HIGHFLYERS/#45 Vol.1 | Jan 7, 2021

制作過程を映像に残したいと言われて始まった密着撮影。レコードを知らない人にも、ジャケットを作る作業が面白いと思ってもらえたら嬉しい

Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのはデザイナーの菅谷晋一さん。これまでザ・クロマニヨンズやOKAMOTO'Sなど、たくさんの著名アーティストのレコードジャケットを手掛けてきた菅谷さんですが、作品の制作過程がとてもユニークだと業界内で注目され、その様子が収められたドキュメンタリー映画「エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット」が1月8日より公開されます。菅谷さんは小さい頃から手先が器用で、ものを作る楽しみを知った幼少期を経て、中学高校時代は音楽にハマり、大学では建築を学ばれます。卒業後は実家の町工場に勤めるも、大好きなデザインを諦め切れず、その道に進むことを決心。大学時代に培ったスキルを活かし、作りためた作品が認められ、あるアルバムを手がけることになり、そこからデザイナーとしての人生が切り拓いていきました。自身を“音楽バカ”と呼ぶほど音楽を愛する菅谷さんに、映画の撮影を通して感じたことや、これまで手がけた作品の中で一番苦労したもの、いいジャケットデザインの定義についてなどをお聞きしました。
PROFILE

デザイナー 菅谷晋一

1974年3月30日生、東京都出身。絵を描き、オブジェを作り、版画を刷り、写真を撮り、コラージュをし、映像のディレクションまで、ビジュアルをあらゆる手段で表現する。エポックのアトリエでは、音楽関係、装丁、ファッション、コーポレート・アイデンティティ、ビジュア ル・アイデンティティなどジャンルを問わず、日々ひとりで作り出している。

CONTENTS

デザインを作る時、大事にしたいのは最初に聴いて印象に残った言葉やフレーズ。敢えて音源は1回しか聴かない

まずは、この映画が作られることになった経緯を教えてください。

この映画の監督が昔から僕の作品を知ってくれていて、彼が制作会社を立ち上げた時にロゴマークを作る依頼をしてくれたんです。その後も会社に飾る絵を描いたりと付き合いがあったんですけど、ある時、僕の制作工程が面白いからぜひ映像に残したいと言われて。他の人からも面白いって言われていたし、自分自身を俯瞰的に見れるからいいかなと思って OK したんですよね。今思えば、一昨年でコロナになる前だったから撮影できたし、良かったなって。2019年の6月から、4ヶ月くらい密着で、ほぼ毎日撮影してました。

映像を通してご自身の制作風景を観て、どんなことを感じましたか?

僕は当たり前だと思ってやってることだから、そんなに驚きはなかったけど、観てくださった人に感想を聞くと、本当に一発で捨て案は無しなんだねって言われたりして、やっぱりちょっと変わってるのかなって。

確かに、一つの完成形だけを出すって、なかなかないように思います。

もともとデザイン会社にいてプレゼン方法を教えてもらったわけでもないし、それが当たり前だったっていうか、最初からそれだったから、「だって習ってないもん」みたいな感じですね(笑)。

周りに言われたとしても、ご自身のやり方を変えるのではなく、貫き通したんですね。

ですね。映画の中でも言ったけど、例えば60パターン(案を)作っていくっていう話を聞いた時に、もうおかしいじゃんって思っちゃったんですよね、そういうやり方って。単純にそれだけかな。

普段は一人で全作業をされていらっしゃるかと思いますが、カメラが回っている中でデザインを考えたり作業するのは気にはならなかったですか?

最初はやっぱりちょっと気になったんだけど、集中しちゃえば大丈夫でしたね。カメラマンの方はずっと PV とか音楽関係の作品や、映画も撮ってる方で、気配を消すのがすごい上手で僕を集中させてくれて。色々と勉強になりました。

スケッチをする時に寝転がってしてる姿が印象的でした。いつもそうなんですか?

そうなんです。楽だし、横になっていれば目を瞑りやすい。デスク周りとかって色んなものがあって情報が多いから、なるべく無の状況にしたくて。僕、いただいた音源を一回しか聴かないんで、印象に残った言葉とかフレーズを頭から無くさないようにするには、あんまり情報が欲しくないんですよ。なので寝ていれば、すぐ思い出したりとかできるので、そうしているのかもしれないですね。

菅谷さんは意識的にいつもデザインやお仕事のことを考えていらっしゃいますか?

あんまり考えてないかも。考えるのは依頼があってからかな。それまでは一ファンとして音楽を聴いたり、洋服のグラフィックデザインもするんですけど、服を見たりしてますね。それでデザインする時は、その商品がどうお店に飾られるかを考えるんですよ。例えば、作品を目立たせるために、今流行ってるものの逆を行こうとか。それも購入者的な視点で考えるのかもしれない。

映画の中で「音楽を聴いて、音の空気感を形にする」ということをおっしゃっていましたが、そのために注力していることや気をつけていることなどがあれば教えてください。

気をつけていることは、さっき言った「逃がしたくない」ってことですよね。デザインを作る時に元となるひらめきやキーワード、例えばこのイントロがかっこ良かったとか、この言葉がかっこ良かったとかって自分の中に残るじゃないですか。それを全部拾っていって、最終的に絵になったり彫刻になったりするんで、作品を完成させるまでそれをどう無くさないように維持するか、ですね。

どうやって維持するんですか?

2回聴かない、そして急いで作る(笑)。 忘れないうちに、やっちゃわなきゃって。そうやって塊だったり、平面だったりが出来上がっていく。

いくつかの作品を並行して作ることもあります?

あります。そうすることで頭をリセットできたりする。でも、できれば一個のことに集中してやる方が好きかもしれないです。

©2020「エポックのアトリエ」製作委員会

ジャケットのデザインが人に与えるインパクトはとても大きく、人の記憶に長い間残るものだと思いますが、これまでに他人からもらった意見や感想などで嬉しかったことや驚いたことなどありましたか?

「想像の上を行ってた」とか、そういうのはやっぱり嬉しいですよね。それはSNSで見つけたんだと思うけど、今は昔と違って、ある程度検索したら出てくるじゃないですか。それは今の時代ならではの面白いことだと思う。それと、僕のデザインを真似して絵を描いてくれたりする人がいて、それってやっぱりその人の描きたい欲を満たせてるってことだと思うんで、そういうのを見たりすると嬉しいなと思いますね。あとは、勝手に僕が作ったロゴを使ってTシャツを作ってたりとか(笑)。

菅谷さん的にそれは大丈夫なですか?

いいと思いますよ。パンクとかってもともとはそういう文化だから。DIYなんで。それを売ったりしたらダメだけど、自分で楽しむ分には、それはそれで僕は嬉しいです。

これまで手がけたレコードジャケットの中で一番苦労したものは?

「イエティ対クロマニヨン」っていうアルバムで、イエティが雪を投げて、高橋ヨシオっていうキャラクターがその雪を打つオブジェを作ったんですよ。それでぜんまいを使うので、ぜんまいの動作を基礎から勉強したんです。ネットで木のぜんまいを買って、あとはそれをどう合わせるかなんだけど、全くギアとかの知識がなかったから大変だった。その時は結構時間を頂いてたんで、2ヶ月ぐらいはずっとそれを作ってました。

では、菅谷さんが初めてジャケ買いしたレコードは?

高校生の頃に買ったローリング・ストーンズの「メインストリートのならず者」かな。それは CD だったんですけど、パッと見てかっこいいっていうのが分かったんですよね。そのジャケットを撮ったのはロバート・フランクっていう写真家で、彼はネガとかポジとかをわざと傷つけて作品を作ることもあって、そういう表現方法を見て、写真でもそういうことしていいんだとか、僕がのちに写真を撮る上ですごく影響を受けた人なんです。ローリング・ストーンズのアルバムは他のも全部好きだけど、それは特に僕の興味を引いた一枚ですね。モノクロ写真ってこんなにかっこいいんだ、とかね。

いいジャケットデザインを定義するとしたらなんでしょう?

いいの定義の仕方にもよると思うけど、音楽を聴いてない人でも知ってるジャケットになったら、かな。

この作品をどんな方に観て欲しいですか?

今、ジャケットって、音楽をサブスクで聴いてる人とかにとってはただのアイコンになっちゃってることもあると思うんですよ。それを全然悪いことだとは思わないけど、もしこの映画を観てもらって、ジャケットを作る作業が面白いなって気持ちにちょっとでもなってもらえたら嬉しいかな。あと、僕は毎日レコードを手にすることが当たり前になっていて、いつもワクワクしているけど、多分レコードとか CD を知らない人や、手に取ったことのない人もいっぱいいると思うので、そういう人たちにも届いて欲しいです。

今でもレコードは毎日聴くんですね。

はい。電車ではスマホから聴ける音楽を聴くけど、やっぱり戻るのはレコードだったりしますね。

手にとったりする感触が好きなんですかね?

存在そのものですね。感触だったり、レコードを出して聴く動作だったり、目の前で回っているのも見れるし。曲を選ぶのも簡単じゃないですか、曲間の溝に針を置けばすぐ曲が出るから。でもなんであんな音が出るのかはいまだに全然わからない。不思議ですよね、空気の音までするような感じの録音とかもあるんですよ。いや、すごいなって思います。

次回へ続く

ハードロックやブルースにハマった音楽漬けの中高時代。建築家を目指して入った大学でデザインの楽しみを知る

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エポックのアトリエ
菅谷晋一がつくるレコードジャケット

2021年1月8日(金)より新宿シネマカリテほかにてロードショー!

出演
菅谷晋一、ザ・クロマニヨンズ<甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治>、  OKAMOTO'S<オカモトショウ、オカモトコウキ、ハマ・オカモト、オカモトレイジ>、青柳拓次、VLADO DZIHAN、DJツネ、佐藤有紀、石川明宏、森内淳、信藤三雄、佐々木進
プロデューサー・監督・編集:南部充俊|撮影:千葉真一(J.S.C)|音楽:青柳拓次|エンディング曲 青柳拓次 featuring 真島昌利|協力プロデューサー:汐田海平、戸山剛| 制作プロダクション:エイゾーラボ
配給
SPACE SHOWER FILMS
公式HP
https://epok-film.com

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