HIGHFLYERS/#51 Vol.3 | Feb 3, 2022

これと決めたら、納得するまでとことんやり通す性分。何かに集中した時の爆発力には負けない自信がある

Text & Photo: Atsuko Tanaka

美容商社経営者で、美食家のまろさんのインタビュー第3章は、食にまつわる話を中心に、鋭い味覚はどのようにして培われたのかや、尊敬する料理人についてなどをお聞きしました。これまで全国の美味しいものをたくさん食されてきたまろさんですが、ご自身が作る側になろうと思ったことはないのかと尋ねると、まろさんらしいユニークな回答をいただきました。他にも、自身を変えた人との出会いや、これまでの活動において嬉しかったことや辛かったことなども伺いました。
PROFILE

美容商社経営者・美食家 寺田昌之(まろ)

福岡県出身。飲食店を経営したのち上京、美容業界の道へ。男性エスティシャンの先駆けとなり多数の著名人を担当するなど、美容番組でも活躍。化粧品開発などに携わり成功を収める。食の世界でも年間2500軒を食べ歩き、食べログレビュー1位を取得し、美食家として一目置かれる存在に。ボディメイクトレーナーとしても活躍し、痩身研究の為に、自分の体を実験台に爆食しながらトレーニングを重ねている。また、タイでハーブ農園と工場を運営、世界最大の医学会A4M(米国アンチエイジング医学会」編集長、TCC(東京コスメティックコレクション)統括プロデューサーも務めた。 https://www.instagram.com/maro.j.maro/

裏側を知ってしまったら、食べることが嫌いになりそうな気がするから、これからもとことん食べるために生きるバカでいたい

もっと世界の美容を知ろうと海外へ行き、辿り着いたのはタイのルーイだったそうですが、どんな場所なのですか?

10億年前に海底火山が隆起してできた所で、そこにハーブ農園があると聞いて行ったんです。昼間の気温は40度近くになるけど、夜になると10度以下に下がるので、その寒暖差で栄養が蓄えられた質の良いハーブが育つんですよ。僕はエステで使えるハーブを探していたんですが、現地でその農園の運営に困っているとのことだったので、5000ヘクタール分の運営権を買うことになりました。その後、農園の中に併設された工場も買い取って現地の雇用を増やしたら、犯罪が減ったとタイの軍の方から感謝状が来て、国有地だけれど残りの3000ヘクタールも乱獲さえしなければ使っていいということになって。その年のタイの産業展のランクでは、日立についてうちの会社が4位になりました。

左:タイのルーイにあるハーブ農園 右:工場で働く人々と

素晴らしいですね。そんなふうに美容の仕事をしながらも、相変わらず食巡りの方もされていたんですか?

その頃はある程度時間と金銭面で余裕ができていたし、とことん食べてましたね。それと、瘦身エステのコンサル的なものをやっていた頃から思うことがあって、痩せたいと思っている方も、好きなものを我慢して食べずに痩せるのではなく、食べながら痩せられる方法を知りたいはずだと思って、自分の体を実験台にして、どうしたら食べても太らない体を作れるか試してみることにしました。それで自分が大好きな、しかも一般的には太りやすいとされるラーメンを何杯も食べたり、敢えて夜中だけに食べてみるとか、いろんな形で実験しました。

色々試された中で、これはやらなければ良かったなど後悔したことはありましたか?

本当に微量であれば自律神経には効果的なのですが、寝る前に炭水化物をがっつくことですね。それは絶対にやってはいけないことで、お酒を飲んだならば、なおさら厳禁です。また、時間を効率良く使うためにも、あまり時間のない中で、有酸素運動だけに時間を費やしていたのはもったいなかったと気づきました。無酸素運動を効率良く合わせることが大事ですし、その方の目標とするスタイルにもよりますが、運動の前に体温(深部・末端)を上げればいいので、ストレッチやお風呂(サウナ)を活用するなど、燃焼効率を上げる色んな方法を活用することが重要です。

食べ過ぎて胃腸が辛かった、とかではないんですね。

それはないですね。人一倍の量を食べ回る生活を何年も続けたこともあってか、僕はどれだけ食べても満腹にならないし、逆にお腹が減ることもない、常にどっちでもない状態なんですよ。食べるなと言われたら、二日間とか食べなくても全然平気ですし、食べろって言われたら、いくらでもいけます。どれだけ食べられるか試したことがありますが、吉野家の牛丼を15杯とか食べたり、ラーメンのショーとかに行けば朝から夜まで20杯食べたりとか。それ以上も食べられますけど、味が分かる範囲内で抑えます。

食べる量がすごいだけではなく、鋭く繊細な味覚をお持ちで、グルメで有名な芸能人の方などと美食対決をされたりしていますが、その味覚はどのようにして磨いていったんですか?

これだけの経験値で考えながら食べていたら、自然と繊細さが出てくると思います。あとは唾液の量ですかね。僕が思うに、例えばコース料理を食べていて、途中でお腹がいっぱいになって、味がしなくなるとか、美味しく感じられなくなったという方は、唾液が出てこなくなってきているというのもその一理だと思うんですね。でも、コース料理を上手く出すお店は、酸味使いがうまくて、徐々に味覚を刺激させて、1回箸休めで下げて、またもう1回旨味を引き上げて唾液を出させるみたいな、映画のストーリー展開のようなバランスの構成でコースを出すんです。そういうのを作れるシェフはさすがだなって思います。

まろさんが尊敬する料理人や飲食に携わる方はいますか?

たくさんいますが、やはり山田宏巳シェフですね。とにかく視点が全然違うというか、センスと経験のどっちも兼ね備えていて、美味しいものを作るためなら、どんな努力も惜しまない。どんなに若いシェフでも美味しいものを作ってる人がいたら、頭を下げて教えてくださいって聞くんです。頭を下げるプライドよりも、顧客に美味しい料理を食べさせたいというプライド。プライドの持ち方って大事ですね。他にも尊敬するシェフはいっぱいますけども、山田宏巳シェフはあの歳でそれができているのがすごいなと思います。

山田宏巳シェフと、イタリアのフィレンツェにて

では、突き詰める力がものすごいまろさんならではの、食に対する特別な研究方法はありますか?

美味しいものをより美味しく食べるために、美味しくないものというと語弊がありますが、さほど評価されていないお店のメニューも食べて自分の食を楽しむことをしてます。美味しいものばかりずっと食べていると、多分そのうち楽しくなくなってくると思うんですよ。恋愛と同じで、それをどう楽しくするかは自分のさじ加減というか、努力のやり方次第なんじゃないかと思います。

選ぶのはとても難しいと思いますが、最近食べたもので印象に残っているものを挙げるとしたら何になりますか?

考えだすと100品でも出し足りないくらいですし、コース料理の場合、各一品を美味しく食べてもらう為に、その前後の構成などを緻密に考えて料理人さんが作られているので、例えば映画のワンシーンや曲のサビだけを切り取って、ここが良いと言ってしまうようなことは、本当はあまりやってはいけないことだと思っています。それを踏まえた上でいくつか挙げるとしたら、まず、赤坂の「インフィニートヒロ」のカペッリーニ。イタリアンの神と呼ばれ、冷製パスタの生みの親である山田宏巳シェフが作るわけですから、歴史を味わうような感覚に心躍ります。トマトの酸味、さわやかなオリーブオイル、ハッキリとした味の輪郭がたまりません。そして、「日本橋蛎殻町すぎた」の鯖の海苔巻き。大葉の風味のアクセントに、あさつきやガリの食感の対比が素晴らしかったです。また、正月にいただいた「日本料理山崎」のお節は、希少な高級食材から旬の食材までを最大に生かしたお節で、修羅のような日本料理人が一品一品、丁寧に作り上げているのですから、そりゃあたまりません。味覚の振り幅もあり、こんなに美味しいお節を食べたのは初めてでした。他にも「カンテサンス」の鳩のロースト、「成蔵」のとんかつ、「鮨さかい」のあん肝、「うぶか」の海老フライ、「美会」のタイカレーなどなど、挙げだしたらキリがないですね(笑)。

上段左:「インフィニートヒロ」のカペッリーニ / 中:「日本橋蛎殻町すぎた」の鯖の海苔巻き / 右:「日本料理山崎」のお節 / 下段左:「カンテサンス」の鳩のロースト / 中:「成蔵」のとんかつ / 右:「うぶか」の海老フライ

では、今まで食べたもので忘れられない衝撃だった食べ物3つを挙げるとしたら、何でしょう?

まずは、北九州の小倉「天寿し」のまぐろの漬けのにぎり。口の中に広がる優しい出汁の深みと、まぐろのとろける舌触り、シャリのほどけ具合といい、至福の極みですね。そして、秋田「日本料理たかむら」のスペシャリテのひとつ、比内地鶏の首皮包み焼きも最高です。鶏の旨味・風味・食感など比内地鶏の良さが集約されていて、秋田の地酒と合わせるひと時は、悶絶の無限ループですね。あとは、佐賀「いちげん」のとんこつラーメン。私が福岡に住んでいた頃、オープン当初から通っているマイソウルフードですが、さらりとしていながら豚骨の旨味がギュギュッと濃縮されている一杯です。ここへは死ぬまで通うと思います。

左:「天寿し」のまぐろの漬けのにぎり / 中:「日本料理たかむら」の比内地鶏の首皮包み焼き / 右:「いちげん」のとんこつラーメン

それだけ食べるのが好きでも、例えばラーメン屋を出すとか、ご自身が食を作る側になろうと思ったことはなかったんですか?

ないです。それはやっちゃいけないかなと思っていて。裏側を知ってしまったら、食べることが嫌いになっちゃいそうな気がするんですよ。もちろんシェフの中には食べ歩きも好きっていう人もいますけど、僕の場合はとことん食べる側でいたいし、食べるために生きるバカでいたいですね(笑)。

では、少し話題を変えて、まろさんご自身は自分のことをどんな性格だと思っていますか?周りの人から思われているイメージとギャップを感じることはあります?

頑張ってるのを見せるのが嫌いで、どちらかと言うと遊んでるところばかりを見せていたりするので、結構チャラいやつだと思われているんじゃないかと思います。お酒を飲み交わしたりして話をすると、思っていたのと違うと驚かれて好かれることはあるんですけど、知らない人からするとストイックな印象よりは、チャラくて変態みたいなイメージなんじゃないのかなと。自分でも自分を変態だと感じる部分はありますね。これと決めたら極めるまでずっとやり続けて、納得するまでやり通す。食べることもそうですし、商品企画とかもやり始めたら寝ないで1日半とかやり続けちゃう。何かに集中した時の爆発力は多分負けないですね。

ご自身を変えた人や言葉との出会いと言ったら、何かありますか?

以前、裏切られて1億2千万の借金を被せられたことがあって、当時は僕を陥れた相手に対して恨みの感情を抱いていましたけど、どん底から頑張って、また這い上がれた時に、憎しみが感謝の気持ちに変わりました。あれがなかったら、どんな苦労も楽しいと思える今の自分にはなっていなかったと思います。この先何かトラブルがあったとしてもまた元に戻れるというか、負けない自信がありますね。

では、これまでの活動において、最も嬉しかったことはどんなことですか?

意外と素朴なことじゃないかなと思います。コロナ禍でしたけど、家族5人で酒を飲みながらズームで話したりとか、そういうことなのかなという気はします。やっぱり家族に立ち戻るところがあるんですかね。それは僕が自分の家族を作れていないということに反比例しているのかもしれません。一番大切なかけがえのないものって失ってからしか気づかないものですね。

逆に辛かったことはなんでしょう?

先ほど話した裏切られたこと、組織の上層で働いていた時代に社員のリストラをした時、そして親友の死がありました。僕には絶対に離れられない親友が二人いて、そのうちの一人で、僕がちょっと愚痴を言ったりすると、「そんな時間があるんやったら他に費やせ、お前は今ダメな人間になっとる」とかって言ってくれるような強いやつでした。でも自殺したんです。僕が東京に来てなかったら、もしかしたらあいつを助けることができていたのかもしれないと思う反面、もう戻ってくることはないので、一番の供養は自分が笑顔で生きていくことだと今は思って生きています。

取材協力
Restaurant由 -yoshi-
住所:東京都台東区北上野2-14-3 Hotel粋B1F
電話番号:03-6802-8151

次回へ続く

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