HIGHFLYERS/#19 Vol.4 | Oct 13, 2016

例えコラボレーションの相手がルイ・ヴィトンだとしても、自分の本当に好きなことでなければ断る

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

エアロコンセプト職人・菅野敬一さんのインタビュー最終回は、成功とチャンスについて。そして寅さんを尊敬する菅野さんが、ものづくりをする上で特に大切にしている「男のカッコ良さ」についてをたっぷりと語っていただきました。「陰徳」という言葉に秘められた男のあるべき姿、是非参考にしてみて下さい。また、夢を実現するために大切なことやチャンスを逃さない方法など貴重なお話も伺っています。
PROFILE

職人菅野敬一

1951年東京都生まれ。 早稲田実業高等学校を卒業後、働きながら夜間大学に通い、 祖父が創業した精密板金加工工場「菅野製作所」に入社。 父の後を継ぎ3代目社長に就任したものの2年後にはバブル 崩壊に伴い倒産。 その後、取引先の協力などもあって再建。 「死ぬまでに自分の欲しいものを作ろう」との信念を貫き、「エアロコンセプト」 というブランドを開発。 菅野の作る航空機部品の技術を応用した鞄や各種ケースは、モナコ国王、ウェストミンスター公、ジョージ・クルーニー、ロバート・デニーロなどハリウッドスター、世界の著名人、セレブ層から高い評価を得ている。

男は我慢してこそカッコ良い。少ししか入らなくて多少不便でも、「あなただけに会いに来た」と言える鞄を作りたい

HIGHFLYERSは出演してくださる方に「成功」についてを必ずお聞きしているのですが、菅野さんにとって成功とはなんでしょうか?また成功する人と成功しない人の違いは何だと思いますか?

僕が聞きたいよ(笑)。何をやると成功なの?違いはないでしょ、だって何が成功なんだか分からないから。

それでは、夢を実現するために心がけるべきことを教えてください。

好きなことを見つけなさい。そして、好きなことをやりなさい。みんなもっと自分を信じてあげた方がいいんじゃないかなって思う。常識とかロジックとか聞くと、そっちの方が正しいって思うよね。それはそれで正しいんだろうけど、自分が好きなことや好みってあるじゃない。僕、ルイ・ヴィトンは好きだし、コラボレーションしたらすんごい儲かっちゃうって想像も出来るんだけど、自分の本当に好きなことじゃなければ、そこは断っておかないと。仮にやったとして、お金出して買ってくれた人に「菅野さんのフレームとルイ・ヴィトンのコラボかっこいいね」って言われても、実は好きじゃなかったんだってなったら、その人に失礼じゃないですか。お金にはならないけど、自分に正直でいる方が幸せだよね。

多分、多くの人はヴィトンのようなところからコラボの話が来たら大抵はやるんでしょうけど、そこで菅野さんの断る勇気はすごいと思います。

勇気じゃなくて僕は一度全部失くしたから、何が大事かも、人間には寿命があることも分かっちゃったの。死を常に意識して生きているから、逆算が自然に出来るんだよね。色んな人の話を聞いていて、まだあと500年くらい生きると思ってるんじゃないかって感じることがあるけど、いや~もうすぐ死んじゃうよって言いたい。明日交通事故で死ぬかもしれないしね。

まだ叶ってない夢や、これからやりたいことはありますか?

夢はほとんど叶ってるんじゃないかな。これからも、やりたいことを思いつけば色々作っていきたいと思う。その合間合間に夕焼けが見られたり、山菜採りが出来ればもう最高なんじゃない。

夕焼けがお好きなのですか?

僕は夕焼け評論家なんだ(笑)。夕焼けが大好きで、「今綺麗だよ」ってすぐ誰かに言いたくなるんだよ。

私も大好きです。夕焼けはこの辺りだと、どこで見えますか?

高い所だったらすごい良いけど、どこからだって見えるよ。都内に出る時は首都高でいい夕焼けが見れるから、夕方とか夜に打ち合わせがある時は、夕焼けの綺麗な時間帯を見計らって約束の時間帯を決めたりする。夕焼けが終わった後、空が群青色に染まっていくのがまたいいでしょ。

ところで、菅野さんにとってチャンスとはどんなことだと思いますか?チャンスと聞いて思うことやチャンスを逃さない方法があれば教えて下さい。

やっぱり本当に自分が好きなことといつも向き合っていけるかどうか、本音でその話が出来るかどうかで、良いチャンスに必ず巡り合うような気がします。チャンスっていうのは良いチャンスと悪いチャンスとあるんですよ。自分が好きな方を見てれば、そこで出会う人が良いチャンスになるか悪いチャンスになるかが分かる。本当はあんまり好きじゃないのに、株価の話をしたり商売の儲かる話をしてると、騙すような相手も出てくるから悪いチャンスにも巡り合うでしょ。でも、自分の好きなことだけ求めていれば、相手は興味持たなければ去っていくだけだから悪いチャンスに合わなくて済む。例えば、さっきみたいに僕が夕焼けの話をしたら、あなたが「私も好き」って言ったのはすごくチャンスなんです。商売の話をしてるんじゃないからね。

菅野さんがものづくりをする上で、何か常に考えていることはありますか?

エアロコンセプトは、より軽く、より強度が高く、より精密でという、飛行機の構造体を応用して作った技術的な部分が評価されていると思うんです。製品に空いてるこの穴で言えば、確かに機能性から生まれたものだけれども、僕は同時に美しいとも思っている。例えば磨かれた木のテーブルに鞄を置いた時、穴が下に映り込むのを見ると、穴の配置はこうなった方が綺麗だなとか、そういう見た目の綺麗さやかっこ良さはいつも考えています。

それは機能性とは相反することだと思いますが、菅野さんが大切にされている部分なのですか?

今僕が使っている鞄はかなり薄いけど、これで僕は十分なんです。図面や私物、打ち合わせに使うものをこの鞄に入れて、毎日人に会いに行っていますが、余分なものは持ちたくないんですよ。どういうことかと言うと、「今日はあなたにだけ会いに来た」って言いたいんです。あっちにもこっちにも行ってついでに寄りましたとか、この次の用事のあれとこれも入れられるしみたいな、そういう便利さはできるだけ排除したい。「今日はあなただけなんだよ」っていうのはこっちが受けても嬉しいじゃないですか。それはかっこいいことだなって。

多少不便でも、かっこ良さを追求するのですね。

そう、だから便利なものと逆になっちゃうんですよ。今までにデパートやセレクトショップが取引を依頼してくれたことがありましたけど、もう少し鞄の厚みを厚くすればもっと物が入るとか、ショルダーが付いていた方が両手が自由になるから楽になっていいとか、ちょっと大きめの鞄には車輪を付けて下さいとか、効率や機能性を要求してくることが多いんです。でも、僕は嫌いなことはやらない。「カッコ良くしようと思ってるのに何で楽しようとするんだ、それは許さん!」って言いたいんです(笑)。大体着るものに本当にこだわりを持っているのであれば、ショルダーをかけたら背広の肩の線が全部崩れるし、ラペルも崩れるから本来は嫌なはずなんですよね。

エアロコンセプトの製品をどういう人に持ってもらいたいですか?

「今日はあなたに会いに来たんだよ」って言うために、不便と分かっていても効率性をあまり追求しないのは、ものではなく、使う人がかっこ良いわけだから、お客さんがかっこ良く振る舞える製品を作りたいと思ってる。例えば、男が女の子に「その鞄私が持ってあげようか?」って言われたら、重くたって「大丈夫だよ、重くねえよ」って言うでしょ。あれがかっこいいんであって、我慢しなきゃ男は絶対にかっこ良く見えない。「うん、重いよ~、持ってよ~」じゃ困ったもんだ(笑)。だからやせ我慢っていうのもやっぱりかっこ良いわけ。僕が一番尊敬しているのは、寅さんとフレッド・アステアの2人なんだけど、寅さんのカッコ良さっていうのはそこにあるんだよね。我慢してるんだよ、陰で。

菅野さんがエアロコンセプトで追求しているかっこ良さは、男の生き方そのものに通じているのですね。

目に見えるかっこ良さを表現するっていうのもいいんだけど、僕は親父とかから、本当のかっこ良さはもっと陰に隠れたところにあることを聞かされてきた。「陰徳」って言葉があるじゃないですか。陰に隠れて人のためになる、そういうかっこ良さをものづくりの中に求めていきたいなと思ってる。鞄だって、もうちょっと厚くすればもう3人くらい会えたじゃないかという考えもあるけど、そこは我慢してほしいんです。こういう話は今の時代に中々適応しないけど、若い人達から反応があると嬉しいですね。

若い人達とも交流があるのですか?

後輩として可愛がってやりたいなっていうのはある。僕らの時代は必ず先輩が遊びに連れて行ってくれたからね。そこでレストランでの振る舞い方やオーダーの仕方、バーテンダーとのちょっとした会話を教わったり、口説き方とかけんかした時の仲直りの仕方も、先輩が全部教えてくれたんですよ。

菅野さんは、後輩に口説き方を教える時は何てアドバイスするんですか?

それはカメラが回ってない時に。饅頭を5個くらい買ってきてくれれば喋るから(笑)。

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