HIGHFLYERS/#18 Vol.1 | Jul 7, 2016

ラッパーデビュー30周年祝賀会開催!16年間のスランプからの復活と「想像ラジオ」に至るまで

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLYERSに満を持して登場するのは、作家でクリエイターのいとうせいこうさん。小説家、俳優、作詞家、ラッパー、ベランダーと数々の肩書きを持ち、その限りない才能をあらゆる分野で惜しみなく発揮し続けるいとうさんの小説のこと、学生時代のこと、ヒップホップのこと、そして成功についてを4回にわたってたっぷりお届けします。第一回目は、1986年にリリースしたアルバム「建設的」の発売30周年を記念し、9月30日と10月1日に東京体育館にて開催される「いとうせいこうフェス」について、そして16年のブランクを経て発表し、第26回三島由紀夫賞候補作、第149回芥川龍之介賞候補作に選ばれたほか、数々の賞を受賞し話題になった小説「想像ラジオ」について語ってくださいました。
PROFILE

作家/クリエイターいとうせいこう

1961年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。 編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。 音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。 アルバム『建設的』(1986年)にてCDデビュー。 その後『MESS/AGE』(1989年)、アルバム『OLEDESM』(1992年)、『カザアナ』(2008年)などをリリース。 また他アーティストへの作詞提供曲として、やや『夜霧のハウスマヌカン』、大竹まこと『俺の背中に火をつけろ!』、ももいろクローバーZ『5 The POWER』など多数。 近年ではロロロへの加入や、レキシでの活動、DUBFORCEへの加入などがある。 著書に小説『ノーライフキング』エッセイ集『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)『想像ラジオ』(第35回野間文芸新人賞受賞)『存在しない小説』『鼻に挟み撃ち 他三編』『我々の恋愛』など。 執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。 みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。 テレビのレギュラー出演に「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)「せいこうの歴史再考」(BS12)「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)などがある。 「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。

震災時のミュージシャン達のパワーに刺激され、大きな力に背中を押されて書いた小説「想像ラジオ」

9月30日と10月1日に行われる「いとうせいこうフェス~デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会~」を今から楽しみにされている方も多くいるかと思いますが、開催することになった経緯を教えてください。

TINNIE PUNXと共に86年にリリースしたヤン富田プロデュースのアルバム「建設的」のディレクターで、現在僕が所属している事務所の社長の北牧裕幸が、「今年30周年だからイベントやろうぜ」って、8000人くらい入る東京体育館を2日間も取ってきちゃった。僕は渋谷公会堂みたいなところをイメージしていたので、それを聞いて「こいつ社運賭けてるなっ〜」って(笑)。北牧のことは学生時代から知っていたんだけど、約10年前に偶然再会した時に近況を聞いたら、いきものがかりとかが所属する事務所をやっていたので、これはイベントがやれるし良いなと思って僕が自分で作った会社をやめてそこに入ったんです。

今回のフェスはどのようなイベントになるんですか?

フェスのタイトルにあるように「祝賀会」ってことにすると、30年間に知り合った芸人とかも祝辞に来れるじゃないですか。バカリズムにコントをやってもらって、ライムスター、真心ブラザーズ、KICK THE CAN CREWやスチャダラパーがいて、他にも最近僕が正式加入したDUBFORCEや、口口口もレキシも出る。岡村靖幸くんも「何やりましょうか?」ってしょっちゅうメール来るよ。先輩のゴンチチもみうらじゅんさんも来るしね。須永辰雄とFantastic Plastic Machineの田中くんを使って、凄すぎて客が帰らないという日本で一番贅沢な客入れ、客出しをしようと思ってる(笑)。色んな奴らが二つ返事で参加表明してくれて、トリビュート盤も作るって曲を選び始めて大騒ぎ。皆のやる気がもの凄いのは嬉しいし楽しくやってくれればいいなと思ってるんだけど、人数が多過ぎて転換出来ないんじゃないかってすごい焦ってる(笑)。 30年も前からずーっと付かず離れず付き合ってきて「やっぱりいいなぁ〜」って思ってる連中が、こういう時に僕のために何かしてくれるっていうのは、本当にありがたいことですよね。

蒼々たる豪華メンバーですね。ところで、小説家、作詞家、俳優、タレント、ラッパー、ベランダーと、数多くの肩書きをお持ちですが、一番優先しているのはどの分野でしょうか。

作家/クリエイター活動ですね。とはいえ4、5年前に復活するまでの16年間はフィクションを書けなかったというか、書こうとしても嫌になっちゃう状態が続いていたので、実質その時期は作家じゃないんですね。その間は、奥泉光さんという優れた面白い作家と、文学作品を選んで人を笑わせながらそれについてを語る「文芸漫談」というイベントを年3回くらいのペースで続けていました。いわゆる「生産する」という意味においては作家じゃなかったけれど、小説について根本から考えていました。

16年の書かない時期があって、再び書くようになったきっかけは何ですか?

作家でフランス哲学者の佐々木中という面白い後輩がいるんだけど、佐々木君に焚きつけられたように書いたのが「BACK 2 BACK」という作品。2011年3月くらいから始まったんですが、彼が書いて、それを僕が読んですぐ書いて、それをまた佐々木君が読んでまた書いてっていうことを繰り返しやっていたら、数十枚の短編ものが書けちゃったんですよね。それで火がついてまた違う短編を2つほど文芸誌に書いているうちに、「想像ラジオ」という作品に繋がっていったんです。実際書けるようになったのは東日本大震災後ですけど。

東日本大震災によって、御自身の何かが強烈に突き動かされたということですか?

「四の五の言ってられないな」っていう気持ちが一番でした。印税は全て東日本大震災の被災地に送るという条件で、ホームページに「BACK 2 BACK」を発表してリンクを貼って寄付を呼びかけたのが始まりです。BRAHMANのTOSHI-LOWとか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチとか、他にもパンク、ロック寄りのミュージシャン達がどんどんボランティアで中に入っていったり、売ろうと思って作った曲を無料配信したりするのを見て、その気持ちにとても打たれた。でも、僕は曲を作れないから出来ることなんて小説書くことくらいだと思っていました。

小説の売上で寄付をするほかに、小説を通して何か伝えたいものもあったのですか?

それは後々のことですが、もちろんそれもありますよね。「想像ラジオ」は、東日本大震災で亡くなった何万人の人達のことを直接主人公にしてしまった小説で、それが本当にいいことかどうか分からないまま書き進めたし、僕が偉そうに思われると困るんだけど、そこに生きている人達と同時に亡くなってしまった人達の鎮魂というかなぁ。とにかく最後は成仏させて、誰のかは分からないけど墓前に捧げるんだっていう気持ちがありました。実際、近代になって否定されただけで、文学や芸能は、起源を遡ればほとんどが魂に捧げるためのものなんですが、そういう根源的なものが自分に来ちゃったというか、「今やらなかったら文学って何なんですか」と問われたというか。今書けなかったら、僕はこのまま一生書くことがないし、書くべきでもないっていう判断が来たんですよね。

作中のラジオで流れる曲はどのように選んでいったのですか?

「この場面では何の曲のリクエストが来るかな〜」って考えていると、「この曲をかけたい」ってピンとくる。じゃあなぜその曲をかけたいんだろうって、その曲をググってみると、意外に死者を弔う曲だったりして、「ああやっぱね!」みたいな感じですよね。マイケル・フランクスの「Abandoned Garden」はそれ自体が弔いのために作ったアルバムだし、コリーヌ・ベイリー・レイの「The Sea」も自分の親戚が海に沈んで死んじゃう話の歌だし。コリーヌ自身も旦那が急死してしばらく曲作れなくなった後にあの曲を出したのを何となく覚えていたから、小説のために曲をかけているのと同時に、コリーヌ・ベイリー・レイのためにもかけていて、亡くなった旦那とおじさんにも捧げてるわけ。

作品に描かれている死生観は元々御自身がお持ちになっていたものですか?

いや、死者が主人公の話を書く上で、「死者とは何か」っていうことを分かりたいと思って、宗教や哲学などの色んな死者論を大急ぎで読みました。その中で、「三田文學」という文学誌の編集長で、御自身も奥さんを闘病の末に亡くされた若松英輔さんの『魂にふれる 大震災と、生きている死者』という著書を読み、「亡くなったからといって、いないことにはならない」という点に凄く影響を受けたんです。もう一つは民俗学者の柳田國男の『先祖の話』だっけな、「遠い南方で死んだ者は一体どこへ行くんだ。日本人は死者を悼むことを忘れて、どんどん戦争に行って殺し殺されてる」っていう、第2次世界大戦中に空襲の中で書いたすごいエッセイに行き当たったんですよね。もともと漠然と死者のようなものにバックアップされて書いて、そのうちに死者について考えた日本の歴史上の重要な人物達や、同時代の人達に背中をもっと押されて。

「想像ラジオ」の反響はいかがでしたか?

学生時代から尊敬している世界的な批評家の柄谷行人さんが、ある会のスピーチで、「あれ(想像ラジオ)は柳田だって読んですぐ分かった。ああいうものは考えて書けるものじゃないから貴重なんだ」って言ってくれたんです。いとうが書いたわけじゃないぐらいの言いようで、凄くよく分かってるなって思った。僕自身も全然自分が書いている気がしてなかったから。

私もちょうど同じ時期に大切な人を亡くしたので、残された人間として「想像ラジオ」を読んで、とても救われたのと同時に希望が持てました。

いないわけではないし、だからと言って新興宗教的にそれを下ろすことが出来るというわけでもないんだよね。だって向こうは人間が決められないような世界に行ってるんだもんね。だけど、残された人達に“ないとは言えない”、あるいは“そうかもしれない”って言ってあげたいですよね。

取材協力:Black Terrace
〒153-0042
東京都目黒区青葉台3-1-12青葉台イーストビル4F
03-6416-3894
http://www.black-terrace.com/

次回へ続く

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いとうせいこう
「いとうせいこうフェス」
〜デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会〜

祝! いとうせいこうデビュー30周年!
レジェンド的名盤『建設的』から30年を祝し、いとうせいこうと彼を取り巻く多彩すぎるジャンルのアーティストが集結する、音と笑いの2晩限りのお祭り騒ぎ!
『再建設的』収録曲熱演もあれば、「せいこう秘蔵ネタ」のひな壇トークも!
2日間=合計約9時間のノンストップ音楽バラエティショー!
来たれ若者と元若者! 伝説を目撃せよ! 踊れ! 笑え! 騒げ!

詳しくは特設サイトへ!
http://seikofes.jp
2016年9月30日[金]開場17:30 開演18:30 10月1日[土]開場15:30 開演16:30
会場:東京体育館[千駄ヶ谷]
来場者特典としてみうらじゅん考案の”引出物”付き

チケット先行受付
▪cubit club最速先行 http://www.cubeinc.co.jp
各1日券:10,000円
2日間通し券:18,000円(cubit club限定)
2日間通し券+いとうせいこうトリビュートアルバム『再建設的』セット販売:20,000円(cubit club限定/6月29日[水]昼12時までの受付)
* 全席指定/税込価格

プレイガイド先行
▪チケットぴあ http://t.pia.jp/
▪ローソンチケット http://l-tike.com/
▪e+ http://eplus.jp/
▪楽天チケット http://ticket.rakuten.co.jp/
各1日券:10,000円 *全席指定/税込価格

一般発売日:8月7日[日]
お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888
企画・制作:キューブ

いとうせいこうトリビュートアルバム
『再建設的』発売決定!
いとうせいこう、大竹まことwithきたろう&斉木しげる、岡村靖幸、ゴンチチ、サイプレス上野とロベルト吉野、スチャダラパー、須永辰緒、高橋幸宏、田口トモロヲ、竹中直人&Sandii、真心ブラザーズ、ヤン富田、ユースケ・サンタマリアwith KERA&犬山イヌコ、RHYMESTER他多数参加! 詳細を刮目して待て!

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