HIGHFLYERS/#15 Vol.3 | Feb 4, 2016

「情熱大陸」は自分からのアプローチ。吉武広樹にとってのチャンスとは

Text: Kaya Takatsuna/ Interview & Photo: Atsuko Tanaka/ Cover Image Design: Kenzi Gong

パリのフレンチレストラン「Sola」のオーナーシェフ、吉武広樹さんのインタビュー第3回目は、チャンスと成功、そして幸せについて。料理人として夢を実現するために必要なことや、吉武さんにとってのチャンスとは?また、「情熱大陸」に出演されるまでの経緯から、尊敬する社長や、憧れる男性像まで、たっぷり伺いました。
PROFILE

フレンチシェフ吉武広樹

1980年8月佐賀県伊万里市生まれ。幼いころにテレビで目にした、「料理の鉄人」で晴れやかに活躍する坂井宏行シェフに魅了され料理の世界を志す。
福岡市の中村調理製菓専門学校を卒業後、念願だった坂井宏行シェフの「La Rochelle ラ・ロシェル」(東京・渋谷)で3年間、茗荷谷フレンチレストラン「Le Pirate ル・ピラート」で3年間、厳しいなが らも、フランス料理の基礎を学ぶ。
2007年、フランス料理に留まらずさらに広い視野で見聞を広げるため 調理器具を背負い、アジア、中東、アフリカ、アメリカ等、 各国の食材、調味料を用いて現地で料理を作りながら世界を周る。
2008 年、本場のフランス料理を勉強するため渡仏。「Fogon フォゴン」、「Ze Kitchen Galerie ザ・キッチ ン・ギャラリー」、「les Magnolias レ・マニョリアス」そして「Astrance アストランス」の厨房に立つ。そこで吉武はシェフのパスカル・バルボの生み出す料理のシンプルさと、素材そのものの活かし方に衝撃と 感銘を受ける。
またその間、当時は夜のみの営業だった「居酒屋 Youlin ユーリン」(後にSakebar に改名後、2014年夏に 一時閉店)でも料理人として働き、ここで後のSolaを共同経営することとなるYoulin Ly(ユーリン リ ー)と出会う。
2009年夏、シンガポールの料理人コンテストに参加した吉武の料理がシンガポール投資家の目に留まり、シンガポールでレストランオープンのオファーを受ける。そして 2009 年9月、大きなテラス席を含めた、80席のフレンチレストラン「Hiroki88@Infusion」をオープン。2010年1月には、シンガポールレストラン協会が 開催したコンテストにおいて部門最優秀賞「Best New Concept Award 2010」を獲得し、一躍、シンガポールの食シーンで話題のシェフとなる。
その間パリでは、フレンチ居酒屋「Youlin」が軌道に乗ってきた Youlin Ly が、ガストロノミーレストラン のオープンに意欲をわかせていた。シンガポールでの吉武の活躍を耳にしていた彼は、一か八かで吉武に提案を持ちかけたところ、その場で話がまとまる。その後吉武は「Hiroki88@Infusion」を閉め、再度パリへと向かう。
こうして2010年12月、Youlin Lyと共にRestaurant Sola をオープン。2012年3月には、開店から1年 3ヶ月という短期間でミシュラン1つ星を獲得。日本をはじめ、世界中に多くのファンを抱え、食の都・パリ において唯一無二の存在を放つレストランへと成長させる。
さらに、現在は JAL のファースト・ビジネスクラスの機内食の監修や、2015年秋に NY にオープンする和食店 のメニュープロデュースなども行い、レストランの枠を越えた活動も積極的に行ってる。
また 2014年、若き才能を発掘する日本最大級料理人コンペティション「RED U-35」に参加。同年11月最終 審査が行われ、第2回グランプリに輝く。

チャンスは直感。一瞬でもドキドキしたら絶対間違ないから、やって後悔はない

料理人として日本で成功する人と、海外で成功する人の資質やタイプは違うと思いますか?

成功っていう概念は人それぞれだと思いますが、日本で成功する人は海外でも成功するんじゃないですかね。センサーが働いて、時代とか流行とかもちゃんと踏まえつつ、その土地、土地で求められているものが理解出来ていて、努力家で、気が利く人達。日本では成功するけど海外では成功しないっていう人はあまりいないと思います。

料理人としてのキャリアの中で、辛かったことや、くじけそうになったことはありますか?

20代の頃は、まだ自分も若くて理不尽なことに上手く対応することが出来ませんでした。その時はさすがに辛かったです。フランスは理不尽なことで怒られることはないですが、まだ日本はそういったことが多くて、僕も先輩に個人的な理由で怒られたりして、よく落ち込んでました(笑)。もう九州に帰りたいって、ずっと思ってて。バイクに乗ってたんで、よく休みの日に飛行機を見に空港に行ってた気がします。あとは友達と飲んでました。

吉武さんが思う“最も成功している人”は誰ですか?

仕事で様々なことを達成し続けながら、私生活ではサーフィンをするために世界中を飛び回ったり、美味しい料理を食べるためだけにヨーロッパに来たりしている先輩方が周りにたくさんいます。彼らのように、自分の心の求めるものを素直に行動に移し、実現していく人達が成功している人なんじゃないかなと思います。

他に、自分が叶わないと思っている人物はいますか?

市川海老蔵さんです。僕が24歳くらいで、彼がまだ市川新之助さんだった頃、僕のお店の後輩が彼と幼馴染だったので、しょっちゅう一緒に飲んでたのですが、彼の器の大きさとか、豪快さとかは自分とは比べものにならないくらいパワーが凄かった。朝5時くらいまで飲んで、そこからジムに行って、そのまま歌舞伎座に公演に行くんですよ。俺や彼の幼馴染が次の日仕事だからって、飲んでるうちに寝ちゃうと、「何でお前らは寝れるんだ。お前らは仕事行って終わりだろうけど、俺は何千という人間が俺を待ってるんだ」って。あの時に、彼の人間力には一生かなわないだろうなって思って。幼い頃から責任感を背負って生きているから、そのプレッシャーはすごいと思いますが、それに打ち勝つ力があって、楽しんでて、かっこいいな〜って思って。男の中の男でしょうね。

吉武さんが習慣にしていることはありますか?

パリの雑貨屋、アパレルショップ、花屋などは定期的によく見に行きます。

それは流行を知るために?

そうですね。ジャンルに関わらず、いいものはやっぱりいいんで。現代美術は好きですが、美術館に行くより、色んな発想が生まれる東急ハンズのような実用的なものを置いている所に行く方が好きです。道具屋さんや工具屋さんも、こういうアイデアが思いつくんだって、勉強になるので見ていて面白いです。

好きな言葉、本、映画などはありますか?

好きな言葉はいっぱいあるなぁ。名言集を携帯にいっぱい入れていて、よくぼーっと見ています。例えば阪急グループの創業者、小林一三さんの「下足を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そしたら、誰も君を下足番にはしておかない」という言葉は、どうでもいい仕事だからって適当にやるんじゃなくて、小さな仕事でさえ日本一を目指せという、日々の教訓です。他に、江頭2:50さんの「1クールのレギュラーよりも1回の伝説」とか、羽生善治さんの「才能とは継続出来る情熱である」という言葉も好きです。

自分の夢を実現するのに必要なことは何だと思いますか?

言い訳はせず、恐れずに進んで、やりたいことがあるんだったらやる。ただ、やれと。坂井シェフの調理場に“やるしかない”という言葉が大きく貼ってあるのですが、本当にその通りで、やると決めたらやるしかない。家族やお金を色々言い訳にして、その一歩を踏み出さない人は多くて、「お前はいいよな」とか言われることがありますが、「いやいや、俺だってお前と同じ環境だよ」って思います。

吉武さんにとって“チャンス”とはどんなことだと思いますか?

人との出会いですね。自分が話してみたいと思う人がいたら、話しかけてみた方がいいと思う。話してみないと分からないのに、自分とは違う次元にいるから話せないとかでチャンスを逃してしまう。出会いなんて一瞬で終わってしまうけど、話すことによって、そこからの広がりってものすごくあると思うんです。あと、チャンスって直感で感じることだと思います。一瞬でも自分の胸がドキドキするようなことがあれば、僕はそれは絶対に間違いじゃないと思うんで、まずは行動してみることが大事だと思います。行動してみてだめなら、また次を考えればいいわけだし。

直感を信じて実際に行動したことはありますか?

以前「情熱大陸」に出演したのですが、出ることになったきっかけは自分からアプローチしたんです。たまたま、「情熱大陸」のロケ班が違う取材でシャンパーニュに来ていた時に会って、その後「Sola」に食べに来てくれて、是非僕も撮ってもらいたいとアプローチしたら、じゃあちょっと撮ってみましょうかってなって。僕なんかよりすごい料理人はいっぱいいるのに、こうして取り上げてもらえたのは、その一瞬を逃さず、どんどん自分でアタックしていったからだと思います。それって色んな事に通ずることだと思うんです。いつか評価されるだろうって評価を待ってても、死んでしまったら終わりだし、今自分がいいと思うのであれば、自分をどんどんアピールすることも大切だと思います。

「情熱大陸」に出演されて何か変化はありましたか?

実際そんなに変わってないですけど、番組を見た人から「すごい勇気をもらえました」とかいうのを聞いて、すごく嬉しかったです。今まで自分のやってきたことは間違いではないというか、多少なりとも人に影響力があるんだと感じることが出来たので、じゃあもっと突き進もうって思いました。

吉武さんにとって、成功とはなんですか?

成功というのが何なのか、分からないです。お金さえあれば、成功なのか、地位があれば成功なのか、結局は人の評価によって決まることで、自分自身はそれを成功と考えてない人の方が多いんじゃないかと。

では吉武さんが、幸せと思うことはなんですか?

楽しい毎日。気心の知れた仲間と楽しく酒が飲めて、仕事が楽しくて、家庭も楽しくて。それが幸せじゃないかと思います。

次回へ続く

新しい料理人の形、「メニューデザイナー」としてレストランを超えた空間作りに挑みたい(2/18UP)

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