トップスターに必要なのは、体力と根性と吸引力。1万人以上のファンに見送られ、最高に幸せな一夜を過ごせた退団パレード
小さい頃はどのような子供でしたか?
こう見えて体はそう強くなく、よく風邪をひいて家にいるようなタイプでした。小学生ぐらいからは、 兄を真似して少林寺拳法をやるようになって、ちょっとずつ体が元気になっていったんですけど、仲良しだった隣の家の子がバレエを習っていたので一緒に通いたくなってしまって。ただ、私が習い事をすぐやめる子だったので、言い始めてから1年間は習わせてもらえませんでした。それでも習いたい気持ちが変わらなかったので、そこからバレエを始めて、それ以降はバレエ一筋です。
中学生の頃
ご両親にはどのように育てられましたか?
両親はすごく仲が良くて、例えば、高校入学直後の遠足に、二人揃って見に来てしまい、クラスメイトから「いるー!!」って言われて恥ずかしくなるような感じでした(笑)。また、特に父はグルメで、 眠いのに朝5時に起こされて制服を着せられて、魚市場に行って新鮮なお寿司を食べてから学校に送り届けられたり、放課後に高速道路に乗って遠くまでラーメンを食べに行ったりして楽しんでいました。
ユニークですね。当時は将来何になりたかったんですか?
バレリーナです。小学校3年生からバレエを始めて、中学校、高校とコンクールや発表会に出ていたので、進路を考える高校2年生の頃には、私にはもうバレエしかないと思っていました。でも背が高くなりすぎて、日本では組む男性がいなくなってきていたので、海外留学しようと願書を取り寄せたんです。それでアメリカ留学に向けてすごく張り切っていたんですけど、バレエでは一握りの人しか食べていけないから、留学したところで諦めて帰ってくるんじゃないかって、今度は家族が心配し始めたんです。
それで結局留学はやめて、宝塚に?
その時に家族会議で決まったルールが、次のコンクールで3位以内に入れなかったら宝塚を一度受けるというものでした。結局3位以内に入れず、ギリギリの判断で宝塚を受けることになりました。試験で歌も歌わねばならないことを知って、もう今年は絶対無理だから来年を目指しましょうと言われたりしましたが、受けるからには必死に練習していました。その時、初めて宝塚を観に行ったんです。
宝塚を初めて観たのが、受験を決めた後だったんですね。
小学校の時からよく、「宝塚に入ればいいのに」と周りに言われてはいましたが、それまで実際に観たことはなかったんです。最初に観たのは真矢ミキさんが主演の作品「失われた楽園―ハリウッド・バビロンー/サザンクロス★レビュー」でした。それまでは、宝塚といえば「ベルサイユのばら」というくらいしか知らなかったのですが、実際に観たらこんなにたくさんダンスができるところなのかと、とても魅力的だなと思いました。受験までの2ヶ月間は、得意なバレエはとにかく一生懸命やって、歌は苦手でしたが必死に頑張って、なんとか合格することができました。
宝塚って、音楽学校という厳しい戒律の中で成長していくイメージがありますが、入ってからのギャップみたいなものはありましたか?
本当に驚きました。まずはお芝居しなきゃいけないことも衝撃的でしたし、お芝居の授業が始まったら、初めてなことでしたので、セリフを言うことが恥ずかしくて。私はここでこの先やっていけるだろうか、と不安になりましたし、厳しい規則や舞台に役立つことの礼儀全部を短い期間で叩き込まれるので、最初は驚きました。でも今となってはとてもありがたかったです。
学校時代に一番ショッキングだったことは記憶にありますか?
朝の掃除の時間がすごく早いことです。できれば寮に入りたかったんですけど、私は自宅から通学していたので、早朝だと電車を何度も乗り換えないといけないんですよ。一年間、毎日朝4時台に起きて通うのがとても大変でした。でもお稽古場を自分たちで掃除するって、芸事をする者にとっては大切な基本なので、それを学べたのはすごくありがたいことでした。毎日やってるからピカピカだけど、掃除をしてますますピカピカにするんです。
宝塚にはまず予科と本科があり、2年経ったら初舞台生となりますが、そこからトップになるまではどういう道のりなんですか?
まず初舞台を踏んだら、その後に5組(月・花・星・雪・宙)に分かれます。同期40人が、その中でいろんなことを学びながら舞台に立つんですけど、本公演中に新人公演が1回あって、7年目までの新人が、トップさんがやっている役を、全く同じ衣装と照明とセットで本公演通りに演じます。その間は、本公演を終えた後、新人公演の稽古をして、新人公演の本番を迎えるという7年間を過ごしながら勉強して経験を積んでいくんです。
宝塚でトップになれる人の資質はなんだと思いますか?
全員がトップを目指してるわけでもないので、素敵な舞台人になりたいということで皆さん一歩一歩やっていく感じですし、上手な人も魅力的な人も山ほどいますけど、特にトップさんに必要なのは、体力と根性、あとは吸引力。 アイドルや韓流スターもそうですけど、誰かを応援したくなる時って、何かがキラッとしていて、何か応援したい心がくすぐられる。きっと、完璧にかっこ良いだけでも応援したいと思う心が芽生えないものじゃないですか。宝塚は特に、応援している子が次にちょっとでもいい役になることが、ファンの方々の喜びでもあるのではと思うんです。そういう意味では、成長や伸び代を感じる、いつまでもどこか可能性を感じるという人がいいのかなぁとか思いますけど、実際はわからないです。
でもやっぱり持って生まれたものって大きいんでしょうね。女性だけの中で舞台をやるというのはとても特殊だと思うのですが、女性だけの舞台の良さ、醍醐味は何でしょうか?
海外公演も色々行きましたが、世界中に女性だけでやっている劇団ってないんだなって思いました。宝塚の歴史は100年を超えましたし、歌舞伎と同じでとても大切にすべき日本の文化なんじゃないかと。それから、女性が描く男性像だからこその良さがすごくあると思います。本当の男性だったら思いもつかないことも、男役はいっぱい考えられるから、女性が最強に胸キュンすることもいっぱいわかるじゃないですか。だから女性は「キャー」って思うだろうなとは思います。あとは美しさや清潔感があります。
柚希さんが退団する際、さよならパレードには過去最高の12000人が集まりましたが、ご自身の中にはどのような想い出が残っていますか?
本当にありがたいことで、こんなに多くの方が集まってくれたことが信じられないです。あの日、テーマパークで花火がいっぱい打ち上げられている時のような明るさを感じました。夜なのにものすごく明るかったんですよ、 本当に。最後を送ろうと思って来てくださった皆様の想いが溢れていて、最高に幸せな日でした。
退団というのは、ご自身の中で感じる時期がやって来るものなのですか?
トップになった時に、次は辞める時のことをみんな考えると思うんですけど、それをいつにするかなんです。私の場合は、宝塚95周年の時にトップになって、100周年くらいまでは頑張ろうと思っておりました。実際に100周年が近づいてきてからは、まだまだ成長したいという想いもあるけれども、そろそろ退団に向かっていこうと思いました。
そのまだまだという想いは、例えば目指す人がいて、その人と比べて自分はまだまだと思うとか、自分の中で何か基準はあるのですか?
私は優等生のようにポンポンと来たように見られがちなんですけど、トップになるまで、とにかく自分への劣等感がすごかったんです。 舞台で恥をかかないようにと、上級生も私にありとあらゆることを教えてくださいました。2番手になった時も安蘭けいさんと自分には実力の差がすごくあって、支えるどころか自分のことで必死でした。でも、トップになって、自分で考えていかないといけない立場になった時に、ようやく責任感がちゃんと持てたんです。自分で考えるってすごい大切な経験だなと思い、役ごとに自分のハードルを高くしていきました。
トップスターになっても、敢えてハードルを上げて、常に高みを目指していたのですね。
例えば「ロミオとジュリエット」を上演することになったら、私はロミオのキャラクターとはかけ離れていると思っていたけれど、自分の中のロミオっぽさを追求していったら、ものすごく共通するところが見つかるとか。次に「カルメン」のホセになったら、ロミオとはまた全然違うホセと共通する部分があるはずだと期待をしつつ鞭を打つんです。それを続けていくと、役の中身がちょっとずつ詰まっていく感触があって、人間としても役者としても勉強させてもらいました。こうしていくうちに、背伸びせずにリラックスして舞台に立てるようになり、後半は宝塚の男役として随分肩の力が抜けてきたので、次の世代に譲る頃かなと思うようになりました。
これからタカラジェンヌになりたい人にはなんとアドバイスしますか?
型にはまらないでと言いたいです。 受験のために色々教わってきて、こうじゃないといけないんじゃないかって、何が正しいのかわからなくなる時があると思うんですけど、ダイヤモンドの原石を見つけてもらうくらいのつもりでいて欲しい。この人素敵な人だな、舞台で輝くんじゃないかな、と思わせることが大切だと思うので、上手くまとまらず、のびのびやって欲しいです。
ヘアメイク:CHIHARU
スタイリスト:間山雄紀(M0)
次回へ続く
Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』
出演者:川口 調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿/益岡 徹、橋本さとし/柚希礼音、安蘭けい/根岸季衣、阿知波悟美/中河内雅貴、中井智彦/星 智也/大貫勇輔、永野亮比己 ほか
- 東京公演
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日時:9 月 16 日(水)~10 月 17 日(土)
会場:TBS 赤坂ACT シアター S 席 14,000 円/A 席 10,000 円
チケット一般発売中
お問い合わせ:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日 11時~18 時) - 大阪公演
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日時:10 月 30 日(金)~11 月 14 日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール S 席 14,000 円/A 席 10,000 円/B 席 5,500 円
チケット一般発売日:9月12日(土)
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10 時~18 時)
主催:TBS/ホリプロ/梅田芸術劇場/WOWOW/MBS(大阪公演のみ)
詳細は公式サイトにて
http://www.billyjapan.com/