HIGHFLYERS/#20 Vol.4 | Dec 15, 2016

南極でペンギンを消すなど、あらゆる仕事や経験を獲得してきたMr.マリックが答えた「成功する人に不可欠なもの」とは

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

Mr.マリックさんインタビュー最終回は、マジック業界の昔と今、そしてマリックさんの成功について。人生のほとんどは運に支配されていることや、マジシャンとして成功するというのはどういうことか、御自身のユニークな持論をお話くださいました。数年前に、テレビ番組の収録でアフリカのマラウイ共和国を訪れた時にようやく辿り着いたマジックの原点のお話は、長年同じ事を続けてきた人だからこその奇跡的な出来事です。また最後に、今年最愛のお母様を亡くされたマリックさんから、若い人達へのアドバイスもいただきました。
PROFILE

サイキックエンターテイナー/超魔術師 Mr. マリック

1988年、超魔術生誕。「11PM」にて衝撃的デビュー。 超魔術は瞬く間に世間に知れ渡り、日本中に旋風を巻き起こした。「きてます」や 「ハンドパワー」などの流行語を生み出す。 1990年のゴールデンアロー賞・話題賞、ATP賞を受賞。 TV・単独ライブツアー等は勿論、歌舞伎座・コンサート・イベントなどの舞台演出、特殊効果、技術指導等も行うなど、活躍は多岐にわたる。 現在は、自身の活動に加え、若手の育成を精力的に行っており、2014年に韓国で開かれたマジック界のオリンピック“FISM”のアジア予選では、特別講師として招かれ教鞭を執った。 どの年代からも幅広く支持されている超魔術は今も進化をし続けている。

マジシャンの原点は人々が忘れてしまった自然の魔法を思い出させることだと、アフリカの村で教えてもらった

日本のマジック業界において、昔と今で大きく違うところはありますか?

今は先ずテレビで有名になってから何かをするんじゃなくて、YouTubeで話題になってからテレビに出ようという流れが変わったことですね。 それと映画の特撮が流行ったのと一緒で、YouTubeだとCGを使ってフェイクマジックしていても、すごいマジシャンだねって言われてるけど、テレビのスタジオに呼んでやらせてみたらトランプマジックだけしか出来ない(笑)。あれは何だったんだ?っていうね。昔は“種は明かしちゃいけない”、“同じマジックは二度とやってはいけない”、“先に現象を言ってはいけない”というマジシャンの鉄の掟「サーストンの三原則」があったんです。ところがテレビの時代になって、二度やっちゃいけないって言っても録画すれば見れるし、司会者が先にこれから起きる事を言っちゃうので、この掟が守っていけなくなった。今の新しい三原則は、“サクラは使ってはいけない”、“映像トリックやCGは使ってはいけない”、そして“お客さんがいるライブでやらなくてはいけない”になりました。これを守れるマジシャンが生き残って芸を繋いでいくでしょうね。エンターテイメントの敵は時代と言いますけど、自然界と一緒でその環境についていかないと淘汰されますね。

90年代終わり頃

今までのマジック人生で最高だと思った出来事は何でしょうか?

普通では絶対に行けないところに行けたことですね。2003年に関西テレビがプロデュースした番組「Mr.マリックの大冒険南極大陸!果てしなき超魔術の旅」で、南極に行ってペンギンを消してくるという企画をやることになってね(笑)。ペンギンは何万匹もいるから、百匹や二百匹消しても分からないから大丈夫だよって、サウスジョージア島に行ってパッとペンギン消して帰ってきたんです。あとは、2011年に「その顔が見てみたい」という番組で、アフリカのマラウイ共和国の電気も水道もガスもテレビもなく、野生のカバがぶつかってくるから村中が檻で囲われてるような村に行きました。マジックを見た事のない村人達にマジックを披露するという企画でした。

マジックを初めて見た村人達の反応はいかがでしたか?

それが全然ウケないの。村長さんと村人達を全員集めて、空のコップから鶏の卵をいっぱい出すというマジックをしたんですけど、シラーっとしてるんですよ。ディレクターが「あれ、不思議じゃなかったですか?」って村長さんに聞きにいったら「別に」と。逆に「この人は何でこんなことをやってるんだ?」って不思議に思っていたらしいです。ニワトリは村中どこでも歩いているから、卵がバーッとあるぐらいで私たちは何にも驚かないって。朝起きたら卵が一面に現れている自然界の光景は彼らにとっては当たり前のことであって、今の都会の人達がそれを見ていないだけなんですよね。その時、マジシャンというのは私達が忘れていた自然界の魔法を見せることが仕事なんだということに、一周回ってようやく気がついたんです。本当に大切なことをアフリカのマラウイ共和国で教えてもらって帰ってきたんですよ。

深いですねぇ。それは幼い頃マジックを始めたきっかけではなかったじゃないですか。

本当の原点をこういう風に遠回りして学ぶことが出来て、ようやく一つのミッションリングが繋がりました。つまり途中から始めたから、マジックの生まれた根幹的な最初のところを知らずにやってたんですね。一つのことを深く長くやってると、そういう絶対辿り着けないような、西遊記が辿り着いたような着地点まで見せてくれるんです。この仕事をやっていると、ただ人をびっくりさせるということだけじゃなくて、そういう素敵なことが待ってるんだよと若い子達に伝えたいですね。

人生で一番大切なものは何かと聞かれたら何と答えますか?

やっぱりチャンスを逃さないということですよね。自分にきたってことはやれってことですからね。何でこんなことをやらなきゃいけないの?って思う時もあるけど、答えはやらなきゃ分からないですよ。僕も仕事を選んだ方がいいんじゃないかと思われる時もあるんですけど、人生っていうのは不思議なもので、やってみたら次がやっぱり出てくるんですよ。だから先を読んで計算立ててやっていくよりは、今頼まれたことにベストを尽くした方が、次にもっとクオリティーの高いことがやってくる。「出来ません」と断ったら、それで終わりですよ。

マリックさんにとって、成功とは何ですか?

僕は自分で成功したとは本当に思っていないんですけど、マジックをずっとやってきてホッとしたことはあります。元々マジックというのは王様を喜ばせるために誕生したものなんですが、今の時代の王様は誰かと考えると、絶対にテレビのスポンサーなんですよね。つまり王様に気に入ってもらうとはCMに出演出来ることなんです。だから最初に宝酒造のcanチューハイのCMの話が来た時は、これはひょっとしたらマジックで一生食えるかなって思いましたね。先輩のマジシャンで最初にCMに出演された初代引田天功さんや伊藤一葉さんも長い間人気があったんですよ。でも、すぐに消えていったマジシャン達はCMをやってないんです。つまり、一般の人には気に入ってもらったけれど、王様は喜ばせられなかったということなんです。

では、成功する人としない人の違いは何だと思いますか?

絶対に運ですよ。だって僕がやってることが出来るマジシャンは他にもいっぱいるのに、僕はたまたまテレビ局の人と会ったからテレビに出ることになって、今があるんです。運ていうものは意外と軽く思われてますけど、極端に言ったら人生の90%くらいを支配する力を持ってますね。いいことばかりしていて亡くなる人とか、お祈りに行った教会が崩れて下敷きになるなんてありえないじゃない。そういうのを聞くと、神も仏も絶対ないなと思うし、運が悪かったって言うしかないよね。だから人生、運がいいか悪いか常に二択の世界なんです。二択を常に選びながら、私達も今日こうやって出逢ったわけでしょ。二択の先が今日なんですから、運ですよ。

自分は運がないと思っている人達には何とアドバイスしますか?

心の持ちようですね。スプーンが曲がる、曲がらないも、あなたの心次第というのと一緒で、運がいいって自分で思い込まないといけないでしょうね。だって、「運がない」っていうのは誰が言ったんですか?っていう話にならないですか?最強運が来たと自己暗示をして、人の言われたことに振り回されないことが大事ですね。もし何か悪いことがあっても、これは何かの前触れの啓示だと思って、全部起きたことを運が良かったと置き換えていくしかないですよ。僕も名前が売れ出した最初の頃は、宝くじに当たったみたいだねって皆に言われて、「こっちも努力してるんだよ」といちいち腹が立ったけど、よく考えたら人生は90%運ですよ。あとはもう健康と、その人のほんの少しの才能です。

良きアドバイスをありがとうございます。マリックさんはお孫さんの面倒をよく見られているそうですが、お孫さんの存在は今の御自身のマジックにも影響していますか?

マジックは3世代に渡って楽しませられる力があるんですよ。今までは親子2世代でしか尺度がなかったんですけども、自分にも孫ができて気付きましたけど、3世代で来ている人達は幸せそうに見えますね。マジックは幸せな人をより幸せにするっていう芸なんです。不幸な人で、明日の食う飯に困っている人にマジック見せても何にも喜ばないですからね。腹痛いって言ってる人にマジックやったって同じです。不幸な人を幸せにするのはお医者さんやお坊さんであって、幸せで何か面白いことを探している人にちょっと面白いのを見せて楽しませるのがマジックの出来ることですね。

では最後に、人生を通じて感謝を伝えたい人は誰ですか?

やっぱり両親ですね。父は早くに亡くなりましたが、母は90歳まで頑張って生きてくれて最近亡くなりました。今の時代、若い子で本当にやりたいことがあるのなら、両親の反対を押し切るのではなく、ちゃんと説得するくらいの力がないとだめでしょうね。自分が好きでやりたいことを一番応援してくれるのは両親ですよ。僕自身も、僕の一番のファンだと言ってくれた母を喜ばせたいと思って頑張っていたから今があるわけで。自分に何か嬉しいことがあった時に一番喜んでくれるのも、かみさんでも子供でもなく、やっぱり母親なんですよね。

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