チャンスとは句読点のようなもの。成功とは笑えること。だから僕はこれからも作品を作って笑い続ける
普段から習慣にしていることを3つあげて下さい。
帰り道に必ず乗る歩道の縁石があります。それに乗らないとなんか気持ち悪い(笑)。 あと、朝方、マンガやイラストをいっぱい描きます。ペンにいっぱいインクを付けて描く線はとても気持ちがいいです。そして納豆を食べます。カラシは入れません。クシャミしてギックリ腰になったことがあるので(笑)。

これまでの人生で一番大変だったと思う時期はいつですか?それにどう向き合い、どう乗り越えましたか?
父親の工場で働いていた時に、自分がやりたいことはやっぱりデザインなのかなって思って、どう折り合いを付けようかと悩んでた時ですかね。父親は僕が継いでくれることを願ってるのかなとか勝手に思っていたから、そこで葛藤してたっていうのはあります。それをちゃんと面と向かって話をしたっていうのが解決方法かな。
言うのには結構勇気がいったんですね。
だからこそ、自分でやりたいことをやればいいじゃんって許してもらった時に、それがポートフォリオを作る動力になって、ずっと作ってましたね。あそこでそんなに悩まなず進んでいたら、あんなにいっぱい作らなかったかなって今では思います。
逆に、これまでの人生で一番嬉しかった出来事は?
デビュー作の機会をもらえた時ですかね。デザイン会社に勤めたこともない僕に、一からデザインをやらせてくれたというのは、本当に嬉しかったです。
菅谷さんの人生を最も大きく変えた出会いを挙げるとしたら?
ローリング・ストーンズとかイギリスの音楽かな。昔ローリング・ストーンズが来日する時に、FMで彼らの特集番組をやっていて漫画を読みながら聴いてたんだけど、一曲目にかかった曲がすごいかっこ良かったんです。それからローリング・ストーンズのアルバムを買ってその曲を探すんだけど、どのアルバムにも入ってなくて。後々10年後くらいに、何かの映画のサウンドトラックで使われているのを聴いて、その曲がヴァン・モリソンのいたゼムというバンドの曲だというのがやっとわかったんです。曲を1回聴いただけで口ずさめるくらい体の中に入ってきてたから、そういう音楽との出会いっていうのは一番大きいかな。

その曲を見つけた時はすごい嬉しかったでしょうね。
嬉しかった。でもね、レコードを買って聴いてもそんなに感動はなかったんです。そうしたら、この間その曲がラジオで偶然かかった。その時は初めて聴いた時の情景が浮かぶぐらい嬉しくて、泣くかと思うくらい感動しました。ラジオの力って大きいですよね。ラジオで感動したものはやっぱりラジオで取り返すみたいな。なかなかかからない曲だから余計に嬉しかったです。
素敵ですね。ところで、人生の指針となる言葉はありますか?
何年前かな、大したことではないんですけど、作品を作っても作っても、自分の中で納得いかない時期があって、悩んで人に相談した時に言われた「喫茶喫飯」という言葉。禅の言葉で、目の前のことをやればいいんだよ、余計なことは考えないで邪心を捨てなさいっていう意味らしいんですけど、混沌としてた自分の中にすっきり落ちてきた感じがありました。
では、デザイナーとして今最も必要とされる資質とはどんなことだと思いますか?
面白がれることじゃないですかね。今ちょっと暗い世の中だけど、自分が持てるものでどれだけ楽しめるかを示すのがデザインの力だと思うんですよ。前に電車で見たカロリーメイトの吊り広告に、コロナの現状を書いたものがあって、すごくいいなと思って、僕はそれを読んで明るい気持ちになれたんですね。そういうものを作れたら最高ですよね。

©2020「エポックのアトリエ」製作委員会
菅谷さんがこれだけは他のデザイナーに負けないと思うところは?
音楽バカってことです(笑)。「エポックのアトリエ」は、本当に音楽バカが、ただジャケットを作ってるっていう映画なんですよ。僕が楽しそうに作ってるのを見てもらって、例えばコロナでちょっと気持ちが塞がってた人がそれを見て笑ってくれたり、私も好きなことをやろうって思ってくれればいい。実際に撮られてた時はそんなことは全然思ってなかったけど、今だからそう思えるのかな。本当に自分は音楽バカなんで、それは人にはちょっと勝てるっていうか、自慢できるっていうか。
菅谷さんのようなデザイナーを目指す若者に、アドバイスをするとしたら?
思いっきりデザインの世界に飛び込んでみて下さい。パッと開けると思います。
これから挑戦してみたいことはありますか?
CD ジャケットとか、レコードジャケットの大きさって変わらないじゃないですか。でも僕が作るものは、毎年どんどん大きくなっていってるんですよ。ジャケットよりそんなに大きくする必要はないんだけど、2メートルのものとか作っちゃうってことは、多分これからもっと大きいのが作りたいのかなっていう(笑)。

ザ・クロマニヨンズ のアルバム「JUNGLE 9」のジャケットに使われた作品。森の神様で、みんなには「ナインくん」と呼ばれている。菅谷氏が池袋の古代オリエント博物館でジャングルのお祭りに使うお面を見て、 いつか大きなジャングルの守り神を作りたいと思って作成した。
菅谷さんにとってチャンスとはどんなことだと思いますか?
句読点みたいなものかもしれないですね。文章って、句読点がなくても伝わるけれど、やっぱりあった方が意味が間違いなく伝わるし、読む時も、それに気づけば文章の意味がちゃんと理解できる。それと同じように、チャンスをくれる人って、チャンスだよってことをわかりやすく伝えてくれようとしているのかなって思うんです。だからチャンスはさりげない句読点みたいな優しさだと思います。
では、菅谷さんにとって成功とは何ですか?
笑えることですかね。成功って言葉で片付けていいかわからないけど、僕は作品ができた瞬間って笑っちゃうんですよ。完成までの楽しさや、ユーモアを突き通すことができたら。なので、一言で例えるとすると笑えることなのかな。
成功する人と成功しない人の違いは何だと思いますか?
些細な喜びを感じるか感じないかだと思います。僕は、すごい小さいことかもしれないけど自分の作品を作ることの喜びで笑って、「この作品成功」って思う。そんなことを感じるか感じないかの違いなのかな。
菅谷さんが思う、最も成功している人は誰ですか?
みんな一緒じゃないかな。もっと笑いが溢れた日常に戻ればいいなと思う。みんなが笑える、いつも通りの世の中になれば、みんな成功です。
菅谷さんのしていることで世界が変えられるとしたら、それはどんなことですか?
世界が変わるかわからないけど、今の状況を続けていくことです。作品を作って、できたら笑って。それを続ければ僕の中では変わるかもしれないし、僕の周りのみんなも笑って、変わるかもしれない。
まだ叶っていない夢があったら教えて下さい。
多分今年はもっと大きい作品を作るから、大きいものを作るってことが夢かもしれないです。無意識にやってることだし、どれくらい大きくなるかはわからない。僕はとにかく作品を作って、笑い続けます(笑)。

エポックのアトリエ
菅谷晋一がつくるレコードジャケット
新宿シネマカリテほかにて絶賛上映中!
- 出演
- 菅谷晋一、ザ・クロマニヨンズ<甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治>、 OKAMOTO'S<オカモトショウ、オカモトコウキ、ハマ・オカモト、オカモトレイジ>、青柳拓次、VLADO DZIHAN、DJツネ、佐藤有紀、石川明宏、森内淳、信藤三雄、佐々木進
- プロデューサー・監督・編集:南部充俊|撮影:千葉真一(J.S.C)|音楽:青柳拓次|エンディング曲 青柳拓次 featuring 真島昌利|協力プロデューサー:汐田海平、戸山剛| 制作プロダクション:エイゾーラボ
- 配給
- SPACE SHOWER FILMS
- 公式HP
- https://epok-film.com