HIGHFLYERS/#23 Vol.1 | May 11, 2017

コンビニコーヒーによって100円コーヒーの味が消費者の基準になった今、ホテルやレストランのコーヒーの美味しさが問われている

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

今回HIGHFLEYRSに登場するのは、コーヒー栽培技師で実業家でもある株式会社ミカフェート代表の川島良彰さん。約40年以上に渡って世界50カ国以上のコーヒー農園を訪れ、常に生産者と共に品質の良い豆作りや新種のコーヒー探しに取り組んでいる川島さんは、“コーヒーハンター”として広く知られています。栽培指導から収穫、精選、輸送、焙煎、保管など、徹底した品質管理のもと、大手航空会社や有名ホテル、レストランへの卸販売やカフェ経営。また、無印良品には、Café&Meal MUJIでの提供のほか、同社の「豆から挽けるコーヒーメーカー」、そして貝印の「ザ コーヒーミル & コーヒードリッパー」の監修を務めています。さらに、漫画「僕はコーヒーがのめない」の監修にも携わり、独自の路線でコーヒーの魅力を多くの人々に伝え続けています。現在も年間100日以上をコーヒー生産国で過ごされるという川島さんの半生を振り返りながら、コーヒーへの愛情や夢を追求することのロマンや苦労を4 回にわたりたっぷりお届けします。第1回目は4月20日にGINZA SIX内にオープンしたばかりの「GRAND CRU CAFÉ GINZA(グランクリュカフェギンザ)」についてや、日本のコーヒーブームの今と未来についてをお聞きしました。
PROFILE

株式会社ミカフェート代表/コーヒーハンター川島良彰

1956年静岡生まれ。1975年中米エル サルバドル国立コーヒー研究所に留学し、コーヒー栽培・精選を学ぶ。その後大手コーヒー会社に就職。ジャマイカ、ハワイ、インドネシアで農園開発を手掛け、マダガスカルで絶滅危惧種の発見と保全、レユニオン島では絶滅した品種を探し出し、同島のコーヒー産業復活を果たす。2008年独立し、株式会社ミカフェートを設立。 日本サステイナブルコーヒー協会理事長、JAL日本航空コーヒー・ディレクター、タイ王室メイファールアン財団コーヒーアドバイザー、カリフォルニア大学デイビス校コーヒーセンター アドバイザリー・ボードメンバー等を務める。

誰が信頼できるかを判断するのにかかる時間は5分。それからはとことん話し合って僕のビジョンを共有し、理解してもらう

GRAND CRU CAFÉ GINZAのオープン、おめでとうございます。

GRAND CRU CAFÉ GINZAは、僕が40年以上農園で得た知識と経験を結集して完成させた「Grand Cru Café」シリーズを中心に提供する、真のコーヒー愛好家のためのカフェです。僕は、かねてよりコーヒーをワインの領域にまで価値を高めることを目標としてきました。このカフェは、その最たる場所です。栽培からカップまで全工程に一切の妥協を許さず厳選した極上のコーヒー、一流の抽出士(バリスタ)、そしてコーヒーの魅力の隅々までを伝えるコーヒーエバンジェリストの存在。ここまでこだわった空間でコーヒーを味わう文化は未だかつて存在していません。

お客様にはどんなことを期待して、このカフェに来ていただきたいですか?

GRAND CRU CAFÉ GINZAでは、ぜひこの世界観ごと、全く新しいコーヒーの世界の頂点を堪能していただきたいですね。さらに、今回カフェの開業に伴い新シリーズ“RESERVA(レゼルバ)”を発表しました。長年、試行錯誤を繰り返してついに誕生した銘柄がラインナップしますので、こちらもそのストーリーと共にお楽しみいただきたいです。伝統と格式のある銀座では、本質を見抜かれますが、僕の作ったコーヒーに一切の嘘はありません。真実を求めるコーヒー愛好家にお越しいただきたいと願っています。

昨年から今年にかけて、ミカフェートの店舗数が急増していますが、意図的に増やしているのですか?

今、我々の売上の9割はレストランなど業務用に卸す豆なのですが、一般の消費者の方達にもう少し近づきたい気持ちが沸いてきたので、気軽に立ち寄れる店を出すのもひとつの方法だと思ったんです。これからはもう少し店舗を増やすスピードを落とそうと思っているんですけど、いろんなところからお声がけいただくんですよね。そして、本当に上質なコーヒーは機械で抽出しても美味しいことを知ってもらういいチャンスだとも思って、エドグランにある京橋店と小学館ビルにある一橋店ではハンドドリップだけではなく機械でも抽出しています。

最近飲んだ中で美味しかったコーヒーはありますか?

去年から今年にかけての一番のヒットは、グアテマラのサン セバスティアン農園が作ったブルボン種のセミウォッシュト。本当に衝撃でしたね。これはレゼルバシリーズの中でも「赤ラベル」のハイクラスラインとしてデビューさせました。普通のセミウォッシュト(*)とは全く違う方法で豆を乾燥させていて、凄く手間がかかっているから、ミルクが入ってるんじゃないかと思うくらいミルキーで上質な甘さがあるんです。サン セバスティアン農園は畑自体が素晴らしいうえに、世界一の精選技術を持っているので、絶対に良い豆ができるという確信があり、かねてからセミウォッシュトを作ろうという話をしていてようやく実現しました。去年は2袋(120〜130キロ)くらいしか穫れませんでしたが、今年はもうちょっとたくさん穫れる予定です。
*コーヒーの乾燥方法は、果実(コーヒーのもととなっている果実。その種の部分が一般にコーヒー豆と呼ばれる)のままの乾燥と、果肉は除去して種の周りに付いた粘質をつけたままの乾燥と、果肉を取り除いて水洗してから行う乾燥と大きく分けて3種類ある。セミウォッシュトとは、果肉を取ってミューシュレージと呼ばれる粘質がついたまま乾燥させる精選方法。ほかに、果肉をつけたまま乾燥させるナチュラル、外皮と果肉を取り除いて水洗いしてから乾燥させるウォッシュトなどがある。

サン セバスティアン農園の農園主たちと

著書「コンビニコーヒーは、なぜ高級ホテルより美味いのか?」の中で、コンビニコーヒーを日本のフォースウェーブと表現されていましたが、フォースウェーブに見られる国内外のコーヒー業界や、今後フィフスウェーブへの流れはどのようになると想像していらっしゃいますか?

2014年、15年、16年と、日本国内のコーヒー消費量は過去最高記録を更新続けているんですが、それはコンビニコーヒーの需要が大きいからですよね。まずくても100円だからいいやって飲んでみたら結構美味しいので、今までコーヒーを飲まなかったり、コーヒーから離れていたりした方が飲み始めたのがフォースウェーブです。「100円であの味」っていうのが消費者のベンチマークの一つになった中、じゃあ1杯400円するお店は4倍美味しいのかってなると、美味しくないお店の方が圧倒的に多い。ホテルでは1000円以上もするのに凄くまずいコーヒーを出すところもありますしね。なので、次にフィフスウェーブとして注目しているのは業務用のコーヒーです。レストラン、ホテル、コーヒーショップが今のコーヒーブームの波に乗れるか乗れないかっていうのは大きな課題ですよ。
*川島さんは日本におけるコーヒー業界の流れについて、戦中から止まっていたコーヒーの輸入が再開されてコーヒー市場が活性化した1960年代をファーストウェーブ、その後の70年代に起こった喫茶店ブームがセカンドウェーブ、バブル崩壊後の家賃高騰で終焉を迎えた喫茶店文化に取って代わった90年代のシアトル系コーヒーチェーンの日本上陸をサードウェーブと捉えており、日本は世界のコーヒーの流れとは若干異なった独自のコーヒー文化を形成しています。

その波には乗りにくいものなんですか?

提供している側のマインドを変えなければだめですね。例えばレストランのノンアルコールドリンクの原価率は大体20%、アルコールは25〜30%なのですが、業務用のコーヒーの原価率は3%以下が常識なんです。なぜコーヒーは3%なのか?それは古くから飲食に携わっている人達は「コーヒーはお金を稼ぐもの」というマインドがあるから、原価は30円しかかかっていないのに価格が1000円もするわけですよ。だからマインドを変えていけるところだけが、フィフスウェーブの波の中でも生き残れるんじゃないかと思います。

どうやったらマインドを変えられるんですか?

最終的には決済出来る立場にいる人がその価値を認めるか認めないかです。もっと言うと、決済出来る立場の人は、自分の基準だけで考えず、消費者の方々の味覚に対してもっと真摯な気持ちで向かい合うことですね。僕のところにラウンジのマネージャーやフロアマネージャー、レストランの担当者が、「美味しいコーヒーを仕入れたいから手伝ってください」と相談しに来るんですけど、大体は「無理だからやめた方がいいよ」って言います。そうすると彼らは「絶対に上を説得します」って言って帰るんですけど、2、3日後には「やっぱり説得できませんでした」ってなるわけですよ。

でも、中にはマインドが変わって美味しいコーヒーを出しているところもあるんですよね。

例えば都内のホテルで言うと、良いコーヒーを出しているのはザ•プリンスギャラリー東京紀尾井町です。決済を出来る立場の飲食担当の取締役が僕の本を読んで、「本当に美味しいコーヒーをお客様に飲んでほしいから、朝食のビュッフェで出すコーヒーを提案してほしい」と相談してきたので、銘柄だけでなく、抽出もハンドドリップを提案しました。そうしたら、「そんなにお客さんを待たせられないですよ」っておっしゃるので、「皆さんオムレツは待ってるじゃないですか。なんでコーヒーは待たせたらだめなんですか」って反論しました(笑)。美味しいコーヒーだったら待ってくれると説得して、始めてみたら大成功。プリンスの朝食は本当に美味しいハンドドリップのコーヒーがポットで出てきますよ。

駅ナカの「ドリップマニア」も川島さんが監修されていますが、他にはどのようなところで飲まれているのですか?

星のや東京では、各フロアでミカフェートのドリップコーヒーが飲めます。まだまだ少数ですが、レストランもうちのお客さんは増えています。それから、東京都北区の国立印刷局は1300人くらい社員さんがいるんですけど、社員食堂でうちのコーヒーが一杯100円で飲めます。同じく新宿伊勢丹や日本橋三越の社員食堂でも一杯100円で出してます。トレードしている農園とは、うちのスペック通り作ってもらって、値段交渉や品質チェックも全て僕がやった豆を生産者から直接買うダイレクトトレーディングをしているので、安くても美味しいコーヒーを作れる。それがうちの強みなんです。別に高いコーヒーだけを作ってるわけではないんですよ。

それは川島さんじゃないとできないことですよね?どうしたらそんなことができるようになるのですか?

生産者との信頼関係がないと絶対に無理ですよね。だから年間120〜130日も海外に行っているんです。「今年はこれだけ買うけど、値段はこうで、品質はこうで、いつものとおりで」っていって握手して、契約書も交わさないんですよ。

日本人同士なら文化も一緒だし、心が知れていればなんとなくできるように思うのですが、南米人との信頼関係はどうやって作るものなんですか?

この前はニカラグアに行っていろんな農家を回ってきたのですが、だめな時は会って5分でわかります。生産者が本当に自分の畑がわかっているのか、それともお金儲けだけでやっているのかは、畑に行って植え方や品種を見て、生産者と少し話せばわかるんですよ。これはつきあう人間じゃないなって思ったら、「良い農園ですね、頑張ってやってくださいね」で終わりです(笑)。でも、いいと思った人とは、その後とことん話し合います。消費国のことをわかっていない生産者は多いですから、僕が考えるコーヒーはどんなものかとか、今こういう風なマーケティングをしていて、こういう風に日本や世界のコーヒーカルチャーを変えようと思っているんだというような話をします。そして農園の中を彼らと一緒に回って一番良い畑を選んで、あの木からこの木までの何列といった感じで選び、それらを特定の時期に収穫したものを買って、どのランクで売るかまで僕が決める。そのやり方に共鳴してくれる人を見つけて理解し合うまでが大変なんですけどね。

ところで昨今のコーヒーブームや新しいコーヒー豆などについてあまりよく知らない人もたくさんいると思うのですが、そういう人はどこからスタートしたらいいと思いますか?

コーヒーは嗜好品ですから、その人が一番美味しいと思うコーヒーがその人のコーヒーだと思うし、インスタントコーヒーや缶コーヒーが好きな人はそれでいいと僕は思っているんです。ただ、「これだけがコーヒーじゃないんですよ、こういう選択肢もあるんですよ」というかたちでご紹介していきながら、皆さんが少しでも本当に美味しいコーヒーの味わいに目醒めていただけたら嬉しいなぁと思います。また、そのきっかけでもあり、最終的な答えでもあるのが、冒頭にお話ししたGRAND CRU CAFÉ GINZAの存在ですね。あの場所は、あらゆる意味でコーヒーの世界のすべてが凝縮されていますから。

GRAND CRU CAFÉ GINZA(グラン クリュ カフェ ギンザ) 
住所:東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 13F
電話:03-6274-6841
営業時間:11:00~23:30(休店日はGINZA SIXに準ずる)

次回へ続く

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