劇100周年を支えたのち、2015年に退団。その後は、ミュージカルやストレートプレイなど様々な舞台に主演されるほか、テレビやCMなどにも活躍の場を広げています。宝塚ファンの方だけでなく、多くの女性の憧れの存在でもある柚希さんに、幼い頃のことから宝塚時代のこと、女優としての心がけや、チャンスと成功についてなどをお聞きしたインタビューを4回にわたってお届けします。第1回目は、2017年に好評を博したミュージカル「ビリー・エリオット」の再演が9月に決まり、ウィルキンソン先生役として再び出演されることについて、舞台に向けての想いや、コロナ禍でどのように過ごされたのか、また舞台人として習慣にしていることなどを伺いました。
PROFILE

女優 柚希礼音

6月11日生まれ、大阪府出身。2009年に宝塚歌劇星組トップスターに就任し、2015年に同劇団を退団。退団後も「マタ・ハリ」「唐版 風の又三郎」等、舞台を中心に活躍し、昨年上演されたミュージカル「FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜」は第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。2021年1月より、主演を務めるミュージカル「イフ/ゼン」(シアタークリエほか)が公演予定。

自粛中はゆっくり自分と向き合えた。毎朝のスムージーと8時間睡眠、そしてバレエレッスンは舞台人として欠かせない大切な習慣

「ビリー・エリオット」の再演、おめでとうございます!大変な時期ですが、稽古はどのような環境で行われていますか?

スタッフの方々がかなり厳重に色々配慮してくださって、自分の稽古の時だけリハーサルルームに入るようにして、マスクをして稽古できるようにしてくれています。他のみんなも、マスクも消毒も毎回ちゃんとしていますし、歌う時もマスクはしたままです。すごく激しく踊る時だけ、周りに誰もいない状態にしてもらって私一人だけマスクを外しますが、他は全員マスクやフェイスシールドをしています。

初演の時とは随分勝手が変わりましたね。ウィルキンソン先生役を演じるに当たって、役作りの上で工夫したり、変えたりしたことはありましたか?

演出家の方からは、ウィルキンソン先生のように愛情表現をすることに壁があるような人物は、おそらく過去に愛情を注いだ人に裏切られたことがあっただろうから、それを自分自身に置き換えて考えるようにと言われました。何かキャラクターを大きく変えるということはないのですが、自分の人生にどんな出来事が起きたらウィルキンソン先生のような人間になったかをより深く考えていくことで、役がさらに血の通った人になるように、今回はせっかくの再演なので、そこまで考えています。

ソーシャルディスタンスを保ちながらの稽古場で、 例えば子供達とはどのように コミュニケーションを取って作り上げていくのですか?

ウィルキンソン先生は子供をちっとも可愛がらない人だから、初演の時も、ウィルキンソン先生として子供達と接しようと思って、子役だからといって特別に可愛がったり、甘やかしたりせずに過ごしました。公演が始まっていくにつれてどうしても愛情が出てきてしまうので、本番に向かっているレッスン中だということを大切に、必ずウィルキンソン先生としての必要な距離と壁は保つようにしています。宝塚で何度も教わったことですが、全ては作品あってのことで、役を邪魔してまでみんなと仲良くなることはおかしいと思うので、ウィルキンソン先生として毎日を過ごすことを心がけてます。

再演ですが、3ヶ月とたっぷり準備期間があったのは、コロナの影響で環境が変化したからですか?

準備期間がたっぷりあるように思うんですけど、ビリー役はクワトロキャストですし、お父さんやウィルキンソン先生などもダブルキャストで、組合わせが何組もあるので、キャストを変えながらレッスンしていくと時間がかかるんです。それに、回数を重ねれば重ねるほどやっぱり生まれてくるものも違いますので、本当に3ヶ月準備期間があるってありがたいなと思いました。

コロナでお仕事ができない期間はどう過ごされていましたか?

「今は自分の足りないところを磨く時間だ、ありがたい!」と思って、家で自分が苦手だと思っているところを練習したり、家にいることをエンジョイしようと、料理をしてみたり、片付けをしてみたり、家の中のことをちゃんとやってみました。とても有意義な時間でした。

今までとガラッと変わった生活だったと思うんですが、ご自身の中で変化したことは何かありますか?

あまりにも慌ただしく過ごしていたから気付かなかったけれど、必要なことと不必要なことがあったなって改めて思いました。そんなに頻繁に夜ご飯を食べに行かなくても幸せだし、そんなに友達といつも会ってなくても絆はあるし、全人類がシンプルに何が大切かを考え直す機会になったのではないかと思うくらいでした。

ところで、自粛になっても柚希さんが美しさや健康を維持できるのは、普段から習慣にしていることがあるのでしょうか?

ここ最近はグリーンスムージーを毎朝飲んでいます。ケールとかほうれん草とか、今日はモロヘイヤ、セロリ、きゅうりとか、とにかく何種類も。サラダとかでは摂れないぐらいの量を摂れるので。それとフルーツと、プロテインとかオイルとか、そういう必要なものを一気に入れて。ニューヨークにいた頃にやっていたのですが、胃腸が冷えると言われたので一度やめていたんですけど、夏だし、ご飯だけでは摂れない野菜の量を取れるのでまた始めました。あとは、バレエは週に一度は必ず行くようにしてます。足とか背骨とか、どこか体の痛いところがあるとバレエをすると治るんですね。だから、バレエは骨とか筋肉を整える治療みたいな感じです。私の人生、クラシックバレエで始まり、クラシックバレエで終わるんじゃなかろうかっていうぐらい。自粛中はリノリウムのバレエ用の床を買って、自宅でやっていたほどバレエは必要だなぁと思っています。

柚希特製のグリーンスムージー

自粛でなければ、普段は必ずスタジオにバレエのレッスンに通っているのですか?

そうなんです。他の方もいる中でやるのが好きで。すごく上手な人を見てると、「あ、そうだ、あそこ気をつけねばならないんだった」とか学ぶことが多く、それでスタジオに通ってます。

他に習慣にしていることはありますか?

8時間絶対に寝る。自粛期間はそんなにエネルギーを使わないのであれば、そんなに寝なくてもいいんじゃないかと思えてきましたけど、例えば仕事で朝7時に起きなきゃいけないとなると、前の日に逆算して、「11時には寝なければ!」、みたいな生活をずっとしています。だから帰るのが遅くなる日は、「何時までに寝なければいけないのに〜」みたいに大急ぎで翌日の準備をして寝るという風に過ごしてます。

過去に睡眠時間が短くて、何か体調に変化が起きたことがあったのですか?

公演中、6時間とか7時間睡眠で、思うように力を出せなかったことがあって。体調も喉も大丈夫なのにエネルギーが出てこないんですよ。毎日公演を2回とかしていくと、本体のエネルギーがどんどん出ていくから、やっぱり8時間は寝ないと自分の中身が空っぽになるということを経験して。それ以来、絶対に寝ないとだめです。

やはり舞台第一の生活を送っていらっしゃるのですね。ところで、ブロードウェイも今年いっぱい公演が全てキャンセルされましたし、劇場に降りかかるショックなニュースが多いですが、そういう状況をどのように感じていますか?

やっぱり健康と、普通にみんなが元気に生きていくことがあってのエンターテイメントだなと改めて思います。つまりエンターテイメントは基本の生活プラスの部分だなと。今はまだ舞台を観に行くことに対して、心配に思う方もいらっしゃると思います。ですのでいらしてくださった方には、「 本当に来て良かった、やっぱりこういうものも人間には必要なんだ」と思っていただけるように、1回1回がより中身のある、より心のこもったものでなければいけないと改めて思いますので、さらにみんなで大切にしていきたいと思っています。

今のこのような時期に、この作品をどのような方に観て欲しいですか?

この作品は、バレエダンサーとして順調にいく話ではないし、みんながいろんなことに苦しんで葛藤しながら何とか前へ進めないかとすごくもがいています。同じように今、皆様も苦しんだり、我慢することが多い毎日を過ごされていると思うので、普段ミュージカルを観ない方にも観ていただきたいです。子供がバレエをするというストーリーだけじゃないところも私がこの作品を大好きな理由ですし、大人達が成長してもらえるような中身が詰まっています。初演の時も、観て立ち上がれなくなったという方が特に男性に多く、熊川哲也さんも、北海道に住む親に観に来てもらうために飛行機のチケットを送ったっておっしゃっていたくらい、観終わった後にきっと誰かに薦めたくなる作品だと思います。

ヘアメイク:CHIHARU
スタイリスト:間山雄紀(M0)

次回へ続く

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Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』

出演者:川口 調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿/益岡 徹、橋本さとし/柚希礼音、安蘭けい/根岸季衣、阿知波悟美/中河内雅貴、中井智彦/星 智也/大貫勇輔、永野亮比己 ほか

オープニング公演
日時:2020 年 9 月 11 日(金)~14 日(月)
東京公演
日時:9 月 16 日(水)~10 月 17 日(土)
会場:TBS 赤坂ACT シアター S 席 14,000 円/A 席 10,000 円
チケット一般発売中
お問い合わせ:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日 11時~18 時)
大阪公演
日時:10 月 30 日(金)~11 月 14 日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール S 席 14,000 円/A 席 10,000 円/B 席 5,500 円
チケット一般発売日:9月12日(土)
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10 時~18 時)

主催:TBS/ホリプロ/梅田芸術劇場/WOWOW/MBS(大阪公演のみ)

詳細は公式サイトにて
http://www.billyjapan.com/

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