HF/#7 Vol.3 | Jul 30, 2014

好きなことを飽きるまでやる

池貝 知子

Text: Miwa Tei / Photo: Atsuko Tanaka / Cover Design: Kenzi Gong

際立った能力と貪欲な行動力で人生をクリエイトする人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol.7は、日本の音楽界にこの方有り。第一線で活躍し続けるヴァイオリニスト・葉加瀬太郎さんの登場です。多くの人の日常と心の風景に寄り添う音楽を創り続けてきた葉加瀬さん。「人を喜ばせ、自分も楽しみ尽くす」姿勢は圧倒的な人間力に溢れ、“葉加瀬サウンド”同様心を動かされます。25周年を来年に控え、最新作『Etupirka~Best Acoustic』を発表されたばかりの葉加瀬さんに、人生の核となるものについて大いに語って頂きました。求心力と熱量の高さは桁違い。“超”個性的なその生き方に迫ります。
PROFILE
葉加瀬太郎

Artist葉加瀬太郎

際立った能力と貪欲な行動力で人生をクリエイトする人を追い続けるHIGHFLYERS。Vol.7は、日本の音楽界にこの方有り。第一線で活躍し続けるヴァイオリニスト・葉加瀬太郎さんの登場です。多くの人の日常と心の風景に寄り添う音楽を創り続けてきた葉加瀬さん。「人を喜ばせ、自分も楽しみ尽くす」姿勢は圧倒的な人間力に溢れ、“葉加瀬サウンド”同様心を動かされます。25周年を来年に控え、最新作『Etupirka~Best Acoustic』を発表されたばかりの葉加瀬さんに、人生の核となるものについて大いに語って頂きました。求心力と熱量の高さは桁違い。“超”個性的なその生き方に迫ります。

好きなことを飽きるまでやる

 “精神力”についても伺いたいです。挫折を乗り越える“底力”も並々ならぬ印象を受けるのですが。

挫折は、もう何度でもあるよ。今も本番の度に毎回挫折を味わっていると言ってもいい。でも、僕にとっては、ステージで演奏をするということは一番大事なことだから、何度でも這い上がるしかない。人生で初めて挫折した時のことは、今思い出しても胸が苦しくなる。僕が初めてコンクールに挑戦したのは中学2年の時。新聞に受賞者の名前が出る、毎日学生音楽コンクールでした。中2で西日本2位になった僕は、翌年は1位を取るんだと決めて、それはもう必死で練習をした。夏休みとか全く関係なく、毎日10時間は弾いていた。僕も周りも1位を信じて疑わず、自信満々でステージに上がったというのに、僕は最初から6番目の音を思い切り外してしまったんだ。足元をすくわれるとはあのこと。冒頭で失敗したのだから、その後5分間曲を弾き続けるのがどれだけ辛かったことか。数か月間積み上げたものが、一瞬で崩れ落ちる。今でもその時の課題曲「スペイン交響曲」を聴くことができない、心が痛くてね。

 オリンピックのような厳しさが伝わってくるような……。

まさに、フィギュアスケートの選手が、最初の3回転半ジャンプで転倒したようなもの。結果その年は3位に終わったのですが、1位を目指していた者にとって、それは何の意味も持たない。打ちひしがれる僕を周りは慰めてくれるわけだけど、それすらうっとおしくてね。もの凄い悔しかった。悔しかったことには変わりないのですが、あの経験を通して、音楽との向き合い方は明らかに変わったよね。サーカスの決め技みたいなことだけではなく、音楽にはもっと色々な喜びがある。音楽の楽しみが増えたのは事実。だから、大失敗をしたからといって、ヴァイオリンを止めようと思うことは無かった。親が月謝と時間を捻出してくれて、迷惑をかけているという自覚もあり、途中で放り出すことなんてできなかった。

 葉加瀬さん、ご兄弟は?

妹が二人います。今でも妹たちからは「お母さんは、いつも太郎君のことばっかり考えていたよね」と言われます。母とタッグを組んでコンクールを戦ってきたようなものだから。といっても悲壮感は無く、母も妹たちも、まぁ明るい。明るすぎるな(笑)。3人で、大阪弁で何やら楽しそうにずっと喋り倒してますよ。実家で集まる時に僕が最初にすることといったら、玄関前で耳栓すること。耳を守ろうと思ってさ(笑)。この髪型だからバレないんだよ(笑)。

 学校内でも目立つ存在だったのでしょうね。

というより、完全に浮いてました(笑)。遠足などの行事も休んでヴァイオリンの練習をやってたわけですから。学校の勉強にも一切興味が持てず、授業中ずっとウォークマンして楽譜を読んでいた。周りはアイドルの写真を下敷きに入れてたけど、僕が持ち歩いてたのは、ヴァイオリニストのアイザック・スターンや指揮者のレナード・バーンスタインの写真(笑)。あとは、今も憧れている古澤巌さんの写真も大切にしていた。

 それは……、浮くでしょうね(笑)。ですが、長年憧れていたヴァイオリニスト古澤巌さんとは、現在は多くの共演をされています。“引きの強さ”を実感します。

引きが強いとは確かに思う。特に古澤さんとの出逢いは大きくて、受けた影響は計り知れない。今もお洒落でカッコいい方ですが、18歳で長髪に革のジャンパーを着て、コンクールで1位を受賞した古澤さんの存在は、スターでしたよ。当時ヴァイオリンをやってる男子は、みんな紺のジャケットに七三分け、銀縁メガネだったわけだから(笑)。クラシックの演奏家を目指す学生たちは、夏に行われるミュージックキャンプという音楽祭で、縦と横の交流を広げ、コネクションを作るものなんですね。藝大に進んだ僕も一応参加したのですが、既に決まっていた先生が病欠となり、急きょピンチヒッターの講師としてやって来たのが古澤さん。憧れの人が間近にいるんですから、大興奮ですよ。そして僕は、これだ!と思った出逢いには貪欲ですから(笑)。ミュージックキャンプではもちろんのこと、終わってからもずっと古澤さんにくっ付いて、彼のバンドのバックも数えきれないほど演りました。カテゴライズできない彼の音楽性はもちろんですが、生き方に美学と哲学がある古澤さんと、若い時に出逢えたことは財産です。自分の音楽活動で走り抜けた20代30代は、古澤さんとは逢えずにいたのですが、2006年に20年ぶりの再会が叶いました。その年の彼のコンサートツアーに参加させて頂いたのですが、彼と飲んだ夜に言われた「葉加瀬、80歳になっても一緒にヴァイオリン弾こうぜ」という言葉が忘れられない。自分なりのヴァイオリンを極めたいと真剣に思うようになったのは、古澤さんとの再会が大きいです。

 それにしても、葉加瀬さんの豊かな“話力”に惹きこまれ、ずっとお話を聞いていたくなります。

何でも聞いて下さい(笑)。僕の中で一つの自信になっているのは、15年間続けているJ-WAVEの番組『ANA WORLD CURRENT』の司会で培った人との向き合い方。毎週ありとあらゆるジャンルの、それも初対面の方と収録で1、2時間会話をするわけだから、自ずとテクニックは体得していくよね。その方の意外な面を引き出していく楽しさもあるし。

 会話の運び方や距離感の取り方に感化されます。

いえいえ。世の中には、コミュニケーションの達人が沢山いて、学ばされることばかりですよ。例えば、僕が尊敬する黒柳徹子さん。徹子さんのあの番組には何度も出させて頂いていますが、彼女の話力は、それはもう惚れ惚れするし、あっという間に巻き込まれてしまう。立川志の輔師匠もそう。僕の番組に出て頂いたのに、のっけから「葉加瀬さん、アナタ、最近富士山のてっぺんでヴァイオリン弾いたんだって?」とけしかけてくる(笑)。エネルギーの熱量の高さがハンパない人たちのことが僕は大好きだし、自分もそうでありたいと思いますよね。

 ご家族以上に時間を共に過ごすバンドメンバーやスタッフの方々とのコミュニケーションで、意識されていることはありますか?

これは逆に、積極的に近しくならないと無理だよね。線引きを引く主義を徹底する人もいるけれど、僕の場合は、家族に対するような気持ちで接することで関係が成立している。全員セッションプレイヤーなので、様々な現場で仕事しているわけだけど、僕の現場に戻ってきた時にはホームグラウンドにいるような安心感を持ってほしい。ツアー中は毎日打ち上げをするんですよ。初日と楽日だけやればいいのでしょうが、僕は毎日同じ飯を食って、賑やかに、そして和やかに過ごしたいと思っている。

 葉加瀬さんのレーベル“HATS”さんには、8人のアーティストと3組のグループが所属されています。コラボレーションワークからも、豊かなミュージシャンシップが伝わってきます。

古澤巌さんを筆頭に、盟友であるチェリストの柏木広樹君がいて、ピアノの西村由紀江さん、最近では“チーちゃん”こと高嶋ちさ子さんも移籍して、さらにレーベルの個性が濃くなってきています(笑)。彼等との間には、揺るがない結束力がある。僕の中には理想とするレーベルが二つあるんです。ひとつは“ECM”というジャズのレーベルで、もう一つは“ウィンダム・ヒル”というニューエイジミュージックに特化したレーベル。いずれも、音を聴いただけでこのレーベルのものだと瞬時にわかる個性がある。逆に言うとレーベル名を見ただけで音が浮かび上がってくる。僕のレーベル“HATS”も、レーベルの名称そのものが、音楽性をイメージさせ、ジャンルの総称になってほしいと考えています。

 “HATS”さんのメンバーになりたいと、デモを持ち込むミュージシャンもいらっしゃいますか?

多いですよ。僕自身、「おっ!」と思った場合はすぐ起用するし。例えば、僕の握手会で自作のCDと手紙をくれた中山君という20歳のギタリストは、音を聴いてすぐに、僕のツアーメンバーに起用した。彼は奈良出身なんですが、CDを聴いて僕の方から関西に出向いたの。

 葉加瀬さん自ら!20歳の中山さんにとってはビッグチャンスですね。

3年間僕のツアーメンバーとして一緒にやってきた中山君は、クラシックを徹底的に勉強し直したいからと、今は海外に留学しています。まだ若いし、将来が楽しみですよ。Jazztronikの野崎良太君も、僕がまだソロになって間もない頃、コンサート会場に自分のデモテープを持って逢いに来てくれた。CDではなく、デモテープの時代ね(笑)。カセットを聴いたらあまりにも面白かったんで、僕から電話して「とりあえずウチへ来いよ」と。以来、彼は半年間ウチに毎日のように来て、何をするわけでなく僕の作業をずっと見ていた。一緒に飯食って、お疲れ様と別れて、翌日もなぜか一緒みたいな(笑)。実は、皆さんに馴染み深い僕の曲「情熱大陸」の間奏部分を弾いているのは、その頃の若き野崎君なんですよ。

 受け入れる度量の大きさ、深さが圧倒的です。

年齢を重ねるにつれて、才能豊かな次世代に何か貢献できたらということは真剣に考えますよね。アーティストはいくら才能があったとしても、育ててくれる人がいないと生き抜くことはできないから。僕自身が通ってきた道だからこそ、想いが強いところではあります。

 今日は、豊かなお話を頂きまして、本当に有難うございます。最後に、人生をより向上させるためにどのように生きるべきだと、葉加瀬さんは考えていらっしゃいますか?

「好きなことは飽きるまでやる」に尽きます。心底好きなことは一生飽きないんだけどね。「好きなこと以外はやらない」ぐらいに腹をくくって生きてほしい。これは大人にも子供にも言いたいこと。よく学校での講演会で「生徒たちへ一言」と頼まれる度に、僕は「嫌いな授業の時は、好きなことだけ考えてボーっとしていろ」と答えるの(笑)。先生がたはソワソワしだすけどね(笑)。「この道で生きていく」という信念を持って、一日一日を全力で生きてほしい。なぜなら、やらなかった後悔に時間を費やすには、人生は余りにも短すぎるのだから。

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葉加瀬太郎

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M1 エトピリカ / M2 シシリアンセレナーデ / M3 情熱大陸 / M4 ハンガリー舞曲 第5番 / M5 長崎夜曲 / M6 Asian Roses / M7 ツィゴイネルワイゼン Op.20 / M8 HANA 組曲「NIPPON」より / M9 History of the future / M10 ZERO HOUR / M11 冷静と情熱のあいだ / M12 リベルタンゴ / M13 WITH ONE WISH / M14 ひまわり

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