HIGHFLYERS/#44 Vol.3 | Dec 3, 2020

エコロジーを追求し、実社会に落とし込んでいく「エコロジー2.0」。企業のあり方を変え、消費や生産活動が環境を良くする取り組みに挑む

Interview: Kaya Takatsuna / Text & Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

パーマカルチャリストの四井真治さんのインタビュー第3章は、パーマカルチャーを実践する上で一番大変なことや、自身が暮らしを通して一番変化したと思う点などをお聞きしました。次の経済活性は絶対にエコロジーだとおっしゃる四井さんが、現在取り組んでいることの一つに「エコロジー2.0」がありますが、エコが騒がれる今も、根本の資源やエネルギーを得る仕組みなどは変わってないと四井さんは言います。その現状を改善していくために必要なこと、他にも、地球における生物としての人間の存在意義についてや、海外と日本でのパーマカルチャーの大きな違いなどについても語っていただきました。
PROFILE

パーマカルチャーデザイナー 四井真治

信州大学農学部森林科学科にて農学研究科修士課程修了後、緑化会社にて営業・研究職に従事。 その後長野での農業経営、有機肥料会社勤務を経て2001年に独立。 土壌管理コンサルタント、パーマカルチャーデザインを主業務としたソイルデザインを立ち上げ、 愛知万博のガーデンのデザインや長崎県五島列島の限界集落再生プロジェクト等に携わる。 企業の技術顧問やNPO法人でのパーマカルチャー講師を務めながら、2007年に山梨県北杜市へ移住。八ヶ岳南麓の雑木林にあった一軒家を開墾・増改築し、“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを自ら実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動。

パーマカルチャーの暮らしをして、自分に起きた一番の変化は、全てに納得して生きていけること。それを実感してから、存在意義を持てるようになった

ところで、四井さんの奥様はどんな方なんですか?パーマカルチャーな暮らしをするのは最初から全く問題なかったのですか?

奥さんは、知人のオーガニックレストランに行った時に出会いました。当時奥さんはレストランを任されていて、僕はお客でした。綺麗だけどつっけんどんな人だなって思っていたので、まさか結婚するとは思わなかった(笑)。でもある時、どんな暮らしをしてるのか見てみたいと、僕が住んでいた長野の家に遊びに来たんです。東京出身の彼女は、もともと田舎暮らしに憧れを抱いていたみたいですけど、やっぱり実際やってみると本当に想像以上に大変だったって言いますね。

四井氏の工房。祖父の代から受け継いだ工具が部屋を埋め尽くす。大体のものは自身で修繕する

そうなんですね。パーマカルチャーを実践する上で一番大変なことって何ですか?

暮らしの技術という上で、相手と対等でいないと、どちらかが劣等感を持っちゃうというか、うまく対等な関係を築けないんですよ。例えば「なんであれをやっておいてくれなかったの?」とか、「なんであれに気づかないの?」とか、そうなっていっちゃうんですね。でも、だんだん技術が追いついてくると、いろんなことに気付いて自発的に動くようになり、お互いを尊重し合いながらチームワークができてくる。そうなるまで僕の奥さんは本当に辛かったと思います。

四井さんご自身が、パーマカルチャーの暮らしを通して一番変化したと思うことは?

全てに納得して生きていけることですね。僕は学生の頃、本当に人間嫌いだったんですよ。環境破壊で僕が慣れ親しんだ地元の森がなくなったこともそうだけど、コロナの時は人が外出しなくなって空気が綺麗になったおかげで野生動物の生活圏が広がったし、福島の原発やチェルノブイリの周辺も野生動物がすごく繁殖して、生態系が戻ってきているじゃないですか。人間がいない場所で自然が再生されていく様子を見ると、人間なんて地球に必要ないんじゃないかって思っちゃいますよね。

だから人間嫌いだったんですね。

でも今はここでの暮らしで、本当は人が暮らすことによって場を豊かにできるし、そういう仕組みに変えられることを実感できて、自分の存在意義を持てるようになりました。例えば、エコロジーって何なのかを子供達に説明する時に、「人間の暮らしが環境を壊すから、環境にインパクトを与えない暮らしをするんだ」とは教えたくないですよね。だって自分たちが地球上にいる存在意義を否定することになるわけだから。それってすごい悲しいことじゃないですか。そこで、考え方をちょっと変えてデザインすれば、人が暮らすことによって環境にインパクトを与えないどころか、もっといろんな生き物が住めるようなきっかけを作ったり、一緒に住むことによって豊かな資源や環境を与えられる。そんなことが教えられたら未来は明るいですよね。

存在意義とは大きな意味を持ちますね。

今実際に小林武史さんと作ってるクルックフィールズも、人間の存在意義を証明するためにやってるんですよ。30ヘクタールの巨大な土地を使って、仕組みを作ってます。こういうことをする時って、大体日本人って海外の事例を持ってくるけど、そうじゃなくて、日本から発信していかないといけないんです。日本は戦中戦後はバイオマスエネルギーでまかなわれていましたし、宗教的にも八百万の神とか、自然をちゃんと意識した考え方や価値観があって、それを元にした持続可能な文化があったんです。それを取り戻して、現在の科学的な視点でその延長線上にある文化を築いていけば、本当に世界に誇れるライフスタイルを提案できると思います。モデルの森星さんを始め、僕の周りでもいろんなことを感じてくれた人が動き始めているんで、今みんなで立ち上がらないといけない時期だと思ってます。

他に何か今取り組んでいらっしゃることはありますか?

生産活動が同時に環境を良くするようなものにしていこうと、企業にコンサルティングをしてる仲間と一緒に「エコロジー2.0」を進めようとしています。今はどこもアイデアが飽和状態じゃないですか。僕は次の経済活性は絶対にエコロジーだと思うんです。例えばものを作るのだって、ちゃんとした仕組みを作って製品に落とし込めば、消費することが環境を良くするようにデザインできると思う。そうすれば、今までのもののあり方がガラッと変わるわけですから、大きな経済効果を生むと思うんです。

エコロジー2.0について、少し詳しく教えていただけますか?

アル・ゴア(元アメリカの政治家)がプレゼンして、地球の温暖化が世にちゃんと認識されて、みんながエコロジーに気づいたことが「エコロジー1.0」で、そして本当の意味でエコロジーを追求して、実際に社会に落とし込むのが「エコロジー2.0」です。エコロジー1.0以前は、環境活動をやってるって言うと、お前は変わり者だって言われてましたけど、今はエコ、エコです。それで、みんなエコハウスとかエコカーとか、マイ箸、マイバックとかってやり始めたんですけど、実際は省資源、省エネルギーしかやってなくて、根本の資源やエネルギーを得る仕組みとかは変わってないんですよね。本来だったら、自然の仕組みのサイクルの中で得られるものをマテリアルやエネルギーとして使うことがエコロジーだと僕は思うんです。そういう風な仕組みに会社のリソースとかを変えていったり、ヒューマンベース、ヒューマンサイズにしていったりすれば労働環境も変わるじゃないですか。そういう風に企業のあり方を変える手助けをしてあげれば、消費することや活動することが同時に環境を良くするように変えられると思うんです。

今、第二の波が来ている感じなんですね。

みんなお金を貯め込んでいるし、リースとかリユースとか生み出すのが飽和状態の中で、じゃあ次に何をやるのかって言ったら、悪くなったものを良くすること以外に経済を活性させる方法はないと思うんです。それに、今後そういう方向性はすごく需要を生むと思うんですよね。政府の政策だと一部の人しか変わらないことでも、エコロジー2.0は全ての人の暮らしとか文化が変わることに結びつけられると思うし、同時にお金が回るようになると思う。やっぱりちゃんとお金と伴った考え方でやっていかないと、本当の意味ではエコロジーは広まらないというのもありますよね。

話は変わりますが、パーマカルチャーにおいて、海外と日本で大きな違いを感じることはありますか?

海外ではパーマカルチャーの原理よりも、ルール的なことで思考が組み立てられ、場づくりがされています。例えばみんながインスタに上げている写真を見ると、多くは収穫物の写真で、あとは堆肥が少しあるくらい。全体の持続可能な仕組みというより、「こういう風なものが獲れたよ、豊かでしょ」みたいなことが多いんですね。そういうのを見てると、まだまだ持続可能な仕組みというのは、暮らしに落とし込まれてないように感じます。なので僕は暮らしとか仕組みがわかるような写真を多く投稿するようにしてますけど、やっぱり人が暮らすと同時に環境が豊かになるにはまだまだ気づけてないんじゃないかなと。そういう意味でも、日本から発信していきたいですね。みんながどこかからアイデアを持ってくるのを期待するのではなく、自分たちで考えないといけないし、そうすることで考えることに誇りを持てるようになると思います。

素晴らしいです。そんな四井さんが、これまでパーマカルチャーをやめたいと思ったことはありますか?

ないですね。これは天職だと思ってますし、やればやるほど成果が出てるので。世の中や、僕に関わってくれている人たちがどんどん変わって良くなってきてますし、この活動をすることが生きることに繋がるので。本来の暮らしって、お金を稼ぐ仕事以外に家事もあって、その両方をすることだけど、今は便利さやものを買うことで家事が省かれているじゃないですか。でも、もう少しバランスを良くしていってもいいんじゃないかと思うんです。例えば味噌くらいは自分で作るとか、じゃあ味噌を作るために大豆はこれくらいの量を栽培しようとか、そういう目標というか自分のスキルを維持できるくらいのことはやったほうがいいと思います。

そういう暮らしをしたら、 心身ともに良いバランスが取れそうですね。

僕が子供たちのいち親として、便利な暮らし、例えば食べるものはコンビニで買ったり、おかずは冷凍食品だったりとか、そういう暮らしをしていたとします。お金はしっかり稼いで、経済的な安定はあったとしても、それで育った子供たちは生活のスキルを積めないじゃないですか。例えば将来農家さんになりたいとか、何かものを作る職業になりたいっていう思いにはなかなかなれないと思う。でも、暮らし全体のことをあるレベルでやれば、色んな学びがあるから生活のスキルも上がるし、変幻自在にやりたいことが考えられる人間に育つと思うんです。だからやっぱり自分のことだけじゃなく、自分の次やその次の世代のことを考えていくと、ある程度基本的な暮らしを土台に、その上に仕事があるように暮らしを組み立てていかないと、生活文化って維持されないんです。特別な人たちしかやらない社会になっていくんですよ。

次回へ続く

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