HIGHFLYERS/#19 Vol.1 | Sep 1, 2016

ジョージ・クルーニーやジョー・ペリーも愛用するメイド・イン・ジャパン。ライカ社との共同制作も進行中

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに登場するのは、エアロコンセプトの生みの親で職人の菅野敬一さん。鞄や名刺入れ、ギターケースなど飛行機の構造体を応用して作るエアロコンセプトの製品は、一瞬で目を奪われるユニークなデザインや革の風合いが印象的で、日本のみならず、ロバート・デニーロやジョージ・クルーニー、ジョー・ペリーなどが愛用するなど、海外でも高く評価されています。菅野さんは、ルイ・ヴィトンやトヨタからのコラボレーションの話も断ってしまうほど、ご自身のコンセプトを大切にされています。インタビュー中、キラキラした大きな瞳でまっすぐ前を見据え、一語一語噛み締めるように言葉を紡いでいく菅野さん。その佇まいに菅野さんのものづくりの真髄を垣間見た気がしました。第一回目は、世界的ギタリスト、ジョー・ペリーのために制作した特注ギターケースのお話や、今秋にお披露目されるライカとのコラボレーション秘話について伺いました。
PROFILE

職人 菅野敬一

1951年東京都生まれ。 早稲田実業高等学校を卒業後、働きながら夜間大学に通い、 祖父が創業した精密板金加工工場「菅野製作所」に入社。 父の後を継ぎ3代目社長に就任したものの2年後にはバブル 崩壊に伴い倒産。 その後、取引先の協力などもあって再建。 「死ぬまでに自分の欲しいものを作ろう」との信念を貫き、「エアロコンセプト」 というブランドを開発。 菅野の作る航空機部品の技術を応用した鞄や各種ケースは、モナコ国王、ウェストミンスター公、ジョージ・クルーニー、ロバート・デニーロなどハリウッドスター、世界の著名人、セレブ層から高い評価を得ている。

長年のファンが喜ぶような、そのブランドをリスペクトした僕なりのコラボレーションを実現したい

エアロスミスのギタリスト、ジョー・ペリーのためにギターケースを作っているとお聞きしましたが、もう完成したのですか?

9ヶ月かかって完成しました。 ジョー・ペリーの世界的ファンとして有名な方に、僕に全て任せますからと依頼されたのですが、2ヶ月くらいかけてアイディアを考えて、機械を使わずに全部手で作りました。普段は、誤差100分の数ミリまで図面に起した上でパーツを作っていくんですけど、このギターケースは図面に起こさず、全部とんかちで叩きながらこの形にしていったんですよ。

図面に起こさずに作れるものなのですね。手で作ろうと思ったのには、何かこだわりがあったのでしょうか?

今はほとんどが機械に内蔵されたコンピューターがものを作ってしまう時代なので、じゃあ機械が出来ないような、頼まれても二度と同じものが作れないようなものを作ってみようと思って。正直、もう一度同じものを作れと言われても、腰も膝も痛くなるし難しいですけどね(笑)。僕が描いた設計図の絵を元に、知合いの鍛金アーティストの富森士史くんに声をかけて、刀鍛冶のように真っ平らな一枚の金属板を何百回も火であぶって柔らかくしながら叩いて形作っていきました。

ジョー・ペリーに限らず、海外のセレブ達が菅野さんの製品をお持ちになっているそうですね。

ロバート・デニーロやジョージ・クルーニーがプライベートで使ってくれているようで、最初に使ってくれたのはユマ・サーマンだったかな。あと、来年公開になるトム・クルーズ主演の映画、「The Mummy」の中で、ラッセル・クロウがスーツケースを使うそうです。ロンドンにある僕の商品を置いてる店に使わせてくれって来たみたい。

海外にもエアロコンセプトのファンはたくさんいらっしゃいますが、日本人の反応と比べて明らかな違いを感じることはありますか?

海外の方はブランド名や有名であることを大して評価しないし、自分が良いと思えばそれでよくて、好きかどうかが一番大事。「有名じゃないからむしろいいんだ」とか、「これを見つけた俺の能力、すごいだろう」ってなりますね。日本人はブランドが有名になってくると、良いって言い出す人が多い(笑)。

海外のブランドとコラボレーションする機会も増えているかと思いますが、ルイ・ヴィトンからのコラボのオファーをお断りしたというのは本当ですか?コラボするかしないかの基準はどこにあるのですか?

今、企画が進んでいるコラボのプロジェクトが2カ所くらいありますけど、コラボに関しては特に僕の方から望んでやることはそんなになくて、ほとんどは断っているんです。ルイ・ヴィトンの製品は持っていますし嫌いじゃないんですが、私のコンセプトとは違うから、イタリアを経由してのオファーでしたがお断りしました。そもそも“コラボ"という言葉自体が、あまり好きではないんですね。ビッグネームとビッグネームをくっつけて、何か目新しいことをしてお客さんの注意を引くっていうのが、まるで上辺だけのことのように感じてしまって。たいていのコラボの話は商業ベースでオファーが来ますけど、そういうのは興味がないんですよ。もちろん、アプローチのされ方にもよりますけどね。相手がエアロコンセプトの製品が好きっていうのが分かれば、理解しやすいし共通点があるから、話をしているうちに盛り上がって「何か一緒にやろうか」ってなる。

今、ライカとのコラボも進行中だそうですが、ライカとやると決めた経緯を教えてください。

エアロコンセプトの鞄は、鞄を閉じた時にライカのシャッター音と同じになるように半年かけて作ったのですが、そのエピソードを知っていたライカの副社長から、是非何か一緒にしたいと思っていると電話をいただいたんです。電話越しに「僕がしっぽをパタパタふって喜んでる姿、見えますか?」と返事をしました(笑)。写真が趣味だった父がライカを持っていたこともあって、僕もライカが大好きで、ライカの歴史も生みの親であるオスカー・バルナックの考え方も昔から尊敬していたんです。

菅野さんにとって、ライカのどういう点が魅力なのですか?

キヤノンやニコンなどの日本のカメラも、性能やコストパフォーマンスもいいし、世界中のプロカメラマンに使われる素晴らしいカメラだと思います。僕も普段は日本のカメラも使いますが、道具としてはいいんだけど、どうも写真を撮った後に家に帰って、そのカメラを掃除してやろうとか、じっと眺めてみようかなという気持ちにはならない。その点、ライカは眺めながら美味しいお酒が飲めるカメラだと思う。これがライカが持つ、人を魅了する価値だと思います。

ライカとのコラボの内容はどういったものなのですか?

コラボさせて頂くんだったら、僕なりにライカが本来持つ魅力をファンに伝えられたらいいなと思って、ありきたりなことや効率的に出来ることをやって終わりにするのではなく、リスペクトから始まる何かをやりたいと伝えました。すると、「じゃあこれで写真を撮ってください」と最新型のカメラを預けて下さいました。そこで僕は、その新品のカメラをやすりで擦り込んで、30年くらい使い込んだ顔に仕上げたんです。

反応はいかがでしたか?

ライカの銀座のショールームにそのカメラを持ち込んで、「これが僕の考えるコラボレーションです」と見せたら、社長も副社長もみんなあっけにとられて言葉を失ってた。でもその後、そのことをドイツのライカ本社の人達に話したら、僕にどうしても会いたいとなったみたいで、日本まで会いに来てくれたの。それで、僕の考えを気に入ってくれて、エアロコンセプトと今までにない仕様のライカを作ろうとなったんです。まずは、10月頃にお披露目出来る予定です。

ところで、エアロコンセプトが誕生する前は、主に飛行機の部品のみを作ってらしたのですよね?

もともとの本業は、ANA国際線ビジネスクラスの肘掛けなどを作っていました。祖父の代から、下請け会社として、図面をいただいて部品を作る仕事をしてきましたが、今はほとんどお断りしています。部品の修理はまだやっていますが、今工場で作っているのはほぼ全てエアロコンセプトの製品です。

飛行機の部品を作っていた当初は、部品のデザインをかっこ良いと思ったことや、そこから何か新しい商品を生み出すなど考えたことはなかったのですか?

まったく思っていなかったです。構造体が面白いとは感じていたけど、その時にこれがかっこ良いと思ってたら既に何かやっていたでしょ。自分で考えて何かを創りだして売るとかやったことがなかったし、デザイナーでもなかったしね。

その頃と今とを比べて、何か大きな違いはありますか?

相当違います。一番はやっぱり自分の好きなものを我々のペースで作れることです。下請けの仕事をしていた時はやっぱりお客さん中心に納期のことなど色々考えないといけなかったけど、今は自分が使いたいと思うものを考えて作りたい。下請けの仕事を続けていたら、そういうことは一切ありえなかったよね。

いつもお仕事されているこちらの工場には、どのくらいの頻度でいらっしゃるんですか?

外での打ち合わせも多いので、僕はもう生産ラインの中には入らないようにしていますが、ほとんど毎日ここにいます。ここで仕事してる時が一番落ち着くんだよね。次に作りたいものとか欲しいものの絵を描いたり、構想図面を作ったり。

お家よりも落ち着きますか?

そうだね。そんなこと言ったら、うちの女房に「ああ、そうなの~。まあ知ってたけど」って言われちゃうけど(笑)、やっぱりここが一番落ち着きますね。

次回へ続く

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