HIGHFLYERS/#24 Vol.3 | Aug 3, 2017

サッカー界の生きるレジェンドから後輩への粋なプレゼントは「イル・ミーチョ」のカスタムメイドの靴。マンチェスターまで採寸へ

Text: Kaya Takatsuna / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Image Design: Kenzi Gong

イタリア・フィレンツェを拠点に、国内外のセレブ達からも評価され続ける世界的靴職人・深谷秀隆さんインタビュー第3回目は、イタリアのものづくりと職人について。深谷さんのユニークな視点から、靴を作りたくなる美しい足、イタリアの職人気質とものづくり、また、日本、イギリス、フランスのものづくりの違いも語ってくださっています。そして、これからイタリアに渡って留学やビジネスにチャレンジしたい人にも一言いただきました。
PROFILE

靴デザイナー 深谷秀隆

幼い頃からもの作りが大好きで、デザイン学校在学中より靴づくりに興味を抱き、名古屋の靴職人のもとで修行する。卒業後ファッションデザイナーとして活躍したものの、『誰にもまねできない、自分にしかできないもの作りがしたい』と考え、ビスポークの靴職人になることを決意、単身イタリアに渡る。シエナの靴職人のもとで修行を積み、卓越したセンスと探究心の強さで腕を上げた。 99年『イル・ミーチョ』を立ち上げ、自らの靴づくりをスタートさせた。やがてその才能をフィレンツェの老舗ショップ『タイ・ユア・タイ』のオーナーであるフランコ・ミヌッチ氏に認められ、その助力を得て日本人として初めて海外にビスポークのショップをオープンさせる。また同ショップのシューズデザイナーやその他の有名セレクトショップのシューズデザインも手がけ、そのデザインセンス・才能には高い評価を得ている。 修業時代から現在まで常に彼の頭を占めてきたのは『世界一美しい靴を作ること』である。『世界一美しい靴』とはデザイン・バランス・それを支える確かな技術、そして何よりもそれを履く人に大きな喜びをもたらす靴である。

ラテン気質の職人文化がもたらすのは、感性と経験値による「抜き」が魅力の色気。日本では「HORSEMAN JOE LEATHERS」の感性に一目

有名な日本人のサッカー界の方が、深谷さんが作られた靴を後輩の選手の優勝記念にプレゼントしたことで話題になったことがありましたね。

その方があるテレビのインタビューで、いつもうちでビスポークしている靴を後輩の方にプレゼントすると公言したそうですね。僕らはオーダーを受けた後、靴の採寸をするためにマンチェスターまで渡りました。

サッカー選手など、スポーツ選手の足は、普通の人の足と比べると全然違うのですか?

特にサッカー選手は足を酷使しているので、足の形が全然違いますね。スポーツ選手のカスタムメイドは苦労します。靴を美しく魅せるのが大変なんですよ。

深谷さんが製作意欲を掻き立てられる足の形はありますか?

ぱっと見て、「おお、いいね〜」っていうのはありますね(笑)。やっぱり細い足の人かな。まあ全部が全部じゃないですけど、ヨーロッパ人は日本人に比べたら細い足の人が多いですね。

いい足の共通点みたいなものは何かあるんですか?

あまりよくわからないですけど、いい足をしている人たちは子供の頃から革靴などの良い靴を履いていたんじゃないですか? スニーカーばっかり履いていて普段から足がリラックスしてることに慣れてしまうと、ある日革靴を履こうってなってもしんどく感じるじゃないですか。女性もかかとの低いバレリーナシューズばかり履いていると、「今日は勝負だから10センチのヒールを履こう」ってなった時に大変なことになりますよね。足が緩むと気も緩みますし、やっぱり足も人間の生活と同じで、だらっとしているものばかり着たり履いたりしていると、身体がそうなってしまうんだと思います。

なるほど、そう聞いてどきっとしました(笑)。ところで、イタリア人はものづくりをどのように評価するのですか?

イタリア人は靴に限らずいいものはいいと、はっきり言います。フィレンツェは特に職人の街で、皆がものづくりをしているので、ブランドの名前を重要視していないです。好き勝手なことは言いますけど、いいものに対しては「本当に美しいね」と心の底から表現してくれますね。

有名無名に関わらずいいと言ってくれるのは、日本と少し違う気がしますね。

日本にも中にはそういう人もいますけど、昔ほど多くはないですよね。日本だけのことではないですし、僕も使ってますけど、スマホなどによって情報が簡単に手に入りすぎるっていうのが問題かもしれませんね。職人も同じで、僕らの頃は図書館に行ってひたすら資料を探したり、必死に新聞を読んだりして、自分で技術や知恵を身につけながら徐々にステップアップしていくのが当たり前だったんですけど、今は下手したらYouTubeで靴作りが学べちゃうっていう(笑)。

オリンピック選手もYouTubeから技術を学ぶ人がいると聞いたことがあります。

ありえますよね。同じ映像を見ても何も気付かず、ただ見るだけで終わってしまう人もいますけど、スキルと発想力がある人は自己流に学べてしまいますからね。そう考えると恐ろしいですよね。

日本人とイタリア人の職人の気質って違いますか?

イタリア人はやっぱりラテン気質ですね。感性と経験値による“抜き”があると思います。日本人のものづくりというのは、10個作ったら10個同じじゃなきゃいけないっていう、僕からしたらちょっと病的な作り込みだと思うし、色気がないように思います。イタリアで我々が作っているものはどことなく色気を残しているので、セクシーさがあると思います。

日本はそこを敢えてなくしてしまっているのでしょうか?

日本にはもともと師匠の技があって、その技を継承してそれがいつしか自分の技になっていくわけじゃないですか。なので出来上がったものが全部が全部一緒になるとはもちろん言えないですけど、きっちり仕事をする方が割合として多いですね。でも、中には「これ、日本人が作ってるのか、やるじゃん!」みたいに思わせるものを作っている人もいますけどね。

今までそう思った中に、どんなものを作っている方がいましたか?

福岡でやってる「HORSEMAN JOE LEATHERS(ホースマン・ジョー・レザーズ)」というエンジニアブーツをメインに作っている職人です。イギリスに「Paul Harnden(ポール・ハーデン)」というハンドメイドの靴のブランドがあるのですが、HORSEMAN JOE LEATHERSの靴を見たとき、「ポールみたいな空気を出しているヤツがいるな」って思ったんです。技術的に上手いか下手かどうかはわからないですけど、あの感性は明らかに武器ですね。

ところで、どんな方が靴職人に向いていると思いますか?

集中力の続く人だと思います。

イタリア以外に、世界のものづくりの現場を見たことはありますか?

そうですね。イギリスやパリ、ブダペストと、いろいろ行きましたよ。

その中で印象深かったところは?

イギリスです。僕は靴を作るときに使う道具が好きでいっぱい集めていて、イタリアで使いこなせずにそのままにしていた道具が色々あったんですけど、イギリスに行って職人の仕事を見て、それまで知らなかった使い方を学びました。イギリスやフランスは100年前から続いているちゃんとしたものづくりをしています。それと比べると、イタリアは作りが荒くて強烈な仕上げをしていて。まあ、それがいい部分とも言えるんですけどね。

それでも拠点をずっとイタリアにしているのはなぜですか?

ワインが好きなんです(笑)。イギリスは食がダメなので住めないです。フランスは好きなんですけど、住んじゃうと嫌な部分が見えちゃうじゃないですか。僕の中ではフランスは綺麗なフランスのままにしておきたいんです。

イタリアに留学したり起業したりして、深谷さんのような職人さんになりたいと思っている人にはどうアドバイスしますか?

今、学生ビザも滞在許可証も取得するのがとても難しい状況になっているみたいですし、仕事をするとなると莫大な税金を払わなければならないので、正直おすすめはしないです。でも本当にやりたいことがあるのなら、それに対して、自分自身にどこまで鞭を打てるかどうかじゃないかですかね。

イタリアで生きて行くのは大変そうですね。

イタリアで仕事したくても、まず労働用の滞在許可書がなかなか下りないんですよ。僕らの場合はイタリアに移って5年後の2002年に申請したんですけど、その約2年後くらいに突然役所から電話がかかってきて、「許可書が下りたと知らせの手紙を送ったのに、取りに来ないなら無効になるぞ」って言われて。「いやいや、そんな手紙来てないから」って、慌てて取りに行く羽目になりましたけど(笑)。あとは税金がものすごく高いです。税金を払うために銀行でお金を借りてるようなもんですから。俺ら何をやってるんだろうって、いつも思います(笑)。

それでもイタリアに魅力を見出せるとしたらどんなところですか?

ラテンの国なので、みんな楽しんで生きているところですかね。みんな自分が一番だと思ってます。どんなブサイクな男でも、めちゃくちゃかっこつけますから(笑)。それがイタリアなんですよ。

楽しそうですね。今後も拠点はしばらくイタリアを考えていますか?

そうですね。50歳まではとりあえずイタリアで続けようと思っています。

次回へ続く

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