HIGHFLYERS/#44 Vol.1 | Nov 5, 2020

愛知万博をきっかけに、切り拓いていったパーマカルチャーデザイナーとしての道。商業施設や個人宅で、持続可能な場を設計

Interview: Kaya Takatsuna / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのはパーマカルチャーデザイナーの四井真治さん。パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化を築いていくためのデザイン手法のことを言います。四井さんは、福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後は、緑化会社で営業職、研究職を経た後、長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立されます。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン、施工指導し、それ以降様々なパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わってきました。インタビュー第1章は、パーマカルチャーデザイナーという仕事についてや、日本国内においてのパーマカルチャーの認知度や盛んなエリア、そしてパーマカルチャーを実践したい人へのアドバイスもいただきました。
PROFILE

パーマカルチャーデザイナー 四井真治

信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。 その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。 土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、 愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。 企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。

これからは、わざわざ地球環境を守るためのことをやるのではなく、人が暮らすことで環境も良くなる仕組みを考えることが大切

四井さんのご職業はパーマカルチャーデザイナーということですが、パーマカルチャーについて教えていただけますか?

1970年代に、オーストラリアのタスマニア大学で教鞭をとっていたビル・モリソンが、当時、大学院の教え子のデビット・ホルムグレンと持続可能な農業として体験化したのがパーマカルチャーです。「パーマネントアグリカルチャー」として、持続可能な農業という発想から始まっているんですけど、突きつめていくと、農業というカテゴリーに止まらず、持続可能な暮らしや社会にも視野が広がっていったんだと思います。 農業を含め、なぜ色々なことをやるのかって、生きていくため、暮らしのためじゃないですか。そのためには社会を築いていかないといけないし、持続可能な社会になるには文化を作っていかないといけない。だからもともと持続可能な農業と言っていたものが持続可能な文化、「パーマネントカルチャー」に発展していったんだと思います。

パーマカルチャーをデザインするとは、四井さんは具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

例えば、「こういう場所があるけど、ここで人が活動を行うにはどのようなことをすれば持続可能になるんですか?」といった相談を受け、個人やクルックフィールズ(KURKKU FIELDS)のような商業施設などにその場所の地形や植生、土壌などを読み解き、それらから総合的に考えられる持続可能な仕組みを考えたランドスケープデザインをするんです。僕がパーマカルチャーデザイナーとして一番初めにした仕事は、愛知万博でパーマカルチャーガーデンを併設したオーガニックレストランを設計することでした。その後、そのレストランを山中湖に移設したいという依頼があって、移設は難しいから新たに作った方が安いという話をしたら、5億円というまとまった予算を用意してくれて、6000坪の敷地に畑を中心として循環する宿泊施設とレストランを作りました。そこから商業施設に限らず個人のお宅やコミュニティガーデンとか、今は石垣島の宿泊施設やコーヒー農園、著名な方とのサステナブルライフスタイルブランドの立ち上げなどに関わったりしています。

そういうお仕事は政府とやる感じですか?

まだアンテナの感度が高い民間の仕事がほとんどです。僕のパーマカルチャー理論だと、人が暮らすことによって、同時にその場の持続可能な仕組みが駆動するようにデザインするんです。これまでの一般的なこのような活動だと、 例えば里山を維持するために草刈りをしたり、棚田を管理するために棚田の形を維持したりと、環境を意識して何かエコロジカルなことをやろうとしていましたが、そういうふうな組み立てで全体の仕組みを考えてしまうと、わざわざそれをやらないといけないし、それに対して特別な費用が発生してしまうんですね。でも、その場での自然の仕組みに倣った暮らしを組み立てれば、それをこなしているうちに自然と綺麗になっていく。これからの地球全体のことを考えても、環境のために何か特別なことをやるというより、人々が暮らすことで同時に新しい環境を作っていくような仕組みにしていくのが大事なんです。

人が暮らすことで環境が作れるとはとてもいいですね。

今、地球の環境が壊れていくのを食い止めるためいろんな努力をしてますけど、人によってはそこまで環境意識がないから、僕みたいな人は“意識高い系”ってひやかされてしまいます。でも、そうでない人たちが普通でないだけで、今危機的な状況は知れば知るほど何かをしなければと考えるのが普通だと思うんです。そうやって知ろうとしない人や、今地球が抱える問題を客観的に考えようとしない人たちに知ったり考えてもらって、未来に向けて努力をしようって皆で一緒にできるようになるのは多分数十年がかかると思うんですね。そうすると環境が壊れる方が早いので、だったら社会の仕組み自体を変えてしまって、意識高い人も、普通の人も、低い人も、意識してなくても暮らすだけで環境が良くなるような仕組みに変えていかないといけない。そうすれば日本の人口が1億2000万人以上いるのだから、その環境を良くする力はものすごい変化の力となるはずです。

世界と比べて、今日本でパーマカルチャーの認知度はどのくらいなんですか?

かなり低いと思います。ヨーロッパやアメリカだと、俳優とか女優さんがそういう動きをしていて、フランス人のメラニー・ロランはパーマカルチャーの映画「TOMORROWパーマネントライフを探して」を撮っていたり、(レオナルド・)ディカプリオもいろんな環境活動をやったりしてますよね。でも日本では小林武史さんくらいで、他に具体的に動いてる人はほとんど聞かないです。坂本龍一さんも小林さんと一緒にap bankを立ち上げたり、モア・ツリーなど動かれてますけど、サステナブルな農場などの現場を作ってやっているのは小林さんだけかと。小林さんはアーティストとしても人柄も大好きだし、応援したいので一緒に活動してます。

四井家の堆肥場。落ち葉や生ゴミ、動物や四井家の家族の排泄物など、暮らしから出る有機物が積み重なって堆肥となる。匂いは全くない。

日本の中で具体的にどこかのエリアでパーマカルチャーが盛んになってきた所はありますか?

盛んになっているのは、パーマカルチャーデザインセンタージャパン(1996年設立)がある、神奈川県の藤野の辺りかもしれないです。ローカルのコミュニティという視点で動いている人はいっぱいいると思います。自然と連動する環境である地方ほど、そういうことを意識して活動しないと、持続可能な仕組みはなかなかできあがらないと思います。今の状況で普通にコミュニティを作ることを考えたら、やっぱりパーマカルチャー的な考え方になっていくと思います。ただ、本家本元のパーマカルチャーはビル・モリソンの考えた「10の原則」、自然の多重構造や、生物多様性を活かすこと、エッジ効果、エネルギー効率など、自然というおおまかな原理から考えられた原則、つまりルールに沿ってデザインを進めれば持続可能なデザインを構築できますよ、みたいな話なんです。だから、原理が具体的でなく、すごく伝わりにくいことも事実です。

一つのことではなく、いろんなものが連鎖してできるということですよね?

そうです。いろんなものが連鎖して、有機的な繋がりの中で自然の仕組みができたり、その中に僕らがいたりとかして、それを保つために10のルールというものが考えられています。だけどそれを勉強したところで、その原理が何なのかということはわかりにくいと思ったし、学び始めた僕自身も「じゃあパーマカルチャーって何?」って質問された時に答えられないなと思って。

葉や固形物を取り除き、土をかき分ける

確かに、わかりにくいかもしれないですね。

僕は子供の頃から本当の豊かさって何なんだろうってずっと考えていて。なんで考えていたかというと、学校の勉強が嫌いだったんです(笑)。それで、勉強する理由を考えた時に、それは自分が豊かになるためだと。それからは、本当の豊かさってなんだろうということをずっと追求してきました。そういう風に考えていくと、結局は自然とは何かいうことにも繋がって、実際の暮らしのなかで命とは何かを気付き、その自然の究極の持続可能な仕組みがパーマカルチャーの原理であり、ビル・モリソンが言う10の原則がそれで説明できることに気づいたんです。

なるほど。では、これからパーマカルチャーを実践してみたいと思う人にアドバイスをするとしたら?

よく聞かれるんですけど、まず手始めは生ゴミなどで堆肥を作ることをやってみたらいいと思います。生ゴミは自分にとって邪魔な存在だからゴミという意識を持って捨ててますけど、堆肥化すればそれは資源になる。堆肥そのものが微生物の住処なんですよ。例えばスプーン一杯の土には10億匹くらい微生物がいると言われてますけど、堆肥の中にはそれ以上の微生物がいるんですね。だから都会にいても堆肥を作る箱なりを暮らしの中に設置することは、他の微生物の住処を作ってあげることになり、他の命を生むのを助けることになるんです。ゴミを片付けることが堆肥を作り、人が暮らすことが土を作るということになるんです。

そうなんですね。やり方としては、例えば箱とかに生ゴミを入れ続けていけばいいんですか?

入れ続けていいんですけど、方法にもよります。1ヶ月くらい過ぎると栄養分や水分が豊富になりすぎて臭いが出てきてしまうので。臭いは虫を呼ぶサインになります。臭いって、余分なものとして栄養素が余ったものがガスとして出てくるもので、それを頼りに食べ物を探している生き物が食べに来たり、卵を生みに来るわけです。だから臭いが出ないような堆肥の作り方をしないといけないんです。

出来上がった堆肥は畑に戻り、美味しい野菜を育てるのに使われる

そうするには技術がいりそうですね。

技術というかコツですね。ちゃんと管理すれば臭いは出ないですよ。虫たちは微かな臭いでも寄ってきますけど、寄ってこなくなるくらいの管理ができますから。とにかく堆肥を作る箱の中に、そこに住むいろんな微生物たちがお腹がすく環境を作ってあげるんです。その微生物たちが、余分な栄養分を食べて臭いを消してしまうので。例えば自然の中を散策しても、嫌な臭いはしないじゃないですか。あれと同じ状況が堆肥箱の中に生まれるんです。

次回へ続く

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