HIGHFLYERS/#45 Vol.3 | Feb 4, 2021

ボンジュールレコードの「Child Food」をきっかけに、切り拓いたデザイナーの道。丸投げで受ける仕事で大切にしていることは楽に考えること

Interview & Text: Atsuko Tanaka / Photo: Atsuko Tanaka & Shusei Sato / Cover Design: Kenzi Gong

デザイナー・菅谷晋一さんのインタビュー3章は、デザイナーを志してから現在に至るまで、仕事に対しての向き合い方などをお話しいただきました。念願だったアルバムジャケット制作初の仕事の依頼が来た時はとても驚いたそうですが、その作品が好評を得て、その後は順調に仕事を得られるようになったとおっしゃいます。全ていちからものを作る菅谷さん、膨大な熱量と時間をかけて一つの作品を仕上げていらっしゃいますが、楽しむことを一番大切にしている姿から、忘れかけている大事なことを思い出すかもしれません。他にも、菅谷さんにとって音楽とは、最近好きな音楽などもお聞きしました。
PROFILE

デザイナー 菅谷晋一

1974年3月30日生、東京都出身。絵を描き、オブジェを作り、版画を刷り、写真を撮り、コラージュをし、映像のディレクションまで、ビジュアルをあらゆる手段で表現する。エポックのアトリエでは、音楽関係、装丁、ファッション、コーポレート・アイデンティティ、ビジュア ル・アイデンティティなどジャンルを問わず、日々ひとりで作り出している。

自分を助けてきてくれた絶大な音楽の力。最近のお気に入りは50年代ドゥワップのコースターズ

デザイナーの道を志してから最初の仕事をもらえるまでは、どのくらいの時間がかかりましたか?

意外に早かったです。最初にいただいた仕事は、ボンジュールレコードの「Child Food」というアルバムでした。当時ボンジュールレコードはレコード屋さんもやっていて、そこである時レコードのバイヤーの求人広告を見つけて、作品を作ってるだけではらちがあかないし、レコードの買い付けも楽しそうだなと思って応募したんです。最終面接まで行ったんですけど、社長に「君が本当にやりたいのは、バイヤーじゃなくて作品を作る方でしょ」と断られました。そうしたらその2週間後ぐらいに、そこで 出すCDのデザインをやってくださいと仕事の依頼をいただいて。社長は僕がデザイン会社に勤めた経験がないことを知っていたし、本当にドッキリかと思いました。

初めて手がけたジャケット。ボンジュールレコードの「Child Food」

その後は順調に行ったんですか?

その当時、ボンジュールレコードは有名だったので、僕が手がけた作品も結構な有名作となって。後にパルコの仕事をやった時には、「ボンジュールレコードのチャイルドフードを手掛けた菅谷晋一が、パルコのクアトロレコードのジャケットをやりました」みたいな企画書が出るくらいの影響力があったんです。なので、その後は結構順調に行きました。本当にラッキーでしたね。

アートは手探りで独学だそうですが、どのようにして学んだのですか?

大学の頃から、デザイン学科の友達とステンシルやシルクスクリーンを一緒に作ったりとかして、授業以外のところで遊んで学んだみたいな感じですね。コンピューターはわからなかったので、イラストレーターとかフォトショップの使い方とかは結構友達に聞いたかもしれないです。

菅谷さんの作品を作る工程を見てると、どんなものができるんだろうとワクワクしますが、作っていく途中で、最初にイメージしていたものと仕上がりが変わることもあるんでしょうか?

あまりないかな。ゴールに基づいて修正をどんどんしていくので。でも、例えば絵を描く時に、ある程度コントロールの効く筆ではなく、わざと割り箸とかを使って描いて、思いもしなかったような線を求めてみたりはします。

そうやって結構色々試してみたりするんですか?

そうですね、他にもテレホンカードを使ったりします。でも今テレホンカードがなくて困ってるんです。映画の時はコースターで代用してやりました。ちょうどいいかすれが出るんですよ。

デザインや構想を練るのに、頭で考えるだけでなく、何かを触ったり、いじったりして、自分の手を使って考えることは大事なことでしょうか?

大事だと思います。実際に触っていじったり落としてみたりしてよく観察すると、頭の中で思い描いているものと実際は違うのを発見するかもしれないので。

当時、この人のようになりたいなど、目標にしていたデザイナーはいましたか?

やっぱり信藤三雄さんですかね。その当時、ポップにいろんなところに出てた人なんで。勇気をもらえるじゃないですか、そういう方がメディアとかに出ていると。信藤さんには、映画でのインタビューを撮った時に久しぶりに会いました。僕のことは覚えてはいなかったんだけど、昔お渡ししたバッジをずっとつけてくれてたみたいで、嬉しかったですね。

菅谷さんは、仕事を丸投げされることが多いかと思いますが、やりやすいですか?

やりやすいですね。思い返してみたんですけど、デビュー作の「Child Food」から全部丸投げなんですよ。だから、逆にそれ以外は知らないっていうのが大きいかもしれない。カメラマンさんや、メイクさん、スタイリストさんとチームでやる仕事とかも色々やらせてもらったけど、やっぱり一人でやるほうが楽しいかな。

©2020「エポックのアトリエ」製作委員会

丸投げされることに、プレッシャーはあります?

そんなにないです。というか、プレッシャーに邪魔されるのが嫌なんだと思います。そんなことを感じてる場合じゃなく、違うことに頭を使った方がいいっていう切り替えをしてるのかもしれないですね。変なプレッシャーでアイデアが出なかったらつまらないですし、楽に考えた方がいいですよね。

これまでたくさんのレコードジャケットを手掛けてきましたが、菅谷さんにとって音楽とは?

全てかな。本当に助けられてきてるっていうか、音楽がなかったら多分この仕事もしてないと思う。初めて会う人とお話しする時も音楽の話をしちゃうし、何もない状況から物を作る時、依頼されなくても音楽聴いて作ると思うし。衣・食・住・音です(笑)。本当にそれぐらい。

デザインより大きいですか?

大きいです。僕がやってることって、ジャケットに落とし込む時にデザインしているだけで、作ってるものはデザインじゃないかもしれない。皆さん肩書きが気になるようだから、いつもデザイナーとは言ってるけど、なんでも好きなように呼んでもらえればいいです(笑)。思い返せば、高校の時に友達ができたのも、「ウォークマンで何聴いてるの?」みたいな会話がきっかけとかって多かった。やっぱり当時聴いてた音楽って結構大事だったかもしれないですね。洋服から友達になる人もいるし、同じ携帯を使っててるのがきっかけとかもあるけど、音楽ってそれ以上に語れますよね。その人のバックボーンが大きく見えると言うか。だから僕にとっては大きいです。

最近はどんな音楽が好きですか?

この間ディスクユニオンに久しぶりに行ったんですよ。そうしたら 50年代のコースターズのSP盤を見つけて、そこからドゥワップを聴きなおしてるかな。ドゥワップって楽器を使ってないでしょ。楽器を使わずにコーラスだけで勝負ってすごいと思う。しかも 僕が買ったSP 盤は電気再生時代の盤で、針がガッチリハマると低音がすごいんですよ。しびれますね。

菅谷さんのデザインのスタイルを一言で表すとしたら?

ただ「音楽が好きなだけ」です。ずっと音楽のことを考えていますから(笑)。

デザインにおいて、菅谷さんが一番大事にしていることはなんですか?

スパッと切れ味の良いアイディア。

コロナ後、仕事やご自身の作品に関して、考え方など何か変化はありましたか?

ライブや色々なエンターテイメントで今は我慢を強いられる方々が多いから、何か良い解決方法を知ってる人がいれば、それを導入してどうにかできるといいなと思います。自分はそこで何ができるかわからないけど、できることがあれば何でもやってみたいですね。

次回へ続く

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エポックのアトリエ
菅谷晋一がつくるレコードジャケット

新宿シネマカリテほかにて絶賛上映中!

出演
菅谷晋一、ザ・クロマニヨンズ<甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治>、  OKAMOTO'S<オカモトショウ、オカモトコウキ、ハマ・オカモト、オカモトレイジ>、青柳拓次、VLADO DZIHAN、DJツネ、佐藤有紀、石川明宏、森内淳、信藤三雄、佐々木進
プロデューサー・監督・編集:南部充俊|撮影:千葉真一(J.S.C)|音楽:青柳拓次|エンディング曲 青柳拓次 featuring 真島昌利|協力プロデューサー:汐田海平、戸山剛| 制作プロダクション:エイゾーラボ
配給
SPACE SHOWER FILMS
公式HP
https://epok-film.com

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