HIGHFLYERS/#15 Vol.1 | Jan 7, 2016

フランスの名店で修業、シンガポールで初めての店を。そして再びフランスへ

Text: Kaya Takatsuna/ Interview & Photo: Atsuko Tanaka/ Cover Image Design: Kenzi Gong

今回のハイフライヤーズはフランス・パリより、開店からわずか2年でミシュラン1つ星を獲得し、今、最も注目を集めるフレンチレストラン「Sola」のオーナーシェフ、吉武広樹さんです。第一回目は、初めてフランスに来た時のことから、レストランオープンに至るまでの経緯や、シェフの体験を通して学んだ日本とフランスの生活文化の違い、「Sola」の楽しみ方などを伺いました。
PROFILE

フレンチシェフ 吉武広樹

1980年8月佐賀県伊万里市生まれ。幼いころにテレビで目にした、「料理の鉄人」で晴れやかに活躍する坂井宏行シェフに魅了され料理の世界を志す。
福岡市の中村調理製菓専門学校を卒業後、念願だった坂井宏行シェフの「La Rochelle ラ・ロシェル」(東京・渋谷)で3年間、茗荷谷フレンチレストラン「Le Pirate ル・ピラート」で3年間、厳しいなが らも、フランス料理の基礎を学ぶ。
2007年、フランス料理に留まらずさらに広い視野で見聞を広げるため 調理器具を背負い、アジア、中東、アフリカ、アメリカ等、 各国の食材、調味料を用いて現地で料理を作りながら世界を周る。
2008 年、本場のフランス料理を勉強するため渡仏。「Fogon フォゴン」、「Ze Kitchen Galerie ザ・キッチ ン・ギャラリー」、「les Magnolias レ・マニョリアス」そして「Astrance アストランス」の厨房に立つ。そこで吉武はシェフのパスカル・バルボの生み出す料理のシンプルさと、素材そのものの活かし方に衝撃と 感銘を受ける。
またその間、当時は夜のみの営業だった「居酒屋 Youlin ユーリン」(後にSakebar に改名後、2014年夏に 一時閉店)でも料理人として働き、ここで後のSolaを共同経営することとなるYoulin Ly(ユーリン リ ー)と出会う。
2009年夏、シンガポールの料理人コンテストに参加した吉武の料理がシンガポール投資家の目に留まり、シンガポールでレストランオープンのオファーを受ける。そして 2009 年9月、大きなテラス席を含めた、80席のフレンチレストラン「Hiroki88@Infusion」をオープン。2010年1月には、シンガポールレストラン協会が 開催したコンテストにおいて部門最優秀賞「Best New Concept Award 2010」を獲得し、一躍、シンガポールの食シーンで話題のシェフとなる。
その間パリでは、フレンチ居酒屋「Youlin」が軌道に乗ってきた Youlin Ly が、ガストロノミーレストラン のオープンに意欲をわかせていた。シンガポールでの吉武の活躍を耳にしていた彼は、一か八かで吉武に提案を持ちかけたところ、その場で話がまとまる。その後吉武は「Hiroki88@Infusion」を閉め、再度パリへと向かう。
こうして2010年12月、Youlin Lyと共にRestaurant Sola をオープン。2012年3月には、開店から1年 3ヶ月という短期間でミシュラン1つ星を獲得。日本をはじめ、世界中に多くのファンを抱え、食の都・パリ において唯一無二の存在を放つレストランへと成長させる。
さらに、現在は JAL のファースト・ビジネスクラスの機内食の監修や、2015年秋に NY にオープンする和食店 のメニュープロデュースなども行い、レストランの枠を越えた活動も積極的に行ってる。
また 2014年、若き才能を発掘する日本最大級料理人コンペティション「RED U-35」に参加。同年11月最終 審査が行われ、第2回グランプリに輝く。

大切なのは「自由」。フランス人の素直でダイレクトな反応が嬉しい

初めてフランスに来たのはいつですか?

世界40カ国を一年かけて旅していた2007年の27歳の時にリヨンに一度寄りました。当時たまたま知り合いが地元のフレンチレストランで働いていたので、バックパック背負ったまま寄って、夜半日だけ働かせてもらったんです。当時はスペインのエル・ブリが流行っている時代で、そのレストランは科学的な料理ばかりやっていて、色んな薬品を使ったり、珍しい機械を使ったりと、やっていることがとても斬新だったんです。その頃はまだ自分の知識の中にそういうものが全くなかったから、「やっぱりフランスに来たい」って思って。

世界1周中にフランスで研修したお店のシェフと調理師達

その後、2008年に再び渡仏してからは、どのような生活をしていたのですか?

昼は学校に行って、夜はタパス屋さんで働きました。「Sola」の近所にあるのですが、スペイン人経営の凄く忙しいお店になんとか雇ってもらえたんです。その後は色々な経験をしようと、3ヶ月周期で別の店で働きました。

キッチン・ギャラリーや、マグノリア、アストランスなどの名店で働いた経験がおありですが、それぞれの店で印象に残ったことや、経験して良かったことはありますか?

キッチン・ギャラリーは、一日にもの凄い数をこなさないといけないんです。ただ料理を作っているだけではだめなので、スタンバイから全て、頭を使ったトータルなオーガナイズの仕方を学びました。マグノリアでは、科学的な料理の最先端な技法を学べました。アストランスはとてもシンプルな料理で、それまでの自分のイメージでは、細かい作業がたくさんある上での、すごく手の込んだ料理が三ツ星だと思っていたんですけど、ただ切っただけの野菜や洗っただけのものなどを出したりと、とにかく自由。手が込んでいるからといって美味しいわけではないというのを学びました。

それぞれの店では、どのくらいの期間働いたのですか?

キッチン・ギャラリーとマグノリアが3ヶ月ずつで、アストランスが6ヶ月。その後、知合いの社長に声をかけていただき、シンガポールに一年間行きました。9月までアストランスで働いて、10月にシンガポールに行って、11月に「Hiroki 88」という自分の店をオープンしました。調理場の設計から中国に行って皿選びをするところまで、立ち上げから関わったんですが、半年やってみて、やっぱりパリの方がいいなって思って。するとある時、以前アストランスで働いている時に出逢った知人から「ちょっと物件探すから戻ってきてくれないか」って連絡が来たんです。その彼が現在の「Sola」の共同経営者です。

一からお店をリノベーションするなどして、どのくらいの期間でお店をオープンしたのですか?

1ヶ月だったかな?

フランスは何かと時間がかかるイメージがありますが、随分早いですね!

ちょっと無理矢理な感じはありましたけど、11月10日にパリに戻って来て、11月27日にはもうオープンしてました。「Sola」は1階と地下の階と、2階建ての構造になっているのですが、最初は1階だけオープンして、地下の工事を進めながら営業してましたね。

フランスでお店をオープンするにあたって、日本でお店をやるよりも想像以上に大変だったことはありました?

大変だったのは、フランスの習慣に慣れること。注文したものが間違っていたり、配達すら来ない日があったり。パリはストライキがいっぱいあるので、道路が封鎖されているから配達が来ないこともあります。魚を頼んでいるのにイカが届くこともあって、「全然違うじゃないか」って苦情の電話をすると、「このイカ凄かっただろう」って(笑)。それが一年も続けば、まあいいやってなっちゃうんですよね。今は全く違うものが来ても、それをちゃんと調理して出して、臨機応変に対応しています。フランスに住んでから大分小さいことは気にしなくなりました。

逆に日本よりもパリの方がスムーズに行ったことはありますか?

集客です。「Sola」が、ある程度認知されるまでに3ヶ月ほど要しましたが、非常にありがたいことに、その後5年くらいディナーはずっと満席です。パリはレストランだった所にしかレストランを開けないため、店の絶対数が決まっていますし、日本に比べ観光客が多いことも影響しているのかもしれません。

オープンして最初の頃はお店のPRをするのに、どういうところに力を入れたのですか?

食べてもらえれば分かってもらえるだろうと信じていたので、ジャーナリストをたくさん呼んで、無料で招待してとりあえず食べてもらうことから始めて、その後はスムーズにここまで来れました。

「Sola」のコンセプトや大事にしていることは?

「Sola」で大事にしていることは、、、自由。料理に対してだけでなく、働き方とか他の事に対しても、結構みんな自由ですね。コックコートや帽子の着用は特にしていません。清潔感があれば、特にルールは必要ないのかなと思ってます。

厨房の中や、お客様の反応など、日本とフランスを比べて大きく違う点はありますか?

お客様の反応の違いは、日本人はその場では「美味しかったです」って言って帰ったのに、ネットには違うことを書いたりしますね。でもフランス人は「ここのこれは美味しかったけど、これはちょっと今イチだった」などと、良いことも悪いことも直接言ってくるんです。フランス人は本当に感情豊かなので、美味しかったら調理場まで言いに来てくれることが毎日のようにあります。正直な反応をダイレクトに感じる事が出来るので嬉しいです。

実際に「Sola」をオープンされて、ご自分が描いた通りのレストランになっていますか?

料理人として世界中で仕事をしたいとは思っていましたけど、自分でお店をオープンしたいとずっと考えていたわけではなかったので、そこにあまりフォーカスしてなくて、気付いたらこうなっていた感じです。お店にご来店頂ける皆様との出会いや、色んな方面でご活躍される方達と出会えて、今の自分があると思っています。人との出会いはすごく恵まれていますね。

「Sola」に来たお客様には、「Sola」のどういうところを楽しんでほしいですか?

あまり“うちのここを”っていう風には考えてなくて、仲良い友達と来て頂いて、その空間を自然に楽しんでもらえたらと思っています。

次回へ続く

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