HIGHFLYERS/#24 Vol.1 | Jul 6, 2017

マリーノ・マリーニ美術館で好評を博した作品に加え、日本の職人達とのコラボレーションした作品も展示する巡回展を開催

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

HIGHFLEYRSに今回登場いただくのは、イタリア・フィレンツェ在住にして国内外で活躍中の靴職人、深谷秀隆さん。「il micio(イル・ミーチョ)」という靴のブランドのオーナー兼デザイナーで、顧客と相談しながら靴づくりを進めるビスポーク(*)の美しい靴を作られています。深谷さんの靴はサッカー選手をはじめ数多くのセレブに愛され、日本では高級セレクトショップや青山の仕立て専門店など、ごくわずかの店舗のみで入手可能な製品です。深谷さんのプライベート含め、今までのキャリアや未来について、そしてイタリアの職人文化や日本との違い、また、「il micio」の新コレクション、7月4日から開催された作品展についてなど、展示の準備のために来日した深谷さんにたっぷりインタビューさせていただきました。 *ビスポークとは、注文によって靴や服を作ること。英語の「bespeak」「been speaken for」から生じたと言われている。
PROFILE

靴デザイナー深谷秀隆

幼い頃からもの作りが大好きで、デザイン学校在学中より靴づくりに興味を抱き、名古屋の靴職人のもとで修行する。卒業後ファッションデザイナーとして活躍したものの、『誰にもまねできない、自分にしかできないもの作りがしたい』と考え、ビスポークの靴職人になることを決意、単身イタリアに渡る。シエナの靴職人のもとで修行を積み、卓越したセンスと探究心の強さで腕を上げた。 99年『イル・ミーチョ』を立ち上げ、自らの靴づくりをスタートさせた。やがてその才能をフィレンツェの老舗ショップ『タイ・ユア・タイ』のオーナーであるフランコ・ミヌッチ氏に認められ、その助力を得て日本人として初めて海外にビスポークのショップをオープンさせる。また同ショップのシューズデザイナーやその他の有名セレクトショップのシューズデザインも手がけ、そのデザインセンス・才能には高い評価を得ている。 修業時代から現在まで常に彼の頭を占めてきたのは『世界一美しい靴を作ること』である。『世界一美しい靴』とはデザイン・バランス・それを支える確かな技術、そして何よりもそれを履く人に大きな喜びをもたらす靴である。

ブランド名の「il micio」は「猫のように自由に誰にも媚びずに、やりたいことだけをやりましょう」という意味

7月に行われる作品展についてお聞きしたいのですが、今回は巡回展ということでイタリアでは2015年に開催なさったそうですね。

2015年が「il micio」の店舗をフィレンツェにオープンして10周年だったんです。それを記念してフィレンツェのマリーノ・マリーニ美術館で、靴をテーマにしたアートの展示会を行いました。「人間が持つ様々な感情、性格、人格を靴で表現する」をテーマに、ひねくれ者や哀しみなどを表現した靴の彫刻を10点ばかり展示しました。

マリーノ・マリーニ美術館での展示会の模様。友人たちがお祝いに駆けつけた

イタリアで靴職人をなさっている深谷さんが美術館でアート展を開催することになるとは、どのような経緯だったのですか?

マリーノ・マリーニ美術館はうちの近所にあるんですけど、実はそこの館長とお互いが通っているバールが一緒なんですよ。10周年で何かやりたいかを思っていた時に、バールでよく館長と会うので、気楽な感じで「美術館を使って何かやってもいい?」って聞いたら「いいよ」って。もちろん前々から僕の靴を知っていたことも大きいですが、そんな簡単にOKをもらえると思っていなかったので、「え!いいんだ?」ってびっくりしました(笑)。後日、ちゃんとした企画書を作って見せに行って、契約して決まりました。

いい文化ですね。展示を観に来られたお客さんの評判はどうでしたか?

良かったですよ。フィレンツェで毎年1月と6月に開かれるPITTI UOMO(ピッティ・ウオモ)というメンズファッションブランドの展示会があって、街中がとても賑わうんですけど、僕の個展にもいろんな国の人が来てくださいました。

今回日本で開催することになったのはどうしてですか?

せっかく作品があるし好評だったので、ワールドツアーの可能性を探っていたんです。日本ではお寺とかで展示をやりたかったんですけど、かなり強力なコネやお金が必要になるし、規制も厳しくて。集客を考えるとやっぱり東京がいいなと思って友達に相談したら、原宿のGYRE(ジャイル)さんを紹介してくれて、開催できることになりました。

「La scultura scarpe con artisti di toyama 「靴の彫刻」-伝統工芸の町の仲間と-」で展示されている作品と深谷氏(左上)

日本の職人さんとのコラボはどのように決まったのですか?

せっかく東京で個展が決まったので、仲の良い富山の「五割一分」という建設会社の社長に、日本人の職人さんと組んで何かを作りたいって相談したんです。そうしたら、越中瀬戸焼の作家、釋永陽(しゃくなが よう)さんなどを紹介してくれて、僕も富山で作品の製作をしたらどうかと提案してくれました。富山は16世紀から伝統工芸が存在しているうえ、銅器、鋳物、漆器、アルミなどの産業も盛んなんですよ。釋永さんをはじめ、ガラス工芸や木彫、和紙などの職人さんとコラボして、例えば釋永さんとは“溶けている靴ととろけた壺”とか、それぞれの職人さんとテーマを合わせて作品を作りました。

富山での制作模様。越中瀬戸焼の作家、釋永陽さんと

長年カスタマイズの靴を作り続けていると、作品にして表現したいことが湧いてくるものなのですか?

僕は昔からいろんなことをやりたい人間なんです。僕のキャリアが洋服から始まっているのは、平面なものより立体なものの方が得意なこと、それからアートが好きなことにありますから。

ブランド名となっている「il micio」はイタリア語で「子猫」を意味するそうですが、猫がお好きなんですか?

ブランド名には「猫のように自由に誰にも媚びずに、やりたいことだけをやりましょう」という意味を込めています。猫は好きで今ももちろん飼ってますよ。猫がいないとダメですね(笑)。

2018春夏シーズンのコレクションに関して伺いたいのですが、テーマについて教えてください。

ニューシーズンのコレクションのテーマは「無限の連結法」です。今回は2年前にスタートした鞄のシリーズがメインなのですが、70年代にヒッピーの間でリサイクルというエコロジー思想を基軸に流行した、空き缶のリップや皮の切れ端などで作った小さなパーツをいくつも繋ぎ合わせて洋服や鞄を作るという手法にアイディアを得て現代に蘇らせています。糊やミシンなどは一切使用せずに手編みだけで作っていますが、編み方や組み合わせによって表情は様々でバリエーションが無限に存在するんです。

2018春夏シーズンのバッグとコインケース。バッグの価格帯は約7万〜46万で、今年末から販売予定。コインケースは約15000円で、クリスマス頃販売予定。
問い合わせ先:株式会社トレメッツォ/TREMEZZO Co.,ltd

バッグの色がとても素敵です。日本ではなかなか見ない色や珍しい柄がありますね。

色はフランスで染めています。イタリアにはない甘い色出しが出来るんですよ。一見カモフラージュのように見える柄は、僕がオリジナルでデザインしたものですが、実はブランドの象徴である猫の柄になっています。フィレンツェはマーブリングペーパー(※)が有名で、そのマーブル柄の中に猫を入れているんです(写真右下)。
*溶液に流した絵の具を紙に写し取ることで、大理石の表面のような模様を作り出す技法。フィレンツェの伝統工芸。

il micioの靴をカスタムメイドのみにしようと思ったのはなぜですか?

誰にもできない高い技術とクオリティーで、そのお客様のためだけの、世界で1足の美しい靴を作りたいと思いました。この仕事の面白くくもあり難しい点は、お客様の反応がダイレクトにわかるところです。直接お会いして対話し、一つのものを一緒に作り上げていく、お客様と私のコラボレーションだと思っています。

靴が出来上がるまでのプロセスを簡単に教えてください。

まず、お客様ととにかくビスポーク、話し合いをします。最初のアポイントで話しながらデザインを決めて、採寸して木型を作って、仮縫い用の靴を作って履いてもらいます。

一足を仕上げるのにかかる期間は、平均してどのくらいなのですか?

だいたい5、6ヶ月ですね。作り込まないといけないので仮縫いに約2ヶ月くらいいただいて、仮縫いが出来上がった頃にお客様に戻ってきてもらって、お互いが合意すれば本番製作に入ります。何足もの製作を同時進行しながら、年間で約60〜70足の靴を作ります。

カスタムメイドで最も難しいことはなんでしょう?

人間の足はその時の体調によって変化するので、木型に100点満点が存在しないことです。体重の変化でも足の形は変わるし、いくら僕らが精密に作って微調整をかけたとしても、完璧な木型を作ることはできないんです。

フィレンツェの工房にて。木型を作成する様子

それでもやはりカスタムメイドは全然違うものなのでしょうか?

カスタムメイドの靴っていうのは消耗するものではなくて、お客様が育てるものだと僕は思っているんですよ。僕らの仕事は、靴をスタート地点まで持っていくことで、その靴をお客様が履いてフィッティングを高めて、自分の足に近づけていくものなのかなと思います。

お客様によっては、深谷さんが作った靴を何十年も履き続ける方もいらっしゃるのですか?

はい。僕が靴を作り始めた初期の頃に作った靴を、今でも直しながら履いてくださるお客様もいます。靴が長持ちするかどうかは、キーパーを入れたり、クリームをつけて栄養を入れてあげるなど、お客様の履き方次第で変わりますね。

深谷さんの靴の特徴はどのようなところですか?

キュッとしたシルエットとバランスだと思います。美しいラインとフォルムは前からだけでなく、バックスタイルや踵のフォルムに至るまでこだわっています。バランスもとても大切にしていて、例えばカジュアルや、カントリー、スポーティーなデザインにもエレガントな要素を入れたり、重い素材にはシンプルなデザインなど、足し算と引き算でバランスを重要視しています。猫は最も美しい動物の一つであると思っていますが、猫のようにエレガントで、しなやかな気品が表現できたらと思っているんです。

深谷さんに靴を注文したいときは、イタリアにあるお店に行く以外にどこでオーダーできるのでしょうか?

僕は年に2回日本に帰国するのですが、その時に青山にある「Sartoria Ciccio(サルトリア・チッチオ)」という仕立てのお店でもオーダーを受けています。

Sartoria Ciccio (サルトリア・チッチオ)
住所:東京都港区南青山5−4−43
電話:03 6433 5567
E-mail:info@ciccio.co.jp

次回へ続く

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【展覧会情報】
La scultura scarpe con artisti di toyama 「靴の彫刻」-伝統工芸の町の仲間と-
会期:7月4日~7月30日
会場:EYE OF GYRE (東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F)
http://gyre-omotesando.com/
時間:11:00~20:00

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