HIGHFLYERS/#43 Vol.3 | Oct 1, 2020

退団後渡米し、ブロードウェイのミュージカルスター達と稽古しながら経験した、新たな生活やカルチャーショックが刺激に

Interview & Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

柚希礼音さんインタビュー3回目は、宝塚退団後の活動についてを中心に伺いました。ニューヨークへ渡って新しい生活スタイルを経験したことや、ブロードウェイのスター達と稽古した時に感じたカルチャーショックは、柚希さんの新たな門出にとても大きな刺激を与えたようです。また、演じる役が男性から女性に変わったことで役に立ったことや悩んだことはなんだったのか、それをどのように克服したのかをお話してくださいました。そして、今宝塚を振り返って感じることや、思い出に残る舞台のことのほか、柚希さんの人生を変えてくれた女優さんのお話も伺いました。
PROFILE

女優 柚希礼音

6月11日生まれ、大阪府出身。2009年に宝塚歌劇星組トップスターに就任し、2015年に同劇団を退団。退団後も「マタ・ハリ」「唐版 風の又三郎」等、舞台を中心に活躍し、昨年上演されたミュージカル「FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜」は第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。2021年1月より、主演を務めるミュージカル「イフ/ゼン」(シアタークリエほか)が公演予定。

男役で学んだことを活かしていいと思えるように。今は、ビリーエリオットの劇中歌に励まされる日々を送る

退団されて、女性ばかりの環境から、今度は男性も普通にいる世界に入っていかがでしたか?

本当に驚きました。衣裳の早替えの時とかは、袖に入った途端つい、衣裳を脱ぎ始めちゃったり(笑)。すると「まだまだここでは(脱いじゃダメ)!」と言われたり(笑)。あとは実際の男性ならではのエネルギー、良さもあるんだなっていうのも感じています。だから女性が演じる男役も、実際の男性も、両方の良さがあるんだなと思います。

男役と男性の俳優さんで何が一番違いました?

もともと男性なら、仕草や服の着こなしや立ち方などそこまで研究しないでしょうけど、宝塚の男役は、「後ろ姿までしっかり見られるんだ」と常に意識していましたし、上級生に教えていただき勉強して成長するんです。でも宝塚以外ではそこまでなかなか言われないから、逆に宝塚の男役並みに360度観られていることを意識して舞台上にいる男性にお会いすると、「この方すごい、どうやってこれ勉強したの?」って思います。

その俳優さんは宝塚の方に聞いたんですかね?普通は気付かない気がします。

そうなんです。だから同じ事務所の植原卓也くんや水田航生くんには恐れ多くも(笑)、舞台で年代ものをする時は違う着こなしをアドバイスしたりしています。

退団後、ニューヨークにも行かれたそうですが、その時のお話も聞かせていただけますか?

ニューヨークへは、「プリンス・オブ・ブロードウェイ」のために行ったのですが、身一つで行ったことにより、もう一回シンプルな自分に戻ることができたなと思います。新しい環境で「この水、高っ!」とか思いながら買うことを経験して、一度地に足をつけられたかなと思いました。それに、ブロードウェイで活躍する皆さんとダンスや歌の稽古をしてみて、あまりの実力の差に本当にびっくりしましたし、自分は本当にまだまだなんだってことをちゃんと自覚して、そこから再スタートを切ることができました。

ブロードウェイの方達の凄かったところって他にもありますか?

お稽古が朝10時から始まる時は、自分は8時半ぐらいには稽古場に行って発声したり柔軟したりして待つんですけど、皆さんは10時ちょっと前に「おはよう」って入ってきて、稽古が始まってすぐにフルパワーで歌えるんです。だから、「発声は家でしてきたのかな?」っていう謎が。ずっと積み重ねて稽古してきてるから、ちょっとだけ発声すればいいのかもしれない。それに、稽古も一発 OK で、皆さん早々と帰っていくんです。歌の専門大学を出ていたりして、すでに積み重ねてきたことがすごいんでしょうけど。そういう方達にお会いすると、自分に足りないものはちゃんと明確に見つけて、一歩一歩進んでいきたいって思うんです。

男役をやってきたことで今に活かされていることは何か具体的にありますか?

昨年、「A New Musical 『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』」に出演した時、女性の権利を勝ち取るために、世の男性に対して言いたいことを思いっきり言うシーンがあったのですが、あのエネルギーは男役で培ったものがないとできなかったんじゃないかなと思います。男役を学ぶことによって女性の視点からも男心を学べたし、 その上で今、女性を演じるのはすごく楽しいです。リフトにしても、こういう時って思いっきり飛び込んできてもらった方が楽だったな、とか、ハモリでも遠慮して小さく歌われるほうが歌いにくかったなとか、その逆の立場のこともわかるのはいいかなと思います。

選ぶのは難しいと思いますが、今までで一番心に残る舞台を選ぶとしたらなんですか?

いっぱいあるんですけど、宝塚歌劇100周年の幕開きの公演「眠らない男・ナポレオン ー愛と栄光の涯にー」 は思い出深い作品です。というのも、宝塚の作品は最後に向かってハッピーエンドになることが多い中、この作品は、1幕で意気揚々と上り詰め、2幕は落ちていく様子を描くという珍しい作り方だったんです。私は一幕のラストで落ちていくところが最高に好きだったし、100周年のあの神聖なお客様の空気からも宝塚が100年続いたことを実感できたし、ミュージカル「ロミオとジュリエット」の作曲家、ジェラール・プレスギュルヴィック氏と小池修一郎先生とで新作をやらせていただけたこと、とても心に残る作品になってます。

宝塚にいた頃を振り返って、今だから感じることはありますか?

バレエの時はいつも身を縮めて、なるべく手を小さく見せようとして踊っていたけど、宝塚に出会えて今までコンプレックスに思っていたことを逆に活かすことができ、それは宝塚受験を勧めてくれた親にも感謝しています。子供の時はバレリーナになりたかったけど、宝塚に出会えたおかげで体中のびのびと伸ばせて表現することができたので、なりたいものと向いているものの違いってあるかもしれないと思いますね。退団して女性に戻り、またちょっと身を縮めていた時期もあるんですけど、5年ぐらいかかって身は縮めなくていいんだと、そして男役で学んだことも活かしていいんだと思えるようになりました。

では、宝塚から得たことはなんだと思いますか。

人に対しての気遣いや、芸事に対しての真摯な気持ち、感謝の気持ちや、もう何もかもなんですよね。宝塚が自分というものを作ってくれましたし、芸も人間面も両方育てていただいたと思っています。

柚希さんの人生を大きく変えた人の出会いや出来事、言葉があれば教えてください。

公演の度にいろんな言葉に助けられて背中を押してもらっている人生だなと思うことが多いです。今回のビリー・エリオットの中でも、「さぁ個性を出して、ありのままで何が悪い?個性が世界を救うのさ」っていう歌詞に元気をもらってます。

人生を変えてくれた人物を一人あげるなら?

節目節目にたくさんいるんですが、女優という面で、一人あげるとするなら、韓国のミュージカル女優のオク・ジュヒョンさん。本当に素晴らしいってずっと聞いてたんですけど、宝塚を退団した翌年の2016年に初めて観て、とてもかっこ良かったんです。オク・ジュヒョンさんの、何にも媚びず、地に足ついた女性を等身大でされているのが。その頃私は、女性としてどう舞台に立ったらいいか悩んでいたのですが、こういう風に演じたい、と強く思う人に出会えました。この大きさを活かしてのびのびと演じつつ、地に足をつけて生き様までかっこ良く、こういう風にやっていきたいと。以来、時間を見つけては韓国まで頻繁に観に行って勉強させてもらってるんです。

韓国のミュージカル女優のオク・ジュヒョンさんと

ところで、今この仕事をしていなかったら、何をしていると思いますか?

何をしてたんでしょうか。海外に行きたい夢はあったので、一応失敗してもバレリーナとして活躍することを目指して、行ったのかもしれないですね。あと美容師さんとかもなりたかったけど、今思えば絶対そんなことできなかっただろうなと思う。毎日髪の毛を切るのって大変そう(笑)。あと、 OL さんみたいに、ランチに財布だけ持って出かけるのとか、退団してからそんな真似事を自分でやってみたりもして。

ヘアメイク:CHIHARU
スタイリスト:間山雄紀(M0)

次回へ続く

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Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』

出演者:川口 調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿/益岡 徹、橋本さとし/柚希礼音、安蘭けい/根岸季衣、阿知波悟美/中河内雅貴、中井智彦/星 智也/大貫勇輔、永野亮比己 ほか

東京公演
日時:9 月 16 日(水)~10 月 17 日(土)
会場:TBS 赤坂ACT シアター S 席 14,000 円/A 席 10,000 円
チケット一般発売中
お問い合わせ:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日 11時~18 時)
大阪公演
日時:10 月 30 日(金)~11 月 14 日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール S 席 14,000 円/A 席 10,000 円/B 席 5,500 円
チケット一般発売日:9月12日(土)
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10 時~18 時)

主催:TBS/ホリプロ/梅田芸術劇場/WOWOW/MBS(大阪公演のみ)

詳細は公式サイトにて
http://www.billyjapan.com/

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