HIGHFLYERS/#20 Vol.1 | Nov 3, 2016

Mr.マリックの売る力とは?下積み時代に習得した実演販売の必勝テクニックには、客の心をコントロールする秘訣があった

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLEYRSに登場するのは、日本に新しいマジックスタイルを数多く誕生させたマジック業界のパイオニア、超魔術師Mr.マリックさんです。「きてます!」や「ハンドパワー」で一世を風靡し、80年代後半から長年にわたって、テレビで活躍する姿を見ない日はないほどの超有名マジシャンになったマリックさんですが、その裏には数々のドラマや苦悩、そして笑いが隠されていました。現在3人のお孫さんがいらっしゃるマリックさんは、後継者の育成に尽力しながら、全国でディナーショーを開催し多くの人を幸せにしています。連載第1回目は、現在取り組んでいるプロジェクトや青年期のマジックとの出逢い、そして名古屋での実演販売時代のお話を伺いました。20歳の時にデパートの手品売り場で実演販売をしていたマリックさんが、14年かけて身につけたお客さんの心を掴んで物を売る技術には、ビジネスにも応用出来るヒントが多く詰まっています。
PROFILE

サイキックエンターテイナー/超魔術師Mr. マリック

1988年、超魔術生誕。「11PM」にて衝撃的デビュー。 超魔術は瞬く間に世間に知れ渡り、日本中に旋風を巻き起こした。「きてます」や 「ハンドパワー」などの流行語を生み出す。 1990年のゴールデンアロー賞・話題賞、ATP賞を受賞。 TV・単独ライブツアー等は勿論、歌舞伎座・コンサート・イベントなどの舞台演出、特殊効果、技術指導等も行うなど、活躍は多岐にわたる。 現在は、自身の活動に加え、若手の育成を精力的に行っており、2014年に韓国で開かれたマジック界のオリンピック“FISM”のアジア予選では、特別講師として招かれ教鞭を執った。 どの年代からも幅広く支持されている超魔術は今も進化をし続けている。

ニコ生で、次世代のスター発掘プロジェクトをマギー司郎と継続中。意外性が命のマジックには、僕のそっくりさんはいらない

今もライブなどでスプーン曲げを披露されることはあるのですか?

今年の年末は、大晦日に帝国ホテルでディナーショーをやります。会場に来たお客さん全員にその場でスプーン曲げをやってもらうんですよ。スプーン曲げを400人くらいで一斉にやると面白いですよ。

初めてでも曲げられる人の共通点はありますか?

やっぱり集中力です。他のことを考えていたらだめですね。家族で来ていて、お父さんが曲げられないのにお母さんや子供が曲げた時の驚きはすごいですよ。日常のどこにでもあるスプーンがぐにゃぐにゃになるなんて、夢がありますよね!不思議なことって一番面白いですよね。人を感動させようと思ったらただ見せるだけではなく、体験してもらった方がいいんです。

ディナーショーの他に、現在は後継者の育成にも尽力なさっていると伺いました。

ニコ生(ニコニコ生放送)で「マリックチャンネル」というのを若い子に向けて毎週配信したり、BSチャンネル「次世代マジシャン神業列伝」では、マギー司郎さんと一緒に東京と大阪でオーディションをして次世代のマジシャンを見つけたりしています。40歳前後の息子世代は、まだ僕の真似してる子ばかりだったのですが、孫世代になると僕の影響を受けていないので教えやすいんです。マジックは意外性が命ですからそっくりさんやモノマネスターはいらないんですが、どんな芸にも基本として、まずクラシックな芸をしっかり教えないといけないんですよ。

以前に「ON COME UP」で取り上げたK-SUKEさんとマリックさんは面識がおありなんですか?

はい。彼は今風で素直で良い青年だから、韓国のテレビ番組に連れて行ったり、「次世代マジシャン神業列伝」に出演してもらったりしています。これからは彼のように若くてかっこいい子がもっと出てくるといいなと思ってますね。

子供達のマジックへの興味の持ち方というのは、今と昔で変わっていますか?

もう全然変わっていますよ。昔の子供達は、例えば「ハイ、中身は空です」と言えば「あ、空ですね」ってなったけど、今は「あ、空じゃないんだ〜」ってなる。「袖の中は何もないです」って言えば、「何かあるんだ〜」となるし、「普通のトランプです」って言えば「普通じゃないんだ〜」ですね(笑)。今の子供達は科学的な知識を沢山持っているし、頭が良くなってますよね。生まれた時から携帯電話があるなんて、魔法の国の子供達全員がハリーポッターの魔法の杖を手に入れたのと同じ状態ですから。

マリックさん御自身の子供の頃のお話も伺いたいのですが、どのような家庭環境で育ったのでしょうか?

出身は岐阜県です。当時は織物で有名な街、愛知県の一宮に紡績会社が沢山あったので、近隣の岐阜の問屋街は繊維の街でした。父は仕立て業をしていたので、毎日自宅で注文服を作り、それを専業主婦の母が手伝うという両親の姿を見て育ちました。僕は1つ上の姉と5つ下の弟がいる3人兄妹の真ん中で、長男です。両親に怒られた記憶はないですね。実は幼い頃、マジックに出逢う前は夢中になったものは何もないんです。

最初のマジックとの出逢いはいつ頃ですか?

中学に入って剣道をやり出した頃に、名古屋からの転校生でたまたま隣の席になったクラスメイトが、天才マジシャンだったんですよ。名古屋で大人達が所属するマジックサークルに入って本格的に勉強していたプロ並みに上手な子で。学校の写生大会で、近くの長良川に行って一緒に絵を描いている時に、その子が河原の石を突然パッと掴んで川に投げたら、その石がパッと消えたんです。何だろうこの子は?って思って「今、何したの?」って聞いたら、「マジックだ」って言うわけ。「消えた石は?」って聞くと袖からひょいっと出したので、魔法使いが転校してきたと思うじゃないですか。それでその子の家に行ってみたら、マジックの道具をびっしり持っていて、戸棚に万国旗やシルクのハンカチなどの道具が美しく陳列されているんですよ。毎日その子について行って一つか二つ習って、家でずっと練習していました。

それでは、高校に行く時にはもうマジシャンになろうと決めていたのですか?

いや、全然。プロになろうなんて全く思ってないですよ。でも高校生になると電車代が持てるようになったので、週末になると岐阜から名古屋へ一人で通っていました。名古屋では当時、名鉄百貨店と名古屋松阪屋とオリエンタル中村百貨店(現三越)で手品の実演販売をしていたから、それを見るためにその3ヶ所をぐるぐる廻って開店から閉店までずっと帰らないんです(笑)。向こうもいい迷惑だよね。でも毎週通っているうちに、商品の種類や値段、使い方を全部覚えました。

高校卒業後は就職されたのですか?

高校卒業後は、一旦パロマに就職しました。ところが半年くらい経ったある日、会社の帰りにオリエンタル中村に行くと、実演販売の人が「実は僕、辞めるからこのポジションが空くんだよ。あんたなら明日からでも出来るんじゃないの?」と言うんです。それって狭き門ですよ、名鉄と松坂屋とオリエンタル中村の3つしかない椅子の内の一つなんですから(笑)。パロマで部屋に閉じこもってもくもくと図面を引く仕事していた僕にとっては、笑って喋って朝から8時間好きなマジックが出来る仕事なんて、すごく気楽に見えたし、こんなチャンスは二度と訪れないと思ったんです。「せっかく良い会社に入ったのだから」と最初は親に反対されたのですが、「仕事先は一流デパートなんだから、デパートに働きに行ってると思ってくれればいいから」とわけの分からない説得をして(笑)、結局「まぁ、オリエンタル中村行くんだったら・・・」って渋々納得してもらいました。

オリエンタル中村で働いていた頃

言葉のマジックですね。それで働いてみていかがでしたか?

もう必死ですよ。実際に実演販売を始めてみると全然売れないわけ。お客さんは手品を見せている時は集まってくるのに、販売モードになった瞬間に皆いなくなっちゃう。売上げは今日もゼロ、明日もゼロでしょ。これは要するにもう手品を見せるとかの次元じゃなくて、物を売る力の問題。サービス業というのを、もう一回勉強し直さなきゃいけないと痛感しました。

それを打破するきっかけはあったのですか?

デパートの別の階に大根おろし器や包丁の実演販売をしている人がいたので、休憩時間に行って、手品の実演をやっているけど全然売れなくて、どうやって人集めをしたらいいのか分からないと素直に聞いてみました。するとまず、「客の中にも暇な人は絶対にいるから、まず一人つかまえなさい。それで二人目が集まるまで世間話してなさい」と言うんです。要するに呼び水ですよね。最初の人には絶対に売ろうと思っちゃダメ。「今日はどこ行って来たんですか?」とか、普通に喋ってる雰囲気に安心して、二人目の人が寄って来るんです。この人は興味で来たわけだから、買う可能性があるんですよ。それで一人目と喋りながら、「これいいですよ」って商品を説明してちょっとずつ仲間に入れて洗脳していると、また何人か集まってくる。するとだんだん最初の一人目が邪魔になってくるんです(笑)。

何か戦略がありそうですね。

実は一人目を追い出して二人目を中心にずらすという凄いマニュアルがあるんですよ。大切なのは、たとえ説明中に商品を欲しいという人が出てきても絶対にそこで売っちゃダメ。一人がパッとお金を出して買おうとした瞬間に、買おうかなと思っていた他の人達の催眠が解けるんです。これは衝動買いの世界ですから、一人がお金を出しても「ちょっと待って下さい」って言って、全員がもう早く売ってくれよってなるくらいまで溜める(笑)。この「溜め」に一流と二流の差があるんです。お客さんに買おうというスイッチが入るのって一瞬なんですよ。

長年実演販売をしていると、スイッチが入った瞬間は分かるようになるのですか?

分かりますよ。下向いていても全部分かっていて、「今」って時にそれまでの作業をパッと止めて「はい、ではありがとうございます」ってまず全員からお金を集めるんです(笑)。そうしないと一個商品を包んでる間にどこかに行っちゃいますから、お客さんに主導権取られたらダメなんです。警察とマジシャンは世の中で一番なめられたらいけない仕事ですから(笑)。こうして20歳前後の時に、物の売り方を研究出来たのは良かったですね。

次回へ続く

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