HIGHFLYERS/#18 Vol.3 | Aug 4, 2016

ヒップホップとは永久革命。100年構想の世界中に翻訳される日本文学は、人生観の革命

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

作家/クリエイターのいとうせいこうさんインタビュー第3回目は、音楽について。今まで何度も音楽に救われてきたエピソードや、言葉と音楽の繋がり、いとうさんが思うヒップホップについて語ってくださいました。また今年3月に出版された長編恋愛小説「我々の恋愛」に込めた作家としての思いも伺っています。
PROFILE

作家/クリエイター いとうせいこう

1961年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。 編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。 音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。 アルバム『建設的』(1986年)にてCDデビュー。 その後『MESS/AGE』(1989年)、アルバム『OLEDESM』(1992年)、『カザアナ』(2008年)などをリリース。 また他アーティストへの作詞提供曲として、やや『夜霧のハウスマヌカン』、大竹まこと『俺の背中に火をつけろ!』、ももいろクローバーZ『5 The POWER』など多数。 近年ではロロロへの加入や、レキシでの活動、DUBFORCEへの加入などがある。 著書に小説『ノーライフキング』エッセイ集『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)『想像ラジオ』(第35回野間文芸新人賞受賞)『存在しない小説』『鼻に挟み撃ち 他三編』『我々の恋愛』など。 執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。 みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。 テレビのレギュラー出演に「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)「せいこうの歴史再考」(BS12)「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)などがある。 「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。

「我々の恋愛」は、百年後に残る作品を心がけて書いた長編恋愛小説

学生時代に出逢った土取さんの音楽のように、他にも音楽に救われた経験はありますか?

東日本大震災後に失語症みたいになってしまい、僕の父親や周りも鬱っぽくなっていくのでどうしたらいいんだろうって思った時に、宇川直弘がDOMMUNEに呼んだアメリカ人のDJデレク・メイが2時間くらい何の歌詞もない音をかけ続けたの。俺は打楽器の音に命を吹き込まれたような想いがして、それを聴いて元気になっちゃったのね。それで、彼に影響されてTwitterで「DJせいこう」っていうアカウントを作り、俺がDJで東北に向かって放送するというフィクションを始めたんです。色んな人がリクエストしてくれたのをそのままRT(リツイート。誰かのツイートを再投稿すること)すると、仙台の人から「聴こえてる」って返ってきたのは素晴らしかった。本当はTwitterを見てるだけなのに、車の中でずっと聴いてたなんて、何て素敵なことを言うんだろうって思って。

本当に音楽がお好きなのですね。

もう根源的にどうしようもなく好きなんじゃないのかな。書き続けていると疲弊していくので、好きな作家を読んで自分にカンフルを打つんだけど、それ以上に一番簡単に自分を癒すのは好きな音楽を一曲聴くことなんだよね。ご飯がないと生きていけないように、基本音楽がないとだめなんです。ずっと楽器ができないというジレンマがあったんだけど、Dub Master Xや須永辰緒や高木完と組んで、彼らの音楽をバックに僕が小説を読んだら無限の可能性を感じて、ポエトリーリーディングっていうのは演説で、つまり音楽とスピーチと文学って境がないってことが分かった。今僕はやっと音楽と言葉で一番やりたかったことがやれるというところに行き着いたんですよ。人間て生きていると不思議なもので、やり続けてると突破口を自分でも見つけるし、人も持ってくる。

音楽や文学など全てが繋がって今いとうさんが表現されているものは、いとうさん流のヒップホップでもあるのでしょうか?

ヒップホップっていうのは常に新しいことを飲み込んでいく永久革命だから。僕は革命の音楽が好きだし、僕のヒップホップとはそういうことなんですよ。基本的にヒップホップもロックもレゲエも出て来た時はみんな反抗の音楽だったんですよね。僕はヒップホップが生まれる前から音楽を聴いてるから、アフリカ音楽や現代音楽やクラシック、あらゆる色んな音楽から刺激を受けてヒップホップになったところをかっこいいと思うわけで、ヒップホップをジャンルとして捉えていないし、“ヒップホップ道”じゃないわけ。日本は茶道とか華道とか、こういう風にしなきゃいけないってどうしても“なんとか道”になるけど、僕は自由なのがヒップホップだと思ってるから。リントン・クウェシ・ジョンソンっていうイギリス人のダブのアーティストは、いつも細身のスーツでかっこいいソフト帽かぶって、ジェントルマンの矜持があって政治的なことを歌ってるんだよね。大学の頃から僕にとって、とても大事なミュージシャンの一人で、最近僕は三つ揃いでラップしてるんだけど、DUBFORCEのやつらは僕のその姿を見て、「リントンでしょ!」ってすぐ分かってくれる(笑)。

作家活動についてもお聞きしたいのですが、3月に「我々の恋愛」を出版されましたね。

「我々の恋愛」は一年かけて書いた長編の恋愛小説で、このストーリーは20年くらい前に知り合いから聞いた話がもとになっていているんです。ある男の子が、自分に間違い電話をかけてきて留守電にメッセージを残した知らない女の子に恋をして、それをきっかけに二人は意気投合して新宿紀伊国屋で待ち合わせをしたんだけど、女の子は来なかった。この話を聞いた時から書きたいと思っていたんですよ。ようやくこの作品を書ける筋肉がついてきたので、長い間放置したままだった話を書き上げました。

時代設定はわずか20数年前なのに、とても昔に感じますね。

1994年頃はまだ駅に伝言板があって、“バカ”とか書いてあったじゃない。そこに平気で自宅の電話番号書けるくらいセキュリティーが緩かったんですよ。特に9.11以降、日本だと神戸の震災以降にもの凄くセキュリティー国家になって、人が人を信じられなくなって、情報をオープンにしてはいけない社会になってしまった。だから、ついこの前までは日本ものんびりやっていたことを記録に残しておきたいっていう気持もあって。歴史の書物は、伝言板があったことや、緑の電話とピンクの電話と黒電話が重かったことは書かないよね。もう携帯で充分だから子機だっていらないし、子供達が全員プライベートな時間を持って親さえ監視出来ない社会に突入しちゃった。それがいいか悪いかは別に問わないけれど、それ以前にこういう時代があったことを書いておきたかったんですよね。

将来、時代考証の大事な参考資料にもなりうる小説ですね。

1994年の新宿紀伊国屋書店のことを書いていたので、ある書物のサイン会で紀伊国屋に行った時、古くからいる従業員達に表の入口付近や売り場がどうなっていたかを聞いたんだけど、誰も覚えてないし社史にも残ってない。すると通された応接間に、昔の紀伊国屋の前を誰かが描いた絵がたまたま壁にかけてあって、その中にブティック「レネ」が描いてあったわけよ。「これ何!?」って検索したらほんのわずかな記録がポツポツと出てきて、それはもう導きとしか思えなかったね。こうやって何か調べてるとエンジェルが答えを運んでくれることを“ライブラリーエンジェル”って言うんだけど、それが僕にとっては紀伊国屋の応接室にあった絵だったわけですよ(笑)。「我々の恋愛」のサイン会で再び新宿紀伊国屋に行った時、「この絵のおかげだったんですよ〜」って改めて伝えたけど、やっぱり皆ポカーンとしてた(笑)。あの重要性分かってないみたい。

他にも、パン食い競走や天皇誕生日など、日本特有の行事にひとつひとつ説明書きがついていたのが印象的でした。

うん、外国のレポートっていう体になってるから、パン食い競走について書いてあったら注釈をつけるべきじゃないですか。世界文学を書くつもりでいましたから、英語、フランス語、ドイツ語に訳されるレベルのものが書きたかったし、特にラテンアメリカ文学にすごく影響を受けたから、いつか彼らが訳した時に、より楽しめるようにと思って書きました。

世界で翻訳されることを前提に書いてるんですね。

そう、それは僕が生きている間とは限らないわけよ。でも、もし死んで100年後にもの好きが英語に訳してこれを出版した時に、読者が絶対に面白がるレベルで書きたいっていう思いはあります。ゴールの設定を遠くにおいてやること自体は孤独なんだけど、100年後に向かって自分の作品を贈ること自体は妙に楽しいっていうのかな。そうすることで、言葉遊びや比喩のレベルを上げたり、セリフの面白みを増したりすること自体が苦じゃなくなるんですよね。

取材協力:Black Terrace
〒153-0042
東京都目黒区青葉台3-1-12青葉台イーストビル4F
03-6416-3894
http://www.black-terrace.com/

次回へ続く

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いとうせいこう
「いとうせいこうフェス」
〜デビューアルバム『建設的』30周年祝賀会〜

祝! いとうせいこうデビュー30周年!
レジェンド的名盤『建設的』から30年を祝し、いとうせいこうと彼を取り巻く多彩すぎるジャンルのアーティストが集結する、音と笑いの2晩限りのお祭り騒ぎ!
『再建設的』収録曲熱演もあれば、「せいこう秘蔵ネタ」のひな壇トークも!
2日間=合計約9時間のノンストップ音楽バラエティショー!
来たれ若者と元若者! 伝説を目撃せよ! 踊れ! 笑え! 騒げ!

詳しくは特設サイトへ!
http://seikofes.jp
2016年9月30日[金]開場17:30 開演18:30 10月1日[土]開場15:30 開演16:30
会場:東京体育館[千駄ヶ谷]
来場者特典としてみうらじゅん考案の”引出物”付き

チケット先行受付
▪cubit club最速先行 http://www.cubeinc.co.jp
各1日券:10,000円
2日間通し券:18,000円(cubit club限定)
2日間通し券+いとうせいこうトリビュートアルバム『再建設的』セット販売:20,000円(cubit club限定/6月29日[水]昼12時までの受付)
* 全席指定/税込価格

プレイガイド先行
▪チケットぴあ http://t.pia.jp/
▪ローソンチケット http://l-tike.com/
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▪楽天チケット http://ticket.rakuten.co.jp/
各1日券:10,000円 *全席指定/税込価格

一般発売日:8月7日[日]
お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888
企画・制作:キューブ

いとうせいこうトリビュートアルバム
『再建設的』発売決定!
いとうせいこう、大竹まことwithきたろう&斉木しげる、岡村靖幸、ゴンチチ、サイプレス上野とロベルト吉野、スチャダラパー、須永辰緒、高橋幸宏、田口トモロヲ、竹中直人&Sandii、真心ブラザーズ、ヤン富田、ユースケ・サンタマリアwith KERA&犬山イヌコ、RHYMESTER他多数参加! 詳細を刮目して待て!

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