舞台で失敗を経験すると、どうすれば面白くなるのかを相当考えるようになる。その経験を何回も繰り返す中で、笑いのセンスが身についていく
新作「Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー」は、終戦後のサンフランシスコが舞台の、日系アメリカ人ジャズバンドを取り巻く物語ですが、どうしてこのような設定にすることになったのですか?
去年の熱海五郎一座を終えて、次は何をやろうかと作家と話をした時に、僕は音楽が非常に好きなので、カッコいいジャズをやりたいなと思ったんです。それで戦後の闇市からのし上がっていく女性ジャズシンガーの話ができないかということになりました。後日作家が送ってきたシノプシス(あらすじ)を読んでみたら、確かに戦後が舞台だけれども、日本がアメリカに勝ったという設定になっていて、驚きつつも、無理やりな設定ではないし、面白いなと思って。
毎回豪華なゲストを迎えていらっしゃいますが、今回のゲストに紅ゆずるさん(海軍中佐役)、AKBの横山由依さん(ジャズバンドのメンバー)を選ばれた理由は?
テーマは笑いと音楽ですから。紅さんは宝塚出身で、当然音楽の素養も全て備わっていて、ダンスもお芝居もできる。そして笑いが非常に好きで、宝塚時代も隙さえあればお客さんを笑わそうとしていたと聞いて、ぴったりだなと。由依ちゃんは、ドラムとピアノができるということで、ジャズバンドのストーリーなので、いいなと思いました。
お二人とご一緒するのは今回が初めてでいらっしゃいますよね。お二人の舞台に対する取り組みや姿勢はいかがですか?
素晴らしいですよ。まだ稽古は始まってないですけど、由依ちゃんとはバンドの練習を何回かやりました。彼女は小学校の何年間かにドラムをやっていたので、それを思い出しながら練習していますが、今回はジャズですからすごく難しい。でも真面目に必死にやってますね。紅さんは笑いに対してとてもピュアで自分なりの理論もあって「こういう設定だからこう演じればこう落ちる」というのが解っているので、すごく良いキャスティングだなと思います。
お二人の化学反応は上手く作用しそうですか?
新しい人とやる時は、化学反応は必ず起こりますよね。でも、どう作用するかはやはり稽古してみないと分からないですね。
三宅さんはバンドのウッドベース担当で、新たに楽器を新調されたそうですが、練習の方はいかがですか?また、ウッドベースはどのくらいやられているのですか?
ウッドベースに挑戦したのは今回が初めてです。楽器がないと練習できないんで、買いました。エレキベースは弾けるから、ウッドベースもできるだろうと思って始めたんですけど、これが全然違うんですよ。最初は手が痛くて10分くらいしかできなかったです。楽器の持ち方、弾き方、力を使う箇所など全く違って、腕や肩、腰も痛くなるし。そんな状態から始まったんで、すぐに後悔しました(笑)。
バンドメンバーにキャスティングされた方たちもそれぞれ楽器を練習されているんですか?
基本そうですね。何人かとは一緒に練習しました。春風亭昇太がトロンボーン、ラサール石井がジャズギター、小倉がテナーサックスで、由依ちゃんがドラム。そしてピアノとトランペットでうちの劇団員が入ります。
みなさんの練習の成果の感触はありますか?
みんなできることはできますけど、音楽ってできればいいってものでもないんでね。紅さんの歌とどう上手く合わせられるかや、どこで音の強弱を出して盛り上げるか、全員がブレイク(演奏中に音を止めること)をどれぐらいキレ良く決められるかとか、そういったことはこれからですね。練習回数が少ないと難しいことばかりです。あとはそれぞれのセンスが大事ですね。
製作発表の時に、三宅さんが「緊張感があればあるほど笑いを作りやすい」と、また、深沢さんが「三宅さんがいつもおっしゃる緊張と緩和を大事にしたい」とお話しされていましたが、その「緊張と緩和」について教えていただけますか?
緊張と緩和って、設定にリアリティがないと嘘っぽいボケのわざとらしい笑いになってしまうんです。そこでどうするかと言うと、まず緊張感のある設定を考えるんです。例えば、お医者さんが手術するシーンとか、ギャングの麻薬の取引、あるいは結婚を申し込むとか。そういう設定で思わず失敗してしまうボケは、緊張感があるからリアリティがありますよね。でもわざとらしい設定でする失敗は、緊張感がないからわざとらしくなってしまう。だから大事なのは、“わざとらしくなくボケられる、緊張感ある設定を作れるか”、ということですね。
なるほど。
うちの奥さんはよく失敗をするんですけども、昔ある会社でバイトしていた時に、社長室に大事なお客さんがいてお茶を持っていったんですね。ノックして部屋に入って、お茶をこぼさないように必死でお出しして、社長室を出る時にまたノックしちゃった(笑)。これって笑えますよね、その気持ちがわかるから。今度の舞台は、日本が戦争に勝って、アメリカの人達に日本の文化を押し付けるという内容で、昔マッカーサーが日本に対してやったようなことの逆の設定から始まるんです。戦勝国の人間に逆らってはいけないけど、自分のやりたいこともあるという中で生まれる葛藤は緊張に繋がりますよね。だから失敗したり、どうしても逆らっちゃう部分がギャグになるということですね。
今回構想を練るのに苦労した点などはありますか?
作家が本当に良い設定を考えてくれたので非常にやりやすかったです。最初からギャグがたくさん入っているんですけど、僕はさらに細かいギャグをたくさん入れました。良い設定の場合はどんどん入れられますね。「ここでギャグを入れちゃうと感動がなくなるから、ここはやめておこう」とか、今はそういう計算をしてるところですね。
見どころや、お客さんに期待して欲しいことなどを教えてください。
特に今は(コロナの影響で)それぞれいろんな大変なことがあるでしょうし、笑うことが少なくなってるかもしれないので、とりあえず何も考えずに観に来て欲しいです。多くの人と笑いを共有できることが劇場で観る良さの一つです。1000人以上が劇場で同じ笑いを共有すると、不思議と家で一人で観て笑ってる時よりも全然興奮するんですよね。面白さが倍増して、その雰囲気が役者に伝わって、役者もノッていつもより力を出す。その相乗効果で、他では味わえないような笑いを味わうことができるんです。それに、笑えば当然感情が動きますし、脳を刺激して、ストーリーでグッとくるところでは涙を流したり、感動も大きいものになるんですね。感情を出すことは人間にとって非常にいいことで、ボケ防止にもなりますし、この時間だけは普段の悩みや嫌な事を全て忘れられるので、ただ楽しみに、笑いに来てくれればいいなと思います。
ところで、笑いのセンスについてお聞きしたいのですが、センスは培えるものなのでしょうか?それとも持って生まれたものですか?
両方ですね。持って生まれたものはほんのわずかですけども、子供の頃どういう環境で育ったかというのと、あとは、稽古で教えられることはあまりないんですが、お客さんの前でどれぐらいの経験、つまり失敗をしているかですかね。笑わそうと思ったらシーンとしちゃったっていう失敗は、本当に辛いですからね。役者が笑わせようとして演じたのを分かっていて笑わなかったというのは、お客さんも気まずいし、役者は本当にそのまま引っ込みたいですよね。そういう経験をすると、どうしたら面白いのかを相当考えるようになるんですよ。その経験を何回もしていく中で、どんなセンスが身についていくのか、ということですね。
三宅さんは普段どんなことから笑いのヒントを得ているのでしょうか?
ちょっとしたことですけど、普段の生活の中で人はどんな失敗をするのかを見るのが癖になってますね。この前もラジオで話したんですけども、自粛しなきゃいけないのに自粛せずにパチンコ屋さんに行っちゃった人がテレビで取材されていたんですね。そういう時の人間って変なことを言うんです。本当は家にいなきゃいけないのに、パチンコに来ちゃった言い訳を言おうとする、でも言い訳なんて何もないわけです。だから「なんか来ちゃったんですよね、ほら、俺パチンコ大好きじゃん?」って。テレビを観てる人は、誰もその人のこと知らないのに(笑)、その「ほら」っていうのがすごくおかしくて。そんなところを取材されてしまって相当追い詰められてたんでしょうね。
では、三宅さんが目指す東京喜劇とはどういうものかを教えてください。
簡単に言うと、カッコ良さとズッコケるような面白さに大きな落差があるのが東京喜劇だと僕は思っています。そのカッコいい部分は何かと言うと、音楽なんですね。音楽は常にレベル高く、ダンスもレベル高くやって、その他の芝居で非常にくだらないギャグを真剣に演じる。その両方を同じ役者ができるとカッコいいわけです。今回一生懸命バンドの練習をしてるのは、散々バカやった後にカッコいいジャズを生演奏でやるという落差を出したいから。上手くいけば非常にカッコいいけれど、上手くいかなかった時は本当にカッコ悪い。だから今回はちょっと怖いことをやろうとしてますね。
スタイリスト:加藤あさみ(Yolken)
ヘアメイク:家崎裕子
次回へ続く
熱海五郎⼀座 新橋演舞場シリーズ第7弾 東京喜劇
『Jazzy(じゃじぃ)なさくらは裏切りのハーモニー〜⽇⽶爆笑保障条〜』
出演・構成・演出:三宅裕司
出演:渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博・深沢邦之(交互出演)/紅ゆずる、横山由依(AKB48)
太平洋戦争も終盤のサンフランシスコ。魅惑の女性D J〝ニューヨークの桜“と共に対日謀略放送に加担している、日系アメリカ人ジャズバンド「ツインズ」のメンバーは、アメリカ敗戦!?の大統領声明を聞く。
同じ頃、空港に降り立った日独同盟軍西米国支部作戦本部長である女性海軍中佐は、アメリカ日本化計画を発令する!
その結果、バンドは、嫌いな演歌や歌謡曲を演奏しなければならなくなる。
強面な割には、キュートさも垣間見られる海軍中佐には、さらに別の顔もあった。
連合国と日独の戦いに翻弄される日系ミュージシャンの悲劇という名の東京喜劇!
笑いと音楽と感動のストーリーがあなたの脳を揺さぶる一大エンターテインメント。
日米爆笑保障条約!署名、調印してください!
- 【公演日程】
- 2020年6月2日(火)初日~30日(火)千穐楽
*熱海五郎一座『Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー』は全公演中止となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止と政府の緊急事態宣言を受け、熱海五郎一座『Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~』は全日程の公演が中止となりました。
払い戻し方法の詳細につきましては、松竹ホームページをご覧ください。
松竹:https://www.shochiku.co.jp/news/20200510_02/
三宅裕司 YouTube チャンネル開設!
三宅裕司の公式 YouTube チャンネルでは様々なコンテンツを企画し、マイペースに配信していく予定です。初回配信には、6月の舞台公演が中止となった熱海五郎一座メンバー全員(渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之)と、今年の演目のゲストである 紅ゆずると横山由依を招き、合計9人での座談会をお届けします。
ぜひチャンネル登録を!
- 【URL】
- http://www.youtube.com/c/miyakeyuji
- 【初回配信】
- 2020年 5月10日(日)12時〜
- 【初回ゲスト】
- 渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之、紅ゆずる、横山由依